剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

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第1章 ポーター編

014.西風旅団の実力鑑定

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 今日、西風旅団+ゼンは、迷宮(ダンジョン)のロックゲート岩の門ではなく、ギルドの訓練施設に来ていた。

 西風旅団の実力を見てもらい、迷宮(ダンジョン)のボスに挑めるかどうかの判定をしてもらう為に、前もってギルドに予約を頼んでおいたのだ。

 本部の隣にある、魔物の解体倉庫の更に向こう、闘技場程ではないが、広い円形状の施設。

 闘技場と違うのは、しっかり屋根がある事ぐらいか。

 入ってみると、結構な冒険者でにぎわっている。

「あれ、なんか随分な人がいるな……」

「普通の昼間なんて、冒険者は皆、外で討伐任務か、迷宮(ダンジョン)に潜っているとばかり思ってたな」

 前に訓練に来た時は、実際そうだったのだ。

 旅団メンバーとゼンは、不思議がりながら、ギルドのカウンターで職員に指定された場所に行く。

 そこには、壮年の、意外と若い青年が、使い込まれた皮鎧を着て待っていた。

「俺が、今日お前らに頼まれた、実力判定をするレオだ。

 元B級の冒険者で、冒険者のランクアップ試験の判定もしてるから、その内また会うかもな」

 爽やかな、裏表のない笑顔。

 どうも、気持ちのいい青年の様だ。

「今日は、よろしくお願いします。西風旅団です」

 リーダーであるリュウエンが、代表して挨拶をする。

 皆も、後ろで頭を下げる。

 一人一人の名前の紹介が終わると、早速始まる。

 レオは練習用の、木で出来た木剣を持ってきて、手渡してくれた。

 バスターソード風の大型の物と、ラルクス用であろう短剣風の木剣二本。

「それには、重量調節の魔術がかけられている、

 一応魔具の一種だな。自分の武器と、同じぐらいに調節してくれ。

 やり方は、その魔術師のお嬢ちゃんに聞いてくれ。多分その方が分かりやすい」

「すみません、私、戦棍(メイス)も使えるんですが……」

 アリシアが、遠慮深く、オズオズと手をあげて言った。

「ん、おお、確かに。すぐ用意するからな」

 メンバーの情報が書かれた資料を見て、レオは頷くと、軽快な動きで、控室らしき場所へと走って行った。

「流石、元B級、って感じな動きだが、なんで引退したのかな。

 怪我とかなさそうだし、引退には早すぎる年齢なんだがな」

 リュウエンは、サリサリサに重量調整を手伝ってもらいながら言う。

「人それぞれでしょ。はい、終わり。ラルクは?」

「ああ、大丈夫だ。今の見てて、やり方は分かった」

 ラルクスは、器用に2本の木剣の調整を終えた。
 
 そこに、レオがメイスっぽい木製の戦棍(メイス)を持って来た。

 お礼を言って受け取ったアリシアは、すぐ調整終え、準備完了だ。

「じゃあ、見てみようか。

 俺は、それなりに力を加減するが、君らは全力で打ち込んでくれ。

 後、君らに割り当てられたのはここ、この四角のラインで区切られた場所だから、そこからは出ないでくれ。

 見学するそのポーター君も、端の方にいてくれ。見学者はこれを持って」

 レオは、ゼンに護符らしき物を渡した。

「ライン上には、魔術の防御壁が張ってある。

 君らの魔術や攻撃が、外に出る事はない。

 ここから魔力が供給されて、ポーター君の身も守ってくれる。

 気が散らない様に、不透明にするか?」

「そんな事、出来るんですか?」

「それなりに、金のかかった施設だからな。ほら」

 レオが手元で何かを操作すると、ライン上に、白い壁が現れた様に見え、他の冒険者達の区画は、それで見えなくなった。

 妙に広い、四角い部屋の中にいるような感じだ。

「他の冒険者の情報を、盗もうとする奴もいるからな。

 見えてた所は、自信があるか、偽情報掴ませようとしているか、だな。今の時期じゃ仕方ない」

 言っている事が、意味不明だ。

「あの、そういえば気になってたんですが、今日って、なんでこんなに人がいるんですか?」

 レオは、一瞬キョトンとして首をかしげ、説明する。

「そりゃ、闘技会が近いからな。

 大会出場者は、そろそろ調整して、仕上げに入るだろう。

 君らは出ないのか?」

「ああ、そうだった!闘技会あったんだ。

 あー、俺ら、フェルズに来て日が浅いし、G級上がったばっかなんで、出るつもりはないんですよ」

 疑問の解けたリュウエンは、気分すっきりで、心おきなく実力を出せそうだ。

「そうか。ランク別、職業別なんてのもあるから、遠慮はしないで出てみるのも、フェルズの冒険者を知る、いい機会になると思うぞ」

 木剣で素振りし、調子を見たレオは軽く言う。

 冒険者の中で、浮いた感のある旅団メンバーは、乾いた笑顔で、ソウデスネと言うのであった。


 ※


「じゃあ始めるか。最初は個別に、次に連携を見る。

 連携は補助を使った場合、使わなかった場合とか、色々見よう。

 俺にはもう、魔術防壁を、ここの専属術師がかけてくれてるから、攻撃魔術を使用しても大丈夫だ。

 その防御壁で、魔術の威力を見る魔術様式になっているから、全力で来い。

 と、言っても、ペース配分もあるだろうから、全力攻撃術は個別の時で、連携の時はそちらの判断に任せるよ。

 物理攻撃は、俺の腕次第になるが、健闘してくれ。

 この木剣では、当たってもそう怪我はしない。威力は、後で防壁の数値で見れるからな」

 レオの説明が終わり、最初は個別判定。

 リーダーのリュウエンからだ。

 リュウエンは、バスターソード風木剣を構え、全力で剣を打ち込んでいった……。

 (中略)

「ふむ。剣士とスカウトの打撃は、フムフムかなり、いいな。

 予想外だよ。じゃあ次は魔術な」

 荒い息を吐き、膝を地について、疲れ切った二人に対し、流石は元B級。

 二人続けた、模擬試合形式な実力判定をしても、息一つ乱していない。

「次は魔術か。

 種類とか、あり過ぎると、全部見るのがに時間かかるんで、得意なのを2、3種に絞って、それを俺に、ボス敵だと思って全力で。

 いいかな?」

「はい!」

 サリサリサの瞳が、ランランと輝いている。妙に意気込みが凄い。

「あ、すまんが、杖はこれ使ってくれマナ消費が半分以下に抑えられる杖だ。

 威力補正はないから、純粋な術の威力が見れる」

 レオは前もって用意してあったであろう杖を持って来る。

 慣れない杖だが、魔術の純粋な強度(威力)を見るの為だ。

「炎と氷と、後、雷を使います」

「おお、三種の属性が使えるのか。凄いな」

 サリサリサは、全属性使えるのだが、今はいちいちそんな、自慢めいた話を、口にしたりはしない。

「いきます。………」

 小さく呪文詠唱をし、精神を集中させて、魔術様式を組み立てる。

「『地獄の業火ヘル・ファイヤ!』」

 小さな種火の様な光が、レオへと高速で飛んで行く。

 彼にそれが当たった、その瞬間、レオの全身全てが炎に包まれた、かに見えた。

 炎は、少し時間をおいておさまる。

 そこには、防御壁で無事なのだが、サリサリサの魔術の余りの凄さに、目を丸くしているレオがいた。

「ちょっと待てよ……。

 今の魔術って、上位魔術なんじゃ?

 魔力強度は……C級に届きそうだな……」

「サリー、すごーい!

 だって彼女は、王都の魔術学校主席卒業者ですよ。

 しかも飛び級の!」

 親友を、自慢したくて仕方ないアリシアが、脇から口を出す。

「な、なるほど………」

「次は普通に、アイス・ランスと雷帝撃を行きますので………」



 判定が終わって、茫然とするレオ。

 氷の槍アイス・ランスは、中級魔術だが、その大きさが尋常でなかった。

 普通に人間大の氷の槍が、高速で飛来するのだ。

 元B級でも、怖いものは怖い。

 雷帝撃というのは、彼女のオリジナルスペルらしかった(少なくともレオは知らない)。

 敵(レオ)の周囲を、3つの金属球が現れたと思ったら、周囲を回り始め、敵役であるレオに極太の雷をあびせながら、延々と回り続けるのだ。

 恐らくそれを止めるには、金属球を破壊するか、術者を倒すか、しかないのだろう。

 だが金属球は、一定の、決まった距離を取るように、設定されているらしく、近づくと遠ざかるのだ。

 槍を投擲するか、弓矢や投げナイフ、後はは魔術など、中距離的な攻撃で破壊するしかない。

 ギルドの専属術者は、防御術特化で、それのみならA級と言える術者だ。

 だから防御壁がもつが、C、やBの術者の防御壁だったら、危なかったのでは?

 冷や汗が止まらないレオだ。

「君、なんでG級なの?」

「仲間と同じじゃないと、意味ないじゃないですか」

 流石に、大魔術の3連発で、ふらつくサリサリサは言って、

「この杖いいですね。上位魔術とか燃費悪いから、欲しいです。

 売ってもらえませんか?」

「いやいや、ギルドの備品だし、同性能のがあっても凄い高いぞ」

 ガッカリと落胆するサリサリサの次は、アリシアだ。

「えーと、君は神術士だが、攻撃系の術は覚えているのかい?」

 アリシアは、サリサリサから交代で杖を渡してもらう。

「光系と、後、死霊系の浄化術ですね」

「ふむ。浄化は、通常人や生物には無害判定だからな、脅威度判定がつかないから、光だけでいい。

 一つだけだし、集中して全力で………」

 と言いつつ、嫌な予感のするレオだった。

「は~~い。じゃあ行きます。………聖なる威光ホーリー・ライト

 光の柱が、レオの頭上から降臨し、炸裂した。

(こ、これ、光系の最上級攻撃術じゃ?防御壁がギシギシいってるぞ……)

 しばらくそれは続いた………。

「よ、よかった。防御壁、壊れんかった………(汗)。

 魔術強度は、こちらは完全C級超え………、B級に届きかねない威力だ………」

(新人(ルーキー)のこの歳で、中堅ランクに匹敵する術の使用者って、どれ程将来有望なんだよ………)

「いやあ、うちの女性陣は、どこかおかしい。いつもおかしい………」

 悟りきった表情の、リュウエンとラルクスは、乾いた笑みを浮かべるのみだった………。

 ちなみに、女性陣の派手な術は、ゼンに大うけだった。

「あ、すみません。私の戦棍(メイス)……」

「あ、そうだったそうだった」

 何故か、忘れられがちな戦棍(メイス)。

 アリシアが、おっとり木製の戦棍(メイス)を構えると、普段のおっとりさが嘘のように、キビキビして動作が早くなり、戦棍(メイス)で突く殴る突く殴る。

 妙な迫力がある。

「……おお、よかった。戦棍(メイス)さばきは、普通に……G級じゃないね……」

 彼女は、補助や治療をメインにしているが、実は武器戦闘の成績も、かなり優秀だった。

 そこらの雑魚魔物なら、軽く撲殺だろう。

(こんな有能人材を、教会が手放すだろうか?)

「君、教会から何か言われなかった?」

「ん~~~。冒険者が飽きたら、教会に戻ってきなさいって。

 飽きるわけないのに、おかしいですよね~~」

 屈託のない笑顔を浮かべるアリシア。

 実際、教会から残ってくれと、強く懇願されたのだが、一顧だにしなかった。

 彼女は、リュウエンの相棒(パートナー)になる為に、神術を習いに行っただけだったのだから。

 深い溜息をつくレオ。

「この鑑定、続ける必要あるのかなぁ………。いや、あるか。

 術系だけ突出しても、駄目な時はあるのだ」

 後ろ向いていたレオは、一人小さくつぶやくと、旅団メンバーに向き直る。

「一応言っておくが、剣士、スカウトの君らも、すでにG級の腕じゃないよ。

 迷宮(ダンジョン)で何か開眼したのかな。

 今すぐF級に推薦してもいいぐらいだが、せっかくだし、迷宮(ダンジョン)制覇してからがいいのか」

 単なる実力鑑定が、昇級確実のお墨付きが出てしまった。

「休憩をはさんで、マナポーション飲んだりして、疲れを取ってくれ。

 それから連携みるからな………」

 レオは控室に戻って行った。

 こちらは、この場で休憩のようだ………。

(小略)

「さあ、連携を見るぞ。

 魔術師の君は、当然分かってると思うが、威力の強い魔術は、味方を巻き込む恐れが、非常に大きい。

 それらを(くれぐれも)踏まえてやってくれ。(懇願)

 あ、ちょっと待った……」

 レオは、控室に行って、魔術障壁を貼りなおしてもらった(とても大事)。ついでに重ねがけも。

「よし、やるか………」


(大略)


「お疲れさん。どうだ、そっちとしては?」

 全ての鑑定が終了し、さすがに、元B級のレオも、多少の疲れが見える。

「ボス敵が、B級冒険者クラスなら、勝てそうにないかな、と……」

 こちらは、疲労困憊な旅団メンバーが、その場で大の字に寝転がってダウンだ。

 ゼンが、用意して持って来た水筒を、各自に渡してまわる。

 気が利く子だ。

「今のクラスで、そんな事されたら、こちらが困る」

 と、言いながらも、遠距離から攻撃魔術だけに絞れば、倒されそうな気がする……。

「連携も悪くない。いや、かなり良かった。

 ただ、前衛に剣士一人で、スカウトがサポートしてるのは、上手く機能しているようだが、多少薄く感じた。

 前衛増やした方が、いいんじゃないか?」

「前は、募集かけても、ロクなの来なくて……。

 でも、今は優秀な候補者がいるんで、その子が育つのを待つ、というか、俺達が鍛えるんです」

 リュウエンは話しながら、水筒を運んでいるゼンに目をやる。

「ほう……」

 色々事情がありそうだが、深く突っ込むべき話ではないだろう。

 次に、サリサリサの所に行く。

「なるほど、パーティー戦闘では、魔術は低位で小刻みに敵を削るか、中位の範囲魔術で集団に一撃入れる感じか。(良かった、常識的だ)」

「私、高位の魔術使えても、魔力容量が多い訳じゃないんです。

 だから、迷宮(ダンジョン)だとどれだけ撃てるか、継続戦闘を考えないと、すぐ魔力なくなりますから……」

「そこが今後の課題か。

 魔力容量を増やすには、なるべく限界近くまで使う方がいい。

 探索の最後に、入り口近くで大魔術を使うとかして、危険の少ない方法で鍛えるといいな」

 サリサリサは、成程、いい事聞いた、と今後の参考にすることにした。

「逆に、神術士の君は容量あるのに、攻撃の光以外は皆低位なのか。治癒術も補助も」

「その、早く教会出て、冒険に出たかったので、必要最小限な術だけを習って。

 光だけはとっておきを、一つだけでもあった方がいいと、先生だった大神官様に言われまして~」

 とっておきが最上級で、下位、中位、上位が置き去りとは……。

(つまり、覚える時間があれば、習得出来た、と。

 どちらにしろ、女性陣は規格外だな。

 決して、前衛系の男性陣が弱い訳ではないのだが……)

 この差がいつか、致命的なチームの亀裂にならなければいいが、とレオは、漠然とした不安を、覚えるのだった……。


*******
オマケ
一言コメント

ゼ「凄い!みんな凄いと思ってたけど、サリサとアリシア凄すぎる!」
サ「そうでしょ、そうでしょ!」
ア「ふふ~~~ん」
 この為に張り切って、派手めな呪文使った二人

残り、無言w
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