異世界からきた青年医師に恋する剣士の こじらせ片想い〜紫になるまで〜

素麺えす

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㉗他の人にはしないで

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 部屋には、足を投げ出して1人掛けの木の椅子に座っているロティルの姿があった。視線を床に落として、気まずそうな顔している。カヤミは白衣のポケットに片手を入れ、立ったまま見下ろす姿勢で話かけた。

「珍しいな、怒ってるの」
「⋯⋯ごめん、 あんまり⋯⋯見せたくなかったのに」
「そんなのは構わないけど」

 どちらかというと人当たり良く温厚な性格であるロティル。しかし、カヤミに何かする人や過去に関する事柄に対しての沸点は、かなり低い。不機嫌そうにしたり攻撃的な態度をカヤミの前で見せたことは、これまでなかった。


カヤミは 俺が ちょっと不貞腐れてる程度だと思っているんだろうな


「⋯⋯カヤミはさ、子どもと接する機会が多かったりした?」
「⋯⋯ 小児科の実習はあったし、子どもの世話の手伝いみたいのも結構行かされた けど⋯⋯?」
「あぁ、なるほど」

 ロティルの話の脈絡が全くわからない⋯⋯そんな顔で不思議そうにカヤミは質問に答える。

「なんで、いきなり そんな話⋯⋯」
「よく子どもをあやすみたいに、俺を慰めたり優しくしてくれるから。最初に診察してもらった時もさ」
「⋯⋯それって やっぱり 変⋯⋯かな」
「違う違う! そ、そういう訳じゃ⋯⋯!」

 カヤミの行動を否定してしまったように伝わり、ロティルは慌てて両手を見せながら首をブンブンと横に振った。するとカヤミは自分の腕をさすりながら口を開く。

「俺⋯⋯実際、人との距離感ていうのが よく わかってないのかもしれない。どう接するのが丁度いいのか とか。患者以外で関わるとか、なかったし⋯⋯」
「⋯⋯ん」
「不安にしてる人には、触れて体温が伝わる方がいいかな とは思ってる⋯⋯」
「頭撫でたり、抱きしめたり⋯⋯俺にしてくれたこと ?」
「触れて手を当てる⋯⋯〝手当て〟の由来らしい。
安心させたかっただけなんだけど⋯⋯
子ども相手じゃないのに、おかしいよな⋯⋯」
「俺は全然いい。近い関係になれたみたいで」
「うん⋯⋯」

 時折カヤミを見てはまた下を向く を繰り返し、ロティルは落ち着かない。身体の前で組んだ手をいじりながら話を続ける。

「けど さ⋯⋯他の人が俺みたいとは限らないから ね? 
それが嫌な人もいるかも⋯⋯」
「! ⋯⋯それくらいは わかってる」

 ロティルの発言に対して、カヤミが少しだけ眉をしかめた。

「じゃあ、俺じゃない別の親しい人が泣いてたらどうするの? 同じことするんじゃないの⋯⋯?」
「⋯⋯っ」

 質問攻めに、カヤミは声を詰まらせた。視線を僅かに上げたロティルが左手を伸ばし、カヤミの右手を握りしめる。

「あ」

 今まで無意識の出来事や、危険回避等のための咄嗟の  やむを得ない行動以外でロティルの方から先に触れたことは今までない。

「これからも俺だけに してよ⋯⋯他の人には⋯⋯しないで」
「!」
 
 ロティルがカヤミを制するような言葉を発した。口を尖らせ、俯いて今度は横に目をそらす。自分で言っていて恥ずかしい⋯⋯という空気で満ち満ちている。


みっともないくらい牽制してる
だって俺以外のヤツに あんなの⋯⋯されるなんて冗談じゃない
カヤミへの好意を匂わせる危険人物も出てきたし
こんなこと わざわざ本人に伝えるなんて
余裕が全くない証拠だ


「⋯⋯もしかして 妬いてんの?」
「⋯⋯!」
「あの患者が騒いでるから、気を揉んでるんだ?」
「⋯⋯やたらと、カヤミのこと言うから」
「あぁ⋯⋯」

 カヤミは呆気にとられた顔で、繋がれた手をジッと見たあと、ふぅ と息を吐く。ただのワガママだと自分でも認識してるロティルが、自虐気味にポツリと言った。。

「俺って⋯⋯手がかかって面倒くさい⋯⋯?」
「本当だよな。いい大人なのに。でも子どもとあんまり変わらなくない? 妬いて甘ったれて、しょうがない」
「う」
「一番側にいるくせに心配し過ぎ。 
あんなこと⋯⋯いくら親しくても、誰これ構わず するわけないだろ。人のこと、何だと思ってんの」
「ゴメン⋯⋯   ⋯⋯!??」

 怪訝な顔のカヤミに まくし立てられ、ロティルは怯んで たじろぐが⋯⋯言葉の意味を考え、動きが止まる。


これは⋯⋯怒ってるけど 俺以外にしないから心配すんなって意味でいいの⋯⋯?


 そんな やり取りの中、掴んでいた手に軽くだがカヤミから握り返されたような感覚を覚えた。

「⋯⋯⋯⋯あんなの  したこと自体、初めてなのに」
「え⋯⋯? カヤミ 今なんて⋯⋯ あ」

 小さく呟いたカヤミは一歩後ろへ下がるとスッと手を離した。

「⋯⋯何でもない。
⋯⋯今日の夜あたり、勉強見てもらってもいいですかね~?」
「あぁ うん、もちろん。だいぶ期間が空いちゃって
⋯⋯って、何で敬語になってんの!?」
「何となくですけど?」

 問いかけるロティルをカヤミはツンと冷たくあしらうような態度をしてから、クスクスと妖しく笑う。翻弄される事でさえ、 またロティルの胸を締め付ける。


つい さっきまであんなにイライラしてたのに
そんなのは もう カヤミに溶かされてしまった
身体の怪我も 心が穏やかじゃなくなった時も
いつも治してもらってる

俺からは⋯⋯?
俺はカヤミの『傷』に何がしてあげられる?
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