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第1章 魔の森編
007. 悩み深き夜
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(えー、ほぼ3週間ぶりとなりますが、再開?です。平にご容赦を~。
ついでに、書いてた話、長くなってしまい、新キャラ出るまで書いてたら、長過ぎるので二つに分けました。つまりこっちではまだ出ません。
1時間後にそちらも更新です。
ならもっと前に半分上げろや。とか思ってしまうでしょうが、すみません。
書き上げて、そうなっただけの結果論なので~)
※
二人は夕食を済ませて、しばしくつろいでいた。
ラザンは、すっかり食事の支度をゼンに任せっきりにする様になっていたが、その割に食事の味については、自分の馴染みのバー(ある種の高級酒場)のマスターが作ってくれた料理の方が絶品だった、とゼンの料理はそれには遠く及ばない事を、終始言って聞かせていた。
当初は固いパンや、干し肉等の保存食のみで食事を済ませようとしていたラザンなのに、いざ、ゼンに作ってもらうと、平然とチクチク料理に文句を言う。ラザンとはそういう男だった。
調味料も少なく、自分でちゃんとした食事を作るのも、習いたてなゼンには酷な話だったのだが、その事が、旅の間ずっと続く事になり、ゼンなりにストレスを溜めていたのだろう。
ある街でゼンは料理修行をする事になるのは、そうした背景があるのだが、それはまだ先の話。
ゼンは、食事の後片付けをしながら、“あの事”を打ち明けるべきか、機会を伺っていたが、結局踏ん切りがつかず、その日も何も言い出せなかった。
その代りに、別の気になっていた事を問うた。
「師匠。魔物と戦っている時、わざと俺の方に、多めに敵を見逃して戦わせているのは、どういう意味があるのでしょうか?俺はあれを、回避して時間がかかっても、何とか囲まれずに倒す様にしていましたが、それでいいんでしょうか?」
「……あ~、あれな。お前みたいに聡い子供だと、すぐ気が付いちまうな。
あれは、お前に一度、負けて欲しかったんだが……。
妙な顔するな。別に、死ね、と言ってる訳じゃねぇよ。手に負えず、多少ボロボロになった所を助けようと思っていたんだが……。
お前、前に魔物をそれなりな量、余裕で倒した経験があるだろう?」
ラザンは口に咥えていた、楊枝代わりの木の枝を、行儀悪く振り振り言う。
「え?俺、まだ、そんなに魔物を戦った経験はないですよ……。師匠と会う前だと、一角兎(ホーンラビット)と、小さめのスライム少々、グレイウルフは、周囲の補助を受けてたし……。
あ、迷宮(ダンジョン)で、巨大蝙蝠(ジャイアントバット)なら、結構多く倒せました」
ゼンは、最初に潜った迷宮(ダンジョン)で大成功だった経験を思いだした。
「初級迷宮(ビギナーズ・ダンジョン)の、D巨大蝙蝠(ジャイアントバット)……か。そいつは、どういう性質で、お前みたいな素人が、大量に倒せたんだ?」
大陸の初級迷宮(ビギナーズ・ダンジョン)に潜った事などないラザンが、その魔物の性質と情報を細かくゼンから聞き取る。
「……なる程。スラムで気配を殺し、餌でおびき寄せた鳥を狩るのに慣れていたお前は、D巨大蝙蝠(ジャイアントバット)が一匹になると仲間を呼ぶ性質を利用して、増殖法を使って大量に狩れた、と」
「増殖法、て言うんですか?多分、そんな感じです」
「つまり、その経験がお前に魔物と戦う事への余裕、慢心を心の何処かに持たせてしまっているんだな」
「え、そんなつもりは……」
「ないつもりでもあるんだよ。ゴブリンと相対するのも、人型の敵も、戦うのは初めてだと言ってただろう?」
「はい……」
「の、割に妙に落ち着いていて、余裕があったから気になってはいたんだ」
「そんな風に見えましたか?」
「ああ、見えた。お前が、スラムでどれ程危険な経験をしたかは知らんが、それと魔物は別物だ。特に、迷宮(ダンジョン)の外ではな」
「え?迷宮(ダンジョン)の中の方が、魔物は強化されているって聞きましたけど」
「そうだ、それは正しい。だが、単なる強さの問題じゃない。迷宮(ダンジョン)の魔物は、神が試練として用意した、台本のある芝居の人形みたいな物で、同種族なら一律だ。対して個体差がなく、どの迷宮(ダンジョン)でも、同じ階層であれば同じ強さ、同じ能力でしかない。
だが、外の、野生の魔物は違う。こういう森で育った魔物は、森に特化する。寒い地方であれば、冷気に特化したり、な。つまり、野生の魔物は育つ環境でガラリと力が変わる。時に、突然変異した珍しい、希少(レア)な個体が生まれたり、奇妙な力に目覚めた変異種(ユニーク)になったりもする。
それに経験。冒険者との戦いや、他の魔物との生存競争で勝ち残った経験のある個体なんかが、厳しい戦いを潜り抜けて強くなる。迷宮にそれはない。理屈は分かるだろ?
つまりは、人と同じで、完全に同じ個体なんざ一つもいないって事だ。だから、雑魚相手でも、少しの油断や過信も禁物だ。俺ぐらいになれば、ある程度格下に余裕を持てるさ。
だが、お前は違うだろう?冒険者の見習い未満な素人なんだ。落ち着いているのはいい事かもしれんが、余裕を持てるような立場じゃねぇーだろうが。
常に緊張し、周囲に気を配れ。俺と一緒である事に過信して、索敵を怠るな。この森にはいない様だが、魔物にだってお前みたいに気配を消す奴もいれば、姿を周囲に溶け込ませ、擬態するものもいる。
魔物相手の冒険者ってのは、現場に来たら、常にピリピリして、もっと警戒しているものなんだよ。いつでも最悪の状況を想定して、そうなったらどうするかの手段を考えておいたり、な」
軽い態度とは裏腹に、ラザンの言葉は真剣で、内容も厳しいものだ。
「は、はい!」
ゼンは気を引き締めて、その教えを頭に刻み込んだ。
「例えば、今のお前にとっては、俺が何かの間違いでおっ死んじまった時、自分一人でどうやってこの森を出て、人里まで逃げれるか、とかだな」
「そんな事、ある訳が―――」
「なくても考えておくもんなんだよ。実際、外では何が起こるか分からん。
ゼン。お前は今確かに、多少の技や型の動きだけは出来る様になった。だが、小手先の技やなんかを覚えていても、今、自分の強さがどれぐらいになったか分かるか?」
「い、いえ。その……、何をどう考えればいいのか、分からないので……」
「ん。そこはまあ、仕方がないか。お前は今、正面からならゴブリンをやっと2,3匹倒せるぐらい。これは、普通の、冒険者じゃない大人にだって、やろうと思えば出来る。つまりは、お前はまだまだ冒険者未満の、少し動きが早いだけの子供に過ぎない、って事だ」
「……はい」
「どんなに頑張って鍛えても、力はそう簡単に増すもんじゃない。一朝一夕で出来る事じゃないからな。近道もズルもない。地道に鍛えるしかないんだ。だが、“気”を使うようになり、身体強化が使える様になったら、それも多少はマシになる。だが、そこでも安心してもらっちゃ困るんだよ。
“気”の……こっちだと闘気術、とかっていうみたいだが、俺の教える方のは、帝国の寺で見せて貰った気功術方式で教えるから、余り闘気って言葉は使わんが、そこは気にするな」
「え、と……。それは、師匠の母国の形式でなくてもいいんですか?」
「ああ、そっち系の技術は元々、大陸から流れて来た技術だったからな。“気”のつくり方、練り方なんかは、そっちの方が、実際に洗練されている。俺も改めて、覚えてやって、何割増しか強くなった感じがするからな」
「それって、『流水』を習う場合でも?」
「おう。そこも心配するな。『流水』では、“気”をどう扱えるかが問題で、その“気”を鍛え上げるやり方が、闘気術でも気功術でもどっちでもいいんだ。実際、俺が“気”を習った時、自分に合ったやり方があるならそれで行け、と教わったぐらいだからな」
「へー……」
いつもなら、夕食を済ませると酒を飲んでばかりのラザンが、珍しく長講釈をたれているのは、明日から始める“気”の習得法の予習のようであった。
その後も、“気”についてのあれこれを話して聞かせ、最後には、その帝国の気功術の習得法が書かれた、ボロボロの教本となる書物をゼンに投げてよこした。
「帝国は、大昔は独自の言語を使っていたんだが、勢力が弱く、領土も今より小さかった頃に、西方との交易が盛んになって、結局は大陸の公用語を使うようになっている。
お前、確か文字の読み書きが出来るんだったよな。読める部分は読んでおけ。読めない箇所があれば、明日説明するからな」
そうしてラザンは弟子に背中を向ける。本格的に酒を飲む姿勢になった。
「わ、分かりましたっ!」
ゼンにとって、明日の修行はきっと、今までで一番大事な物になる。そう思ってゼンは、今日は寝ずにその教本を読みふけるつもりになった。
もしかしたら、“スキル”のない自分は、“気”を覚える事が出来ないかもしれない、と不安を覚えて。
それは同時に、『流水』の習得も、それ以前に冒険者となる事さえも、出来ないかもしれない、最重要な事柄なのだから……。
※
翌日の朝、慣れない読書と鍛錬の疲れから、結局ゼンは、テントの中で途中で寝入ってしまった。寝不足で修行も余りいい事ではないので、かえって良かったかもしれないが。
日の出の光を感じて、すぐさま起きて皮の鎧を身に着け、テントの外に飛び出す。
深酒をしている筈のラザンも、日の出にはキッチリと目覚め、自分のテントからのっそりと出て来る。欠伸をしながら。
「おはようございますっ!師匠!」
「……そういや、お前ずっと同じ木剣使ってるが、そろそろ痛んで使い物にならないんじゃないのか?そこらの木から、新しいの作った方がいい頃合いだろう」
ラザンはゼンの朝の挨拶を聞き流し、自分のペースで話を進める。
「そ、そんな事ありません!ちゃんと手入れしてますから、まだまだ使えますよ!」
珍しく反抗的に言い返すのは、その木剣が『西風旅団』のリュウからもらった、大事な木剣だからだった。
「いや、手入れって、消耗品なんだから、限度ってものがあるんだよ。見せてみろ」
ムクれっ面をするゼンが、収納具からその木剣を取り出し、ラザンに仕方なく渡す。
ラザンはそれを手に取って見て、不可思議な顔をする。
その木剣が、本当にまるで痛んでいなかったからだ。
(……なんだ、こりゃ?特別な素材、って訳でもない。ずっと鍛錬に使っていた、単なる木剣だ。なのに、なんでまるで痛みが見えねぇーんだ?)
しばらく頭を悩ましたラザンは、その木剣を捨てられたりしないか、ハラハラしてこちらを見ているゼンの様子に、答えが導かれ、思わず吹き出してしまった。
(そうか、こいつには、出会ってすぐに、木の枝を強化して見せたんだったな。それで、大事な大事な木剣“だけ”を、痛まない様に無意識化で強化していたのか。自分の身体の方には、少しも使わず、使えずに……)
やり方すら知らぬ筈なのに、それが成せたのは、一途な想い故の事なのか。
「……なんで腹を抱えて笑ってるんですか?」
ゼンが、どうやら自分の事で笑っているらしいと、勘よく気付き、憮然としている。
「……ああ、いや、お前、変な奴だなぁ、と思ってな」
「……いきなり“変”って、意味分からないんですけど……」
ようやくラザンから木剣を返してもらい、ゼンはそれを大事そうに抱えて不機嫌になる。
「まあそう拗ねるな。軽く鍛錬してから朝メシにしようや。“気”の方はその後からだな」
「……別に、拗ねてません」
とそっぽを向く仕草は完全に拗ねていた。
「ま、余り考え過ぎず、肩の力を抜け」
ポンとゼンの肩を叩く。
ゼンが、貰い物の大事な木剣を、すでに強化していた事を知っているラザンはお気楽だ。ゼンならそう手こずる事もなく、“気”を習得出来るだろうと高をくくっている。
「出来る様になったら、“闘気術”か“気功術”“気力操作”なんて感じな加護(スキル)を覚える筈だから、そうなったらどう強めて、どう身体強化に使えるか、とかの授業に移るからな」
「……は、はぁ……」
ラザンがそう、軽く言った言葉で、ゼンは師匠がやはり、ゴウセルの手紙をちゃんと読んでいない事が、ついに分かってしまい、朝から絶望的な気分となったのだった……。
************************
オマケ劇場
ミ「ミンシャ、待ちくたびれて、冬眠入りますの」
リ「先輩、犬は冬眠しません!、それ、むしろ私やボンガの役目です!」
ミ「え~、ズルいですの」
リ「大体、寒さに強い犬は雪の中、庭駆けまわる役ですよ」
ミ「寒いの嫌いですの」
リ「だから、私の方が苦手なんですよ!」
ゾ「あれが始まると、本当にここが動いてる感じするな」
セ「ま、まあ、否定はしませんが……」
ボ「二人仲良し、微笑ましいね」
ガ「表面寒冷、中身温暖……」
ル「お?るーも仲間いれてほしいお?仲間はず、れ?いやだもん!」
ミ、リ「「はいはい」」
ついでに、書いてた話、長くなってしまい、新キャラ出るまで書いてたら、長過ぎるので二つに分けました。つまりこっちではまだ出ません。
1時間後にそちらも更新です。
ならもっと前に半分上げろや。とか思ってしまうでしょうが、すみません。
書き上げて、そうなっただけの結果論なので~)
※
二人は夕食を済ませて、しばしくつろいでいた。
ラザンは、すっかり食事の支度をゼンに任せっきりにする様になっていたが、その割に食事の味については、自分の馴染みのバー(ある種の高級酒場)のマスターが作ってくれた料理の方が絶品だった、とゼンの料理はそれには遠く及ばない事を、終始言って聞かせていた。
当初は固いパンや、干し肉等の保存食のみで食事を済ませようとしていたラザンなのに、いざ、ゼンに作ってもらうと、平然とチクチク料理に文句を言う。ラザンとはそういう男だった。
調味料も少なく、自分でちゃんとした食事を作るのも、習いたてなゼンには酷な話だったのだが、その事が、旅の間ずっと続く事になり、ゼンなりにストレスを溜めていたのだろう。
ある街でゼンは料理修行をする事になるのは、そうした背景があるのだが、それはまだ先の話。
ゼンは、食事の後片付けをしながら、“あの事”を打ち明けるべきか、機会を伺っていたが、結局踏ん切りがつかず、その日も何も言い出せなかった。
その代りに、別の気になっていた事を問うた。
「師匠。魔物と戦っている時、わざと俺の方に、多めに敵を見逃して戦わせているのは、どういう意味があるのでしょうか?俺はあれを、回避して時間がかかっても、何とか囲まれずに倒す様にしていましたが、それでいいんでしょうか?」
「……あ~、あれな。お前みたいに聡い子供だと、すぐ気が付いちまうな。
あれは、お前に一度、負けて欲しかったんだが……。
妙な顔するな。別に、死ね、と言ってる訳じゃねぇよ。手に負えず、多少ボロボロになった所を助けようと思っていたんだが……。
お前、前に魔物をそれなりな量、余裕で倒した経験があるだろう?」
ラザンは口に咥えていた、楊枝代わりの木の枝を、行儀悪く振り振り言う。
「え?俺、まだ、そんなに魔物を戦った経験はないですよ……。師匠と会う前だと、一角兎(ホーンラビット)と、小さめのスライム少々、グレイウルフは、周囲の補助を受けてたし……。
あ、迷宮(ダンジョン)で、巨大蝙蝠(ジャイアントバット)なら、結構多く倒せました」
ゼンは、最初に潜った迷宮(ダンジョン)で大成功だった経験を思いだした。
「初級迷宮(ビギナーズ・ダンジョン)の、D巨大蝙蝠(ジャイアントバット)……か。そいつは、どういう性質で、お前みたいな素人が、大量に倒せたんだ?」
大陸の初級迷宮(ビギナーズ・ダンジョン)に潜った事などないラザンが、その魔物の性質と情報を細かくゼンから聞き取る。
「……なる程。スラムで気配を殺し、餌でおびき寄せた鳥を狩るのに慣れていたお前は、D巨大蝙蝠(ジャイアントバット)が一匹になると仲間を呼ぶ性質を利用して、増殖法を使って大量に狩れた、と」
「増殖法、て言うんですか?多分、そんな感じです」
「つまり、その経験がお前に魔物と戦う事への余裕、慢心を心の何処かに持たせてしまっているんだな」
「え、そんなつもりは……」
「ないつもりでもあるんだよ。ゴブリンと相対するのも、人型の敵も、戦うのは初めてだと言ってただろう?」
「はい……」
「の、割に妙に落ち着いていて、余裕があったから気になってはいたんだ」
「そんな風に見えましたか?」
「ああ、見えた。お前が、スラムでどれ程危険な経験をしたかは知らんが、それと魔物は別物だ。特に、迷宮(ダンジョン)の外ではな」
「え?迷宮(ダンジョン)の中の方が、魔物は強化されているって聞きましたけど」
「そうだ、それは正しい。だが、単なる強さの問題じゃない。迷宮(ダンジョン)の魔物は、神が試練として用意した、台本のある芝居の人形みたいな物で、同種族なら一律だ。対して個体差がなく、どの迷宮(ダンジョン)でも、同じ階層であれば同じ強さ、同じ能力でしかない。
だが、外の、野生の魔物は違う。こういう森で育った魔物は、森に特化する。寒い地方であれば、冷気に特化したり、な。つまり、野生の魔物は育つ環境でガラリと力が変わる。時に、突然変異した珍しい、希少(レア)な個体が生まれたり、奇妙な力に目覚めた変異種(ユニーク)になったりもする。
それに経験。冒険者との戦いや、他の魔物との生存競争で勝ち残った経験のある個体なんかが、厳しい戦いを潜り抜けて強くなる。迷宮にそれはない。理屈は分かるだろ?
つまりは、人と同じで、完全に同じ個体なんざ一つもいないって事だ。だから、雑魚相手でも、少しの油断や過信も禁物だ。俺ぐらいになれば、ある程度格下に余裕を持てるさ。
だが、お前は違うだろう?冒険者の見習い未満な素人なんだ。落ち着いているのはいい事かもしれんが、余裕を持てるような立場じゃねぇーだろうが。
常に緊張し、周囲に気を配れ。俺と一緒である事に過信して、索敵を怠るな。この森にはいない様だが、魔物にだってお前みたいに気配を消す奴もいれば、姿を周囲に溶け込ませ、擬態するものもいる。
魔物相手の冒険者ってのは、現場に来たら、常にピリピリして、もっと警戒しているものなんだよ。いつでも最悪の状況を想定して、そうなったらどうするかの手段を考えておいたり、な」
軽い態度とは裏腹に、ラザンの言葉は真剣で、内容も厳しいものだ。
「は、はい!」
ゼンは気を引き締めて、その教えを頭に刻み込んだ。
「例えば、今のお前にとっては、俺が何かの間違いでおっ死んじまった時、自分一人でどうやってこの森を出て、人里まで逃げれるか、とかだな」
「そんな事、ある訳が―――」
「なくても考えておくもんなんだよ。実際、外では何が起こるか分からん。
ゼン。お前は今確かに、多少の技や型の動きだけは出来る様になった。だが、小手先の技やなんかを覚えていても、今、自分の強さがどれぐらいになったか分かるか?」
「い、いえ。その……、何をどう考えればいいのか、分からないので……」
「ん。そこはまあ、仕方がないか。お前は今、正面からならゴブリンをやっと2,3匹倒せるぐらい。これは、普通の、冒険者じゃない大人にだって、やろうと思えば出来る。つまりは、お前はまだまだ冒険者未満の、少し動きが早いだけの子供に過ぎない、って事だ」
「……はい」
「どんなに頑張って鍛えても、力はそう簡単に増すもんじゃない。一朝一夕で出来る事じゃないからな。近道もズルもない。地道に鍛えるしかないんだ。だが、“気”を使うようになり、身体強化が使える様になったら、それも多少はマシになる。だが、そこでも安心してもらっちゃ困るんだよ。
“気”の……こっちだと闘気術、とかっていうみたいだが、俺の教える方のは、帝国の寺で見せて貰った気功術方式で教えるから、余り闘気って言葉は使わんが、そこは気にするな」
「え、と……。それは、師匠の母国の形式でなくてもいいんですか?」
「ああ、そっち系の技術は元々、大陸から流れて来た技術だったからな。“気”のつくり方、練り方なんかは、そっちの方が、実際に洗練されている。俺も改めて、覚えてやって、何割増しか強くなった感じがするからな」
「それって、『流水』を習う場合でも?」
「おう。そこも心配するな。『流水』では、“気”をどう扱えるかが問題で、その“気”を鍛え上げるやり方が、闘気術でも気功術でもどっちでもいいんだ。実際、俺が“気”を習った時、自分に合ったやり方があるならそれで行け、と教わったぐらいだからな」
「へー……」
いつもなら、夕食を済ませると酒を飲んでばかりのラザンが、珍しく長講釈をたれているのは、明日から始める“気”の習得法の予習のようであった。
その後も、“気”についてのあれこれを話して聞かせ、最後には、その帝国の気功術の習得法が書かれた、ボロボロの教本となる書物をゼンに投げてよこした。
「帝国は、大昔は独自の言語を使っていたんだが、勢力が弱く、領土も今より小さかった頃に、西方との交易が盛んになって、結局は大陸の公用語を使うようになっている。
お前、確か文字の読み書きが出来るんだったよな。読める部分は読んでおけ。読めない箇所があれば、明日説明するからな」
そうしてラザンは弟子に背中を向ける。本格的に酒を飲む姿勢になった。
「わ、分かりましたっ!」
ゼンにとって、明日の修行はきっと、今までで一番大事な物になる。そう思ってゼンは、今日は寝ずにその教本を読みふけるつもりになった。
もしかしたら、“スキル”のない自分は、“気”を覚える事が出来ないかもしれない、と不安を覚えて。
それは同時に、『流水』の習得も、それ以前に冒険者となる事さえも、出来ないかもしれない、最重要な事柄なのだから……。
※
翌日の朝、慣れない読書と鍛錬の疲れから、結局ゼンは、テントの中で途中で寝入ってしまった。寝不足で修行も余りいい事ではないので、かえって良かったかもしれないが。
日の出の光を感じて、すぐさま起きて皮の鎧を身に着け、テントの外に飛び出す。
深酒をしている筈のラザンも、日の出にはキッチリと目覚め、自分のテントからのっそりと出て来る。欠伸をしながら。
「おはようございますっ!師匠!」
「……そういや、お前ずっと同じ木剣使ってるが、そろそろ痛んで使い物にならないんじゃないのか?そこらの木から、新しいの作った方がいい頃合いだろう」
ラザンはゼンの朝の挨拶を聞き流し、自分のペースで話を進める。
「そ、そんな事ありません!ちゃんと手入れしてますから、まだまだ使えますよ!」
珍しく反抗的に言い返すのは、その木剣が『西風旅団』のリュウからもらった、大事な木剣だからだった。
「いや、手入れって、消耗品なんだから、限度ってものがあるんだよ。見せてみろ」
ムクれっ面をするゼンが、収納具からその木剣を取り出し、ラザンに仕方なく渡す。
ラザンはそれを手に取って見て、不可思議な顔をする。
その木剣が、本当にまるで痛んでいなかったからだ。
(……なんだ、こりゃ?特別な素材、って訳でもない。ずっと鍛錬に使っていた、単なる木剣だ。なのに、なんでまるで痛みが見えねぇーんだ?)
しばらく頭を悩ましたラザンは、その木剣を捨てられたりしないか、ハラハラしてこちらを見ているゼンの様子に、答えが導かれ、思わず吹き出してしまった。
(そうか、こいつには、出会ってすぐに、木の枝を強化して見せたんだったな。それで、大事な大事な木剣“だけ”を、痛まない様に無意識化で強化していたのか。自分の身体の方には、少しも使わず、使えずに……)
やり方すら知らぬ筈なのに、それが成せたのは、一途な想い故の事なのか。
「……なんで腹を抱えて笑ってるんですか?」
ゼンが、どうやら自分の事で笑っているらしいと、勘よく気付き、憮然としている。
「……ああ、いや、お前、変な奴だなぁ、と思ってな」
「……いきなり“変”って、意味分からないんですけど……」
ようやくラザンから木剣を返してもらい、ゼンはそれを大事そうに抱えて不機嫌になる。
「まあそう拗ねるな。軽く鍛錬してから朝メシにしようや。“気”の方はその後からだな」
「……別に、拗ねてません」
とそっぽを向く仕草は完全に拗ねていた。
「ま、余り考え過ぎず、肩の力を抜け」
ポンとゼンの肩を叩く。
ゼンが、貰い物の大事な木剣を、すでに強化していた事を知っているラザンはお気楽だ。ゼンならそう手こずる事もなく、“気”を習得出来るだろうと高をくくっている。
「出来る様になったら、“闘気術”か“気功術”“気力操作”なんて感じな加護(スキル)を覚える筈だから、そうなったらどう強めて、どう身体強化に使えるか、とかの授業に移るからな」
「……は、はぁ……」
ラザンがそう、軽く言った言葉で、ゼンは師匠がやはり、ゴウセルの手紙をちゃんと読んでいない事が、ついに分かってしまい、朝から絶望的な気分となったのだった……。
************************
オマケ劇場
ミ「ミンシャ、待ちくたびれて、冬眠入りますの」
リ「先輩、犬は冬眠しません!、それ、むしろ私やボンガの役目です!」
ミ「え~、ズルいですの」
リ「大体、寒さに強い犬は雪の中、庭駆けまわる役ですよ」
ミ「寒いの嫌いですの」
リ「だから、私の方が苦手なんですよ!」
ゾ「あれが始まると、本当にここが動いてる感じするな」
セ「ま、まあ、否定はしませんが……」
ボ「二人仲良し、微笑ましいね」
ガ「表面寒冷、中身温暖……」
ル「お?るーも仲間いれてほしいお?仲間はず、れ?いやだもん!」
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やがてその力は魔王軍すら飲み込み、世界の勢力図を塗り替えていく。
これは――
最弱スライムから始まる、無限進化の成り上がり無双譚。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
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