もふけもわふーらいふ!

夜狐紺

文字の大きさ
28 / 77
第一章 お屋敷編

第二十八話 おみくじ勝負! 下

しおりを挟む
「うん。それじゃ、今度は二人の番にしよっか」
 そんな返事を聴くとすぐに白狐の双子、都季とき灯詠ひよみは立ち上がり、よもぎさんの下へと駆け寄った。
「さて、二人は何を引くのかな?」
 蓬さんから渡された、六角形のおみくじの筒を、二人は地面に落とさない様にそっと受け取る。
「当然、大大吉に決まっているのです」
「それ以外は、有り得ない」
 自信満々に宣言する子狐達。凄まじい気合の入りっぷりだ。
「ふふ、きっと、凶ではないかのう?」
「だ、大丈夫なのです、御珠様!」
「天が味方についています……!」
 御珠みたま様がからかうと、子狐達はちょっと不安そうに反論する。
「「………」」
 そして二人で一緒に、神妙そうに一つの筒を持ち上げて、からからと振り始めた。
 正直、子狐達を元気づけるっていう蓬さんの作戦は、とっくに成功したって言っても良いんだけど……それでも、二人が何を引くかは気になる。
 緊張しているんだろう。二人はしばらくの間無言で筒を振り続けていた。
 それから突然ぴたっと動きを止めて、互いに顔を見合わせて。
「「……せーの」」
 そして、ぴったりのタイミングで筒をひっくり返す。
 ――カラン。
 畳の上に落ちるくじ。二人が引いたのは……。
「やったーっ! 中吉なのです!」
「凶じゃなかった……」
 はしゃぐ灯詠と、ほっと胸をなで下ろす都季。大大吉とはいかなかったけれど、それなりに満足な結果だった様だ。
「良かったね、都季ちゃん、灯詠ちゃん」
 席に戻った子狐達に、ちよさんが嬉しそうに声を掛ける。
「日頃の行いが良いからなのです!」
「順当な結果」
 えっへんとふんぞり返る二人。……ちよさんはこいつらよりも更に上の、大吉を引いていたのだが……まあ、そこは触れないでおこう。
「「………」」
 すると今度は都季も灯詠が、こっちの方をじっと見つめてくる。だけど今朝とは違って、その目を爛々と輝かせて、生き生きとしながら……。
「……末吉男なのです」
「……末代まで末吉男」
 非常に愉快そうに、こそこそ話をする子狐達。勿論俺には聞こえている。
「ちょっと待て。何だその不穏な単語は」
 さっき俺が末吉を引いたのは事実だが……かなり嬉しくないネーミングだった。
 おみくじとは縁が深そうな白狐が言うことだから、あながち冗談とも言い切れない辺りが更に怖い。
 まさか、一生俺は末吉以外を引けなかったりするのか?
「ま、次は頑張るのですよ? 景?」
「脱、末吉」
 ぽん、と子狐達が肩に手を置いて同情してくる。
「お、お前らなあ……」
 さっきまでの元気の無い姿はどこへやら。子狐達のあまりの代わり身の早さに、呆れてしまう。
 でも、とにかく調子が戻ってくれて何よりだな……。
 ……何てしみじみと考えている内に、再び食卓に不穏な空気が漂い始める。
「「………」」
 真剣な表情をした御珠様と蓬さんが、おみくじの筒を見つめていて……。
 そう言えばこの二人はまだ、おみくじを引いていなかった。
 そして、筒の中に残っているおみくじは……『大大吉』と、『凶』。
 大人の女性二人の間には今、お互いを牽制し合う様な鋭い空気が流れていた。
「ど、どうした、蓬? 早く引かぬのか?」
「それなら、たま……、御珠様が代わりに引きますか……?」
「いや。わらわはおぬしが凶を当てるのを、ここで見とくからのう。遠慮せずに引いてくれ」
「ふふ、油断してられるのも、今の内ですから……」
 どうやら御珠様も蓬さんも、凶が最後まで残ってしまうとは考えていなかったらしい。
 例えただの運試しとはいえ……大大吉と凶では、雲泥の差だ。
 張り合う二人の間に、バチバチと火花が散っていた。だけど、何となく伝わってくる。
 多分御珠様と蓬さんって、かなり仲が良いんだろうな……。
「……じゃあ、引きますからね」
 蓬さんが、ゆっくりと筒を振る。マイペースなはずの御珠様と蓬さんが、緊張している。他の人たちもみんな、ただその様子を見守っていた。
「――それっ」
 蓬さんが筒をひっくり返せば、一本のくじが出る。
「さて……」
 恐る恐る、蓬さんがそれを拾い上げて、書かれている文字を確かめた。
「やったーっ!」
 途端に飛び上がってはしゃぐ蓬さん。手に持つおみくじには金色の文字で、『大大吉』。
 素直に、物凄く喜んでいるみたいだった。
「……うう、くじばかりは昔から苦手なのじゃ。くじだけは……」
 対する凶の御珠様は明らかに沈んでいて、しっぽもうなだれている。凹んでいる御珠様、初めて見た……。
「御珠様、落ち込まないでください」
「凶は、これから良くなるという証」
 双子の子狐達が、打ちひしがれる御珠様を励ましている。
「お、おぬしたち……」
 感激した様子で顔を上げる御珠様。……うん、どう見ても演技じゃないな……。
「そうそう。ただの運試しなんですから、そんなに気にしないで」
 大大吉のくじを御珠様に見せびらかしながら、蓬さんが笑う。多分これも演技じゃなくて、ただただ嬉しいんだろう……。
「それじゃあ、わらわの凶と交換してくれても良かろう?!」
 御珠様は手を伸ばして蓬さんのくじを奪いにいく。
「それとこれとは別のお話です」
 だけど蓬さんに、あっさりとかわされてしまった。
「うう、蓬の意地悪……」
 頬を膨らませる御珠様は拗ねた子供みたいで、かわいらしかった。他の人たちも、蓬さんと御珠様のやり取りを微笑ましそうに眺めていて。
 お茶の間には、さっきまでの重い空気が嘘のような、和やかな時間が流れていた。


「良かったのう、調子が戻ったみたいで」
 子狐達が食器を片付けにお茶の間から出た後、御珠様が安心した様子でこう切り出した。
「具合が悪い訳じゃ無かったみたいですね」
 蓬さんも、ほっとした様だ。ちよさんも十徹さんも同じで、子狐達のことを本当に気にしていたらしい。
「でも……それならどうして、都季ちゃんと灯詠ちゃんは元気が無かったのでしょうか」
 ちよさんは不思議そうに尋ねた。
 普段は騒がしい子狐達が、今日一日やけに大人しかった理由。
 体調不良じゃないのなら、人間の俺と一緒にいるのが嫌なのが原因だとばっかり思っていたけれど……。
 さっきのくじ引きの様子を考えるに、それは単なる俺の杞憂だったらしい。
 ……でも、それなら今日の二人の様子は一体、何だったんだろう?  
 俺が一日中あの二人に監視されていた原因も、さっぱり分からないし……。
「御珠様は、何か分かることは有りますか……?」
「うむ……こればっかりはわらわにも預かり知らぬ所……」
 尋ねてみても、御珠様は首を傾げるばかり。恐らく本当に知らないんだろう。
 ……あの二人の元気を奪っていた原因は何なのか。未だに思い当たる節は全く無い。
 だけど、それよりもまず……。
「だけど、とにかく、都季と灯詠の元気が戻って良かったではないか」
 御珠様が明るい口調で言う。そんな言葉に、他の人たちもただ頷いて。
 それから食後の団欒はお開きになった。


 台所で皿洗いをしてから、自分の部屋に向かって廊下を歩いている。
 分からないことはまだ、沢山有るけれど……気分は、軽くなっている。
 御珠様の言う通りだ。
 原因が何であろうと、とにかく……子狐達が元気になってくれて、本当に良かった。
 それだけでも、十分だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

聖女の力を妹に奪われ魔獣の森に捨てられたけど、何故か懐いてきた白狼(実は呪われた皇帝陛下)のブラッシング係に任命されました

AK
恋愛
「--リリアナ、貴様との婚約は破棄する! そして妹の功績を盗んだ罪で、この国からの追放を命じる!」 公爵令嬢リリアナは、腹違いの妹・ミナの嘘によって「偽聖女」の汚名を着せられ、婚約者の第二王子からも、実の父からも絶縁されてしまう。 身一つで放り出されたのは、凶暴な魔獣が跋扈する北の禁足地『帰らずの魔の森』。 死を覚悟したリリアナが出会ったのは、伝説の魔獣フェンリル——ではなく、呪いによって巨大な白狼の姿になった隣国の皇帝・アジュラ四世だった! 人間には効果が薄いが、動物に対しては絶大な癒やし効果を発揮するリリアナの「聖女の力」。 彼女が何気なく白狼をブラッシングすると、苦しんでいた皇帝の呪いが解け始め……? 「余の呪いを解くどころか、極上の手触りで撫でてくるとは……。貴様、責任を取って余の専属ブラッシング係になれ」 こうしてリリアナは、冷徹と恐れられる氷の皇帝(中身はツンデレもふもふ)に拾われ、帝国で溺愛されることに。 豪華な離宮で美味しい食事に、最高のもふもふタイム。虐げられていた日々が嘘のような幸せスローライフが始まる。 一方、本物の聖女を追放してしまった祖国では、妹のミナが聖女の力を発揮できず、大地が枯れ、疫病が蔓延し始めていた。 元婚約者や父が慌ててミレイユを連れ戻そうとするが、時すでに遅し。 「私の主人は、この可愛い狼様(皇帝陛下)だけですので」 これは、すべてを奪われた令嬢が、最強のパートナーを得て幸せになり、自分を捨てた者たちを見返す逆転の物語。

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

処理中です...