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Ⅲ
4.あいたい
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首をかしげていると、宮古が笑いながら「適当に頼むからね」と言う。
タッチパネルを指で操作しながら、「ねえ卯月ちゃん」と話しかけてくる。
「卯月ちゃん、カレシと別れたの?」
「んーん」
「でも、会えないんだ」
「うん……」
じわっと目から涙がにじむ。会えないって言われると、会えないんだと思った。
「そうなの。会いたいね」
「……んん」
「会いたくないの?」
「うっ」俺は一度は耐えて「ううー」でも、顔を押さえて泣き出してしまった。
なんでそんな意地悪なこと言うんだ。会いたいに決まってるじゃないか。ずっとずっと寂しいのを我慢しているのに。
今だって俺は彰永に触られたい。ううん、触ってくれなくたって構わない、俺のことを見ないでもいい、彰永の背中とか、横顔とか、ぜんぶ覚えているから、夢にまで出てくる。なんで目が覚めちゃうんだろう。なんで彰永に会えない日がずっと続くんだろう。なんで俺、こんなところにいなくちゃいけないの。彰永がいてくれるところが俺の場所なのに。彰永にとっては、そうじゃないんだ。彰永がほしいのは子どもを産める卯月なんだから。
俺じゃない。
梅酒のお湯割りが来た。
人前で泣くなんて恥ずかしい。
でも、泣き止もうとすればするほどしゃくりあげてしまう。
宮古がくれた紙ナプキンで鼻をかんでいると、店長が、なにかお店の人に話しかけた。見ると男の人で、怖くなって慌ててうつむく。
「卯月ちゃん、彼氏に聞いてみたら?」
「え?」
「電話して、お話してみなよ」
「でも、だって」
「彼氏の方は会いたいかもしれないよ」
「だって……」
「怖い?」
「…………んん」
「じゃあ宮古ちゃんが聞いてあげる」
手を出されると、断れない。ポケットから出すと、一緒に画面を見てくれた。彰永の、電話番号。どきんと心臓が跳ねる。
「宮古、ここは男手を借りよう」
「おー。いいっすか」
「はは、お得意様ですから」
お店の人が、店長と宮古の友達みたいに、頭を掻いて笑う。なんのことかわからない。
でも宮古が貸してと言うから電話を渡す。宮古は店長に渡す。店長はお店の人に渡す。お店の人が彰永に電話をかける。なんで?
「ほら、卯月。お酒を飲んでいいよ」
「う、うん」
宮古に言われて、お湯割りを舐める。
甘いけど苦い。苦いのに甘い? 不思議な味が気になって、ぺろぺろと舐める。
彰永、キスして、彰永。
「卯月、彼氏が無事な声を聞かせてくれって」
いつの間にかグラスを膝の上で持って目を閉じていた。顔を上げると、店長がスマホを俺に向けている。横で宮古が笑う。
「誘拐犯とでも思ってんですかね」
耳に当てると彰永の声がした。彰永。
「あきなが」
『卯月っ、無事なのかっ? 何、何が起きてるんだよ、大丈夫なの?』
彰永が心配そうにしている。大丈夫、大丈夫だよ彰永。おまえを悲しませるようなことは、なんにも起きてないよ。幸せになってね。
俺はそう言わなきゃいけないのに「ううん。ううん」と首を振ってしまう。
大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ、彰永。
「あきながに、会いたいよぉ……」
ふぇええと泣き出した拍子にお湯割りを膝にこぼしてしまう。「おお」と店長が、怖いくらい大きな声を上げて手を叩く。
「おら卯月、脱げっ」
そんなこと言ったら、彰永が心配するのにげらげら笑っている。お店の人まで苦笑して「おしぼり持ってきますね」と言った。
案の定、彰永に聞こえてしまっていて耳元で悲鳴を上げている。違うのに、やだ、宮古が俺の手からスマホを取った。
「これでよし、と」
通話を切ってスマホを返してくれる。俺はぽかんとした。脱がなくていいのかな?
びくびくと店長を見ると「何?」といつもの調子で首をかしげた。
脱がなくていいみたい。よかったあ!
「ちょっと変わった酔い方してるな」
「限界っぽかったですしねえ」
みんな優しい。みんな大好き!
ニコニコして二人を見ると、宮古も一緒になって笑ってくれる。
「卯月ちゃん、最後はなに飲むの」
お品書きがさっぱり読めなかったので、宮古がまた、代わりに頼んでくれた。
タッチパネルを指で操作しながら、「ねえ卯月ちゃん」と話しかけてくる。
「卯月ちゃん、カレシと別れたの?」
「んーん」
「でも、会えないんだ」
「うん……」
じわっと目から涙がにじむ。会えないって言われると、会えないんだと思った。
「そうなの。会いたいね」
「……んん」
「会いたくないの?」
「うっ」俺は一度は耐えて「ううー」でも、顔を押さえて泣き出してしまった。
なんでそんな意地悪なこと言うんだ。会いたいに決まってるじゃないか。ずっとずっと寂しいのを我慢しているのに。
今だって俺は彰永に触られたい。ううん、触ってくれなくたって構わない、俺のことを見ないでもいい、彰永の背中とか、横顔とか、ぜんぶ覚えているから、夢にまで出てくる。なんで目が覚めちゃうんだろう。なんで彰永に会えない日がずっと続くんだろう。なんで俺、こんなところにいなくちゃいけないの。彰永がいてくれるところが俺の場所なのに。彰永にとっては、そうじゃないんだ。彰永がほしいのは子どもを産める卯月なんだから。
俺じゃない。
梅酒のお湯割りが来た。
人前で泣くなんて恥ずかしい。
でも、泣き止もうとすればするほどしゃくりあげてしまう。
宮古がくれた紙ナプキンで鼻をかんでいると、店長が、なにかお店の人に話しかけた。見ると男の人で、怖くなって慌ててうつむく。
「卯月ちゃん、彼氏に聞いてみたら?」
「え?」
「電話して、お話してみなよ」
「でも、だって」
「彼氏の方は会いたいかもしれないよ」
「だって……」
「怖い?」
「…………んん」
「じゃあ宮古ちゃんが聞いてあげる」
手を出されると、断れない。ポケットから出すと、一緒に画面を見てくれた。彰永の、電話番号。どきんと心臓が跳ねる。
「宮古、ここは男手を借りよう」
「おー。いいっすか」
「はは、お得意様ですから」
お店の人が、店長と宮古の友達みたいに、頭を掻いて笑う。なんのことかわからない。
でも宮古が貸してと言うから電話を渡す。宮古は店長に渡す。店長はお店の人に渡す。お店の人が彰永に電話をかける。なんで?
「ほら、卯月。お酒を飲んでいいよ」
「う、うん」
宮古に言われて、お湯割りを舐める。
甘いけど苦い。苦いのに甘い? 不思議な味が気になって、ぺろぺろと舐める。
彰永、キスして、彰永。
「卯月、彼氏が無事な声を聞かせてくれって」
いつの間にかグラスを膝の上で持って目を閉じていた。顔を上げると、店長がスマホを俺に向けている。横で宮古が笑う。
「誘拐犯とでも思ってんですかね」
耳に当てると彰永の声がした。彰永。
「あきなが」
『卯月っ、無事なのかっ? 何、何が起きてるんだよ、大丈夫なの?』
彰永が心配そうにしている。大丈夫、大丈夫だよ彰永。おまえを悲しませるようなことは、なんにも起きてないよ。幸せになってね。
俺はそう言わなきゃいけないのに「ううん。ううん」と首を振ってしまう。
大丈夫じゃない。大丈夫じゃないよ、彰永。
「あきながに、会いたいよぉ……」
ふぇええと泣き出した拍子にお湯割りを膝にこぼしてしまう。「おお」と店長が、怖いくらい大きな声を上げて手を叩く。
「おら卯月、脱げっ」
そんなこと言ったら、彰永が心配するのにげらげら笑っている。お店の人まで苦笑して「おしぼり持ってきますね」と言った。
案の定、彰永に聞こえてしまっていて耳元で悲鳴を上げている。違うのに、やだ、宮古が俺の手からスマホを取った。
「これでよし、と」
通話を切ってスマホを返してくれる。俺はぽかんとした。脱がなくていいのかな?
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脱がなくていいみたい。よかったあ!
「ちょっと変わった酔い方してるな」
「限界っぽかったですしねえ」
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