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第1章 ポーター編
016.ロックゲートのボス2連戦・激闘
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「これがボス部屋だ」
10階にある、大きな扉を開くと、かなりな広さを持つ部屋があった。
別に珍しい装飾も、像もない。至ってシンプルな部屋。
そして、扉を中心に半円のラインがある。
アリシアが、おもむろにゼンに、説明の確認を始める。
「前もって言っておいたけど、これが、ボスの部屋に入って、でも戦わない、ゼン君みたいなポーターとか、後、時々いる、ボス戦を見たいって物好きな人用?」
「いや、違うでしょ。
普通に戦わない人用の、安全地帯が用意されてるのよ。
観客席みたいに言わないの。そういう馬鹿貴族が、来たりしてるみたいだけどね」
サリサリサが補足するが、
「じゃあ合ってるじゃない!サリーの意地悪!」
「意地悪で言ってる訳じゃないわよ。
私は、本来そういう人を、連れて来たりしたら駄目、と言いたかったの。
確かに貴族や魔物の素材を買う豪商が、ボス戦を見たがって、冒険者にそういう依頼したりするけど、それは推奨出来ない事よ。
そもそも迷宮(ダンジョン)は、部外者を入れるべき場所じゃないのよ。
『試練』の場なんだから、私はそういう、公私混同みたいなのは、好きじゃないの」
「……は~い」
アリシアも渋々納得する。
神に仕える身なのだから、これはむしろ、役目が逆になっているのだが。
「ゼンは、ここから足を一歩でも踏み出したら、ボス戦参加ってみなされてしまうから、絶対に出ない様に気を付けて。
で、ボスとの戦いで、流れ矢とか魔術とかが、こっちに飛んで来ても大丈夫。
その半円は、迷宮のシステムで、一昨日の訓練場を思い出して。あれと、同じ様なものだから。
外側からは、どんなに強い力を受けても破られない、防御フィールドをはってくれるの。
ボス戦が終われば、解除される筈だけど」
サリサリサは、半円のライン上に展開された、薄青い透明な膜を指して言う。
「ゼン君、本当に、入って来たら駄目なんだからね。
今までは、ゼン君はちゃんと魔物の攻撃範囲とか分かってて、その外側から援護的な動きしてくれてたけど、ボス戦の攻撃はケタ違いになの。
攻撃がカスったり、魔法が当たったりしたら、その、多分、冒険者としての身体が出来てないゼン君は、一発で即死しかねないの。
私の神術は、まだそんなにレベル高くないけど、そもそも完全な死からの蘇生呪文なんていうのは、神話とかではあっても、実際にはないから。
会ったとしたら、それは多分、単に自分の命を他人に移すだけの、身代わりの呪文……。
つまり、本当に死んじゃったりしたら、私も助けられないから!」
術者二人の念押しは、とてもしつこく、これから戦闘する自分達よりもよっぽどゼンの方を心配している。
恐らく一昨日の、ゼンのお礼と『大好き』が効き過ぎたのだろう。
前衛のリュウエンとラルクスは、苦笑しながらも気持ちは分かるので、女性陣の邪魔は決してしなかった。
「じゃあ、行きますか……」
女性陣の、少し長過ぎる注意が終わった後、リュウエン達旅団メンバーは、半円の薄青い膜を通り抜け、初級の迷宮(ダンジョン)、ロックゲートのボス戦へと挑む。
準備は万端。
すでに、かけられる全ての補助魔法を、アリシアは自分を含む全員にかけた。
リュウエンとラルクスは、闘気で、わずかながらも身体強化をしている。
リュウエンが、部屋の中央辺りに来た時に、変化が起こった。
彼等の前方、奥の壁よりな地点に、敵が突然現れたのだ。
敵ボスは、ゴブリンキング、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンウォーリア、ゴブリンスカウトだ。
出てきたのは最弱のボスだったが、そういった事は考えない。
目の前にいるのは、この迷宮(ダンジョン)の主(ボス)なのだ。
誰も油断などしない。
数的有利を見たゴブリン達は、ニヤニヤ笑みを浮かべ、余裕で歩み寄って来るリュウエン達を迎え撃つ。
メイジとアーチャーが、それぞれスカウト、ウォーリアの後ろに着く。
遠距離攻撃の盾にするつもりだったのだろうが、これは正攻法としては正しいのだが、相手に、貫通攻撃を出来る魔術師がいたのが仇(あだ)になった。
「雷撃、2発行くわ!」
言うとすぐに、短い詠唱。
サリサリサが杖を向け、雷撃を放つ。
続けて2発だ。
スカウトとメイジ、ウォーリアとアーチャーは貫通した雷撃で、『4匹とも』しびれて動きが止まった。
ダーメージとしてはそう大きくないが、それは敵を倒す為のものではないからだ。
ウォーリアの方にラルクスが、スカウトの方をアリシアがダッシュで駆け寄っていた。
短剣と戦棍(メイス)が容赦なく、急所を攻撃する。
短剣は喉元、戦棍(メイス)は頭だ。
かかし同様の敵だ。
首が落ちてもおかしくない短剣の一閃、戦棍(メイス)の一撃は、戦棍(メイス)型に、へこんだ側頭部を見れば分かる。
どちらも即死だ。
二人はそのまま後ろ、雷撃のしびれから回復しつつある、メイジとアーチャー達は、前方で自分達を護っていたゴブリンと、ほぼ同じ目に合う。
武器を構えることすら、出来なかった。
そして、二人が攻撃していた時に、リュウエンも遊んでいたわけではない。
雷撃と同時にダッシュしたのは、リュウエンも同じだ。
部下のゴブリンの邪魔な攻撃等なく、中央を駆け抜け、ゴブリンキングへと迫る。
背の低い、小柄というより小人に近い種族の王は、リュウエンより少し大柄で、とてもゴブリンには見えない、迫力と威圧感がある。
それを意に介せず、リュウエンはバスターソードを振る。
相手は片手剣に円形の盾、と極一般的な装備だ。
一回二回と剣を合わせ、相手の剣筋を見切ったリュウエンは、バスターソードで思いっきり振り、盾を殴るような、重い一撃を入れる。
相手が受けきれず、よろめいた所で剣を持つ片手を、下から、肩と肘の中間辺りの箇所を、すくいあげる様に斬り飛ばした。
剣を持ったゴブリンキングの腕は、クルクル回りながら、後方にいたサリサリサすら越え、ゼンのいる、半円フィールドの近くまで飛んで来た。
「危ないからそんな物、後方に飛ばさないでよ!」
サリサリサが苦情を叫ぶ、その時にはもう、勝負はついていた。
剣を持つ右手をなくし、あらがっても相手の方が一段も二段も上だ。
バスターソードの猛攻を、残った片手でさばききるのには、かなり無理がある。
攻撃にしびれた盾の腕が下がる瞬間を、リュウエンは見逃さなかった。
今度は、ゴブリンキングの首が飛んだ。
結局戦闘は、三か所が、ほぼ同時に終わるという結果になった。
2頭を相手にしたラルクスとアリシア、そしてボスのゴブリンキングの相手をしたリュウエン、3方の攻撃は、偶然にもほぼ同時に終わった。
防御フィールドから見ていたゼンには、サリサリサが雷を放ってから、あっという間に戦闘が、終わってしまったように見えた。
完勝であった。瞬殺と言っていい早さだった。
「凄い……。こんなに凄いなんて……」
サリサリサが貫通の雷で、4頭の動きを止められた事、向こうの陣形が、彼女の使う魔術にハマってしまったのが向こうの敗因、こちらの勝因だっただろう。
一応、4人は、連戦があるかも、とのレオの助言に従い、少し待ってみたのだが、何も起きないようなので、ゼンのいる半円フィールドの方に、彼を迎えに行こうと動いたその時―――
彼らは、迷宮(ダンジョン)のシステムを知らなかった。
ボス戦において試される試練。
それは、時間判定によって決められていた。
ある程度短い時間であれば、次のボスが出る。そういうシステムだった。
だから、彼等は余りにも『早く』ボスを倒した。
部下の死亡時間も、当然判定のデータになる。
だから、『早過ぎ』たのだ。
迷宮のシステムは、彼等に相応(ふさわ)しい相手を強化補正するのに、しばしの時間を有した。
そしてそれは現れる。
彼等、強者の相手をする為に、あり得ない程の強化を施された、強者(ボス)が……。
それに、一番早く気付いたのはゼンだった。
『ボス戦が終われば、解除される筈』サリサリサが言った言葉を、ゼンはしっかりと覚えていた。
だから、『防御フィールドはまだ解除されていない』、そして、こちらに歩く、リュウエンの後方に浮かび上がる影……
「リュウさん、後ろぉっ!!!」
ゼンは声を振り絞って、彼が出来得る、最大限の音量で叫んだ!!!
それを聞いたからか、後方からの強い圧力放つ存在を、感知したからか、リュウエンは後ろを向こうと身をよじり、それが結果的に彼の命を救った。が、その代償はあった。
左肩に斬り下ろされた、巨大な鉈(ナタ)、それはリュウエンの肩先を斬っただけで、かろうじて致命傷は避けられた、かに見えたが。
(チッ!左の鎖骨がいった。剣が……持てん……)
彼が振り向き、対峙しているのは、オークキングだった。
だが、とても普通のオークキングには見えない。
背丈は3メートル近く、青黒い肌をし、はちきれんばかりの筋肉、戦闘への喜びに興奮しているのか、妙に鼻息荒く、ニタニタ笑ってリュウエンをにらんでいる。
当然、現れたのはオークキングだけではない。
メイジ、アーチャー、ウォーリア、ランサー。
まずいのは、アリシア、ラルクスが前後にはさまれている事。
いい事は、離れた所に、パーティーの大砲であるサリサリサがいる事か。
アーチャーとランサーに挟まれたラルクス。
メイジとウォーリアに挟まれたアリシア。
どちらを先に救うのかを、選ぶのに迷いはない。
チームの生命線であるアリシアが、最優先だ。
リュウエンも負傷して苦戦しているようだが、全ての援護は出来ない。
サリサリサは杖を構え集中を……ヒュッと鋭い音がして、反射的に動いたローブのすそを、アーチャーの射た矢が突き抜けていた。
「ラルク、アーチャーをどうにかして。魔術が撃てないわ!」
「分かってるっ!」
位置的に奥にいるアーチャーが、目前の自分でなくサリサリサを狙ったのは、それだけ魔術師の脅威が分かっているのだ。
頭のいい、厄介な敵だ。
ラルクスは、アーチャーに向かい、走りながら投げナイフを二本、腕の方を狙って投げた。
上手くいけば……アーチャーの弓の弦が切れた。
弓が壊れたら、と思ったが幸運だった。弓が使えなければ、結果は同じなのだから。
更に速度を増してアーチャーへと迫る。
はさまれる前に各個撃破が理想だ。
ランサーがこちらに来る前に、確実に仕留めなければ……。
アーチャーも弓を捨て、腰につけていた手斧を持って、ラルクスを迎え撃つ。
ラルクスは、防御力の高そうな青黒い肌を見ながら、フェイントを混ぜ、一気に目標を切り裂く。相手の眼球だ。
「眼球はどんな訓練をしても鍛えられない、て言うからな……」
相手の視界を奪い、致命の一撃を放とうとしたその時、後ろから鋭い音がして、反射的にラルクスは横に飛びのいた。
飛んで来た槍が、アーチャーの胸を貫いていた。
「とどめの必要がなくなったな。そして相手の武器も……て、予備持ちかよ」
ラルクスに槍を投擲したランサーは、投げた物より短い槍を持って、ラルクスに襲い掛かってきた。
「チ、長い槍なら懐に入れば、と思ったんだが……」
短剣と短槍、相手の腕も悪くない。
これは、戦闘が長引きそうだった……
一方アリシアの方は、すぐにメイジへと距離を詰め、容赦なく頭を粉砕したのだが―――
(めまい?なにか、クラクラする。術をかけられたんだ……。リュウ君の治療に、行きたいのに……)
調子の悪いアリシアに、オークのウォーリアが、ドカドカと騒がしい足音をたてながら、豪快に迫る。
獲物は剣だ。片手剣のようだが、アリシアから見れば、充分大きい大剣だ。
なんとか、愛用の金属戦棍(メイス)で受けるが、相手の力が強い。
術の影響もあって、動きが悪く、相手に押し負けている。
元々訓練はしていても、接近戦は慣れていない。
オマケに、リュウエンの事を、気にしているせいで気が散り、その焦りのせいもあって、防御が雑になっている。
このままだと、いずれ―――
「『地獄の業火』!」
サリサリサは親友の危機に、思わず、使う魔法の選択を間違えた!
自分の魔力が、ガクンと大きく減ったのを感じる。
サリサリサは、もう大きい魔術は撃てない。
ラルクスは、今は互角のようだ。放置しよう。
リュウエンは、片腕が使えない様で、苦戦している。防戦一方だ。
(でも、シアが空いたから……。え!?)
必殺で放った筈の魔術を受け燃えながら、まるでそれをものともせず、オークウォーリアは、アリシアに攻撃を続けていた。
(しまった、あの青黒い肌、大方、魔術か熱に耐性があるんだ。
頭を吹き飛ばすか、胸をつらぬくような魔術使うべきだった……。
後悔しても仕方ない。何か、あいつの動きを悪くするような、魔術を考えなければ……)
リュウエンは、逆手に持ったバスターソードを、右手で何とか盾代わりに使い、オークキングの攻撃を、紙一重で耐え忍んでいるように見えた。
だが実際は違った。
オークキングは、わざと、紙一重かわされているように見せていただけで、実際は軽く浅い攻撃で、ジリジリとリュウエンの身体を切り刻んでいたのだ。
(こいつ、俺の血を見て、楽しんでいるのか……)
重いバスターソードは、両腕が使えないリュウエンの、仇になっていた。
それでも、バスターソードを捨て、腰にある予備の短剣に切り替える事は出来ない。
恐らく、あの重い鉈の攻撃は、短剣ではさばききれないだろうし、短剣でオークキングに致命傷を与えるのは難しそうだ。
防戦一方のリュウエンは、少しづつ切り刻まれながら、耐え続けて仲間の支援を待たなければ、活路が開けそうもなかった。
そして、出血のせいで、段々と力が入らなくなっている。
リュウエンの限界が近かった。
その時、誰もが考えなかった人物が、動き出した……。
※
ゼンは、かつてない程の苦戦を強いられている、西風旅団のメンバーの皆を見て、信じられない信じたくない、過去の記憶を呼び起こされる。
自分によくしてくれた者が、次々といなくなり死ぬ恐怖、自分はただ取り残され、そこには無人、ただ無人の、誰もいない世界がある。
(嫌だ嫌だ!そんなの嫌だ!)
もう誰も、死んでほしくない。もう誰も失いたくない、今得た幸福。昔は考えもしなかった、喜びに満ちた世界。
それを、なくす訳にはいかない!
強く思ったゼンは、自然に足を踏み出していた。
あれ程駄目だと念を押された、その半円のラインを、自分だけが安全だった、そのフィールドを超え、ゼンは走り出した!
それに気づいたのは、誰であっただろうか。
「ゼン、駄目、やめなさい……」
その制止を振り切って、ゼンは走った。
目標は、ゴブリンキングの腕、その剣だ。
全力で走ったゼンは、すぐにその片手剣を、持とうとしても、普通の子供に過ぎない彼にそれは、重すぎる、持てない。
(なら、両手で、リュウさんのように!)
「やあぁぁぁーーーーーっ!!!」
誰もが驚いた。誰もが圧倒された。オークでさえも。
その小さな弱き存在が、剣を握り、思いっきり放り投げるのを!
放物線を描いたその剣は、クルクル回りながら、リュウエンの方へと、かなり正確に飛んできた。
「そうか、片手剣なら……」
リュウエンはバスターソードを、オークキングの顔に投げつけ、希望の光へ跳躍する。
それは、動体視力のかなりいいリュウエンでなければ、受け止められなかっただろう。
回りながら飛んでくる、ゴブリンキングの剣の握りをしっかりと受け取り、握りしめ、そのまま渾身の闘気を込め、自分の体重と落ちる勢い、全てを込めて、オークキングの頭上から、袈裟懸けに斬り込んだ。
Gyaaooooo~~~~!!!
オークキングの重い悲鳴が上がる!
剣が、恐ろしく硬いオークキングの、皮膚を肉を切り裂き進む。
心臓の辺りで、固い物を斬った感触があった。
魔石を破壊したのだ。
胸の下辺りまで行って、剣は止まり、リュウエンも手を放して、そのまま力尽き、その場に座り込んだのだった……。
その、少し前、オークウォーリアが茫然と投げられた剣を見て、足を止めていた時、
(そうだ、足を止めれば……!)
「両足の動きを封じれば……『氷結(フリーズ)』!」
(魔力消費の少ない、でも効果的な呪文!)
サリサリサの呪文は、ゼンの投げた剣を見て、注意のそれていたオークウォーリアの足元を、完全に凍らせた。
氷結のダメージはなくとも、動きは封じられる。
アリシアへの攻撃を再開しようとしていたオークウォーリアは、剣を振ろうとして、両足が動かないので態勢を崩し、その勢いで前のめりに倒れてしまった。
流石に、それを見逃すアリシアではない。
「え~~い!」
渾身の力を込めて振った戦棍(メイス)は、アリシアの前にひざまずく様な態勢になり、調度いい位置に頭のあった、オークウォーリアの側頭部に当たる。
振りぬいた戦棍(メイス)は、完全にオークウォーリアの頭部を粉砕した。
互角の勝負であったその攻防は、どちらかに隙が出来れば、容易(たやす)く崩れる均衡だ。
ゼンが防御フィールド出て走り出しても、ラルクスは動揺しなかった。
(あいつは、間違った判断で行動しない。それを信用しないでどうする!)
少年が渾身の力で剣を、彼の王であるオークキングの方に投げた時、オークランサーは動揺した。
自分の様に、キング目指して投擲した、とでも思ったのだろう。
自分の槍の様に。
その隙に、ラルクスは二本持った短剣を、オークランサーの両耳の穴に、両側からはさむように刺し貫き、渾身の力を込めて、打ち込む!
鈍い感触が手に伝わる。
オークランサーの両目に光はなく、崩れ落ちる様に倒れ込んだ。
「つっかれたぁ~~。何度も戦いたい相手じゃないな……」
ラルクスは一人愚痴ると、仲間の方へ向かった……。
誰もが力を使い果たし、ギリギリの体力しか、残されていなかった。
ギルドから安全を保証されたボス戦が、こんな苦戦の乱戦になると、誰が予想したであろうか。
死力を尽し、戦い、そして勝ち残った。
だが誰もが、この勝利をもたらしてくれたのが、一人の少年の勇気ある行動のお陰である事を、否定する者はいないであろう。
やっと合流し、リュウエンの血だらけの身体を、治癒神術で癒すアリシア。
「鎖骨を斬られた以外は、みんな浅い怪我ね。出血が多いのが、心配だけど……」
失った血は、治癒の術でも戻らない。
「たくさんメシ食って寝てれば、治るだろうさ。他の奴も、軽い傷や怪我ぐらいで、体力や魔力の限界なのが多いな。
だが、なんとか生き残った……」
リュウエンは、ホっと安堵の声が出る。
全員が危機だった。
サリサリサも、他が全滅していたら、魔力切れの彼女も、当然同じ末路をたどる運命だ。
「ギルドに文句……というか報告だな。どうして、あんな強いボスが出たのか、分からんが……」
ラルクスも考え考え、思案する。
「私は、やっぱりもっと、使う魔術の選択を、間違えない様にしないと。
それと魔力容量のアップね。
そうしたら、どんな呪文も使い放題……」
「そ、そうだな……」
そんな地獄は見たくない。
密かに思う男性陣だった。
「これでもう、怪我した人いない?」
アリシアも疲れているだろうに、人の事ばかり心配する。
「ん。後は、ボスどもの戦利品(ドロップ)を回収すれば、ってそういえば、ゼンはどうした?」
そこで初めて、今日の一番の功労者、ゼンが話に加わっていなかった事に、皆が気づいた。
「あ、あそこ!」
ゼンは、あの剣をほうり投げた、その位置に倒れ込んでいた。
旅団全員が、残り少ない体力を使って走る。
倒れて、ピクリとも動かないゼン。
「どうしたんだ、これ。攻撃の余波とか、行ってない筈だが……」
アリシアが抱き起し、ゼンの様子を見る。
口元に手をあて、胸に耳をあてて、呼吸と、その心臓がちゃんと脈打っている音を確認して、ホっと安堵の息をもらす。
「気絶してるだけみたい。何も怪我も、傷もないみたいだけど……」
心配そうなアリシアは、傷がなくても治癒呪文を使いそうだ。
「ん~~。そうか!多分、オークキングの威圧にあてられたんだ。
俺も傍にいるだけで、ビリビリ来たからな。
何の訓練もしてない、普通の子供なら当然だ。
いや、あの敵の群れがうごめく中で、よくあそこまで走り、俺に剣を投げてくれたもんだ。大した奴だよ」
「あれで膠着していた情勢が、一気に動いたからな」
「そうよね。本当に、あれがなかったら、私達、今こうしていなかったと思う……」
「ゼン君、頑張ったね。でも、頑張り過ぎだよ……」
アリシアが優しく撫でるが、まだゼンは、気絶したままだった。
「よし、こいつは俺がおぶろう。
戦利品は、悪いけど、こいつのポーチにいれさせてもらって……」
リュウエンが、アリシアからゼンを受け取り、背におぶる。
起きないよう、極力優しく柔らかく……。
「リュウ、お前、血が足りないんだろ。おぶるなら俺が……」
「いや、悪いが俺におぶらせてくれ。
こいつは、俺が一番危ないのが分かって、剣を投げてくれたんだ。
俺の命の恩人なんだ。それぐらいさせてくれよ」
「そんな事言って、この子はもうみんなの命の恩人よ。
本当に、この子には全員、頭があがらないわね……」
サリサリサも、気がつかないゼンの頭を優しく撫でる。
「多分、あの奥に出来た扉の部屋に、迷宮(ダンジョン)の入り口へ戻れる、噂の転移魔法陣があるんだろう。
今日はもう早く帰って、宿で寝よう」
リュウエンはそう言って、一番奥の壁に今までなかった、恐らくボス戦が終わって出来たであろう、扉を目指す。
「そうね、もう今日は、何もしたくないわ……」
「右に同じ」
「みんな頑張ったもんね。でも、ギルドへの報告は?」
「長くなりそうだ。明日にしようぜ」
「そうね。あのボスの事とか、説明すると長くかかりそう」
「あ、ゼン君、目を覚まさなかったら、どうする?」
「俺達の宿に連れて行こう。こいつ、未だにスラムに戻ってるらしいからな。
ゴウセルさんが、商会の社員寮とか、ゴウセルさんの家に泊まっていい、って言うのも断ってるらしいぜ。
だから今日は、無理やり宿体験だ!」
「あ、それなら私達の部屋に、ね、サリ~~」
「え~。まあ、今日の殊勲賞だし、一日くらい、いいかな……」
「おい、俺達、男同士の絆の邪魔をするなよ」
「なにそれ、ばっかみたい。クスクス……」
彼らは、そんな馬鹿話をしながら、ロックゲートを出て、今や、彼等の居場所である、迷宮都市フェルズへ戻るのであった……。
*******
オマケ
リ「なんか主人公ぽくなかったか?ボス倒したし。最後助けられたが……」
ラ「あ~どうだろうな。いいセンいってるんじゃ?……(まだ拘ってるのか」
サ「初戦はともかく、次の選択ミスが……私もまだまだよね……」
ア「私も~。もっと戦棍(メイス)の扱い上手くなって、ガンガン撲殺出来る様にならなきゃ!」
他全員の声:「なるな!」
ゼ「……みんな、凄かったね……」(ニコ)
0
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