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Ⅲ 別離
6.旅路
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イグナス領までは徒歩で十日ほどかかる。至る山道は悪路でまだまだ雪深い。この旅はナタリアが元老院をまとめるまでの時間稼ぎの意味合いが強いのだろうとルカは思った。
公務のため三名の近衛騎士も随行する。
大柄な隊長格の男に、見習いの若者、それに腕利きの新入りだという無口な男。
彼らはあくまで任務としてルカに接した。会話は最低限、頭から爪先までを純白の甲冑で覆って顔を見せようともしない。無口な騎士は特に忌み子が嫌いな様子なので、ルカも彼にはなるべく近寄らないようにした。
髪と目の色を隠すための頭巾を被り、近衛騎士を連れたルカは、人目には司祭に見えるようだ。祝福を求められる度、ルカは懸命な祈りで応えた。もちろん彼らにジェイルのことを尋ねるのも忘れない。だが、確かな情報は何一つとして得られなかった。
途中で寄った町では「汚名を恥じて死んだらしい」と聞いた。
ルカは橋にいた。
そこから濁った川を見下ろし、死ねないかなあ、と思う。ナタリアは悲しむかもしれないが、本当は彼女にとってさえルカはいない方がいい。忌み子に似ていることは王女の評価を損なうからだ。
溺死は、試したことがなかった。死ねるかもしれない。いや、きっときっと死ねるだろう。女神が憐れみをかけてくれるのならば。
だが、欄干に身を乗り出した瞬間、ルカは物凄い力で後ろに引っ張られた。
ドサッと橋桁に尻もちをつく。
顔を上げるとそこに立っているのは、あの忌み子が嫌いな無口な騎士なのだった。
彼を見上げるうちルカはなぜか涙が出た。その感覚には既視感があって、だが、それが何かわからないまま、「す、すみません」と謝る。公務を果たさず死ぬのは、無責任だ。
他の騎士たちと合流してからも、ルカは彼の威圧的な視線を強く感じた。
ルカは申し訳なかった。彼は忌み子が嫌いなのに、任務だから死なせることもできないのだ。自分も公務に集中すべきだと思った。
公務のため三名の近衛騎士も随行する。
大柄な隊長格の男に、見習いの若者、それに腕利きの新入りだという無口な男。
彼らはあくまで任務としてルカに接した。会話は最低限、頭から爪先までを純白の甲冑で覆って顔を見せようともしない。無口な騎士は特に忌み子が嫌いな様子なので、ルカも彼にはなるべく近寄らないようにした。
髪と目の色を隠すための頭巾を被り、近衛騎士を連れたルカは、人目には司祭に見えるようだ。祝福を求められる度、ルカは懸命な祈りで応えた。もちろん彼らにジェイルのことを尋ねるのも忘れない。だが、確かな情報は何一つとして得られなかった。
途中で寄った町では「汚名を恥じて死んだらしい」と聞いた。
ルカは橋にいた。
そこから濁った川を見下ろし、死ねないかなあ、と思う。ナタリアは悲しむかもしれないが、本当は彼女にとってさえルカはいない方がいい。忌み子に似ていることは王女の評価を損なうからだ。
溺死は、試したことがなかった。死ねるかもしれない。いや、きっときっと死ねるだろう。女神が憐れみをかけてくれるのならば。
だが、欄干に身を乗り出した瞬間、ルカは物凄い力で後ろに引っ張られた。
ドサッと橋桁に尻もちをつく。
顔を上げるとそこに立っているのは、あの忌み子が嫌いな無口な騎士なのだった。
彼を見上げるうちルカはなぜか涙が出た。その感覚には既視感があって、だが、それが何かわからないまま、「す、すみません」と謝る。公務を果たさず死ぬのは、無責任だ。
他の騎士たちと合流してからも、ルカは彼の威圧的な視線を強く感じた。
ルカは申し訳なかった。彼は忌み子が嫌いなのに、任務だから死なせることもできないのだ。自分も公務に集中すべきだと思った。
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