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第二章 お祭り編
第六十八話 巫女さんと『妹』と
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「わたくしは泉澄神社にお仕えする巫女で、御珠様の妹の――凛、と申します」
黒猫の凛さんが顔を上げて、自己紹介をする。そんな凛さんは確かに、白い小袖と緋色の袴という巫女装束を身にまとっていた。
年は、予想した通り、ちよさんや俺と同じぐらい――15から17歳ほどだろうか。
身長は160センチより少し高めで、体形はすらっとしている。全身を覆う深い色の黒の毛は短めで、ふさふさ、と言うよりもつやつやしている。結んでいない長い黒髪もつややかで、綺麗で……。
そして、瞳の色は輝く様な金色だ。
「『いずみ』の文字は、『泉』が『澄』むと漢字で記します。――景さん」
凛さんの声は落ち着いていて、大人びていて。
気品の漂う顔立ちや、きりっとした目つきと相まってまさに……凛さんは、凛としていた。
「先程はお騒がせしてしまい、失礼致しました」
「い、いえ、こちらこそ、変に詮索してしまって……」
と、どぎまぎしながら答える。俺の方も自己紹介をしないと。
「その、私は、このお屋敷に仕えている、浅野景と申します」
と、緊張で自己紹介がたどたどしくなってしまう。……凛さんのしっかりとした態度と相まって、余計に恥ずかしいし情けない。
「初めまして、浅野さん。かねてからお話は伺っております」
「そうなんですか、こちらこそ、初めまして」
どうやら、凛さんは俺のことを前々から知っては居たらしい。御珠様から教えて貰ったのかな。
あ、そうだ、御珠様と言えば……。
「御珠様の、妹さん、なのですよね」
御珠様の妹――と、凛さんは自己紹介をしていた。
御珠様に妹が居たなんて正直、意外だ。いや、居たとしても全然不思議なことじゃないんだけど……それでも。しかし、こう言うとなんだけど、妹の凛さんの方が御珠様よりもしっかりしていそうだな……。
「わらわはかつて、泉澄神社で凛と一緒に修行をしておってのう」
すると、凛さんと俺のやり取りを眺めていた御珠様が可笑しそうに言う。
「つまり、わらわにとって凛は、『妹弟子』なのじゃよ」
「あっ、そうだったんですか」
血の繋がった本当の姉妹じゃなくて、兄弟弟子と同じ意味の『姉妹』だったのか。
御珠様も凛さんも目の色が金色だし、気品のある雰囲気もどこか似ているから、てっきり本当の姉妹だと思ったけれど。
でも、よくよく考えると御珠様は狐で、凛さんは猫だから……。
「くふふ、確かに、兄弟姉妹は同じ種族になることも多いが、全てそうとも限らないぞ?」
そんな御珠様のセリフもまた、少し意外だった。
てっきり、きょうだいは皆同じ種族――例えば御珠様は狐だから、その妹は狐になると思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。
「つまり、きょうだいで種族が違うという場合も――」
「うむ。種族は両親のどちらかのを受け継ぐからのう。狐の妹が猫というのも、特に珍しくはないのじゃよ」
と、いうことは、御珠様と凛さんが実の姉妹だったという可能性だって、全くあり得ない訳でもないのか。まあ、今回の場合はそうじゃなかったのだけど。
「しかし、血は繋がっておらぬが同じ一門、凛は実の妹と同じじゃのう」
御珠様が誇らしげに、凛さんを見る。
「――はい。その通りでございます」
凛さんもこくりと頷いて。しっぽをくいっと揺らした。
そんな二人の様子は本物の姉妹の様で――いや、それよりも、更に強い絆も感じさせるものだった。
「素敵な関係ですね」
俺には兄弟姉妹は居なかった。そして勿論、兄弟弟子も姉妹弟子も居なかったから、羨ましいな……。
なんてしみじみと考えていると。
「しかし景は青いのう。もしかして、今までそんなことを気にしておったのか?」
御珠様が、視線をこっちに移した。……何故か、妖艶な笑みを浮かべながら。
「そんなこと、とは……?」
「と、いうことは、異なる種族でも問題なく婚姻し、子を成せるのじゃよ」
「確かに、そういうことになりますね」
子の種族が違うということは、当然親の種族も違うってことになる。つまり獣人同士であれば、種族は気にすることなく結婚できるということだろうな。
「つまり――」
……そして、じゅるりと舌なめずりをする御珠様。
「狐と人間でも、全く問題は無いのじゃよ? 種族が違くとも、することは同じ。まぐわ――」
「そ、それでは失礼しますっ!!!」
俺は御珠様の言葉を遮って、障子を開けて速攻で部屋から退却する。
いやいやいや、凛さんが居る前でその話は、流石にまずいだろ……!!
「うむうむ。ご苦労であったぞ」
と、呑気に御珠様は笑って手を振っていて。思わずずっこけそうになってしまうのを堪える。
……本当に、御珠様は……。お客さんが居るのに……!
「こんなにおいしそうなお茶菓子を、ありがとうございました」
目が合った凛さんが、お辞儀をしてくれて。緋色の袴の裾が、わずかにふわりと揺れる。
俺も丁寧にお辞儀を返して障子を閉めるのだった。
途端に、ふっと肩の力が抜ける。再び歩き出し、御珠様の部屋の手前にある板の間からも出ようとした。
「……ご苦労様」
と、番として立ち続けていた十徹さんが声を掛けてくれる。
「十徹さんも、お疲れ様です。……あの……」
それから俺はこっそりと、十徹さんに囁く。一つ、十徹さんに確かめてみたいことが有ったのだ。
「……凛さんは……姿や気配を、消せるんですか……?」
あれだけ部屋中を探しても、姿や影だけじゃなくて、気配すらも感じなかったなんて、思い返してみても、不思議だ……。
「……分からぬ」
と、十徹さんがゆっくりと首を横に振る。
「……だが、姿は……そうかもしれない……」
ということは、十徹さんは、凛さんの気配だけなら問題なく感じ取れるということになる。流石だ……。
それと同時に、剣の鍛錬を積んでいる十徹さんからも、姿を隠せるだけだなんて、凛さんも、底知れない凄さが有る。もしかしたら凛さんも御珠様と同じく、妖術を使えるのかも……。
それにしても。
「凛さん、とても立派な方でしたね」
「…………。……ああ」
十徹さんも、少し間を置いてゆっくりと頷く。あんなに礼儀正しく気品に溢れる仕草や話し方はきっと、膨大な努力を積み重ねないと得られないのだろうな……。
それから俺は十徹さんにもう一回礼をして、俺は二階の廊下を歩いていく。
台所での、蓬さんとの会話を思い出す。
『凛さんは、御珠様の妹弟子』。
なるほど、蓬さんがあの時伝えようとしていたのは、こういうことだったのだ。
それでも蓬さんの言っていた通り、先にまずは凛さんに直接会ってみて正解だった。
あっ……でも、二人が何を話していたか、聞きそびれてしまった。
そんなことを考えながら階段を降りて一階に辿り着くと。
「景君、ご飯だよ~!」
廊下の遠くから蓬さんが手招きをして、俺を呼んでいた。
そうか、そろそろお昼ご飯の時間だ。そう意識するとすぐにでも、お腹が減ってきて。
「はい!」
と俺は返事をして、再び廊下を歩き出すのだった。
――巫女さんの凛さんがお客さんなのだから、議題はきっと、泉澄神社に関するものかもしれない。
まあ、二人が話していた内容は内密だろうから、詮索はしない方が良い。
それにしても、御珠様も昔、神社で巫女さんとして修業をしていたなんて。
御珠様の、腰まで届いてしまいそうな黄金色の長髪に、洗練された雰囲気。
きっと、巫女服が物凄く似合う巫女さんだったんだろうな……。
黒猫の凛さんが顔を上げて、自己紹介をする。そんな凛さんは確かに、白い小袖と緋色の袴という巫女装束を身にまとっていた。
年は、予想した通り、ちよさんや俺と同じぐらい――15から17歳ほどだろうか。
身長は160センチより少し高めで、体形はすらっとしている。全身を覆う深い色の黒の毛は短めで、ふさふさ、と言うよりもつやつやしている。結んでいない長い黒髪もつややかで、綺麗で……。
そして、瞳の色は輝く様な金色だ。
「『いずみ』の文字は、『泉』が『澄』むと漢字で記します。――景さん」
凛さんの声は落ち着いていて、大人びていて。
気品の漂う顔立ちや、きりっとした目つきと相まってまさに……凛さんは、凛としていた。
「先程はお騒がせしてしまい、失礼致しました」
「い、いえ、こちらこそ、変に詮索してしまって……」
と、どぎまぎしながら答える。俺の方も自己紹介をしないと。
「その、私は、このお屋敷に仕えている、浅野景と申します」
と、緊張で自己紹介がたどたどしくなってしまう。……凛さんのしっかりとした態度と相まって、余計に恥ずかしいし情けない。
「初めまして、浅野さん。かねてからお話は伺っております」
「そうなんですか、こちらこそ、初めまして」
どうやら、凛さんは俺のことを前々から知っては居たらしい。御珠様から教えて貰ったのかな。
あ、そうだ、御珠様と言えば……。
「御珠様の、妹さん、なのですよね」
御珠様の妹――と、凛さんは自己紹介をしていた。
御珠様に妹が居たなんて正直、意外だ。いや、居たとしても全然不思議なことじゃないんだけど……それでも。しかし、こう言うとなんだけど、妹の凛さんの方が御珠様よりもしっかりしていそうだな……。
「わらわはかつて、泉澄神社で凛と一緒に修行をしておってのう」
すると、凛さんと俺のやり取りを眺めていた御珠様が可笑しそうに言う。
「つまり、わらわにとって凛は、『妹弟子』なのじゃよ」
「あっ、そうだったんですか」
血の繋がった本当の姉妹じゃなくて、兄弟弟子と同じ意味の『姉妹』だったのか。
御珠様も凛さんも目の色が金色だし、気品のある雰囲気もどこか似ているから、てっきり本当の姉妹だと思ったけれど。
でも、よくよく考えると御珠様は狐で、凛さんは猫だから……。
「くふふ、確かに、兄弟姉妹は同じ種族になることも多いが、全てそうとも限らないぞ?」
そんな御珠様のセリフもまた、少し意外だった。
てっきり、きょうだいは皆同じ種族――例えば御珠様は狐だから、その妹は狐になると思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。
「つまり、きょうだいで種族が違うという場合も――」
「うむ。種族は両親のどちらかのを受け継ぐからのう。狐の妹が猫というのも、特に珍しくはないのじゃよ」
と、いうことは、御珠様と凛さんが実の姉妹だったという可能性だって、全くあり得ない訳でもないのか。まあ、今回の場合はそうじゃなかったのだけど。
「しかし、血は繋がっておらぬが同じ一門、凛は実の妹と同じじゃのう」
御珠様が誇らしげに、凛さんを見る。
「――はい。その通りでございます」
凛さんもこくりと頷いて。しっぽをくいっと揺らした。
そんな二人の様子は本物の姉妹の様で――いや、それよりも、更に強い絆も感じさせるものだった。
「素敵な関係ですね」
俺には兄弟姉妹は居なかった。そして勿論、兄弟弟子も姉妹弟子も居なかったから、羨ましいな……。
なんてしみじみと考えていると。
「しかし景は青いのう。もしかして、今までそんなことを気にしておったのか?」
御珠様が、視線をこっちに移した。……何故か、妖艶な笑みを浮かべながら。
「そんなこと、とは……?」
「と、いうことは、異なる種族でも問題なく婚姻し、子を成せるのじゃよ」
「確かに、そういうことになりますね」
子の種族が違うということは、当然親の種族も違うってことになる。つまり獣人同士であれば、種族は気にすることなく結婚できるということだろうな。
「つまり――」
……そして、じゅるりと舌なめずりをする御珠様。
「狐と人間でも、全く問題は無いのじゃよ? 種族が違くとも、することは同じ。まぐわ――」
「そ、それでは失礼しますっ!!!」
俺は御珠様の言葉を遮って、障子を開けて速攻で部屋から退却する。
いやいやいや、凛さんが居る前でその話は、流石にまずいだろ……!!
「うむうむ。ご苦労であったぞ」
と、呑気に御珠様は笑って手を振っていて。思わずずっこけそうになってしまうのを堪える。
……本当に、御珠様は……。お客さんが居るのに……!
「こんなにおいしそうなお茶菓子を、ありがとうございました」
目が合った凛さんが、お辞儀をしてくれて。緋色の袴の裾が、わずかにふわりと揺れる。
俺も丁寧にお辞儀を返して障子を閉めるのだった。
途端に、ふっと肩の力が抜ける。再び歩き出し、御珠様の部屋の手前にある板の間からも出ようとした。
「……ご苦労様」
と、番として立ち続けていた十徹さんが声を掛けてくれる。
「十徹さんも、お疲れ様です。……あの……」
それから俺はこっそりと、十徹さんに囁く。一つ、十徹さんに確かめてみたいことが有ったのだ。
「……凛さんは……姿や気配を、消せるんですか……?」
あれだけ部屋中を探しても、姿や影だけじゃなくて、気配すらも感じなかったなんて、思い返してみても、不思議だ……。
「……分からぬ」
と、十徹さんがゆっくりと首を横に振る。
「……だが、姿は……そうかもしれない……」
ということは、十徹さんは、凛さんの気配だけなら問題なく感じ取れるということになる。流石だ……。
それと同時に、剣の鍛錬を積んでいる十徹さんからも、姿を隠せるだけだなんて、凛さんも、底知れない凄さが有る。もしかしたら凛さんも御珠様と同じく、妖術を使えるのかも……。
それにしても。
「凛さん、とても立派な方でしたね」
「…………。……ああ」
十徹さんも、少し間を置いてゆっくりと頷く。あんなに礼儀正しく気品に溢れる仕草や話し方はきっと、膨大な努力を積み重ねないと得られないのだろうな……。
それから俺は十徹さんにもう一回礼をして、俺は二階の廊下を歩いていく。
台所での、蓬さんとの会話を思い出す。
『凛さんは、御珠様の妹弟子』。
なるほど、蓬さんがあの時伝えようとしていたのは、こういうことだったのだ。
それでも蓬さんの言っていた通り、先にまずは凛さんに直接会ってみて正解だった。
あっ……でも、二人が何を話していたか、聞きそびれてしまった。
そんなことを考えながら階段を降りて一階に辿り着くと。
「景君、ご飯だよ~!」
廊下の遠くから蓬さんが手招きをして、俺を呼んでいた。
そうか、そろそろお昼ご飯の時間だ。そう意識するとすぐにでも、お腹が減ってきて。
「はい!」
と俺は返事をして、再び廊下を歩き出すのだった。
――巫女さんの凛さんがお客さんなのだから、議題はきっと、泉澄神社に関するものかもしれない。
まあ、二人が話していた内容は内密だろうから、詮索はしない方が良い。
それにしても、御珠様も昔、神社で巫女さんとして修業をしていたなんて。
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