忌み子と騎士のいるところ

春Q

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Ⅲ 別離

4.自慰★

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 その晩、ルカは寝つけなかった。自問自答が頭の中でぐるぐる回っている。

 イグナス領に行く道でジェイルに会えるだろうか。もし会えたら彼は喜んでくれるだろうか。喜ばないのではないだろうか。名誉をかすめ取った化け物であるルカを、忌まわしく思っているんじゃないだろうか。

 ルカは枕に顔を埋めて泣くのを耐えた。問いかけは止まらない。ジェイルは怪我をしているのだ。手当はできたのだろうか。お腹をすかせていないだろうか。こうしている今も暗いところで苦しんでいたらどうしよう。

 助けに行きたい。でも、彼はルカの顔などもう見たくないのだ。いったい、どうしたらいいのか、もうわからない。

 ルカはすすり泣いた。ふかふかした寝台など打ち遣ってジェイルのテントに戻りたい。もう一度そこで彼と寄り添いたいのだ。言葉を交わして、抱き合って、それから。

 口づけがほしかった。

 いつも、はじまりはごく軽かった。触れて離れたものを追うと、舌で唇を舐められる。何をされるかわかっているのに、ルカは口を薄く開けてしまう。舌を入れられると、ルカの唇は花のようにますます開いた。

『気持ちいいか、ルカ』

 鼓膜に蘇る囁きにルカはびくびくと感じた。思い出しただけなのに、寝台の中で性器が痛いほど反応してしまう。

 ルカはずっと、精を漏らすのが怖かった。修道院で精通を迎えた時にひどく折檻され、性器に拘束具を付けられたことがある。

 子供の性器を封じる処置は廃れたはずの因習だった。心身の発達に悪影響を及ぼすことをあえてしたのは、ルカが万が一にも子種を残してはならない立場だからなのだろう。

 器具は別の修道院に移る時に外されたが、羞恥と痛みの記憶は残り続け、ルカの性欲は消え失せたかに思われた。ジェイルと口づけていて反応を示した時は、息が止まるほど狼狽した。恥ずかしかった。忌み子の分際で、こんなに性欲をあらわにして、汚いものを彼に押し付けようとしている気がした。

 だが彼は『いいんだ』と、ルカを許した。

『おまえは、もっと気持ちよくなるべきなんだ。俺がそうしてやる』

 その時、ルカはその許しを信じた。茹だるような湿気をはらんだテントの中で、口づけで喘ぎを殺しながら射精に導かれる。それを救いのように思い出してしまうのは、ルカが罪深い忌み子だからなのだろうか?
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