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第7章
小さな凶敵
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結界が隠蔽されたことで、次第に固まっていた森の魔物たちが本来あるべき状態へと戻り始める。…しかしそんな中、サーニャは逆に固まっていた。
「……ところで、わたしは何をどこまですればいいのでしょう?」
いきなりマリーナにここまで飛ばされたはいいが、一体何を為せばこの荒療治は完了したと見なされるのか。サーニャは首を傾げた。
「えっとぉ…ひとまず期間は、わたしが大丈夫そうだと確認できるまで、です」
「っ!?」
いきなり森に響いたマリーナの声を聞き、思わず肩が跳ねる。急いで辺りを見回すが、それらしい姿は見えない。
「ひとまずサーニャさん自身が不安に思うことを、とにかく実践しまくっちゃってください。後始末はわたしがしておきますので。わたしが大丈夫だと確認した上でサーニャさんも納得出来たなら、完了と見なします」
「わ、かりました…?」
疑問符を浮かべながらも頷いて返す。相変わらずマリーナの姿は見えないが、何処かでずっと見守っていると思えばさらに安心感が心に広がるのをサーニャは感じた。
「わたしが不安に思うこと…やはり、戦うことでしょうか」
一旦の目標を定め、それを成すためには何をすべきかを考える。
「まずは、位置の確認ですね」
そう呟くと目を閉じ、魔力を動かす。自分を中心に魔力の波を放てば、いくらかの手応えがサーニャへと返ってくる。本来であれば、広範囲を索敵できるかわりに魔物達にも自分の居場所が気付かれる手段だが、マリーナが干渉した結界を通って放たれた事により隠蔽されていた。
「サーニャさんに後で隠蔽の方法教えようかな」
《絶対そっちの方がいい》
流石にこのままでは不味いとマリーナの理性が警鐘を鳴らす。マリーナの隠蔽は使い方次第では禁術としても扱われかねないほどの技能だが、サーニャの身を護る為にはこれ以上ないものであり、大切な存在を護る為ならば喜んで教えようとマリーナは思う。
「あちらにいますが…」
サーニャが歯切れ悪く呟く。今の索敵で分かるのはあくまで位置だけ。何がそこにいるのかは行ってみなければ分からないのだ。
不安は残るが進まねば何も成せない。意を決してサーニャが森の中へ足を踏み出す。
気配をできる限り殺し、察知した場所を茂みに隠れて覗く。そして視界に入ったのは
「…ウサギ?」
両手で抱えられるほどの小さなウサギ。魔物ではあるが、暖かな陽の光の元、呑気に草を貪るその姿は見るからに弱く、倒す必要性が感じられない。
だが、サーニャはその姿に強い違和感を覚えた。
「…おかしくないですか?」
食物連鎖は弱肉強食。特に弱者であるはずの小さな魔物が、何故こうも茂みに姿を隠すこともせず、警戒もしないまま食事をしているのか。単純にそれだけの知能が無い可能性も無論ある。だが、サーニャの頭を強い危機感が引っ掻いた。
「倒した方が…っ!?」
突然ぞわりと冷たいものが背を駆け抜け、思わずその場を飛び退いた。その、瞬間。
─────地面が、爆ぜた。
「なっ!?」
急いで視線をウサギに戻せば、明らかな敵意を含んだ眼差しとかち合い、そして理解する。
間違いない。これは攻撃だ、と。
「魔法…風?」
魔力の流れを視、ウサギが使うその正体を見破る。固められた風の弾丸。それが先程の地面を穿った正体だと。
風で創られた不可視の弾丸は確かな破壊力を伴い、サーニャへと襲いかかった。
「これくらいなら、避けれますっ!」
魔力を目に流し魔法を可視化して、高い身体能力を活かして縦横無尽に森を駆ける。しかし、避けるばかりでは戦いとは呼べない。
「風刃!」
魔法が一瞬止んだ瞬間を逃さず、反転攻勢へ移る。
サーニャが創り出した不可視の風の刃が、鋭い切っ先を持ってウサギへと飛びかかる。だが、向こうも風を扱う魔物。自らが扱う不可視の魔法と似たソレが見えない道理はなかった。
全ての刃を小さな身体でサーニャより速く動き回り躱していくウサギに当てるのは、文字通り至難の技だった。
「ゔっ…!」
思わず当てることに意識を持っていき過ぎた結果、避けきれなかった弾丸がサーニャの腹部を容赦なく殴った。結界によって怪我は無いが、衝撃だけは貫通するほど凄まじいもので、もう一度受ければ立っていられなくなるとサーニャは直感する。あくまで盟約が発動するのは外傷のみだ。ただの風圧である弾丸は、肩代わりできない。
「可愛いのに、容赦、ないです、ねっ!」
サーニャが息切れを起こしながらも愚痴を吐く。だが、それで攻撃を止めてくれるほど優しくもない。
これ以上戦闘を長引かせるのは得策では無い。しかしお互いに決め手に欠けるせいで、終わる見込みもない。
───ならば。
「まだ、不安ですけどっ」
やるしかない。
サーニャが、その輪に誓う。
与えられた呪いを、──とする。その、覚悟を。
「……ところで、わたしは何をどこまですればいいのでしょう?」
いきなりマリーナにここまで飛ばされたはいいが、一体何を為せばこの荒療治は完了したと見なされるのか。サーニャは首を傾げた。
「えっとぉ…ひとまず期間は、わたしが大丈夫そうだと確認できるまで、です」
「っ!?」
いきなり森に響いたマリーナの声を聞き、思わず肩が跳ねる。急いで辺りを見回すが、それらしい姿は見えない。
「ひとまずサーニャさん自身が不安に思うことを、とにかく実践しまくっちゃってください。後始末はわたしがしておきますので。わたしが大丈夫だと確認した上でサーニャさんも納得出来たなら、完了と見なします」
「わ、かりました…?」
疑問符を浮かべながらも頷いて返す。相変わらずマリーナの姿は見えないが、何処かでずっと見守っていると思えばさらに安心感が心に広がるのをサーニャは感じた。
「わたしが不安に思うこと…やはり、戦うことでしょうか」
一旦の目標を定め、それを成すためには何をすべきかを考える。
「まずは、位置の確認ですね」
そう呟くと目を閉じ、魔力を動かす。自分を中心に魔力の波を放てば、いくらかの手応えがサーニャへと返ってくる。本来であれば、広範囲を索敵できるかわりに魔物達にも自分の居場所が気付かれる手段だが、マリーナが干渉した結界を通って放たれた事により隠蔽されていた。
「サーニャさんに後で隠蔽の方法教えようかな」
《絶対そっちの方がいい》
流石にこのままでは不味いとマリーナの理性が警鐘を鳴らす。マリーナの隠蔽は使い方次第では禁術としても扱われかねないほどの技能だが、サーニャの身を護る為にはこれ以上ないものであり、大切な存在を護る為ならば喜んで教えようとマリーナは思う。
「あちらにいますが…」
サーニャが歯切れ悪く呟く。今の索敵で分かるのはあくまで位置だけ。何がそこにいるのかは行ってみなければ分からないのだ。
不安は残るが進まねば何も成せない。意を決してサーニャが森の中へ足を踏み出す。
気配をできる限り殺し、察知した場所を茂みに隠れて覗く。そして視界に入ったのは
「…ウサギ?」
両手で抱えられるほどの小さなウサギ。魔物ではあるが、暖かな陽の光の元、呑気に草を貪るその姿は見るからに弱く、倒す必要性が感じられない。
だが、サーニャはその姿に強い違和感を覚えた。
「…おかしくないですか?」
食物連鎖は弱肉強食。特に弱者であるはずの小さな魔物が、何故こうも茂みに姿を隠すこともせず、警戒もしないまま食事をしているのか。単純にそれだけの知能が無い可能性も無論ある。だが、サーニャの頭を強い危機感が引っ掻いた。
「倒した方が…っ!?」
突然ぞわりと冷たいものが背を駆け抜け、思わずその場を飛び退いた。その、瞬間。
─────地面が、爆ぜた。
「なっ!?」
急いで視線をウサギに戻せば、明らかな敵意を含んだ眼差しとかち合い、そして理解する。
間違いない。これは攻撃だ、と。
「魔法…風?」
魔力の流れを視、ウサギが使うその正体を見破る。固められた風の弾丸。それが先程の地面を穿った正体だと。
風で創られた不可視の弾丸は確かな破壊力を伴い、サーニャへと襲いかかった。
「これくらいなら、避けれますっ!」
魔力を目に流し魔法を可視化して、高い身体能力を活かして縦横無尽に森を駆ける。しかし、避けるばかりでは戦いとは呼べない。
「風刃!」
魔法が一瞬止んだ瞬間を逃さず、反転攻勢へ移る。
サーニャが創り出した不可視の風の刃が、鋭い切っ先を持ってウサギへと飛びかかる。だが、向こうも風を扱う魔物。自らが扱う不可視の魔法と似たソレが見えない道理はなかった。
全ての刃を小さな身体でサーニャより速く動き回り躱していくウサギに当てるのは、文字通り至難の技だった。
「ゔっ…!」
思わず当てることに意識を持っていき過ぎた結果、避けきれなかった弾丸がサーニャの腹部を容赦なく殴った。結界によって怪我は無いが、衝撃だけは貫通するほど凄まじいもので、もう一度受ければ立っていられなくなるとサーニャは直感する。あくまで盟約が発動するのは外傷のみだ。ただの風圧である弾丸は、肩代わりできない。
「可愛いのに、容赦、ないです、ねっ!」
サーニャが息切れを起こしながらも愚痴を吐く。だが、それで攻撃を止めてくれるほど優しくもない。
これ以上戦闘を長引かせるのは得策では無い。しかしお互いに決め手に欠けるせいで、終わる見込みもない。
───ならば。
「まだ、不安ですけどっ」
やるしかない。
サーニャが、その輪に誓う。
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