剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

文字の大きさ
30 / 190
第1章 ポーター編

030.旅立ち前夜

しおりを挟む

 ※


 ゼンが、ゴウセル商会にトボトボとやって来たのは、そろそろ日が落ちかかる前、丁度、夕暮れになる直前ぐらいの時間だった。

 ゴウセル商会では、今回の闘技会で、闘技場内や、闘技場の周囲で屋台を出す料理人に依頼されて、屋台その物の貸し出しや、調理の補助、売り子等の手伝いの手配や、設営の協力等をしていた。

 今日の、『豪岩(グレート・ロック)』と『流水』の試合の決着で、当然もう闘技場内に観客は、残っていないので、場内の屋台は店仕舞だが、闘技場周囲の屋台は、今日の、意外な勝者で終った、午後の準決勝の話や、午前中の見世物として行われた『精霊ショー(仮)』の話題等、盛り上がって話す事が沢山あり、早々に帰宅する者は、余りいない様であった為、屋台も遅くまで繁盛していた。

 それは、フェルズにある食堂や屋台、酒場等も同様で、どこも盛り上がり繁盛していた。

 午前中に行われた、ギルバートとシリウスの準決勝は、その話題の前にかすみ、ほとんどの者が、それを話題にする事はなかった。

 試合時間が短かったせいも、その要因の一つだろう。

 そうして、屋台の手伝い等で商会の従業員は、ほとんど出払っており、ゼンを迎えたのは、会長と一緒に試合観戦をしていたライナーだった。

 彼は、日の影になっているからではない、ゼンの顔色の悪さを見て、すぐに何か、ただならぬ事が、少年の身に起こったらしい事は悟ったが、その内容までは流石に分からない。

 ゴウセルは、屋台等に出払っている従業員達から、何か緊急の要請があった時の為に、執務室に詰めている。

 そしてこれは、その緊急の事と見てもいい事態の様だ。

 ライナーは、すぐにゼンをゴウセルのいる執務室に連れて行った。

 そしてゴウセルの隣りに、いつぞやの様に立って、ゼンの話を待つ。二人だけでしたい話でもない、と見たからであった。

 ゴウセルは最初、ゼンの姿を見て顔をほころばせたが、彼もまた、少年の複雑な感情を秘めた顔色に、真顔に戻って、ゼンの話を聞く態勢になる。

 ゼンはしばらく話しづらそうに、口を開けたり閉じたりしていたが、最後には、覚悟を決めた表情になって、話し始めた。

「……ゴウセル、オレ、明日ラザン、さんと一緒に……フェルズを出る事に……なったよ」

 ゴウセルは、ラザンとは誰か、フェルズを出るとは何か、意味が分からず、しばらく呆けた顔をしていた。

「会長、ラザンとは多分、『三強』の一人、『流水』のラザンの事ではないでしょうか?」

 ライナーは、ゼンに視線をやりつつ、自分も今一つ事態を、把握し切れなかった。

 ゼンが頷いているので、そのラザンでいい様だ。

「あ、ああ、あの”ラザン”か。なんでいきなり、『流水』の話が出てくるんだ?俺に分かる様に、説明してくれ、ゼン」

 そう言われてゼンは、自分が今日、青の住宅街にある”幽霊屋敷”の庭で、素振りの稽古をしていた事、人目がないので、以前から何回かそこで、素振り稽古をしていた事も併せて説明し、そこにラザンが急に来て、彼に稽古をつけてもらった事を話した。

「ああ、あの有名な、幽霊屋敷か。ラザンは気紛れだから、そんな事もあるんだろうな」

 ラザンの人となりを、多少なりと知っているゴウセルは、『流水』がゼンに稽古をつけた、と言う話には、それなりに納得出来た。

 彼は、気紛れで奇想天外なのだから。

 ちなみに、その屋敷の悪霊(レイス)は、ある貴族の愛人騒動で、と、色々あるのだが、ラザンに一払いで消滅させられた、哀れな存在なので、説明は省略しよう。

 そして、その稽古で、ゼンがラザンに気絶させられた事、その介抱をする為に、屋敷の悪霊を消滅させ、屋敷内のソファらしき所に寝かせてくれた事、気を取り戻した時に、ゼンの事を褒めて、自分は明日、フェルズを出て、武者修行の旅に出るが、弟子として同行しないか、と誘われた事までを、ところどころつかえながら説明した。

「ラザンに才能を認められ、弟子に……は、いいとしても、修行の旅だと?」

 ゼンは、コクリと頷く。

 ゴウセルの心境は、かなり複雑だ。

 自分が養子に、と望む、息子同然の少年に、今日は色々あって負けたが、『三強』の最強と言っていい剣士、『流水』のラザンが、弟子にと誘いをかけたのだ。

 他の冒険者の誰一人として、そんな名誉な話を、持ち掛けられた者などいない。皆無だ。

 それ程の評価を受けた事、それ自体は、ゴウセルとしても嬉しい事だ。

 だが、それが一緒に修行の旅に出る、というのは、完全に余計な話だった。

「で、さっき一緒に行く、と言った、って事は、もうお前は決心して、ラザンにも返事をしたんだな?」

 またゼンは、コクリと頷く。

 ゴウセルは、それはそれは大きな大きな溜息をついた。

「冒険者志望の一剣士としては、最高に名誉な、いい話だと思うが……。

 一つ、聞こう。お前は、フェルズからいなくなるのが、嫌じゃないのか?

 俺や、旅団の連中から離れたいのか?」

「……そんな事は、全然ない。ずっと一緒にいられたら、と思ってる……」

「なら、何故?」

「……オレが、弱いから。今は、足手纏いでしか、ないから……

 もしも、”何か”かあっても、オレはきっと、役に立たない!だから、強くなりたいんだ!」

 ゼンの自己評価が、やたら低いのには気が付いていたが、これ程思い詰めていたとは、不覚にも気が付いてやれていなかった。

 旅団の4人からはむしろ、何度もゼンに助けられたと聞いている。

 旅団の評価と、ゼン自身の評価が、激しく乖離しているのも気になるところだが。

 足手纏い等でなく、多分連中には、必要不可欠な存在になりつつあるとさえ思えるのに。

 それだけ、西風旅団の4人はまだ若く、冒険者としての未熟さや隙の多さを、ゼンが補って埋めている様に、ゴウセルは考えていた。

 だがゼン単独では弱い、という話も分かるが、彼はまだ若干十歳でしかない、親に甘え、兄弟に甘え、保護されていてもいい年齢なのだ。

 それなのに……!

「……西風旅団の連中は、どうするんだ?」

「これから……話に、行こう、かと……」

 ゼンの憂鬱な様子からも、彼が、好きで西風旅団から、抜けたい訳ではない事が分かる。

 つまり、もっと同等に、一緒に戦えるぐらい、強くなりたいのだろう。

 しかも早く、恐ろしく早く、無理をしてでも駆け足で、途中で躓(つまず)こうとも、ゼンはそれを望んでいる。

 彼を説得する事が、出来るだろうか?

「……ライナー、事務所に人はいるか?『三強』の話でもある。

 ギルドマスターを呼んで、後、西風旅団の連中が、泊っている宿にも人をやって、ここに呼んで来てほしい」

「……はい。ギルド本部では、人目にどうしてもつきますし、ここの方が確かにいいですね。会議室の方で?」

「そうだ。前と、少し似ているな……」

 話の内容は、激しく違うが。

「下に人がいなければ、私自身が行ってきます。

 二か所とも、そう距離がある訳でもありませんから」

「すまんな。あ、それと、このメモをレフライアに。頼む……」

 ゴウセルからメモを受け取ると、ライナーは速足で、執務室から出ていった。

「ゼン、俺達も、場所を移そう。前の会議室だ」

「うん……」

 頷くゼンの暗い様子は、変わらない。

 こんな年端も行かぬ少年が、どうしてそう辛(つら)い道を選ぶのか、ゴウセルの理解を超えた献身に、自分も何に対し、どう行動すればいいのか、迷ってしまう。



 ※



「……これで揃ったな」

 西風旅団の4人を連れてライナーが、商会の会議室に戻って来た。

 すでにレフライアは来て、ゼンの右隣りに座っている。

 何故か、不機嫌そうなファナがいるのは、レフライアが同行を拒めなかったかららしい。

 闘技会の決勝を、明日に控えたギルドマスターが、暇な訳がなく、それを急に呼び出されたのだから、無理もない。

 しかし、レフライアが不機嫌になるなら分かるが、それを代弁する様に、秘書官のファナの方が、不機嫌でピリピリしているのには困ったものだ。

 だがこれは、『三強』の一人の去就に関わる事だ。

 知っていて話さないのは、むしろそちらの方が問題だ。

 会議室の長方形のテーブルの奥側に、ゼンを中心に、左のゴウセルとライナー、右側にレフライアとファナが座っている。

 今来た西風旅団の4人は、手前側に、右端からラルクス、リュウエン、アリシア、サリサリサが並んで座った。

 レフライア達を除けば、既視感(きしかん)を覚える光景だ。

「……お茶を入れてきます。場所を教えて下さい」

 急に、ファナが立ち上がって言う。

 不満タラタラな顔を除けば、嬉しい配慮だ。

 ライナーが立ち上がり、一緒に給湯室へ案内して行く。

 全員に茶がいき渡った所で、ゴウセルは今回の事を説明しようと、口を開くが、上手く説明出来ずに困る。

 事態は、色々な意味で複雑だ。

 旅団の4人は、今回何故呼ばれたか、まるで分からず、ゼンの事で大事な話だ、と聞いてはいたが、それ以上の説明はなかったので、無意味に緊張だけしていた。

「……会長、私が要点をまとめて、説明しましょう」

 ライナーが横から気を効かせて、説明役を買って出てくれた。

「すまんな。そうだレフライア、あれ・・持って来てくれたか?」

「ええ。ここに置いて、早速発動させるわね」

 レフライアが、収納具から出したのは、香炉の様な小さな置物だった。

 ギルマスが、その上に手をかざし、気を込めると、中央の石が鈍く青色に光った。

「これで、この部屋の会話は、どこにも洩れない。物理的にも魔術的にも、盗聴は出来ないわ」

 ゴウセルがメモを渡したのは、この盗聴防止魔具の事だった。

 前回、隣りのトイレに音が筒抜けだったので、用心の為に頼んだのだ。

「……それでは、今日、皆さんをお呼びしたのは、ここにいるゼンと『三強』の一人、『流水』のラザンについての話です。

 『三強』の、これからの行く末に関わる問題なので、ギルドマスターもお呼びしました」

 ライナーが立ち上がって、男性にしてはよく通る高い声で、説明を始めた。

 旅団のメンバーは、ゼンの話は分かるのだが、そこに同列の様に、今日試合を見たばかりの、ラザンの名前が出てくるのが分からない。

 説明を、待つしかないだろう。

「まず、今日、午後の準決勝が終わった後に、ゼンはとある場所で、素振りの稽古……ラザンの動きを真似た事をしていた時に、どういう偶然なのかは分かりませんが、『流水』のラザンがそこに現れ、自分の……『流水』の動きを再現しようとしているゼンに、興味を覚えたらしく、自分が稽古をつけてやる、と申し出たそうです」

 ライナーの丁寧な説明は、ゼン本人がするよりも、余程分りやすかった。

「そこでゼンは、ラザン本人を相手に、受け流しの稽古をし、最後には、ラザンの意表をつく奇襲が出来たようです。

 ラザンは、反射的にゼンを吹き飛ばしてしまい、ゼンは気絶した。

 その後、彼はゼンの治療をして、目が覚めたゼンに、自分は明日、世界中を周る、修行の旅に出るつもりだが、その旅に、ゼンも自分の弟子として同行しないか、と誘って来たそうです。

 それと、ゼンを連れて行く場合、ゼンを自分の従者として、身分証をだしてもらう、とかなり具体的な話を出していますので、彼は本気の様ですね。」

「「「「!」」」」

 旅団全員が、それに激しく反応した。

 ライナーは、それに手で抑えるような素振りをみせ、説明を続けた。

「ラザンが、明日の早朝に出発するのは、もう決定事項の様です。

 何でも、早く出発しないと、大きな障害が現れる、とかなんとか」

 レフライアとゴウセルは、それが何か分かって、頷く素振りを見せる。

 彼を、強敵(ライバル)と言うよりも、尊敬出来る兄貴分の様に慕(した)っている、忠犬めいた性質を持つ、ある騎士の事を考えて。

「それで、ゼンはもう、彼と同行する事を決心し、ラザンにも返答した、とこれが現状です」

 ライナーは説明を終えると、静かに着席した。彼の役目は終わりだ。

「え……待って待って!それってゼン君、フェルズを出て、その『三強』の人と、旅に出ちゃうって事?!」

 アリシアの動揺と反発的な反応が早い。

 立ち上がって、テーブルに身を乗り出して、ゼンに詰め寄っている。

「駄目!そんなの駄目、絶対に駄目だよ!!」

「シア、反対なのは分かるけど、落ち着いて。

 そんな頭ごなしに言ったら、何も話せないわよ……」

「でもでもだって、サリーはいいの?ゼン君、まだ小さいのに、こんなに幼いのに、修行で世界を周るなんて、絶対馬鹿げてる!」

 全然語尾が伸びてない。

 アリシアは、本気の本気で反対してるのだ。

「いや、私もまるで賛成じゃないけど、女の子と男の子だと、色々違うのよ……」

 サリサリサは、アリシアをなだめつつ、昔から自分はこういう役目だなぁ、つい最近もあった気がするのに、としみじみ思っていた。

「リュウ君もラルクも、まさかそんなのに賛成したりするの!」

 怒りの矛先が、男性陣にも飛び火した。

「……パーティー・リーダとしては、反対なんだが。

 ゼンがいなくなるのは、単に戦力が下がる意味以上に、大きなものがあると思うからな。

 だが、難しい事を簡単に聞かないでくれ。

 剣士で、男なら、『三強』の弟子なんて話は、飛びついてもなりたい物なんだ。

 俺と『流水』だと、戦闘スタイルが違い過ぎて、なるのに躊躇(ためら)うが。そもそもそんな話来ないから、仮定でも大それた話だ……」

 『三強』の中で、強いてリュウエンと近いタイプ挙げるなら、悲しいかな『豪岩(グレート・ロック)』のビィシャグが、一番近いのだ。

「今はそんな事どうでもいいの!(←恐ろしくひどい)

 『三強』が強いとか、名誉とかじゃなくて、ゼン君が、あの鬼みたいに強いのに、ヘラヘラしてて、いかにもだらしなさそうなオジサンに、イジメられながら、世界中を旅するなんて、世界三大残酷物語に、載せてもいいぐらいな悲劇を、阻止できるかどうかの瀬戸際なの!

 もっと真面目に考えて!!(←更にひどい)」

 アリシアは、元々頭に血が昇ると、冷静さを失い暴走しがちな傾向があったが、これはその欠点が、悪い方向へ極端に走ってしまった一例なのだろう。

「ま、真面目って……」

 初めてアリシアに、そんな事を言われて涙目になるリュウエン。

「アリシア、リュウは真面目に考えて答えているよ。

 リーダーとしての苦しい立場も、分かってやれよ。

 俺も賛成はしたくないが、積極的に反対するのも、躊躇(ためら)うものがあるんだよなぁ……

 それと、『流水』のラザンに対して、妙にひねくれた印象があるみたいで気になるんだが。

 まあ見た目は確かに、そんな感じもするが、なんで世界三大残酷物語級にいじめられて旅するのが、アリシアの中で確定済なのか、気になるぞ……」

 ラルクスは男だから、ではないが、リュウエンの肩を持つ。

 これでは、余りにもリュウエンがあわれだ。

「……ゴウセル、当事者であるラザンは、呼べないの?」

 レフライアは、旅団仲間の痴話喧嘩と思えなくもない、光景をよそに、ゼンをはさんでゴウセルに尋ねた。

「あいつに、定宿はない。決まったねぐらを持たないのが信条、とか言ってるのは、お前もよく知っているだろう?

 それに、今はうるさい奴・・・・・に、捕まりたくないだろうから、余計に居場所が分からん様にしてると思うぞ。

 後、ここにあいつがいても、多分何の役にも立たない。

 逆に、アリシアの怒りの火に、油を注ぎかねないんじゃないかな……」

 サリサリサが、懸命にアリシアをなだめているのを見て、ゴウセル自身も色々とこの事に文句、不平不満はあるのだが、自分以上に冷静さを欠いている者を見ると、多少は自分の怒りも、やわらがない事もない事もない。どっちだ?

「ゼンは……?

 なんで今、お前の事で修羅ばっている光景を見て、ニコニコ笑ってるんだ、ゼン?」

 ゴウセルは、思わずゼンの正気を疑ってしまった。

 それぐらい、ゼンが上機嫌に、笑っている様に見えたからだ。

「あ。うん。ごめん、その……

 オレ、もしかしたら、誰にも引き留められないで、みんなに笑顔で送り出されたら、むしろ寂しいだろうなぁ、って思ってたから……

 止める人がいて、嬉しいって言っちゃうと、不謹慎?、なのかも、しれないけど……」

 ゼンの、内心の心情を、そのまま素直に出した言葉に、アリシアは更に熱暴走(ヒートアップ)してしまう。

「やっぱり駄目!うちの、こんな健気ないい子を、あんな極悪非道で卑劣で惨忍で、非情で血も涙もない、悪の権化みたいな究極悪役なオジサンにはあげられません!」

「シアは、ゼンの父親じゃないんだから……。

 娘を嫁に出す、父親状態みたいになってまあ、滑る様に、よく知りもしない人の悪口を、そう次から次へとまくし立てられるわね……。

 逆に、感心しちゃうわよ……」

 サリサリサは、こんな場合なのに、思わず苦笑してしまう。

「でも本当に、『三強』の中で、あの人だけが、凄く怖い人だ、って思えるんだもの……。

 みんな、闘技会の試合の事で盛り上がってたから、口にはしなかったけど……」

 一瞬で、皆が黙り込んだ。

 戦闘職なら見抜けるかもしれない、ラザンの本質に、ただ勘だけでそれを言い当ててしまう、アリシアの鋭さは、怖い位であった。

 そこで、ゴウセルから、ゼンが今回ラザンと修行に出る事を合意した理由、自分の足手纏いにしかならない弱さを、どうにかした一心で、強くなりたくて承諾したが、それは決してフェルズや、自分達から離れたい訳ではない、逆に守れる様な力が欲しいからだ、と補足が入って、アリシアが、またまた更に感激したのはさておき。

「……じゃあゼンは、その……自分が納得出来る様な強さになれたら、俺達の所に……フェルズに戻って来る、と」

 ゼンは、尋ねて来たリュウエンに、コクリと頷く。

「それが、”最速で強くなれる道”か。まるで、殺し文句だな」

 ラルクスは、少し呆れた様な顔をしている。

 ゼンを、大人の知恵で誑(たら)し込んだような印象を、覚えたからだ。

 アリシア程ではないが、ラザンに嫌悪感が湧いた。

 リュウエンは、自分の中で渦巻く様々な思いには、とりあえず蓋をしてゼンに言う。

「ゼン、これだけはちゃんと聞いて欲しい。

 俺達は、誰一人として、お前を足手纏いだと思った事は、最初に迷宮(ダンジョン)に潜った時から、一度たりとしてない、て事を」

 それを聞いて、ゼンは神妙そうに頷いた。

「でもお前が、自分の弱さが許せない、なんて思いこんでしまう気持ちも、分からなくはないんだ。

 それだけ、魔物と戦う冒険者は、過酷な稼業だ。いつ、誰に何があるかも、分からないからな……」

 ゼンはそれを聞いて、またあの悪夢の光景を思い出しそうになる。

 あの夢の事だけは、誰にも話していない。何故か、話したら絶対に駄目だと思えたからだ。

「だから、出来るだけ早く、帰って来て欲しい。俺から言えるのは、それだけだ」

 それは、ゼンの旅立ちを認める言葉だ。

「でも、リュウ君……」

「アリア、俺達だってみんな、3年前に同じ様な状況だっただろ。

 十二歳の時に、アリアは王都の教会に神術の修行に、ラルクは違う街の冒険者養成所に、サリサは王都の魔術学校に、それぞれ旅立って行った。

 俺だけは、村に残って剣術私塾で修行を続けていたが、それぞれがバラバラになって2年間過ごしたんだ。(アリシアとサリサリサは、同じ王都だが違う場所なのは確かだ)

 ゼンにも、そういう日が来たんだと、思うしかないだろ」

 元々、違う街の冒険者養成所に行かせる、という話があったのだ。

 結局その話が、形を変えて戻って来たような物だ。

 色々納得しがたい事もあるが、ゼン本人の決意が固いのでは、もう自分達にはどうしようもない。

 ゴウセルも思いとどまる様に話をしていたが、彼の決意は揺るがなかった。

「アリシア、ごめん。オレ、なるべく早く帰って来れる様に、頑張るから……」

 アリシアの傍まで来たゼンは、改めてアリシアに頭を下げる。

 ゼンの修行の旅に、一番反対し、涙したのはアリシアだからだ。

(ゴウセルは男として、大人としてアリシアの様に、なりふり構わず反対出来なかった)

「うわーんっ!やっぱり反対だよう、あの怖い人に、ゼン君が壊されないか、私心配でたまらないよ~~!」

 アリシアは、ゼンを抱きしめてまた、さめざめと泣く。

 ゼンは、ただ困った様に、自分より背の高いお姉さんを慰めるのだった……。


 ※


「……シアとゼン、仮眠室に寝かしつけて来ました。

 あの子ってば、ゼンに抱き着いたまま離さなくて、泣きつかれて眠ってしまって……」

 まるで大きな子供だ。

 でも、サリサリサは、ああいう所も、自分は真似出来ない、アリシアの美点だと思う。

「後で私も、アリシアの横に寝かせてもらいますね」

「俺達は、ここの応接室のソファを借りる。毛布があれば、何処だって寝れるのが冒険者ってものだからな」

 結局4人は、宿に戻らず商会で夜を明かす事にした。

 明日朝早くにゼンを見送るのに、宿に戻る気分にはなれない様だ。



「じゃあ、私達はギルドに戻るけど、ゴウセル大丈夫?

 あなたも、凄くつらそうだけど……」

 レフライアは、思わずゴウセルの頬を撫でて言った。

「ああ、つらいはつらいんだが、大人が弱音を吐くのは、どうにも、な……。

 それはそれとして、明日の闘技会決勝って、結局どうなるんだ?」

「一応、試合はする様に、あの二人には言い含めてあるわ。

 優勝とかは、どちらも辞退しそうだけど……。

 多分、後で自分達だけで再試合をしよう、とでも思っているんだわ」

 相手は、その時いないとも知らずに、とギルマスは呟く。

「色々面倒な事にならない様に、明日の朝の事は手配するつもり。

 ゼン君の身分証もあるし。ラザンの言葉通りなら、申請書が来てると思うから」

「ギルマスは、本当に多忙だな」

「お勧め出来ない役職ね」

 少し二人で笑い合って、ゴウセルは心持ち気分が楽になった。

 レフライアは、ファナと二人で例のマントをつけて、ギルドに戻って行った。

「俺達も、家に戻るか。

 寝たい気分じゃないが、酒飲んで、それで寝過ごしたら、目も当てられないからな……」

 ライナーは頷き、帰宅の準備をする。

 今回の闘技会は、なんでこんなに波乱ずくめだったのだろうか。

 そして、ゼンと出会ってから数カ月の、楽しくもあり、辛くもあった日々を思うゴウセルだった……。


*******
オマケ

ア「ゼン君どうして行っちゃうの、ラザンのバカ間抜けあんぽんたん……」Zzzzz
ゼ「……」(抱き枕状態で固まっている)
サ「随分ハッキリした寝言ね。器用だわ……。
 私も、あんたがもういる状況が、当り前になってたから、色々困るわ。出来るだけ早く、帰ってきなさい…」
 
ゼ「……うん」

リ「正直、寂しくなるな……」
ラ「まったく。『流水』様も、余計な事してくれるなぁ……」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

ポンコツと蔑まれた冒険者は最強クランをつくる

ぽとりひょん
ファンタジー
エアハルトは、幼なじみのエルメンヒルトを追ってダンジョンの町「ゴルドベルク」で冒険者になろうとする。しかし、彼のアビリティを見た人たちは冒険者を諦め村へ帰るように説得する。彼には魔力がなかった。魔力がなければ深層で魔物と戦うことが出来ないのだ。エアハルトは諦めきれずエルメンヒルトと肩を並べて冒険するため、冒険者となってポンコツと蔑まれながら、ソロでダンジョンに挑み始める。

無能はいらないと追放された俺、配信始めました。神の使徒に覚醒し最強になったのでダンジョン配信で超人気配信者に!王女様も信者になってるようです

やのもと しん
ファンタジー
「カイリ、今日からもう来なくていいから」  ある日突然パーティーから追放された俺――カイリは途方に暮れていた。日本から異世界に転移させられて一年。追放された回数はもう五回になる。  あてもなく歩いていると、追放してきたパーティーのメンバーだった女の子、アリシアが付いて行きたいと申し出てきた。  元々パーティーに不満を持っていたアリシアと共に宿に泊まるも、積極的に誘惑してきて……  更に宿から出ると姿を隠した少女と出会い、その子も一緒に行動することに。元王女様で今は国に追われる身になった、ナナを助けようとカイリ達は追手から逃げる。  追いつめられたところでカイリの中にある「神の使徒」の力が覚醒――無能力から世界最強に! 「――わたし、あなたに運命を感じました!」  ナナが再び王女の座に返り咲くため、カイリは冒険者として名を上げる。「厄災」と呼ばれる魔物も、王国の兵士も、カイリを追放したパーティーも全員相手になりません ※他サイトでも投稿しています

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

処理中です...