REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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第十二話

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 前日の雨があがり、朝陽が森に白いベールをかけたような朝だった。
 仕掛けた罠を調べに行くと、そのうちの一つに異変があった。
 足の一部だけが挟まれたまま残されていたのだ。
 大部分は引きちぎられて奪い取られたらしい。
 罠の周辺には、散らばった毛や肉、血で変色した土。
 それは明らかに、獲物を横取りされた痕跡。
 さらには雨で緩くなった地面に、沈み込んだ大きな足跡……

 ここら一帯の惨状を検めると、「鹿を取られた。おそらく例の奴だな」とジャックが漏らした。
「ジャニスを襲った、あれか?」
「だろうな。この様子だと、近いな」
 足跡が続く先から顔を戻し、俺たちは頷き合う。
 いつかこうなることを想定して準備はしていた。
 俺たちは狩り、というよりも、奴との戦いの準備をはじめた。
 いつ遭遇してもいいよう、伐採した木のうちから良さそうなものを選び、それを削って槍を数本用意していた。
 携帯しやすいように括ってまとめておいたが、その縛りをほどき、すぐに使えるようにしておく。
 二本は両手に、残りは背に。
 ジャニスを襲った黒い怪物熊。
 奴を仕留めるには、捨てられる武器が絶対に必要だった。
 あれだけの巨体とパワーだ、一本の剣が刺さった程度では致命傷にならない。
 突き刺してしまったら最後、逆に武器を失った俺の方がお手上げになってしまうだろう。
 そうなっては痛みに暴れる巨体から逃げるしかない。
 そうならないためには、使い捨てられる得物が絶対に必要だった。
 もともと狩人のジャックは用意するまでもない。
 いつも愛用している弓に、背中の矢筒だ。
 腕のほうは心配するまでもない。
 さんざジャックの仕留めた獲物を腹にいれて来たのだ。

 必ず奴はこの近くにいる。
 俺たちは気配を、足音を、消す。
 そうして慎重に跡を追いかけること、しばし。
 そいつは呆気ないほどに、すぐ見つけられた。

 真っ直ぐな樹木が立ち並ぶ森の先に、忘れられた場所であるかのような草原が広がっていた。
 そこだけがなぜか、手を入れた広場のようにぽっかりと空いているのだ。
 その中央に、奴がいた。
 俺たちから横取りした獲物を喰らい、腹が満ちたのだろう。
 食べかけの肉塊を抱き抱えるようにして、ふてぶてしく眠りこんでいた。
 労せず得た食後のひと眠りだけに、最高の夢を見ているに違いない。
 ただそこに寝ているだけなのに、威圧感を放つ黒い巨体。
 奴のまわりで、白いもやが空へと立ち昇っていくように見える。
 なんの警戒もなく眠り込むその姿は、この山中に彼にとって危険を及ぼす敵がいないというシンプルな事実を、何よりも雄弁に語っていた。
『誰に遠慮する必要も無い』と。
 だが、まさに今、俺たちは彼にとっての例外になろうとしている。
 ジャックと俺は簡単に打ち合わせ、二手に分かれた。

 俺は広場に踏みこまず、木の影に隠れていた。
 黒い巨体までは、駆け出せば一息の距離。
 その先、さらに真っすぐの樹上、そこに回り込んだジャックがいた。
 話は単純、前後に分かれて、挟み撃つのみ。
 遠目に、ジャックが矢をつがえたのが見えた。
——いつでも来い!——
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