異世界からきた青年医師に恋した剣士が こじらせ片想いを成就させるまで     【恋煩い編】

素麺えす

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第10章 −青い治癒−

64 ずっと我慢

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 階段を登って、カヤミの部屋の扉をそっと開け、音を出さないように気をつけながら中へと入る。ベッド横のチェストに持ってきた小鉢を置き、前かがみ気味に椅子に腰を掛けた。

 横向きになり、膝を曲げて丸まるような姿勢で眠っているカヤミ。枕元へ落ちていた濡れタオルはロティルが回収し、移動させた。
 寝顔だと ことさら際立つまつ毛の長さと艶。額へ かかる柔らかな青色の髪を左手の指先で撫で、耳の方へと流してやる。
 熱で いつもより赤みがさす白い頬をその手で包み込むと、口唇へ触れたい気持ちを抑えているのか、親指の動きだけが ぎこちなく固まった。


昨日の晩も見たばっかりの寝顔なのに何度でも
見惚れる

⋯⋯熱にうかされたような って例えがあるように
発熱してる時の顔って色っぽいんだよな
吐息が ちょっと乱れてて あの時・・・みたい⋯⋯


「⋯⋯ん⋯⋯ ロティ ル」
「あぁ⋯⋯ごめん、やっぱり起きちゃった⋯⋯?」
「いいよ、俺が勝手に部屋に来ていいって言ったんだから⋯⋯けっこう寝れたし」
「ブドウ少しだけ持ってきたんだけど⋯⋯食べる? 皮も食べられるやつ」
「喉渇いたから欲しい⋯⋯ 口に入れて」
「⋯⋯⋯⋯っ」

 寝起きと熱の気怠さで、とろん とした目のカヤミに食べさせて欲しいと お願いをされる。ロティルはチェストに置いた小鉢のブドウを一粒取ると、口を開けたカヤミの口内へ、優しく押し込んだ。
 濡れた瞳と口唇と、少しだけ見えた舌先、薄紅に色づいた首筋、鎖骨⋯⋯部屋に入ってからロティルの視線は、ずっとカヤミに釘付けにされたままでいる。

「ありがと  ⋯⋯おいしい」
「どういたしまして⋯⋯ 相変わらず自覚ないよね⋯⋯」
「⋯⋯何が?」


試しに口移しで あげてみたい なんて思わせる
ホント⋯⋯俺以外に絶対見せたくない⋯⋯!

今の関係だって他より充分 特別⋯⋯
これで満足してなきゃダメだ
⋯⋯そうは思ってるけど


 艶っぽい拷問のような時間⋯⋯ブドウをカヤミに食べさせ切って、ロティルが心配事を口にした。

「カヤミの熱が出たのって、昨日の俺の治療のせい⋯⋯?」
「別に寒くはなかったけど。どちらかと言うと温かかった」

 シャツをはだけたカヤミに上半身を脱いだロティル、その状態で抱き合っていた昨日。

「え と⋯⋯うん、その⋯⋯服が どうとかではなくて」
「あ、 そっちの話じゃないのか」

 自分だって、むしろ熱かった と思いながら赤らむロティル。コホンと咳払いをひとつして、また説明をする。

「変わった事したから、俺の右眼の悪いものがカヤミに影響したのかな⋯⋯って⋯⋯」
「そんなことないよ」

 寝っ転がっているカヤミがロティルの手に触れた。

「吸い取ってるよう感覚は特に感じない。ただ色を消して上塗りしてるみたいな⋯⋯俺に何かが移行してるなら今までだって体調崩したりしてたかも。でも、そんなのなかったから今回は たまたまだよ」
「⋯⋯なら、いいけど」
 
 ロティルは まだ不安げな顔で、重なった手を見つめている。

「もし、ロティルが言うみたいな⋯⋯俺の身体に呪いの毒を移して浄化させるって⋯⋯そういう治療方法だったら?」
「⋯⋯命がけなら絶対させない。死ぬことがなくても、カヤミが苦しむ とかは受け入れられない⋯⋯」

 例え話でもロティルは真剣に、辛そうな表情をして 今もカヤミの手に触るのを躊躇してしまう。

「俺が ちょっとだけ我慢すれば、右眼が必ず治るって わかってても?」
「別の方法を探すよ。我慢はカヤミじゃなくて、俺が すればいい」
「⋯⋯」

 カヤミは目を閉じて黙ってしまった。しばらくすると、瞼を開け、青紫色の大きな瞳でロティルをジッと見続ける。

「カヤ ミ⋯⋯?」
「ロティルは⋯⋯俺に頼るのは嫌だと思ってるのか?」
「え⋯⋯」

 ロティルが口を僅か開いて固まり、視線はカヤミではなく再び手の方へ向き、赤い前髪で顔を隠すような形になった。

「嫌⋯⋯とは違うけど⋯⋯ 俺は自分が頼られたくて⋯⋯」
「俺がロティルに悪いからって、我慢してたらどう思う?」
「言ってほしい。申し訳なさなんて感じなくていいから、全部話して⋯⋯もっと俺を頼ってほしい」
「うん⋯⋯  俺も同じなんだよ?」
「!」

 カヤミの指が髪先に触れ、ロティルは顔を上げた。優しい眼差しが向けられている。

「どっちか片方じゃなくて、同じでいいだろ。
助けて、助けられて⋯⋯精一杯自分が できることをしてあげれば」
「⋯⋯そうだね」

 少し目を潤ませて、腑に落ちた様子を見せるロティル。自分だけが頑張れば⋯⋯と思っていた。頼られないのは嫌だと。同じ思いをカヤミが持つ、そんな簡単なことに考えが至らなかった。

「できるのに何もさせてもらえないのも辛いと思うし、気を遣われ過ぎると、頼りにされてないみたい」
「うん⋯⋯」
「あと我慢ばっかりされるのも。
まぁ、これは⋯⋯俺も人のこと言えないけど⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯我慢⋯⋯か」

 ロティルがその言葉を呟き何か含んだような複雑な顔になった。

「ロティルは、溜め込んで自分を追い詰めるクセがあるからな⋯⋯ 遠慮して部屋に来ないかと思った」
「⋯⋯カヤミの顔は見たいから」

 ロティルはカヤミの手を両手で包み込むと自分の額にあて、祈るような格好で想いを込める。カヤミからは、その表情は伺い知ることはできないが、切なく沈痛な面持ちだった。


でも俺は ずっと我慢しなきゃいけないんだよ
何でも伝えたいけど
言えないことだってある⋯⋯



 
 カヤミの熱は次の日には下がり、平穏な日が2日過ぎた ある朝⋯⋯


やっぱり起きてカヤミが隣にいないと寂しい
⋯⋯早く  また泊まりに来てくれないかな


 起床し、あくびをしながら階段を降りて行ったロティル。診察時間は始まって しばらく経っているはずだが、白衣を来たカヤミの背中が食卓に見える。

「あれ? カヤミ⋯⋯   !」

 カヤミの正面の席に誰か見える。階段にいるロティルに気がついて顔を横にひょこっと出してきた。水色の髪に焦茶の瞳。屈託のない笑顔で手を振ってくる。

「ロティルカレアさん 久しぶり~」
「レンデュラ⋯⋯! 何しに⋯⋯」
「何って⋯⋯決まってるじゃん。
カヤミさんに会いに来たんだよ ね! カヤミさん」

 ロティルを煽るように甘えた声でカヤミの名を呼ぶレンデュラ。

「⋯⋯元気になったから お礼しにきたって⋯⋯」
「⋯⋯っ」

 苦笑いのカヤミ。ロティルは、まだ朝食前だというのに苦虫を噛みつぶしたような顔にさせられた。
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