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第四話 来客
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ダラダラと時間が流れていって、気づけばもう日も沈む頃合い。そろそろかと思えば、案の定インターホンの音が家中に鳴り響いた。
「おっ、時間だ。そんじゃ、出て来ます!」
「……なぁ」
立ち上がった彼女の手を、おもむろに掴む。
「うん? なんだい?」
「今日は、僕も一緒に居ていいか?」
彼女が、目を丸くする。いつもは仕事のお客さんが来ても、僕は顔を出さないのが普通だからだ。
「珍しいね。どういう風の吹き回し?」
「……気分」
本当のことだ。他人に会うのは苦手だが、一度くらいは彼女の仕事ぶりを見てみたかった。
「気分か! そっか! それは実に素晴らしい動機だよ! 是非ともおいで! 幸い、七伊さんはそういうの気にしない人だから!」
僕の背中をバシバシ叩いて、彼女はインターホンに出る。そして、僕を玄関先まで引き摺って——もとい、連れて来てもらった。
そして彼女が玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは、黒のスーツをピシッと着こなした老年の男性だった。
「いらっしゃい! 遠かったかな?」
「——いいや。景観もよくて、良い運動になったよ」
「そっか。上がっていく? 七伊さん。急いでないなら粗茶とか出すけど」
「お構いなく。長居は、彼に悪いのでね」
男性——七伊さんが、チラリとこちらを見た。
「りょーかい。それじゃ、サクッと終わらせるよ。支払いはいつも通りでよろしくね」
「分かっているさ」
彼女の尻尾のような何かが現れて、七伊さんの身体を包み込む。いつもは自分がされていることを、改めて外から見ると変な気分になる。
「んー……揉め事の味。相変わらず人の運が無いね、貴方は。ちょっと優し過ぎるんじゃない?」
「そうは言われてもね。何しろ骨の髄までの筋金入りだ、簡単には曲がらんよ」
「ま、だろうね。ほい……一応終わり。保! ちょっと取ってくるもの出来たから、ここよろしく」
「うぇ? いやちょっと……」
彼女が家の奥に歩いて行く。そうして、僕は七伊さんと二人で玄関に取り残されてしまった。
「……君」
「はい!? な、なんでしょう……?」
「保君……だったかな? 学生さんかね?」
優しく、七伊さんが笑む。どうやら、あたふたしていた僕に気を遣ってくれたらしかった。
「はい、大学生です。まあ、休学中ですけど……」
「ははは、そうかそうか。ところで……申し訳ないのだがそこに座っても良いかね? さっきはああ言ったものの、少し疲れてしまってね」
「あ……はい。もちろんです。気がつかなくて、申し訳ありません」
「君が謝ることではないよ。では、ありがたく座らせてもらうおうかね」
ふうっと息を吐き、七伊さんは玄関先に腰を下ろした。
「よっと……年を取るとどうも、足腰が弱くなってかなわんよ。昔はそれこそ、華鐘君と駆け回れる程度には丈夫だったのだが……」
「……彼女とは、長い付き合いなんですか?」
「そうだね……物心ついた時からだから、もう六十年以上という事になる。もし興味があればその辺の話もするが、どうかね?」
彼女のお客さんから聞ける話。それも生まれるよりずっと前、僕の知らない彼女の事。礼儀がなっていないかもしれないが、遠慮より好奇心の方が勝ってしまった。
「……是非、聞かせて下さい」
「では隣へおいで。君も、立ったままでは疲れるだろう?」
「失礼します」
ゆっくりと、七伊さんの隣へと座る。いつ以来かは分からないが、胸が高鳴っているのがはっきり分かった。
「おっ、時間だ。そんじゃ、出て来ます!」
「……なぁ」
立ち上がった彼女の手を、おもむろに掴む。
「うん? なんだい?」
「今日は、僕も一緒に居ていいか?」
彼女が、目を丸くする。いつもは仕事のお客さんが来ても、僕は顔を出さないのが普通だからだ。
「珍しいね。どういう風の吹き回し?」
「……気分」
本当のことだ。他人に会うのは苦手だが、一度くらいは彼女の仕事ぶりを見てみたかった。
「気分か! そっか! それは実に素晴らしい動機だよ! 是非ともおいで! 幸い、七伊さんはそういうの気にしない人だから!」
僕の背中をバシバシ叩いて、彼女はインターホンに出る。そして、僕を玄関先まで引き摺って——もとい、連れて来てもらった。
そして彼女が玄関の扉を開けると、そこに立っていたのは、黒のスーツをピシッと着こなした老年の男性だった。
「いらっしゃい! 遠かったかな?」
「——いいや。景観もよくて、良い運動になったよ」
「そっか。上がっていく? 七伊さん。急いでないなら粗茶とか出すけど」
「お構いなく。長居は、彼に悪いのでね」
男性——七伊さんが、チラリとこちらを見た。
「りょーかい。それじゃ、サクッと終わらせるよ。支払いはいつも通りでよろしくね」
「分かっているさ」
彼女の尻尾のような何かが現れて、七伊さんの身体を包み込む。いつもは自分がされていることを、改めて外から見ると変な気分になる。
「んー……揉め事の味。相変わらず人の運が無いね、貴方は。ちょっと優し過ぎるんじゃない?」
「そうは言われてもね。何しろ骨の髄までの筋金入りだ、簡単には曲がらんよ」
「ま、だろうね。ほい……一応終わり。保! ちょっと取ってくるもの出来たから、ここよろしく」
「うぇ? いやちょっと……」
彼女が家の奥に歩いて行く。そうして、僕は七伊さんと二人で玄関に取り残されてしまった。
「……君」
「はい!? な、なんでしょう……?」
「保君……だったかな? 学生さんかね?」
優しく、七伊さんが笑む。どうやら、あたふたしていた僕に気を遣ってくれたらしかった。
「はい、大学生です。まあ、休学中ですけど……」
「ははは、そうかそうか。ところで……申し訳ないのだがそこに座っても良いかね? さっきはああ言ったものの、少し疲れてしまってね」
「あ……はい。もちろんです。気がつかなくて、申し訳ありません」
「君が謝ることではないよ。では、ありがたく座らせてもらうおうかね」
ふうっと息を吐き、七伊さんは玄関先に腰を下ろした。
「よっと……年を取るとどうも、足腰が弱くなってかなわんよ。昔はそれこそ、華鐘君と駆け回れる程度には丈夫だったのだが……」
「……彼女とは、長い付き合いなんですか?」
「そうだね……物心ついた時からだから、もう六十年以上という事になる。もし興味があればその辺の話もするが、どうかね?」
彼女のお客さんから聞ける話。それも生まれるよりずっと前、僕の知らない彼女の事。礼儀がなっていないかもしれないが、遠慮より好奇心の方が勝ってしまった。
「……是非、聞かせて下さい」
「では隣へおいで。君も、立ったままでは疲れるだろう?」
「失礼します」
ゆっくりと、七伊さんの隣へと座る。いつ以来かは分からないが、胸が高鳴っているのがはっきり分かった。
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