マジカルメタモルショータイム!

夜狐紺

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第1章 アニマル☆サーカス

第17話 星空と雪

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「!!!」
 な、なに、これ……?
 ステージの上で、ロコちゃんがわたしの手を握って。
 ロコちゃんと、フィーと、わたし――三人が繋がった、瞬間。
 ぴん、と、わたしのうさみみが立って。 
 自分の体の中に、見えない何かがなだれ込んで来て――。
 手を繋いだわたしたちの体が一瞬、浮き上がって……?!
 な、何がどうなってるの?? 体が熱い、でも、冷たい……?? 
 ぽん!
 と、女の子たちが、煙に包まれる。
 そして――。
「あっ……」
 フィーの声がする。
「これは……」
 ロコちゃんの声。
「す、すごい……」
 エゼル団長の声。
 三人とも……いや、テントの中に居る人たちみんなが、宙を見上げていた。 
 ロコちゃんと手を繋いだまま、顔を上げる。
「……!」
 あれは……雪?
 空中から、ゆっくりと落ちている物――女の子たちが変身した物は、きらきらと輝いていて、一人一人の手元に、ふわりふわりと落ちてきて……。
 そっと手を差し出せば、手の平に軽い感触。
 違う。雪……じゃない。
 それは、かわいらしい白色の包み紙でラッピングされた――お菓子。
 チョコレートに、カップケーキに、キャンディーに……かわいらしい沢山のお菓子の詰め合わせ。
 その包みが、サーカスのテントに居るみんなに一袋ずつ、配られているんだ。
 しかもそれはどれも、かわいらしい動物のシルエットをしていて……。
「あ……」
 嘘……じゃ、ない。
 これは……これは、もしかして……。
 これって、わたしの、考えた……。
 ……そうだ。ロコちゃんと手を繋ぐほんの一瞬前に。困っているフィーを見て……思い浮かんだんだ。アニマルサーカスなんだから、動物のシルエットのお菓子なんか良いんじゃないかな……って……。
 それと同じ物。同じ動物の形のお菓子に、女の子たちが……?
 そ、そんな……。それじゃあ、それじゃあ、これは、これは……?
 ぞくっ。っとする。
 そっか。わたしの、考えが、通じたんだ。それで、こんな風に、変身したんだ。
 わたしにも、こんな魔法が使えたんだ。女の子たちを好きに変えちゃったんだ……。どうしてだろう、ちょっとだけ、ちょっとだけ、だけど……。
 ……どきどきしちゃうな……。
 ぱちぱちぱちぱち――!
 観客席からの一層大きな拍手で目を覚ます。
 ……あれ。
「えへへ、みんなありがとう! これからも、アニマルサーカスをよろしくね~!」
 と、すっかり調子を取り戻したフィーが、いつものようにぺこりとお辞儀をしている。
 だけど、わたしのうさみみはいつもの様に垂れてしまっていた。
 あれ、あれ、あれ、あれ……?
 違う! って、否定したいのに。おかしい、こんなのおかしいはずなのに……!
 変化魔法って、楽しいかも……。
 ……って、わたし、考えてた……? 



「フィーさん、うさぎさん、本当に、本当にごめんなさい!」
 お客さんたちが全員テントから退場した後。テントの中に有る控室の前で、エゼル団長は深々と頭を下げた。
「まさか、勝手にゲストだと勘違いして、困らせてしまうなんて……! 私は昔っから、早とちりばっかりして、ドジばっかり繰り返して、他の人に迷惑かけて……!」
 顔を真っ赤にして泣いてしまいそうになっているエゼル団長が、本当に申し訳ないと思ってるのが伝わってくる。でも、そんなに気にしなくても、エゼル団長を責める気なんて無いのに……。
「だ、大丈夫! エゼル団長!」
 フィーもちっとも怒ってなんかいなくて、慌ててエゼル団長をなだめている。
「あんなに凄い魔法が使えたの、フィー、初めてで! だから、今、とっても、嬉しくて! とっても良い経験になりました……!」
 ……本当。確かに、あんなに壮大な魔法を、今までフィーのショーで見たことはなかった。  
フィーにとっても、予想外中の予想外だったんだろうな……。
「ううう……でも、それは、フィーさんのマジックが素晴らしかったからで……。もしも、もっと嫌な思いをさせてしまうことになっていたら……」
 がっくりと肩を落とすエゼル団長。
「いえ、わたしが控室に居た時に、エゼル団長に先に説明しなかったのも、良くなかったです……」
 ステージが終って、青い髪の毛を腰まで届くほど長い三つ編みに結い直したロコちゃんも、悲しそうにフィーとわたしのことを見た。
「きゅうう……」
 ロコちゃんの肩に乗った、緑色のカーバンクルのルカちゃんも悲しそうな声を出していた。
「ううん! 気にしないでってば、ロコちゃん! それよりもね……!」
 フィーが両手を振って、それからちらっと、隣に立つわたしに笑いかける。
 フィーが何て言おうとしているのか。伝わった。
「とっても、とっても、面白かった! アニマルサーカス!」
 興奮した調子で、はしゃいで言うフィー。
「はい、わたしも、ずっと夢中でした……!」
 それに続いて二人に伝えた。……これは紛れもない、本心だった。
 最初は乗り気じゃなかったはずなのに……いつの間にか、ロコちゃんとエゼル団長と動物たちのサーカスに、引き込まれている自分が居た。本当に、本当に楽しい、サーカスだった。
「そう言ってくれると、嬉しいです」
 エゼル団長が照れた様に、朱に染まった頬をかく。
「ロコもルカも、本当によく頑張った。あれは紛れもなく、二人にしかできないステージだったよ」
 それから、ロコちゃんとルカちゃんの頭を撫でてあげる。
「凄かったよ、ロコちゃんのステージ! 感動しちゃった!」
「とても優雅で、素敵でした……!」
「ありがとう……ございます……エゼル団長、うさぎさん、フィーちゃん……!」
 フィーとわたしが声を掛けるとロコちゃんはもじもじとして、はにかんだ。
「ぴゅいっ!」
 ルカちゃんも元気に返事をして、ロコちゃんに頬ずりをした。
「ふふ、それだけじゃない。ロコはいつも魔法で私を支えてくれて、本当に助かっているよ。もしも、しっかりとしたロコがいなかったら、このサーカスはどうなってしまうやら……」
「あの……それなら……エゼル団長」
 するとロコちゃんがおずおずと手を挙げて、じっとエゼル団長を見る。
「ん? どうしたんだい、ロコ?」
 きょとんとするエゼル団長。
「そう思うのなら……毎回タイツも靴も履かないでステージに上がろうとするのは止めて下さい……!」
「え……だって、くすぐったくて動きにくいから……。動物たちだって、靴も靴下も履いたりしてない子の方が多いぞ?」
「でも、エゼル団長は駄目なんです……!」
 するとロコちゃんはぷくっと頬を膨らませて怒った様な仕草をする。あれっ、ロコちゃんってこんな表情もするんだ……! と、ちょっと意外で嬉しい気持ちになった。
「なるほど、そういうものなのか……」
 不思議そうに首を傾げたエゼル団長は、すっとロコちゃんの頬に手を当てて――。
「――ありがとう、ロコ」
 もう一回、軽くキスをした。
「……!!」
 ロコちゃんが棒立ちになって、顔を真っ赤にする。これでもう二回目のキスだけど、それでも何だかわたしも顔が熱くなってくる……。
「それじゃ、この町での公演も無事に終わったことだし――」
 そしてエゼル団長は、みんなに声を掛ける。
「皆で町のレストランに、夜ご飯を食べに行きましょう! さっきのお詫びと言っては何ですが、好きなものを御馳走しますよ」
 いそいそと張り切った様子でコートを羽織るエゼル団長。
「あ、ありがとうございます!」
 フィーがびっくりして、ぺこっと頭を下げる。慌ててわたしもその後に続いた。
「楽しみだね……!」
 ロコちゃんがフィーとわたしに、ほがらかに笑い掛けて。
「ぴゅいっ!」
 そしてルカちゃんが、楽しそうに右手を挙げたのだった。



 フローラルウィンドタウンの真ん中にあるレストランを出るとわたしたちは、再びテントの有る公園へと戻ってきた。
 夜は更けて空気はひんやりと涼しくなっている。足首を撫でる芝生がくすぐったい。
「わあ……!」
 テントに戻ろうとする途中でフィーが立ち止まる。
 振り返ればフィーは、空を見上げていて。 つられてその視線の先を追えば……。
 広がるのは、星の海。
 輝く小さな星たちが夜空に散らばって、どこまでもどこまでも続いている。
 こんなに星空……今まで見たこと無い。何にも邪魔されない銀河は、まるで空にきらめくリボンが飾られているみたいで……きれい、だ……。
「きゅ、きゅうう!」
 振り返ればルカちゃんは、ロコちゃんの近くにふわりと漂っていて。
「あっ……!」
 見ればルカちゃんの額の紅い宝石が、きらきらと輝き出していて……! ルカちゃんは嬉しそうに、二本のしっぽをゆらゆらと揺らしていた。
「それじゃあ、始めるよ」
 いつのまにか青と白の長いステッキを持っていたロコちゃんが、ルカちゃんと頷き合って。
「~♪」
 それからステージの時の様に、ロコちゃんは歌い始める。
 今度は軽快なリズムの、思わず踊りたくなっちゃう様な歌を。
 ステッキの先が瞬いて、夜の公園を照らしていく。そしてロコちゃんはステッキを操りながら、優雅に舞う。
「ぴっ、きゅっ!」
 空中を楽しそうに飛ぶルカちゃんの宝石が、夜を紅く彩っていく。それに応じて二本のしっぽの先の白い毛が、ちらっ、ちらっとわずかに瞬く。
 静謐で、それでいて開放的な星空の下で見る二人の踊りは、ステージの上よりも活発で、それでいてやっぱり優美で……。
「~……。……」
 歌が終ってステッキの先の明かりが消えても、拍手も何もなかったのは、フィーも、エゼル団長も、わたしも、ただただ見とれてしまっていたからだった。
「ど、どうでした……?」
「――凄い、凄いよ、ロコちゃん!」
 最初に飛び出してロコちゃんに抱きついたのは、フィー。
「フィ、フィーちゃん……?!」
「本当に、本当に息がぴったり! きれいだったよ……!」
「ありがとう……!」
 ぎゅっと抱き合って、お互いに笑い合う二人。
「「……」」
 エゼル団長とわたしは目が合って、お互いに頷き合った。
「きゅいっ」
 ロコちゃんのそばから離れたルカちゃんも一緒に頷いて。
 抱きしめあう二人から離れたところにわたしたちは腰を下ろして、ただ静かに星を眺めることにした。
 エゼル団長の膝に乗っかったルカちゃんを撫でながら、わたしは目を細める。
 ……ロコちゃんと、フィー。
 今は二人きり、そっとしておいてあげよう。



 それから何分経ったんだろう。
 ロコちゃんとフィーが、わたしたち三人のところにやって来て。そしてまた皆で、テントへと向かうことにした。
 フィーもロコちゃんも存分に話して満足した様で、だけどまだまだ話したりなくてうずうずしている様だった。どのみち、二人ともとっても楽しそう。
「次のサーカスはナイトショーでも良いね。野外のステージも面白そうだ!」
 ついさっきの、夜空の下でのロコちゃんとルカちゃんの演技を振り返って、エゼル団長が浮き浮きと提案する。
 ナイトサーカス。夜の闇の中、ライトアップされた野外のステージ……確かに素敵だな……。
 テントのそばまで寄ると、皆で壁に描かれた大きな星印に手を触れて、十秒待つ。
 一斉に光に包まれてテントの中に入ったら、エゼル団長が明るく声を掛けた。
「寝室は控室の裏側に有ります。今から準備しますね」
 そうだ、もう夜遅いから今日はフィーもわたしも、このテントの中で泊めてもらえることになったんだった。
「はい! 手伝います!」
 フィーも嬉しそうに手を挙げて、エゼル団長の後に続いていく。でもまあ、きっとまだまだ眠る気なんてないんだろうな。夜が更けても、もしかしたら夜が明けるまで、ロコちゃんとお喋りをするつもりなんだ。
 きっと楽しいんだろうな、そういうの……。
 なんてぼんやりと考えながら、わたしもベッドメイキングを手伝おうと、高く積まれた箱の間を通って寝室の方へと向かおうとすると……。
「あの……」
 ふと、後ろから小さな声がする。
 ……?
「は、い。どうしましたか……?」
 ドキッとして、振り返った。 
 ……ロコちゃん。
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