剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

文字の大きさ
13 / 190
第1章 ポーター編

013.ギルドマスターと謎のエルフの愉快な歓談

しおりを挟む

 ※


「ううぅ、なんて健気(けなげ)な子なの……。

 流石は私の義理の息子(仮)ね……。もう泣きそう……」

 魔力を込めれば任意の音、映像を記録出来る魔具、メモリークリスタルから聞こえている会話に耳を傾けながら、迷宮都市フェルズのギルドマスター、レフライア・フェルズは、感動的ね、尊い、尊いわ、とかつぶやいている。

 このクリスタルは、音声のみの物だった。

 トイレの個室の壁を映しても、意味はない。

「……いえ、ギルドマスター。もうボロ泣きです」

 ギルドマスターの執務室。

 ある商会にて、秘密の任務を遂行中の某スカウトは、顔を隠す黒布の上から、手で眉間を押さえ、頭痛がする、と言わんばかりの仕草をする。

「あ、あら、そうね、そうなのね。それなのに、ハンカチ一つ差し出す事も出来ないなんて、気のきかない男ね。

 雇い主に対して、紳士的な行動も出来ないのかしら?」

「私は、こんな悪趣味な盗聴をする、ゲスで卑しい、一介のスカウトに過ぎません。紳士である筈がないでしょうがっ!」

 多少の怒気を声ににじませ、それでも自分のハンカチを、ギルマスの机の上に投げ出す。

「機嫌が悪いのね。でも、いにしえの尊きハイ・エルフの末裔が、『ゲスで卑しい一介のスカウト』に過ぎないわけないでしょう?」

 そのハンカチで、当然のように涙をふいたレフライアは、黒い布で頭部、及び顔面までもグルグル巻きにして、目元以外を隠した、見るからに怪しい風貌の相手に、皮肉げに問いかける。

「血統に意味等ありません。

 それに、卑しい行動をしている事に変わりはありませんから」

「でも、スカウトとは本来そういう、縁の下な仕事するものよ。

 余り無意味な卑下で、自分を貶(おとし)めても、意味ないと私は思うわ」

「………」

「それに、この養子を申し込む話には、本来、私も同席する筈の話だったのよ。内容を聞く正当な権利が、私にはあります!」

「………」

「なのにゴウセルったら、また先走って…!」

「………」

「まあ、『西風旅団』のメンバーが、ゼン君の引き留めをして、あまつさえ自分達が教師役をして、将来のパーティーメンバーに、なんて素敵な申し出をして、とても遠慮深い感じのするこの子が、その申し出をはにかみながらも受けたんですもの」

 当然、この時の様子も、こちらは映像付きで、視聴済なのだ。

「なんか流れと勢いで、この子がさらに喜んで、あの申し出も受けてくれると思ったのね。その気持ちは分からなくもないわ」

 レフライアは、その一部始終の記録データが保存された、二つのクリスタルを、手の平の上でもてあそびながら、半ば独白のようにつぶやく。

「でも、それを断って、なんで?!て思ったら、理由が、自分はもう貰い過ぎてるから、恩を返せない、幸せ過ぎて死にそうって、……やだ、また涙が……」

「………」

 その気持ちは、彼も分かる、と密かに思った。

 自分も、会議室の隣、暗くなって視界のきかない、狭いトイレの個室で、物音を立てて、気づかれたら申し開きのしようもない状態。

 ただただ、声を押し殺して、静かに泣いた。

「……そろそろ、いいですか?会長補佐としては、会長が出勤される前には、執務室で待機したいので」

 茫然としていたレフライアが、その声でハっと我に返る。

「そ、そうね。でもその前に一つ」

「……なんでしょうか?」

「あなたの任務は、私とゴウセルの事が上手く行って婚約した、あの時点で終わりにしても良かったのよ。

 でも継続任務を望んだのは、あなたの方。理由を聞きたいのだけど」

「……ご結婚されるまでの時点が、正確な任務完了になるから、と説明した筈ですが?」

「そう。確かにそう聞いた。私も一応は納得した、つもりでした」

「……?」

 レフライアは、面白そうな顔しながら、でも、半ば本気で尋ねてみる。

「私には、ゼン君、っていうすっごく手強(てごわ)そうな強敵(ライバル)が現れて、もしかして実は、あなたもそうだったりするのかしら?」

「……?」

 彼は最初、ギルマスの言う意味が、まるで分からず、しかしその頭脳明晰な彼の思考は、意味深な表情のギルマスと、その言葉の意味するところを素早く解析し、その正確な意味を把握してしまった。

「な、何わけのわからない事を、言ってるんですか!」

 雇い主であり、自分の遠い親戚で女性に対し、今、本当の本気で怒り、殺意が湧いた!

「あなたが、前の女勇者が持ち込んだという、世界中の女性の数割に感染し、蔓延している、怪しげな趣味の信望者とは思いませんでした!」

「あらあら怖い。いえ、私は別に、あの、や、なんたら教の信者ではないわ。

 でも、別に同性愛への偏見を持つものでもないの。

 それにエルフなんて、そういう意味では性欲薄くて、精神性の愛を重んじる種族よ。

 同性愛のカップルだって、普通にいると聞いた事があったのだけど……」

「……確かに、それは否定しません。

 だが、私が会長にその……懸想をしているのだの、そういう事は一切ありません!

 長く潜入任務とはいえ、その補佐をしているんです。

 会長の人間性は、尊敬していますし、仕え甲斐のある人だとも思っています。

 ですが、そのような邪推をされるのは、不愉快です!」

 ギルマスの、書類が散在した丈夫そうな机に、思わず両の拳で力いっぱい殴っていた。

「あらあらまあまあ、御免なさい。ちょっとだけ心配になってしまったものだから」

 脅しとも取れる行為に対して、レフライアはまるでそんな事がなかったかの様に、ニッコリと艶やかに微笑む。

「……それと」

「な~~に?」

「ゼンとゴウセル会長に対しても、そんな風に言ってしまうのはちょっと酷いのでは?

 彼等は、血の繋がりはなくても、もう親子同然の、親と子の愛情、親愛でしょう。

 強敵(ライバル)とか言ってしまうのは、その……」

「あらあら。でもね、私としては、ゴウセルから愛情を……強い愛情を受けるのは私一人で充分だったの。

 女として当然の独占欲よね。

 なのにこんなに強い愛情を……あなたが言うところの、親愛の情ね。を受けている存在が現れたのだから、私の女としての嫉妬や危機感は伝わらないかしら?」

「……それこそ杞憂では?

 私の聞くところ、会長の初恋はあなたであり、パーティーを抜けたのもあなたに釣り合わない自分に嫌気がさして、とか、守りたい相手より弱い自分の劣等感だとか、があっての事で、罪滅ぼしに、ギルマスの目の治療法を探して、世界を飛び回り、そして、結局のところ、彼はずっとあなたの事を一、途に思い続けていた様ですから。

 まるで、我等、エルフの様ですね」

「……聞いてない」

「だから、無意味な取り越し苦労をしないで、愛されている者の自覚を……」

「全然その話、聞いてないわよ!」

 突然、レフライアが爆発した!(比喩的表現)

「え?何の話ですか?」

 黒布男は、何故ギルマスが、突然怒りだしたか分からない。

「その、初恋、とか、パーティ-抜けた理由、とか色々諸々!」

「え?そうでしたか?あれ?」

 レフライアは、椅子から立ち上がって、ジリジリと彼に詰め寄って来た。

 かなり怒っているのだが、ゴウセルの話を聞いてニヤけてもいるので、奇妙な表情をしていて、かなり怖い。

 身の危険を感じて、必死に思い出す。

「あ、そうだ、あれです!」

「なによ!」

「ギルマスがやっと、本当にやっと告白した夜!

 あの時、商会の執務室で、私に悩みを打ち明ける感じな流れになって、で、その後、お酒を飲むのにも付き合って、そしたらもう、会長の一人語りが、止まらなくなったんですよ。

 もうベラベラベラ、俺はあいつの燃えるような紅い髪が好きだっただの、太陽の様に微笑む表情は、まばゆさで目がくらむ、とか、聞いてるこっちの身にもなって欲しい程の……」

「なんで、その報告がないの!」

「え?あ、だってもう上手く事が運んだんですから、必要ないかと……」

「ない訳あるか!」

「……そうですか?そうですね」

 冷や汗を浮かべ、愛想笑いを浮かべても、黒布を巻いているので意味がない。

「その時のメモリークリスタルは?!」

 出せと手を突き出されても、困ってしまう。

「……急な事だったので、撮っていません……」

「……この無能!」

「それはひどい、あんまりですよ……」

 子供の様に、むくれて頬をふくらませている、乙女なギルマスを見ながら、控えめに苦情を言ってみる。

「……レポート」

「は?」

「その時、ゴウセルが言った事、内容、一言一句全部、詳細なレポートを出しなさい!」

「え、いや、あの夜は私も付き合いで飲んでいて……」

 無意味な抵抗を試みるも、当然却下だ。

「無駄に頭脳明晰なエルフなんだから、それぐらい出来るでしょ!

 なんなら、知り合いの神術士呼んで、無理やりその記憶、掘り起こしてもらうわよ!」

「わ、わかりました。レポート、書かせていただきます……」

「提出、今日の夜までね」

「え、いや、流石にそれは、私、商会の仕事も……」

「今夜、絶対、ね?」

 とても怖い笑顔のギルマスに、逆らえる者等いるのだろうか?

 彼の受難は続く……

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

処理中です...