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この世界にはバース性と言われる第二の性が存在する。
アルファ、ベータ、そしてオメガ。

アルファとオメガはそれぞれに生まれ持ったランクがある。オメガは社会的な地位が低かったり、差別の対象になることも多い。だが最高ランクのオメガだけは別格なのだ。

最高ランクのオメガは全人口の0.1%。その希少さゆえに至高のオメガ――別名シュプリームと呼ばれている。

アルファを誘惑することに特化した超絶美形ぞろいの上にIQが180以上あったり超人のような運動能力を持っていたり、とにかくハイスぺなので成功者が多い。

シュプリームに勝てるのは究極のアルファである最高ランクのアルティメットだけだ。ちなみにこの2つは力が強すぎて他のランクのアルファやオメガとは番になることができない。

アルティメットとシュプリームはそれ以外のランクのアルファやオメガ番うことは物理的に不可能なのだ。

だがどちらも本当に希少で、それ故に自然に出会うことは難しい。だからこそアルティメットとオメガは「お見合い」と呼ばれるマッチングで出会うことが多い。

オメガのヒートもフェロモンも、精通をしないとこない。だが俺は20歳になったというのに未だに精通が来ていないのだ。

そんな事情もあって、見合いをするのはまだまだ先のことだと思っていた。
つい1時間ほど前までは――。

「優羽、先に入るよね?」
「あ、いや」

当たり前のように言われで返答に困ってしまう。こんな大スターの先輩芸能人より先に、風呂に入っていいんだろうか。
左京さんは、困惑する俺の顔を覗き込むと悪戯っぽく笑う。

「それとも、僕と一緒に入る?」
「は、あ、えっ、あの俺、今すぐ入ってきます!!」

バスルームまで走る背中で、左京さんがゲラゲラ笑る声が聞こえる。揶揄われたとわかり、頬が熱くなった。

「あ~~生き返る」
バスタブに肩まで浸かって目を閉じる。風呂は一日の中で一番好きな時間だ。
適温のお湯の中で揺られていると、疲労がジワジワと回復していく気がする。

今日は朝4時起きでロケに行っていたのだ。帰ってきて、雑誌の撮影と軽いインタビューを終えた。やっと帰宅できると帰りの準備をしているところを、宗さん――事務所の社長に拉致られたのだ。

今日は帰らずホテルに行けと言われたときは驚いた。

「まさか俺に枕営業させる気?!」
「何言ってんの。枕営業云々の前に、きみ未精通だろ。お見合いだよ、お見合い」

事務所の社長でもあり、親代わりでもある宗さんは俺のことはなんでも知っている。

「見合い?! こんな急に?! けど俺まだ……来てないのに」
「事情を知った上でぜひという話なんだ。相手がとんでもなく忙しい奴でね。今日を逃すと2週間は時間が取れないらしい。私も昔からよく知っている奴だよ、安心しな」

「えーうー、うーん、はい」

宗さんはロビーで誰かに電話をかけた。フロントと何か話をすると、ロビーの奥にある通路から見たことのない場所へ移動する。
ホテルのスタッフ以外、誰もいなかった。その場所に設置したエレベーターを案内される。

「ここからは一人で行っておいで。明日また迎えにくるよ」

宗さんは早口でそれだけ言うと慌ただしくにぎかやかなロビーへと戻っていった。

アルファとオメガのお見合いには、いくつもの段階がある。相手がやばい奴でも、今日どうこうされる心配はない。それに俺の身体はまだ未熟で、アルファを誘惑することもない。
俺は深呼吸すると、エレベーターに乗り込んだのだ。

まさかそこで待っていたのがあの左京天馬だなんて誰に想像できるだろうか。

バスルームから出ると、着ていた服が見当たらない。仕方がないので代わりに置いてあったバスローブに身を包んでパーラールームへ戻った。

「おかえりー。早かったね」

左京さんが満面の笑みで振り返る。手にしていたワイングラスをテーブルに置いて近寄ってくる。

笑っているのになんとも言えないオーラと圧がすごい。近づかれるぶんだけ後ずさる。すぐに背中が壁に当たった。詰んだ。

左京さんは俺の顔の左側に片手をつく。

「なんで逃げるの?」
「あ、いやその、逃げてるわけでは」

左京さんは俺の顔に手を伸ばしかけて、やめた。

「触れないのが悔しい。でも今日はまだ初日だから仕方ないね。クソみたいなルールだけど、破ったら優羽のつがいになれないもん」
「俺の、つがい……?」

確かにこれはお見合いだけど、こんなん形だけのものだと思っていた。

「そう、番。優羽は僕のものだから、番になるのも僕以外ありえないでしょ」

決定事項のように言われ、ますます頭が混乱する。
「僕もシャワー浴びてくるから、優羽は先に寝室行ってな」

俺は大人しく頷いて、少し迷って右側のベッドに潜り込む。
ダブルベッドじゃなくてよかった。

寝心地最高のベッドに潜り込むと、あっという間に睡魔に襲われる。どんな状況でも寝れてしまう体質の俺はあっという間に意識を失った。
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