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第一章 お屋敷編
第二十八話 おみくじ勝負! 下
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「うん。それじゃ、今度は二人の番にしよっか」
そんな返事を聴くとすぐに白狐の双子、都季と灯詠は立ち上がり、蓬さんの下へと駆け寄った。
「さて、二人は何を引くのかな?」
蓬さんから渡された、六角形のおみくじの筒を、二人は地面に落とさない様にそっと受け取る。
「当然、大大吉に決まっているのです」
「それ以外は、有り得ない」
自信満々に宣言する子狐達。凄まじい気合の入りっぷりだ。
「ふふ、きっと、凶ではないかのう?」
「だ、大丈夫なのです、御珠様!」
「天が味方についています……!」
御珠様がからかうと、子狐達はちょっと不安そうに反論する。
「「………」」
そして二人で一緒に、神妙そうに一つの筒を持ち上げて、からからと振り始めた。
正直、子狐達を元気づけるっていう蓬さんの作戦は、とっくに成功したって言っても良いんだけど……それでも、二人が何を引くかは気になる。
緊張しているんだろう。二人はしばらくの間無言で筒を振り続けていた。
それから突然ぴたっと動きを止めて、互いに顔を見合わせて。
「「……せーの」」
そして、ぴったりのタイミングで筒をひっくり返す。
――カラン。
畳の上に落ちるくじ。二人が引いたのは……。
「やったーっ! 中吉なのです!」
「凶じゃなかった……」
はしゃぐ灯詠と、ほっと胸をなで下ろす都季。大大吉とはいかなかったけれど、それなりに満足な結果だった様だ。
「良かったね、都季ちゃん、灯詠ちゃん」
席に戻った子狐達に、ちよさんが嬉しそうに声を掛ける。
「日頃の行いが良いからなのです!」
「順当な結果」
えっへんとふんぞり返る二人。……ちよさんはこいつらよりも更に上の、大吉を引いていたのだが……まあ、そこは触れないでおこう。
「「………」」
すると今度は都季も灯詠が、こっちの方をじっと見つめてくる。だけど今朝とは違って、その目を爛々と輝かせて、生き生きとしながら……。
「……末吉男なのです」
「……末代まで末吉男」
非常に愉快そうに、こそこそ話をする子狐達。勿論俺には聞こえている。
「ちょっと待て。何だその不穏な単語は」
さっき俺が末吉を引いたのは事実だが……かなり嬉しくないネーミングだった。
おみくじとは縁が深そうな白狐が言うことだから、あながち冗談とも言い切れない辺りが更に怖い。
まさか、一生俺は末吉以外を引けなかったりするのか?
「ま、次は頑張るのですよ? 景?」
「脱、末吉」
ぽん、と子狐達が肩に手を置いて同情してくる。
「お、お前らなあ……」
さっきまでの元気の無い姿はどこへやら。子狐達のあまりの代わり身の早さに、呆れてしまう。
でも、とにかく調子が戻ってくれて何よりだな……。
……何てしみじみと考えている内に、再び食卓に不穏な空気が漂い始める。
「「………」」
真剣な表情をした御珠様と蓬さんが、おみくじの筒を見つめていて……。
そう言えばこの二人はまだ、おみくじを引いていなかった。
そして、筒の中に残っているおみくじは……『大大吉』と、『凶』。
大人の女性二人の間には今、お互いを牽制し合う様な鋭い空気が流れていた。
「ど、どうした、蓬? 早く引かぬのか?」
「それなら、たま……、御珠様が代わりに引きますか……?」
「いや。わらわはおぬしが凶を当てるのを、ここで見とくからのう。遠慮せずに引いてくれ」
「ふふ、油断してられるのも、今の内ですから……」
どうやら御珠様も蓬さんも、凶が最後まで残ってしまうとは考えていなかったらしい。
例えただの運試しとはいえ……大大吉と凶では、雲泥の差だ。
張り合う二人の間に、バチバチと火花が散っていた。だけど、何となく伝わってくる。
多分御珠様と蓬さんって、かなり仲が良いんだろうな……。
「……じゃあ、引きますからね」
蓬さんが、ゆっくりと筒を振る。マイペースなはずの御珠様と蓬さんが、緊張している。他の人たちもみんな、ただその様子を見守っていた。
「――それっ」
蓬さんが筒をひっくり返せば、一本のくじが出る。
「さて……」
恐る恐る、蓬さんがそれを拾い上げて、書かれている文字を確かめた。
「やったーっ!」
途端に飛び上がってはしゃぐ蓬さん。手に持つおみくじには金色の文字で、『大大吉』。
素直に、物凄く喜んでいるみたいだった。
「……うう、籤ばかりは昔から苦手なのじゃ。籤だけは……」
対する凶の御珠様は明らかに沈んでいて、しっぽもうなだれている。凹んでいる御珠様、初めて見た……。
「御珠様、落ち込まないでください」
「凶は、これから良くなるという証」
双子の子狐達が、打ちひしがれる御珠様を励ましている。
「お、おぬしたち……」
感激した様子で顔を上げる御珠様。……うん、どう見ても演技じゃないな……。
「そうそう。ただの運試しなんですから、そんなに気にしないで」
大大吉のくじを御珠様に見せびらかしながら、蓬さんが笑う。多分これも演技じゃなくて、ただただ嬉しいんだろう……。
「それじゃあ、わらわの凶と交換してくれても良かろう?!」
御珠様は手を伸ばして蓬さんのくじを奪いにいく。
「それとこれとは別のお話です」
だけど蓬さんに、あっさりとかわされてしまった。
「うう、蓬の意地悪……」
頬を膨らませる御珠様は拗ねた子供みたいで、かわいらしかった。他の人たちも、蓬さんと御珠様のやり取りを微笑ましそうに眺めていて。
お茶の間には、さっきまでの重い空気が嘘のような、和やかな時間が流れていた。
「良かったのう、調子が戻ったみたいで」
子狐達が食器を片付けにお茶の間から出た後、御珠様が安心した様子でこう切り出した。
「具合が悪い訳じゃ無かったみたいですね」
蓬さんも、ほっとした様だ。ちよさんも十徹さんも同じで、子狐達のことを本当に気にしていたらしい。
「でも……それならどうして、都季ちゃんと灯詠ちゃんは元気が無かったのでしょうか」
ちよさんは不思議そうに尋ねた。
普段は騒がしい子狐達が、今日一日やけに大人しかった理由。
体調不良じゃないのなら、人間の俺と一緒にいるのが嫌なのが原因だとばっかり思っていたけれど……。
さっきのくじ引きの様子を考えるに、それは単なる俺の杞憂だったらしい。
……でも、それなら今日の二人の様子は一体、何だったんだろう?
俺が一日中あの二人に監視されていた原因も、さっぱり分からないし……。
「御珠様は、何か分かることは有りますか……?」
「うむ……こればっかりはわらわにも預かり知らぬ所……」
尋ねてみても、御珠様は首を傾げるばかり。恐らく本当に知らないんだろう。
……あの二人の元気を奪っていた原因は何なのか。未だに思い当たる節は全く無い。
だけど、それよりもまず……。
「だけど、とにかく、都季と灯詠の元気が戻って良かったではないか」
御珠様が明るい口調で言う。そんな言葉に、他の人たちもただ頷いて。
それから食後の団欒はお開きになった。
台所で皿洗いをしてから、自分の部屋に向かって廊下を歩いている。
分からないことはまだ、沢山有るけれど……気分は、軽くなっている。
御珠様の言う通りだ。
原因が何であろうと、とにかく……子狐達が元気になってくれて、本当に良かった。
それだけでも、十分だった。
そんな返事を聴くとすぐに白狐の双子、都季と灯詠は立ち上がり、蓬さんの下へと駆け寄った。
「さて、二人は何を引くのかな?」
蓬さんから渡された、六角形のおみくじの筒を、二人は地面に落とさない様にそっと受け取る。
「当然、大大吉に決まっているのです」
「それ以外は、有り得ない」
自信満々に宣言する子狐達。凄まじい気合の入りっぷりだ。
「ふふ、きっと、凶ではないかのう?」
「だ、大丈夫なのです、御珠様!」
「天が味方についています……!」
御珠様がからかうと、子狐達はちょっと不安そうに反論する。
「「………」」
そして二人で一緒に、神妙そうに一つの筒を持ち上げて、からからと振り始めた。
正直、子狐達を元気づけるっていう蓬さんの作戦は、とっくに成功したって言っても良いんだけど……それでも、二人が何を引くかは気になる。
緊張しているんだろう。二人はしばらくの間無言で筒を振り続けていた。
それから突然ぴたっと動きを止めて、互いに顔を見合わせて。
「「……せーの」」
そして、ぴったりのタイミングで筒をひっくり返す。
――カラン。
畳の上に落ちるくじ。二人が引いたのは……。
「やったーっ! 中吉なのです!」
「凶じゃなかった……」
はしゃぐ灯詠と、ほっと胸をなで下ろす都季。大大吉とはいかなかったけれど、それなりに満足な結果だった様だ。
「良かったね、都季ちゃん、灯詠ちゃん」
席に戻った子狐達に、ちよさんが嬉しそうに声を掛ける。
「日頃の行いが良いからなのです!」
「順当な結果」
えっへんとふんぞり返る二人。……ちよさんはこいつらよりも更に上の、大吉を引いていたのだが……まあ、そこは触れないでおこう。
「「………」」
すると今度は都季も灯詠が、こっちの方をじっと見つめてくる。だけど今朝とは違って、その目を爛々と輝かせて、生き生きとしながら……。
「……末吉男なのです」
「……末代まで末吉男」
非常に愉快そうに、こそこそ話をする子狐達。勿論俺には聞こえている。
「ちょっと待て。何だその不穏な単語は」
さっき俺が末吉を引いたのは事実だが……かなり嬉しくないネーミングだった。
おみくじとは縁が深そうな白狐が言うことだから、あながち冗談とも言い切れない辺りが更に怖い。
まさか、一生俺は末吉以外を引けなかったりするのか?
「ま、次は頑張るのですよ? 景?」
「脱、末吉」
ぽん、と子狐達が肩に手を置いて同情してくる。
「お、お前らなあ……」
さっきまでの元気の無い姿はどこへやら。子狐達のあまりの代わり身の早さに、呆れてしまう。
でも、とにかく調子が戻ってくれて何よりだな……。
……何てしみじみと考えている内に、再び食卓に不穏な空気が漂い始める。
「「………」」
真剣な表情をした御珠様と蓬さんが、おみくじの筒を見つめていて……。
そう言えばこの二人はまだ、おみくじを引いていなかった。
そして、筒の中に残っているおみくじは……『大大吉』と、『凶』。
大人の女性二人の間には今、お互いを牽制し合う様な鋭い空気が流れていた。
「ど、どうした、蓬? 早く引かぬのか?」
「それなら、たま……、御珠様が代わりに引きますか……?」
「いや。わらわはおぬしが凶を当てるのを、ここで見とくからのう。遠慮せずに引いてくれ」
「ふふ、油断してられるのも、今の内ですから……」
どうやら御珠様も蓬さんも、凶が最後まで残ってしまうとは考えていなかったらしい。
例えただの運試しとはいえ……大大吉と凶では、雲泥の差だ。
張り合う二人の間に、バチバチと火花が散っていた。だけど、何となく伝わってくる。
多分御珠様と蓬さんって、かなり仲が良いんだろうな……。
「……じゃあ、引きますからね」
蓬さんが、ゆっくりと筒を振る。マイペースなはずの御珠様と蓬さんが、緊張している。他の人たちもみんな、ただその様子を見守っていた。
「――それっ」
蓬さんが筒をひっくり返せば、一本のくじが出る。
「さて……」
恐る恐る、蓬さんがそれを拾い上げて、書かれている文字を確かめた。
「やったーっ!」
途端に飛び上がってはしゃぐ蓬さん。手に持つおみくじには金色の文字で、『大大吉』。
素直に、物凄く喜んでいるみたいだった。
「……うう、籤ばかりは昔から苦手なのじゃ。籤だけは……」
対する凶の御珠様は明らかに沈んでいて、しっぽもうなだれている。凹んでいる御珠様、初めて見た……。
「御珠様、落ち込まないでください」
「凶は、これから良くなるという証」
双子の子狐達が、打ちひしがれる御珠様を励ましている。
「お、おぬしたち……」
感激した様子で顔を上げる御珠様。……うん、どう見ても演技じゃないな……。
「そうそう。ただの運試しなんですから、そんなに気にしないで」
大大吉のくじを御珠様に見せびらかしながら、蓬さんが笑う。多分これも演技じゃなくて、ただただ嬉しいんだろう……。
「それじゃあ、わらわの凶と交換してくれても良かろう?!」
御珠様は手を伸ばして蓬さんのくじを奪いにいく。
「それとこれとは別のお話です」
だけど蓬さんに、あっさりとかわされてしまった。
「うう、蓬の意地悪……」
頬を膨らませる御珠様は拗ねた子供みたいで、かわいらしかった。他の人たちも、蓬さんと御珠様のやり取りを微笑ましそうに眺めていて。
お茶の間には、さっきまでの重い空気が嘘のような、和やかな時間が流れていた。
「良かったのう、調子が戻ったみたいで」
子狐達が食器を片付けにお茶の間から出た後、御珠様が安心した様子でこう切り出した。
「具合が悪い訳じゃ無かったみたいですね」
蓬さんも、ほっとした様だ。ちよさんも十徹さんも同じで、子狐達のことを本当に気にしていたらしい。
「でも……それならどうして、都季ちゃんと灯詠ちゃんは元気が無かったのでしょうか」
ちよさんは不思議そうに尋ねた。
普段は騒がしい子狐達が、今日一日やけに大人しかった理由。
体調不良じゃないのなら、人間の俺と一緒にいるのが嫌なのが原因だとばっかり思っていたけれど……。
さっきのくじ引きの様子を考えるに、それは単なる俺の杞憂だったらしい。
……でも、それなら今日の二人の様子は一体、何だったんだろう?
俺が一日中あの二人に監視されていた原因も、さっぱり分からないし……。
「御珠様は、何か分かることは有りますか……?」
「うむ……こればっかりはわらわにも預かり知らぬ所……」
尋ねてみても、御珠様は首を傾げるばかり。恐らく本当に知らないんだろう。
……あの二人の元気を奪っていた原因は何なのか。未だに思い当たる節は全く無い。
だけど、それよりもまず……。
「だけど、とにかく、都季と灯詠の元気が戻って良かったではないか」
御珠様が明るい口調で言う。そんな言葉に、他の人たちもただ頷いて。
それから食後の団欒はお開きになった。
台所で皿洗いをしてから、自分の部屋に向かって廊下を歩いている。
分からないことはまだ、沢山有るけれど……気分は、軽くなっている。
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