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第七十七話
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「おまえが一騎打ちだと? らしくないことを言う。分の悪い賭けだと思うが?」
「安心しろ、つまらん勝負では興醒めさせてしまう。あんたに失望させないように、俺なりの敬意を示そうじゃないか」
——しょせん悪党が示す敬意。ロデリック自身が立ち会う気はないということだろう。うしろに控える二人のうち、右か、左か——
よく見れば右の男、見た覚えがある。
使い手だと評判になったことがあったはずだ。
マルセデスへの出兵のときにもロデリックの配下として見た気がする。
賊に落ちてもなおロデリックに従う気持ちは理解できんが、油断はできなそうだった。
「で、どちらが俺の相手をする? おまえの敬意、受けようじゃないか」
「そう急かすなよ。外野がうるさいんじゃ、思い出話もできないんでね。わざと遅らせたのさ。そろそろ来る頃だ、少し待ってもらおうか」
目の前に立つ左右どちらでもなく、別の奴ということらしい。
いったいどんな奴が来るのだろうか?
しばらく待たされると、いちいち数えるのをやめるほどの賊がやってきた。
やって来たのは三十を超えるだろう。
——まさか、な——
嫌な予感がした。
しかし、いまさらどうにもしようがない。
予感通りであったとしても、俺から打てる手はない。
「こいつを討ち取った奴には、約束通り懸賞金をやるぞ!」
ロデリックがや集まった賊の前でそう宣言すると、「おお!」「さすが兄貴だ!」「俺の番までとっておけよ!」などと声があがり、早朝とは思えない盛り上がりをみせている。
「どうだ、総当たりよ。あんたもこんな田舎に落ちぶれたら、どうせロクな稽古をしてないんだろ? 感謝してくれよ。殿下が昔を取り戻すため、親切にも俺が手を貸してやろうってんだ。大陸一とも言われたオーウェンの名を取り戻し、新たな伝説を作ってみたらどうだ?
あんたが助かるには、全員倒すしかない。これ以上ないわかりやすさだろう。見ている俺も十分に楽しめる娯楽よ。こんな場所じゃ、客を入れて稼げないのが残念だが」
嫌な考えほど、現実になる。
いったいどこに正々堂々があるというのか。
ザッと三十人抜き……
まだ太陽は昇りはじめたばかり。
ケリがつく頃には、どこまで上がっているだろうか?
長い戦いになりそうだった。
「よほど俺が怖いとみえるな。まあ、屍の山を築いて伝説になるのも悪くない」
「伝説か、いい響きだよな。そうそう、大事なことを教えてやるよ、オーウェン殿下。
知ってるか? 伝説ってのは、死んだ人間のためにある褒め言葉なんだぜ。つまりあんたの未来は決まってる、運命を知らずのうちに自覚しているってことだな。明日は誰に会うとかなんとか言ってたが、心配する必要はない。いつでも、誰にでも、好きに会えるようになるぜ。ただし、地獄の底でな」
——言われなくても、わかっている——
「いいかおまえら! 栄えある一人目として挑む奴が勝てば、懸賞金の九割をくれてやる! 二人目は八割五分、三人目は八割。この最高のゲームに挑む、一人目の命知らずはどいつだ!」
賊の群れは興奮し、豚を殺すような騒ぎ。
命懸けだということも忘れ、金への欲望を撒き散らしている姿は見るに堪えない。
賊の誰もが我先にと名乗り出て、順番がなかなか決まらない始末だった。
そんなバカ騒ぎの一方で、俺は一人孤独。
そのせいか、ひどく冷静になっていた。
正直、総当たりという事実を知らされたとき、死の予感が現実のものとなる恐怖を感じていた。
恐怖のせいか、賊の騒ぎに熱を奪い取られたのか、だんだん頭も冷えてくる。
それでいて、身体の奥底にある芯の熱は、しっかりと残っていた。
——あのロデリックが、そんな大金を部下に気前よく分け与えるはずもない。奴も恐れているのだ、この俺を。だから万にひとつでも俺と剣を交えぬよう、仕掛けに凝った。間違いない。ならば、いいだろう。やることは単純。賭け金に応じたリスクを、俺の前に立ち塞がった者の命で教えてやる。わかりやすく、死体を並べてな——
すっかり準備のできた俺は、「いつまで待たせる!」と一喝した。
もう好きにやらせはしない。
「俺はシャーウッド村のウッド。真の名をマルセデスに生まれたオーウェンという。しかし、そんなことはどうでもいい。身の程知らずの愚か者どもめ! 愚図愚図するな。この俺を待たせるなど、百年早いわ。とっととかかって来い!」
そんな俺に腹を立てたのか、「俺たちに指図するな!」と威勢よく叫ぶ男が、俺に向かって来た。
「まず一人!」
それをなんの造作もなく、撫でるように斬り捨てた。
ついに、決戦が始まった。
「安心しろ、つまらん勝負では興醒めさせてしまう。あんたに失望させないように、俺なりの敬意を示そうじゃないか」
——しょせん悪党が示す敬意。ロデリック自身が立ち会う気はないということだろう。うしろに控える二人のうち、右か、左か——
よく見れば右の男、見た覚えがある。
使い手だと評判になったことがあったはずだ。
マルセデスへの出兵のときにもロデリックの配下として見た気がする。
賊に落ちてもなおロデリックに従う気持ちは理解できんが、油断はできなそうだった。
「で、どちらが俺の相手をする? おまえの敬意、受けようじゃないか」
「そう急かすなよ。外野がうるさいんじゃ、思い出話もできないんでね。わざと遅らせたのさ。そろそろ来る頃だ、少し待ってもらおうか」
目の前に立つ左右どちらでもなく、別の奴ということらしい。
いったいどんな奴が来るのだろうか?
しばらく待たされると、いちいち数えるのをやめるほどの賊がやってきた。
やって来たのは三十を超えるだろう。
——まさか、な——
嫌な予感がした。
しかし、いまさらどうにもしようがない。
予感通りであったとしても、俺から打てる手はない。
「こいつを討ち取った奴には、約束通り懸賞金をやるぞ!」
ロデリックがや集まった賊の前でそう宣言すると、「おお!」「さすが兄貴だ!」「俺の番までとっておけよ!」などと声があがり、早朝とは思えない盛り上がりをみせている。
「どうだ、総当たりよ。あんたもこんな田舎に落ちぶれたら、どうせロクな稽古をしてないんだろ? 感謝してくれよ。殿下が昔を取り戻すため、親切にも俺が手を貸してやろうってんだ。大陸一とも言われたオーウェンの名を取り戻し、新たな伝説を作ってみたらどうだ?
あんたが助かるには、全員倒すしかない。これ以上ないわかりやすさだろう。見ている俺も十分に楽しめる娯楽よ。こんな場所じゃ、客を入れて稼げないのが残念だが」
嫌な考えほど、現実になる。
いったいどこに正々堂々があるというのか。
ザッと三十人抜き……
まだ太陽は昇りはじめたばかり。
ケリがつく頃には、どこまで上がっているだろうか?
長い戦いになりそうだった。
「よほど俺が怖いとみえるな。まあ、屍の山を築いて伝説になるのも悪くない」
「伝説か、いい響きだよな。そうそう、大事なことを教えてやるよ、オーウェン殿下。
知ってるか? 伝説ってのは、死んだ人間のためにある褒め言葉なんだぜ。つまりあんたの未来は決まってる、運命を知らずのうちに自覚しているってことだな。明日は誰に会うとかなんとか言ってたが、心配する必要はない。いつでも、誰にでも、好きに会えるようになるぜ。ただし、地獄の底でな」
——言われなくても、わかっている——
「いいかおまえら! 栄えある一人目として挑む奴が勝てば、懸賞金の九割をくれてやる! 二人目は八割五分、三人目は八割。この最高のゲームに挑む、一人目の命知らずはどいつだ!」
賊の群れは興奮し、豚を殺すような騒ぎ。
命懸けだということも忘れ、金への欲望を撒き散らしている姿は見るに堪えない。
賊の誰もが我先にと名乗り出て、順番がなかなか決まらない始末だった。
そんなバカ騒ぎの一方で、俺は一人孤独。
そのせいか、ひどく冷静になっていた。
正直、総当たりという事実を知らされたとき、死の予感が現実のものとなる恐怖を感じていた。
恐怖のせいか、賊の騒ぎに熱を奪い取られたのか、だんだん頭も冷えてくる。
それでいて、身体の奥底にある芯の熱は、しっかりと残っていた。
——あのロデリックが、そんな大金を部下に気前よく分け与えるはずもない。奴も恐れているのだ、この俺を。だから万にひとつでも俺と剣を交えぬよう、仕掛けに凝った。間違いない。ならば、いいだろう。やることは単純。賭け金に応じたリスクを、俺の前に立ち塞がった者の命で教えてやる。わかりやすく、死体を並べてな——
すっかり準備のできた俺は、「いつまで待たせる!」と一喝した。
もう好きにやらせはしない。
「俺はシャーウッド村のウッド。真の名をマルセデスに生まれたオーウェンという。しかし、そんなことはどうでもいい。身の程知らずの愚か者どもめ! 愚図愚図するな。この俺を待たせるなど、百年早いわ。とっととかかって来い!」
そんな俺に腹を立てたのか、「俺たちに指図するな!」と威勢よく叫ぶ男が、俺に向かって来た。
「まず一人!」
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ついに、決戦が始まった。
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