厄喰らいの人外彼女と『君』

佐座 浪

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第二話 冬の日

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 僕が彼女と出会ったのは、去年十一月の中頃。連日続いた暖気が嘘のような、いやに冷えた日の事。

 受験勉強の息抜きにと外に出た進条少年は、川沿いの遊歩道にポツリと設置されたベンチで一人、凍えていた。

 時刻は十七時を五分程回って、辺りは黄昏の時間。

 ヒーターの浴び過ぎで半ば茹で上がっていた僕は、日没にまで頭が回らず、部屋着に薄手の黒のコートを羽織っただけの状態で、そこに居た。

 寒さというものは日が沈むと一段と厳しくなるもので、ヒュウヒュウと追い討ちをかけるように吹く風と相まって、体感温度は真冬以上。

 おまけに空を見れば、ちらちらと降り始めたフライングもいいところの雪。いよいよ不味いか——そんな風に考えていた僕に、近づく気配が一つ。

「——うぇ……殺しの味……! なあなあ、君。ちょっと良いかな?」

 ——後ろから、声がした。寒さが消える。比喩でなく暖かい声だったと、そう思った。

「……なんです?」

 やけに重い首を動かして後ろを見ると、赤を基調としたチェックのマフラーを巻いた女性が、困り顔でベンチの背に頬杖をついていた。

「なんかさ、人に恨まれるような覚えってない? 例えば一億円の宝くじが当たったとか、何をやってもトントン拍子に上手く行くとか……」

 唐突な事だ。瞳が嘘に濁って居ないのも相まって、不気味この上ない。

「生きてる事とか?」

 思ったまま素直に答えると、女性は端正な顔を歪めて、その細い指で僕の頬をつつき始めた。

「んー……? ちゃんとハリはあるね。見た目以上に老けている訳じゃなさそうだ。君さ、今とんでもない事口走った自覚ある?」
「何か、おかしいですかね?」
「おかしくは無いよ。無いけど……ま、隣座るよ」

 綿毛のようにアクロバティックに椅子の背を乗り越え、女性が僕の隣へと座る。

 その時だ。彼女から伸びる尻尾のような何かが、自分に巻きついているのが分かったのは。

「これ……なんです?」
「なんて言ったらいいんだろうな……ま、尻尾みたいなものかな。もふもふって言うんだっけ? 暖かいでしょ。くすぐったいから、あんまりつんつんしないでね」
「……そうですか」

 追求はしなかった。絵空事のようでも、在るものは在るのだ。これ以上聞くのは時間の無駄というもの。

「慌てないんだ。面白くないけど……興味深い! 成る程成る程! こういう形もあるのか!」

 仮称尻尾が小刻みに動く。冷静に考えれば多少気味が悪いが、感触そのものは非常に心地良い。

「うん! 率直に言おう! 私は君が欲しい!」
「構いませんけど」
「早過ぎ!? これから金銀財宝、無病息災携えて、デメリット込みでじっくり交渉するつもりだったのに!」
「断る理由も価値もありませんから」
「そうかい! なら容赦なく頂こう! 私は悠禅 華鐘。君の名前は?」
「進条 保です」
「保だね? よろしく! それじゃあ早速君の家に行こう! せっかくだ! 君の心までじっくり頂いてやろうじゃないの!」
「……なんでだよ」

 ——これが、このふざけた会話が僕達の始まり。

 それから年を超えて、受験を超えて、冬を超えて——いまに至るのだ。
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