REBIRTH〜国を追われ、名を捨てて〜

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第六十五話

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「殿下御自身が行かなくてもよろしいのですか?」
「俺がか? 探されている張本人が行けば、決定的な衝突になる。この村を危機には晒せん」
「この村を守るのが、お役目であったかと記憶しますが」
「逆効果だ。刺激にしかならん、俺が行ったとて」
「……同じですな」
「なんだと?」
「同じだと申し上げたのです。大事なモノを守るために、衝突を避けようとする」
「……何が言いたい?」
「あのときと同じです。争わぬ者には勝利は得られません。争いを避けて身を引くは、すなわち負けにございます」
 俺はセスの襟をつかみ、壁に押し付けた。
「俺だけしか! 強いものしか生き残らぬ勝利になんの意味があると言うか! 村を戦場にしろと? セスたち村人を巻き込んでの戦いになれば必ず犠牲が出る。また俺のために、多くのものが失われることになるのだ。それをわかっての言葉か!」
「しかし殿下——」
「——殿下などいない! この村にはいない」
「……ただじっとこの家に隠れても、事態は解決などしません」
「そんなこと! 貴様に言われなくてもわかっているわ」
「ならばお立ちください。殿下と殿下に捧げた我が剣があれば、賊など取るに足りません。いったい何を恐れておられるのですか?」
「恐れる? 俺がか?
 ……そうか、そうだな。よく正面切って、俺に言えたものだ。その褒美に答えてやろう。
 ああそうだ、きっと俺は恐れている。皆が死ぬことを、何よりも恐れている。国を追われたが、俺自身は死ななかった。今もここに生きている。しかし俺に従った者たちはどうだ。多くの者が死んだのだ。多くの犠牲となっても国を奪い、新たに安住の地を得たなら、死んでいった者たちも浮かばれよう。だが現実はそうならなかった。俺は恥知らずにも命永らえて異国を彷徨い、隠れて暮らすだけだ。これではただの無駄死にではないか!」
 俺の頬に、何かがが伝わり落ちた。
 フィルはもう、それ以上なにも言わなかった。



 押し黙ったまま、ただ時間だけが過ぎていく。
 フィルの言うように、今から俺が門へと向かうべきなのだろうか?
 そうすれば必ず戦いになる。
 何も知らぬ村を、俺のために戦いに巻き込むことになる。
 頭の中で何度となく想像してみても、悲劇的な結末しか俺には思い浮かばなかった。
 ジャックが、ジャニスが、セスが、俺の育てた若者たちが、血を流し、倒れる。
——いったいどうすべきだというのか……——



 夕方、ジャックがまたやって来た。
 朝と違って、もたらされたのは悪い知らせだった。
『オーウェンなど知らぬ』と言い張る村人たちに痺れを切らせた賊は、昨日とはやり方を変えてきた。
 なんと、手近な畑を荒らしはじめたのだ。
 はじめは見えすいた挑発だと村の皆はこらえていた。
 しかし、一向に止める様子がない。
 踏み荒らすだけでは効果がないとわかると、剣や斧を振り回して作物を斬り、道具を壊し、水路を崩しはじめた。
 それが挑発だと、わかってはいた。
 だが時間が経てば経つほどに、実害は大きくなるばかり。
 それを指を咥えて見るよりない、苦しい時間。
 手をかけた畑とは、村人にとって財産であり、家族とも言える大事なものだ。
 こらえ続けるもついに、怒りは決壊した。
 その結果小競り合いとなり、双方に怪我人が出たという。
「怪我の程度は!」
「そちらはたいしたことはない、大丈夫だ。セスがな、間に入って止めてくれてな」
「あのセスが?」
「ああ、あいつはおまえの言葉を、何よりも信じてる。おまえが死ねといえば、死ぬんじゃないかと思うほどにな」
「……」
 かつて俺を守り、死んでいった者たちの顔が、浮かんで消えていく。
 その誰もが、俺の言葉を信じたものたちであった。
「どうした? ここは突っ込むところだぞ」
「ん、ああ、悪い。そうだな、そんなわけはない。軽々しく死んでは困る、困るのだ。で、畑のほうは?」
「エドは泣いていたよ」
「では、荒らされた畑はアリーの親父のところか」
「ああ、そうだ。街道のすぐ隣じゃ、いい場所過ぎたな」
「それでも、セスは抑えたか」
「ああ、立派なもんだ。俺にはできんよ。いずれにしても、エドのところは全滅だな。ほかにも何人か、被害にあった畑は村全体で面倒をみてやる必要がある。だがまあ、それは村長の仕事だ。任せておけば心配ないだろう」
 敵は本気を示した、そういうことなのだろう。
 賊は帰ったが、『また明日も来る』と言い残したという。
「ウッド、……ジャニスの一件、覚えているか」
「そりゃもちろんだが」
 ジャックはうなずいた。
 あれを忘れようはずもない。
 ジャニスが賊に差し出される寸前だったのだから。
「奴らは全員殺したはずだ。それが今回のことに、どう関係ある?」
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