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疑惑から確信へ

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「さて、ジル様。お聞きしたいことがございます」
 ジルの身体を気遣いながらざくろが話を聞いていく。

「何なりと。」
「においや味を感じなくなったのはいつ頃ですか?」
「2か月ほど前です。奥様が椿(つばき)をつれて出て行ったのが3か月ほど前。それから1か月ほど経ったころです。旦那様がたまにくれるおやつを埋めていた場所が分からなくなってきておかしいなと。」

ジルは傷だらけの足裏をぺろぺろ舐めながら言った。鼻先の毛も抜けていて痛々しい。
「奥様と椿様が出て行ってから、つまり旦那様との暮らしになってから大きく変わったことはありましたか」
「旦那様と暮らすようになってから食事が変わりました。とにかく量が増えました。」
「量が増えた!?」
「ええ。あ、それと出ていかれた奥様が1週間前までは2日に1度会いに来てくださっていたのです。でも、もう良いのです・・・・。」

「ジル様・・・・」
ざくろは他にもいくつか質問をし、それについてのジルの答えを聞いた後、何かを思いついたようだった。

「いちご!」
「はーいお姉ちゃん。」
「ハリネズミ達にも確かめたいことがあるの」

「ヘイデン!パール!お姉ちゃんが呼んでる」
2匹のハリネズミにもざくろはいくつか質問をして、その答えを聞いた時にざくろの眼がルビー色に光った。
いろいろと段取りが必要だ。

「いちご!マンゴー隊長!ヘイデン!パール!」
カッと目を見開いてざくろが叫んだ。

「椿さまを探します!」

※※※
ざくろといちごは主人である堂島さくらに連れ出されて松本のアパートに来ていた。
いちごは、不知火こと今は「大地」と名付けられた三毛猫と追いかけっこをしていた。

ざくろはキッチンにある大地のトイレを入念に埋め戻しているところを「散らかさないで!」とさくらに止められ、抱っこで和室に連れて来られてしまった。

膝の上でイライラを沈めるために顔を洗っていると、窓の外にコウモリがたくさん来てクルクル円を描いていた。

「にゃおーん!」
ざくろが鳴くといちごと大地が走り回るのを止めて窓の外を見た。
「んなあ!!んなあ!!」

「みんな何か視えてる?松本先生、なんか居るんじゃないこの部屋~(笑)」
「やめろよ、俺そういうのダメなんだよ」
「あ、なんだコウモリだわ。たくさん飛んでる~!」

「ヴ~ヴ~!んなああああ!!」

「いちご~そんなしっぽ太くして。ガラス越しで捕まえられないからね(笑)あ、大地もやってる(笑)」
さくらと松本は猫たちが窓の外のコウモリににゃあにゃあ鳴いている姿をのんきに可愛いなあと思っていたのだった。

※※※

 「さくら寝た?お姉ちゃん」
 「ちょっと待ってて、確かめてくるわ。先に行っちゃだめよ」
 主人のさくらは松本の部屋で一緒に夕食を食べた後、キャリーバッグに2匹を入れたのを松本が見て「ざくろといちごが可哀想だろ」と車で送ってくれた。
 
2匹は夕方、松本の部屋で大地と一緒にカリカリを食べたが、帰ってきてからちゅーるを一本ずつくれた。
(ご主人、なんだかご機嫌だったわね)

 さくらがいつもちょっとだけ開けておくドアの隙間からするりと寝室に入ったざくろは、ベッドにストンと乗った。
 さくらは横向きに寝ていた。顔の前までそろりと忍び寄ると彼女の右の耳がピクッピクッと動いた。だめだ、うずうずが止まらない、だめだだめだだめだ手を出したらだめだ、でもチョイチョイッとざくろの前足が出てしまった。
 「んん~」
 (おねえちゃん!!!がまんして!!)心の中でいちごは叫ぶ。
 でもさくらは耳をぼりぼりと掻いてすぐにまた眠ってしまった。
 ホッとしていちごの方に目をやるとやはり彼は非難の目をしていた。
 「ご、ごめんなさい。どうにも本能が抑えられず・・・」
 「はあ・・・。準備オッケー??」
 「もちろん!いちご、行くわよ!」
 ざくろの眼がルビー色に光った。

※※※

場所はフルーツ公園の大きな木の下。
時間は深夜2時。

今夜はいちごとざくろが待つ側だった。
 
「おねえちゃん、来たよ!」

赤く光る2組の目が近づいてきた。
目つきの鋭いスラリとした三毛猫に先導されるように大きな三毛猫が到着した。長い尾の先は二股に割れている。

「お久しぶりでございます。青島様、瀬戸様」
ざくろがうやうやしくあいさつをする。

「久しいの。ざくろどのいちごどの。」
 青島と呼ばれた大きな猫又は楽しそうにざくろといちごの顔を見比べている。
瀬戸はいちごと目が合うとぺこりと頭を下げた。

ざくろは、椿を探してほしいということと、猫又にある依頼をしたのだった。
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