3 / 4
第三話 春の続き
しおりを挟む
買ってきたものを整理した後、僕と彼女は取り敢えずリビングの真ん中に鎮座するコタツに潜った。
季節感には全く沿わないが、すぐ隣で溶けているこいつがどうしてもしまわせてくれなかった。こんな奴が春を感じるなどとは笑わせる。
「あー、疲れた! 保ー、おミカンとってー!」
「はいはい」
「ありがと。はい、あーん!」
「子供扱いもするな。自分で食うよ」
「ちぇっ……せっかくのまじないが……」
「この間も効かなかったろ。というか——」
狭い。とにかく狭い。何故四面あるコタツの同じ面で、しかもほぼゼロ距離で二人ひっついていなければならないのか。
「狭いとか言わないで、そばに居てよ。ノリノリでとんでもないジャンクフード食べちゃったもんだからさぁ……身体がだるくってだるくって……!」
「僕の小指は脂ものか。相変わらず、味の基準がよく分からん。というか、身体がだるいとか気にするの珍しいな。この後予定でもあるのか?」
「あるよー、お仕事。夕方頃だったと思うけど……黄昏ー! リストちょーだい!」
コンコンと、窓をノックする音がする。
身体の構造上どうやっているのかはいつまで経っても分からないが、鍵の開けてある窓を翼で丁寧に開きながら、嘴で板を咥えた真っ黒の鳥、『黄昏』が部屋の中に入ってくる。
「——こちらです、華鐘様」
「いつもご苦労! お前もおミカン食べる?」
「遠慮します。どんな呪詛が込められているか分かったものではありませんので」
「あっそ。そんで今日は……あー、十八時ちょうどに七伊さんか。今は——」
十五時を十分程回ったくらいか。時間の余裕は十分にあるだろうな。
「余裕だね。ほいっ」
「いつも言っておりますが、大切な顧客リストを放り投げないで下さい。それでは、これにて失礼します。保様、我が主人のワガママに付き合う必要はありませんよ。ウザければ遠慮無く罵倒し倒してぶん殴って下さい。それでは——」
黄昏が飛び去って行く。彼はかなり長い間振り回されている従者の一員らしく、彼女にこき使われている。
まあお返しとばかりに毎回嫌味を吐いて行くので、お互い様という気がしないでもない。
「余計なお世話だよ! 第一、君は喜んでるよね? 喜んでなくてもひっつくけど」
「だろうな。まあ……」
「満更でもない? だよね。君が意外とこういうの好きなの、知ってる」
「……余計なお世話だよ。コタツ片すぞ」
「あー! ズルい! それだけは勘弁してよー……お仕事終わったら、いいもん食べに連れていってあげるからさぁ!」
彼女が、抱きついてくる。全身に伝わる柔らかい感触と、心の芯まで落ち着く匂い。
家族とはこんなものだっただろうか。なんとなく癪だが、これはこれで悪くないと思っている自分が居るのも確かだった。
季節感には全く沿わないが、すぐ隣で溶けているこいつがどうしてもしまわせてくれなかった。こんな奴が春を感じるなどとは笑わせる。
「あー、疲れた! 保ー、おミカンとってー!」
「はいはい」
「ありがと。はい、あーん!」
「子供扱いもするな。自分で食うよ」
「ちぇっ……せっかくのまじないが……」
「この間も効かなかったろ。というか——」
狭い。とにかく狭い。何故四面あるコタツの同じ面で、しかもほぼゼロ距離で二人ひっついていなければならないのか。
「狭いとか言わないで、そばに居てよ。ノリノリでとんでもないジャンクフード食べちゃったもんだからさぁ……身体がだるくってだるくって……!」
「僕の小指は脂ものか。相変わらず、味の基準がよく分からん。というか、身体がだるいとか気にするの珍しいな。この後予定でもあるのか?」
「あるよー、お仕事。夕方頃だったと思うけど……黄昏ー! リストちょーだい!」
コンコンと、窓をノックする音がする。
身体の構造上どうやっているのかはいつまで経っても分からないが、鍵の開けてある窓を翼で丁寧に開きながら、嘴で板を咥えた真っ黒の鳥、『黄昏』が部屋の中に入ってくる。
「——こちらです、華鐘様」
「いつもご苦労! お前もおミカン食べる?」
「遠慮します。どんな呪詛が込められているか分かったものではありませんので」
「あっそ。そんで今日は……あー、十八時ちょうどに七伊さんか。今は——」
十五時を十分程回ったくらいか。時間の余裕は十分にあるだろうな。
「余裕だね。ほいっ」
「いつも言っておりますが、大切な顧客リストを放り投げないで下さい。それでは、これにて失礼します。保様、我が主人のワガママに付き合う必要はありませんよ。ウザければ遠慮無く罵倒し倒してぶん殴って下さい。それでは——」
黄昏が飛び去って行く。彼はかなり長い間振り回されている従者の一員らしく、彼女にこき使われている。
まあお返しとばかりに毎回嫌味を吐いて行くので、お互い様という気がしないでもない。
「余計なお世話だよ! 第一、君は喜んでるよね? 喜んでなくてもひっつくけど」
「だろうな。まあ……」
「満更でもない? だよね。君が意外とこういうの好きなの、知ってる」
「……余計なお世話だよ。コタツ片すぞ」
「あー! ズルい! それだけは勘弁してよー……お仕事終わったら、いいもん食べに連れていってあげるからさぁ!」
彼女が、抱きついてくる。全身に伝わる柔らかい感触と、心の芯まで落ち着く匂い。
家族とはこんなものだっただろうか。なんとなく癪だが、これはこれで悪くないと思っている自分が居るのも確かだった。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる
九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。
※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる