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第3章 従魔研編
090.獣王国からの来訪者2
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小城の内装、改装工事は順調に進んでいる。
ゼンは、今まで業者に行くときに、セインに幻術を使ってもらい、ある冒険者の代行人である、として品のいい老紳士に姿を見せていた。リャンカに変わりに行ってもらっていた時にも、だ。
希望物件を探してまわってもらっていた時もそうだった。
ゼンは有名人だが実質、子供で、リャンカ達もそれはほぼ変わりない。
大人に舐められぬように、騙されぬ為の、最低限の自衛行動だ。別に詐欺でもなんでもない。
契約の時は、ゼン本人がそのままの姿で業者と契約をした。
彼等はそこで初めて、自分達の客が、『流水の弟子』である事を知った。彼がゴウセルの養子になっている事も、もう周知された情報だ。
だから、ゴウセルに出してもらった、大体の見積もりは、ほぼ妥当な物であり、文句のつけようがないのだが、彼等としてはそこで、家賃を安くした分や、今まで利益が出せなかった損失補填分を少しでも稼ぎたかったのが、ゼンの予想した通りの裏事情だった。
そこで、無理なようなら、こちらの(ゴウセル紹介の)業者で工事を済ませてもいいが、と匂わせると、それは困る、と慌てふためく。
結局のところ、ゼンの方が妥協した。こちらはあくまで借りる側だ。向こうの事情も多少は考慮しなければいけない。
工事費の上乗せと、二人の労働力を貸し出す。
最初は、たった二人の労働力が何になるのか、と困惑顔の業者も、その二人のスキルを聞いて、色めきだった。
その一人、ボンガの、鉱石類、金属類の分解、再構成。つまり、建物の壁や床など、ほぼ何でも壊せるし、直せもする。建築工事でこれ程重宝するスキルはそうないだろう。
もう一人、ゾートのスキルは、とりあえず、なんでも剣で『斬れる』とした。実際は、剣狼のスキルは、もっと攻撃的なものばかりなのだが、今回の工事に大規模破壊的なスキルなど必要ない。
なので、建築素材を、なんでも自由に『斬れる』事にしたのだ。これは、ゾートの腕と、その角である大剣の切れ味によるものだが、工事業者はそんな事を気にしたりしない。便利な力がある、その事実だけで事足りる話だ。
おまけに、二人とも、上級冒険者並の身体強化が出来て、見かけ以上の怪力無双だ。軽く十人分以上の働きになる。
そうして、小城の工事は開始された。中途で終っていた内装工事。風呂を二つに分ける改装工事。地下の奴隷部屋の改装工事。
後、荒れた庭の整備もしてもらう。広い中庭の用途をどうするか、花壇にする、畑を作る、等の案もあったが、単純に冒険者に必要な、訓練場所にする事にした。花壇は前の庭にでも作れる。
ギルドの貸し出す訓練場は、大した費用もかからないのだが、せっかくすぐ近くに広い空間があるのだ。外に攻撃の余波が漏れないように魔具等で防御結界を用意すれば、広い場所で多人数の連携訓練が出来る。(全てが上手く行った、その後で)
だからとりあえず、雑草を取り除き、土地をならすだけに留めてもらう。
また、コの字の小城とは別の、中庭を挟んで向かいにある別棟の小さな建物。警護の騎士団をいれる為のものだったというそこは、城よりも優先度が低かったのだろう。
かなり中途半端な造りで投げ出されていたが、その大部屋が1階に2つで2階建ての、随分大雑把な造りだったが、ゼンはそれを、城の部屋と同じ位の広さの部屋を1階に4つの、2階を入れて計8部屋となる様に建物を改装し、造り直してもらった。
これは、なんらかの理由で城の方に住みたがらないかもしれない者用の、予備住居のようなものだ。最悪使用しないかもしれないが、用意して悪い事もないだろう。
冒険者の中には所帯持ちで家族全員で越して来る者もいるかもしれない。部屋数や広さ的に充分余裕があると思えるが、何がどう転ぶかはまだ分からない。
もっと最悪の、クランメンバーとなるパーティーがまるで集まらず、西風旅団のみが、広い小城の一角で寂しく暮らす、そうなる事だって充分あり得るのだ。
集まるまで勧誘、募集は続けるつもりだが、最初につまづくと、多少手間取る事になるかもしれない。
※
そして1週間が過ぎた。
工事は順調だ。工期は2週間予定なので、半分は出来た計算となる。地下の部屋には、天上近くの外側に面した壁に、小さなガラス窓をつけてもらった。外の光を入れるのと、空気の入れ替えの為だ。奴隷部屋ならそんな気の利いた物をつけないが、もう奴隷部屋ではないのだから。
それと、中からの階段とは別に、外の前庭に直接出れる階段も増設してもらった。
穴を掘るのも階段設置も自在のボンガがいるので、大した手間はかかっていない。非常用、というか、地下からの出口が一つ、というのは不安になるので、前庭に出る階段を増やしてもらったのだ。
従魔研の方も順調だ。
被験者の4体の従魔は、すくすくと育っている。それにつれ、従魔との絆は強くなり、被験者である冒険者達のだらしない親馬鹿度が上がり、それを研究者達に指摘されても、まるで平気なようで、それを見ると、従魔の虐待、というのは起こり得ないのでは、と思えるぐらいだ。
そろそろ、従魔が育ってからの注意点、気構え、等を教える頃合いかな、とゼンは考える。
その1週間の間に、西風旅団もただ遊んでいた訳ではない。訓練所での自主鍛錬。
そして、適当な強さの魔物を狩る野外討伐任務。
これには、ゼンが、ガエイ、ボンガ、ゾートを順番に貸し出して、チームとの相性や連携等を試してもらった。
当然、その1日は、ゾート、ボンガは小城の工事を休まなければならないが、どちらかの作業が少ない日などを見計らって休みを取り、野外任務に行ってもらった。
正直、自分も行きたいが、今は半日以上、従魔研に拘束されているし、そろそろクランに入ってもらいたいパーティーの選抜をして、候補を多数考えておかなければいけない。
旅団が出かける時、サリサが何か話したそうにしていたが、今は無理だ。忙しい……を理由に、二人で話すのは避けていた……。
―――勧誘で断られた時の事も考え、1次候補、2次候補、と複数のパーティーの情報を調べ、勧誘出来そうなパーティー、無理そうな所、ギルドから、本来は秘密の情報を、今回は特別、という事で、ギルマスの許可有の、C級パーティーの情報閲覧だ。
最初に勧誘する6組はもう決まっている。
いや、もう決められていた、と言ってしまうべき事なのだろう。あの闘技会の時に。
調べてみて分かった。あの時、サリサを補佐している術士6人が、今現在所属する、それぞれの“C級”パーティー。これは偶然なのか必然なのか。
これはもしかして、あのいけ好かない精霊王が、人の運命に関与しているのだろうか?
だが、そうした事は、天上の神々でも禁じられている筈だ。
なら、それを参考に候補のパーティーを選んでいる自分の行為は、ただの偶然なのだろうか……。
考えても仕方ない。これらを勧誘しても、断られる可能性だって充分ある。
1つだけ、すでに顔見知りのパーティーがいたので、少し事情を説明して、本来の予定日より先に勧誘した。悪くない返答だったので、全パーティーを集めての勧誘の時には、こちらの力になってくれるだろう。
そうして、それぞれが各々の仕事や役割を果たし、時間は過ぎていく。
従魔研では、ハルアが相変わらず、ゼンにベタベタまとわりついていたが、今は余り気にならなくなった。
彼女は彼女なりの真剣さでゼンに想いを伝えようとしている。そうした事が、今は分かる。どういう切っ掛けで、そんなに強く想ってもらえる様になったのかは謎だが、それは最後に日に話してもらえるだろう。
ハルアを邪魔するザラの行動も、今は焼餅からなのだと分かる。
色々封じていたから分からなかった事が、今は分かるようになった。思えば、確かに旅先で出会った少女達には、レフライアの言った通りに、悪い事をしてしまったのかもしれない。
ハルアのように、こちらの事情とかお構いなくグイグイ、どんどんと迫る、無遠慮な子も結構いたので、それの事は、別に悪い事をしたとは思わない。あれらは断るしかない、特殊な事例だ。
「ゼン、何か感じが変わった?雰囲気が柔らかくなったような?」
「そう、かな?前とおなじだと思うけど」
「いんや、変わったと、ボクは思うね」
二人は結構鋭い。内面の変化なのに、気づかれるものなのか。
「まあ、ちょっと色々あって、ね……」
言葉を濁すしかない。精霊王(ユグドラシス)に、心の封印をどうにかされた、とか、どう説明すればいいか分からないし、その説明はしたくない。
心の封印をする事で、ゼンは今まで恋愛に関する感覚が、麻痺していた?いや、完全に働かなくなっていた様だ。心の封印に、こんな副作用が起こるとは、知らなかった。未熟な当時の自分が懸命にやった事だし、未熟さゆえの下手な封印だったのかもしれない。
だが、今は色々分かり過ぎて困るぐらいだ。
ザラの想い。サリサが対等に向かい合って考えろと言った意味が、今は分かる。でも、これを受け入れる訳には……。でもザラは、とてもとても大事な人だ。傷つけたくない、悲しませたくないのに……。
「なに、ゼン?私の顔に、なにかついてるかしら?」
「あー、いや、何もついてない、ごめん。ちょっとボーとしてたみたいだ」
ゼンはぎこちなく笑う。解決法などない。
やはり、人間関係の恋愛事は厄介事でしかない。自分は、余程そこらで魔獣でも狩っていた方が気楽でいい。旅の事を、懐かしく、戻りたいと思う時が来るなんて……。
その時、従魔研を出て、ギルマスに報告に行っていたニルヴァーシュが帰って来て、ゼンを手でこいこい、と呼んでいる。
「なんでしょうか、主任」
「……今、レフライアの所に行っていたのだけれど、途中、サリスタから飛竜が来て、獣王国から、お客さんが来たの。貴方を呼んでいるわ」
「俺を?一体誰なんですか?」
「驚かしたいから、名を伏せて、と言われているの。ギルマスの執務室に行ってもらえるかしら?」
「何だか、激しく嫌な予感しかしないんですが、行くしか選択肢はないみたいですね」
「まあ、そうね。正式なお客様だし……」
ニルヴァが苦笑いしている所からして、余りいい感じがしない。
「それでは、席を外します。ザラはここにいて。俺個人の客みたいだから」
「ええ、そうね。気を付けて……」
ザラが不安そうにしているのは、ゼンが嫌そうな顔をしていたからか。
「別に危険がある訳じゃないよ。単なるお客さんなんだから」
ゼンは笑って、ザラの肩をポンポンと柔らかく叩く。
そうして、従魔研の部屋から出て行った。階段を下りると、普通の研究棟1階だ。
獣王国からの客と聞いて、もう誰かは見当がついていた。兄は呼ばなくて良かったのだろうか?
ゼンは足早に、ギルドの裏口から入り、本部内の階段へ向かう。
途中でも話は通っているのだろう。見張りらしき職員からも頭を下げられて、先に進む事が出来た。
5階まで階段を上がる。その階の一番奥が執務室だ。
ノックをし、返事があったので、執務室に入る。
途端に飛びついて来る人影を、ゼンは避けたかったが、避ければドアにぶち当たる。
仕方なく受け止める小柄だが、自分より少しだけ背の高い少女。
「お久しぶりです、師匠!」
「師匠と呼ぶなと言ってるのに、君ら兄妹は、師匠の言う事を無視するんだよね……」
受け止めてもらえたので、思う存分抱き着く獣人族の少女は、レグナード将軍の娘、王都でしばらくゼンと親交のあったリーラン・レグナードレグナードだった。
「リーラン様、ギルドマスターの前で、余りはしたない事は、お控え下さい」
冷たい声で、ピシリ、と言われ、リーランは渋々、ゼンからその身を離す。
「感動の再会に水を刺すなんて、ひどいわ。ロナッファ」
「それは後の時間に、たっぷり甘えて下さい。今は、お国の使者、という立場のご自覚を」
ロナッファと呼ばれたのは、虎の獣人の女性だった。リーランと同じで、外見は耳のみに獣人要素が出ているが、その“気”の質から、かなり強い戦士だと思えた。
恐らくは、フォルゲンよりも強い。A級だろう。
「では、もういいかしら?」
執務室のデスクから、威厳のある声がする。レフライアはニッコリと、その中に迫力をにじませて笑う。
その場にいた誰もが身をすくめた。
レフライアの右斜め後ろには、いつもの定位置、と言わんばかりにファナがいる。
「獣王陛下よりの書状、確かに受け取りました。レグナード将軍個人からの手紙も」
そう言って、ゼンに視線を向ける。
「陛下は、剣狼の時の事で、重ねて貴方に礼をと。そして、出来れば自分の元で、貴方だけでも、部下として、責任ある立場につけたいと、書かれているけれど……」
「一度お断りしたお話です。自分は冒険者をやめるつもりも、何処かの国に仕えるつもりもありませんので、すみませんが……」
「はい、そう言うのは分かっていたわ。私からお断りの意志は伝えます。
後、レグナード将軍の手紙は、貴方個人への謝罪と、しばらく娘とその補佐を、兄の監督役としてつけるので、好きに使って欲しい、そう書かれていたわ」
「それは……今は無理では?フォルゲンは、ギルドの機密扱いの実験途中です。後2週間?いえ、半月ぐらいですかね。終わるのは」
「そうなのよね。どうしようかしら?」
レフライアもそこで戸惑う。
従魔の育成途中の研究棟にはいれられない。従魔が成長し終えてからなら、彼は自由だ。ここで冒険者をやろうと、国元に帰ろうと。
従魔、という存在は、獣王国に知られてしまうが、その根幹である“従魔術”の事は、契約魔術でフォルゲンは喋れないし、こちらの許可なく従魔を増やす事も出来ない。
獣王国とローゼン王国は友好関係にあるが、これは冒険者ギルドの問題だ。
初回の実験をした十の国に、獣王国は入っていないが、この試験が問題なく終われば、全てのギルドで従魔は解禁となる。
獣王国の冒険者ギルドでも。その技術は、あくまでも冒険者ギルドが独占しているが、それも半年ぐらいの事だろう。
従魔の事が、充分知れ渡ったその時に、各国の大学、研究機関、技術系ギルド(魔術ギルド除く)などに、それ相応の値段で情報は売買される。
どうせいくら秘密にしようとも、どこかで洩れる事はあるし、汚い手でそれを手にいれようと暗躍する者も出る事だろう。
パラケスの言う通りに、さっさと売るに限る。出来れば、その利益をパラケスが受け取ってくれればいいのだが、そんな感じはしない。
あるいは受け取って、何処かに全額寄付とかしそうだ。魔術ギルド以外に。
……それを考えるのは、まだ先の話だ。今は目の前の使者達だ。
「……フォルゲン様は、大人しくその実験とやらに参加されているのでしょうか?」
ロナッファと呼ばれる女性は、いかにもそれは不思議だ、と目で語っていた。
「最初に、そこの、『流水の弟子』様に、ボコボコにされてからは、すっかり大人しくなったわ。今じゃ、師匠、師匠って、リーランさんと同じ様な感じになっているのよ」
レフライアは笑顔で説明する。
「え!師匠、兄さまと戦って、勝ったのですか?」
「それは、俺が負けると思われてる訳だ」
ゼンは意地悪く言う。
「あ、いえ、その、兄さまは、B級に上がってからは負け知らずで、“立体包囲殺法”だって、凄くて近隣の魔物を、兄さま達のパーティーやクランで一掃していて、私も勝った事ありませんので……」
「“立体包囲殺法”は、対人だと致命的な癖の悪さが出ていたから。多分、獣人族特有なんだろうね。面白い戦い方だとは思ったけど、最後の炎で分身する方が良かったかな?」
「えー!切り札まで出して、負けたんですか!凄い……」
リーランは、兄の強さを妄信しているフシがある。確かに強いは強いのだろうが、“気”ならそこにいるロナッファの方が強いように思えるのだが……。
「……すみません、ゼン殿。ぶしつけな話ですが、良ければ、私と手合わせ願えないでしょうか?」
そのロナッファが、突然かなり真剣に怖い顔をして、そんな事を言い出す。
(だから獣人族は嫌なんだ。すぐにこう来る……)
ゼンは、獣王国に滞在した短い期間を思い出して憂鬱になるのであった。
*******
オマケ
サ「ゼンと話したいのに話せない……」
ア「どしたの?サリー」
サ「シアは、あの時の事、知らないって言ってたわね」
ア「うん、途中から、ユーちゃん、見せてくれなかったんだよね~~」
サ「それは、気遣いなのかしら?でも、私には他に相談する人なんていないし……」
ア「なになにな~に?」
脳天気なアリシアを見ると、やっぱり相談する事に二の足踏んでしまう。
サ「……なんでもないわ」
ア「何でもなくない癖に、ぶ~ぶ~」
サ「ぶーぶー鳴くと豚になるわよ」
ア「そんなの迷信です~~」
サ(ドーラに相談は、出来ない。今回の事では、私も彼女が怖い、と思えてしまったから)
なのにドーラは、その次の日からも、変わらず二人の所に現れて、適当におしゃべりを楽しんでいる。まるで何事も無かったかのように。
ア(こういう時、交友関係の狭い自分の情けなさを痛感してしまう。
私も、従魔を育てて、相談相手になってもらおうかしら?……あ、人種(ひとしゅ)になれるかどうか分からないから、無理かもしれないわ。はぁ……。
自分だけで考えると、自分に都合のいい解釈ばかりになってしまって、誰かに検証して欲しい。シアは、普通に頭はいいのだけれど……)
しばらく一人で悩むサリサでした。
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