剣と恋と乙女の螺旋模様 ~持たざる者の成り上がり~

千里志朗

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最終章EX 星の英雄

165.月面決闘(4)決着?

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 ※


 その手にあったのは、『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』。

(もしかして、俺が昔の、全てを失った悪夢を思い出したからか?)

<ゼン、前から来る!>

 アルティエールの警告は、決して遅くはなかった。間に合っていた。

 それでも、ゼンは動けなかった。

 盾の一撃、シールド・バッシュが、ジークの頭部を殴打する。

 右からの剣の一振りは、どうにか身体を逸らせ、躱したが、その勢いを利用した蹴りに腹部を痛烈に蹴られ、ジークはその場から吹き飛ばされた。

<ゼ、ゼン!大丈夫なのかや?>

<ああ、大丈夫。衝撃はあったけど、障壁は健在。生命力を吸収されてもいない……>

 それでも、眩暈が激しい。頭痛もする。

 激しく咳き込み、気づくと、呼吸補助の器具に、吐血した血がついている。

<じゃが、お主の生命値は、先程よりも落ちておるのじゃぞ!>

<分かってる。この、『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』のせいなんだ>

 アルティエールは、ゼンの記憶から、それが何かを知る。ゼンが弱体化している意味も。

 ジークの動きが鈍り、ここがチャンスとヴォイドが考えたかどうかは解らないが、その攻撃は更に苛烈さを増した。

 ジークの防御障壁を破れない苛立ちもあったのかもしれない。

 もはや盾を防御に使おうともしない。

 鈍器の様に振り回して振るい、右に左に殴打を繰り返す。

<うぎゃ!>

<クッ……>

 その合間合間に剣での斬撃や、鋭い突きも来るが、それはゼンがギリギリ紙一重の線で躱していた。

 だが、その剣にこだわった回避の為に、盾の殴打や蹴りを避け切れず、ジークの操縦席コクピットはその物理攻撃で、激しい嵐の中で海に浮かぶ小舟のように、縦横無尽の物凄い揺れと、緩衝結界では吸収し切れない衝撃に、激しく翻弄されていた。

 ゼンは、偽機神(フェイク・マキナ)の生命力吸収と、膨大な力を宿す機神(デウス・マキナ)の操縦による負荷に、更に生命を削って取り出した物と思われる、『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』を具現化している。

 その3つの負担は、尋常なものではなく、ジークの回避行動を、止まっているも同然なところまで引き下げ、サンドバックの様に、いいように殴る蹴るの応酬に晒されるのだった。


 ※


「―――でも師匠。元々ある、命の剣を取り出す、というのは『流水』の剣術……技術に入るんですか?これって、人に必ずあるものなら、その時になって、誰にでも、剣術の流派とか関係なく、普通の人だって具現化出来るものなんじゃないですか?」

 ゼンは、少し考え不思議になって、師匠に尋ねた。

「ゼン、お前はじゃあ、そんな剣の話を聞いた事があるか?別に、何もかも失った、と思うぐらいの悲劇は、俺だけが味わった物じゃないんだろうぜ。

 この世の中にありふれた、ごく平凡な“絶望”ってやつだ。

 そんな時に、こんな何でも斬れる物騒な、見えない凶器を得て、人が暴れ回ったりした、なんて事があれば普通に人間は、この世界は、 “剣(つるぎ)”の存在を知り、それの出し方や、理屈、技術なんかを確立していても、おかしくねぇー筈だぜ」

「……それは、そうですよね」

 どんな人間でも、瀬戸際まで追い込まれ、死に際の抵抗として、そんな便利な物があれば、使わない者などいはしないであろう。

「力の流れを知り、それを操作する事が出来る『流水』。その使い手だから、取り出せるんだよ。それに、これは、命の前借りをするようなものだ」

「命の……前借り?」

「つまり、寿命を消費する剣って事だ。簡単に言っちまうとな。お前には見えてなかっただろうが、俺が出したのは、小剣のような、極小さな一振りだ。それでも、1、2年は寿命が縮むだろうな」

「……え?えぇっーー!!!」

「あ、いや、言い方が悪かったか。前借りだって言っただろ?あの後、“剣(つるぎ)”は消えて、俺の中に戻った。それでも、大木を斬った力の分、寿命が確実に縮んだだろうが、せいぜい半月弱ってところだろう。多分な」

「……でも、縮む事に変わりはないじゃないですか。別に、口で教えてくれるだけで、良かったんじゃないですか?」

「馬鹿野郎。実践出来るものを、やらないでどーする。俺の老い先短い寿命なんざ、どーでもいいんだよ」

 確かに、『流水』の技術は感覚的なものが多く、実技を見てそれを、自らの感覚に落とし込んで覚える、いわゆる、見てやって覚える流派だ。口であーだこーだ言われても、まるで解らないし、実感出来ない。(ラザンが口下手なせいもあったが)

 ゼン自身、師匠の真似をして、何千回、何万回と剣を振り、いつの間にやら覚えられた技ばかりなのだ。

 それでも、偉大な師匠が、自分の為に寿命を削ってまで見せてくれた、と分かると、ありがたいやら申し訳ないやらで、涙がにじんで胸が熱くなる。

「……どうでもいい訳、ないじゃないですか。大陸の英雄の寿命だったら、その1分、1秒には、計り知れない価値が……」

 ゼンが、常識的な話で諭しても、師匠(ラザン)はまるで相手にしない。

「かーっ!お前まで、そう無意味に恥ずかしい事を、口になんてするな。俺はただ、自分が強くなりたいから、魔獣どもを狩っている。ただそれだけだ。他なんざ、知るかよ」

 それは、確かにそうだ。

 ラザンは基本、自分本位で、決して人助けの為に何かをしようとはしない。

 それでも、その事で、多くの人々が助かり、感謝しているのもまた事実なのだ。

 実際、ラザンとゼンが魔物、魔獣を食い散らかした(と表現するに相応しい)後、その地に住まう、冒険者など雇う事すら出来ない貧しき者達が、せめてもの感謝に、と何かお礼の品を持って来るのはいつもの事で、ラザンはそうした者の相手はまるでしないので、弟子で従者なゼンが、それを受け取り、その代わりの様に、そこで狩られた魔物の素材を渡すのもいつもの事だった。

 ラザンはもうすでに、それまで魔獣の素材を売って得た、一生遊んで暮らしても使い切れない程の財産が収納具の中にあり、他の素材や魔石等も余っている。

 だから、それらに苦しめられた者に還元するのは、ゼンにとっては極自然な流れと思えた。

 お礼を持って来たのに、それ以上の価値ある物をお返しに持たされ、戸惑い、感激し、感涙……泣きじゃくる者すらいたが。

 そうして無駄に、『流水の剣士』の最強美談が流布されるようになっていた事に、ゼンは気づいていなかった。ラザンも、全てに無頓着なので、狩った後の話などに興味はなく、ゼンが魔獣の素材をどうしているのか、聞きもしない。

 時々立ち寄る街の、娼館に行く費用ぐらいあれば、それ以外に金が必要だと思っていないのだ。旅の費用のあれこれは、その頃にはもうゼンが全て管理していたので……。


 ※


 経緯はどうであれ、本当に今手にしているのが『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』であるのなら、確実に偽機神(フェイク・マキナ)を、ヴォイドを倒す一撃としなければならない。

 相手は奸智に長け、未だ未知の力を隠し持っているかもしれない相手だ。

 『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』の存在を知られ、対抗策を打たれても困る。それに、この“剣(つるぎ)”でも、初戦の様に、生命力を吸収されないかどうかも、まだ分からないのだ。

 なるべく、一撃必殺の好機を待ちたい。

 ―――ところ、なのだが、ゼンは、そんな悠長な事を実行出来るかどうか、解らない瀬戸際まで追い込まれていた。

 頭痛がする。眩暈がする。

 激しい衝撃の中で、自分が今何をしているのかすら、見失いそうになる。

 危険な攻撃だけ、本能的な危機回避が働き、避けてはいたが、それが正しい動きなのか、もう自分でも解らない。ジークとアルの巨大な力で維持されている防御障壁がなければ、その巨体は、ボロボロのガラクタに成り果てたかもしれない。

 何度目かの、盾のへりを使っての打突。

 ジークは、背後に倒れ込みそうになりながらも、ギリギリの所で踏ん張る。

 そして、不自然な態勢からの高速移動。

 すぐ近くまで肉薄してからの、振り上げた右腕には、『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』があった。

 偽機神(フェイク・マキナ)は、その何も持たない右腕が振り下ろされた時、生物の本能として、何かを察知したのか、攻撃に使った盾を引き戻す事に成功した。

 ―――斬―――

 それまで、相手の全ての攻撃を頑強に弾いていた盾が、何の衝撃もなく、両断されていた。

 当然、それを装着していた左腕も。

 !?

 偽機神(フェイク・マキナ)は、その意味不明な現象を、認識するよりも速く、右腕の剣で、左の二の腕の部分を切り離していた。

 月面上に落ちる、両断された盾と左腕、そして、自ら切断した腕の部分。それらは、浸透した力により、一瞬にして砂の様に崩れ去った。

 斬り落とすのが数秒遅れていれば、本体まで及んでいただろう。

 敵の謎の攻撃に、後ろへ飛び退って距離を取ろうとする偽機神(フェイク・マキナ)。

 だがその巨体に、ピッタリと密着するように追従するのは、ゼン達の乗る機神(デウス・マキナ)ジークであった。

 ゼンは、意識朦朧とする中でも、自分の放った攻撃が、相手に今一歩の所で外されたのを見た。と同時に、『流歩』で後退する敵の後を追う。

 そして、大きく右腕を振りかぶる。

 偽機神(フェイク・マキナ)は、その武器の見えない右腕を、それでも迎え撃とうと、自らの剣を向ける。

 その右脇は、がら空きだ。

 ジークが振り下ろす、何かを握っている風の右腕。それを受け止める筈の剣には、何の感触もない。剣もそのままだ。

 ゼンが、右腕を振り下ろすと同時に、左腕に持ち替えていた『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』で、左右の腕が、交差する様な、無理のある動きで、敵の右脇から左腕を斜めに振り上げていた。

 力の入らない、無理な動作でも、『刃(やいば)無き剣(つるぎ)』は、斬る物が何であろうと関係ない、とでも言わんばかりの切れ味で、偽機神(フェイク・マキナ)を右脇から左肩まで、身体の中心を通って、見事に斜めに切断していた!












*******
オマケ

ゾ「あんな野郎、俺のブレスで…」
ゼ「吹き飛んでバラバラとかだと、駄目なんだ。ヴォイド本体に、母星が近いこの距離だと危険なんだ」
ア「頭の悪そうな狼じゃな」
セ「ボクの幻術で、もっと戦闘を有利に…」
ゼ「敵が、機械になってるから、多分レーダーで、幻かどうかバレると思うんだ。ごめんな」
ア「駄馬よのう」
ガ「影転移は…」
セ「場合によっては、有効な戦術になり得るかもだけど、影から影に、の限定条件がバレると、逆に待ち伏せされるかも…」
ア「駄犬か?」(狼です)
ボ「鉱物分解とかで、盾や剣を壊せませんか?」
ゼ「向こうも、障壁で対応済みらしいんだ」
ア「駄熊って、抱き枕の熊のようじゃな」
ル「ぶーぶー。るーも、何かしたいお?」
ゼ「えーっと。ルフは、中で安全に、ね?」
ア「よしよし。愛い幼子じゃのう」

四人「「「「扱いが違い過ぎる!」」」」
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