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第2部
【5】妄想女の擬似デート?⑨ー3(~二人の生徒会長)
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【5ー⑨】
「ははは、伊月は本当に甘え上手だね。それなら俺も真似して お願いしてみようかな?」
「へ?」
若村の予想外の言葉に思わず間抜けな返事と表情で目を丸くしていると、
若村はそんな私を爽やかな笑顔で見つめながら突如、イケメンキャラの声優そのもの思わず乙女心がキュンキュンしてしまうような甘い声で囁くように言葉を発した。
「橘、こんな事を言うのは俺は『生徒会長』としては失格なのかもしれない」
『橘、こんな事を言うのは俺は『教師』としては失格なのかもしれない』
……………あれ?
「生徒会役員ではない橘に こんな事を言えた言葉じゃないのは分かっている。けれど俺にはお前が必要らしい。いやーーお前しかいない。それをどうしても言いたくてーー今日………会えてよかった」
『一度はお前を拒絶した俺がこんな事を言えた言葉じゃないのは分かっている。けれど俺には お前が必要らしい。いやーーお前しかいない。それをどうしても言いたくてーー今日………会えてよかった』
………ち、ちょっと、待って!? こ、これって ま、まさか!!?
「お願いだから、俺からは卒業しないで欲しい。そして これからの残り一年を共に歩み、俺の隣で一緒に『生徒会』を支えてくれないか?」
『お願いだから、俺からは卒業しないで欲しい。そして これからの人生を共に歩み、俺の隣で一生支えてくれないか? お前を愛しているーー俺と結婚して欲しい』
こっ、この台詞は、『春夏秋冬~恋するLOVEパニック』の主人公が卒業式の後に学校に戻って、卒業式を待たずして学校を退職し家業の為に外国に行ってしまった『四季』先生との思い出の面影を追って一人、校庭で沈んでいく夕日を見つめて泣いていたら、
突然、夕日の逆光の中に いるはずのない『四季』先生が現れて主人公にプロポーズするーーという、
まさかの劇的ロマンチックなクライマックス!! 乙女ゲー、ユーザー達の涙腺崩壊! あの感動をもう一度! ーーなシーンの超レア台詞ではないですか!!
しかも『四季』様は隠しイベントの攻略キャラで最も攻略するのが難しく、ハッピーエンドにまで辿り着くには、様々なイベントを取り零さないように何度もフローチャートを周回しながら『四季』様の『秘密の手紙』を集めていくと、そこでようやく『四季』様ルートが開放されるという、
まさに乙女ゲー、ユーザー達への“根気”と“忍耐”が試される『四季』様ルートのハッピーエンディングである。
そんな私も『四季』様ルート開放の為に『秘密の手紙』を集めるべく、いくつものバッドエンドを心を痛め涙ながらに乗り越え、ようやくルート開放まで こぎつけたと喜ばせておいて、バッドエンドへの落とし穴トラップに何度も落とされるという、
「えげつねぇだろ! コラっ!」と思わず言わさるゲーム製作者の作為的なしてやったり顔が思い浮かんで(………まあ、だからこそのクリア達成時の涙腺崩壊な感動があるんだケド)
ちょおおお~腹立つぅぅぅ!! ーーな苦渋辛酸を耐えに耐え抜き、様々な苦労の果てに全てを乗り越えハッピーエンドルートが成功し『四季』様のあのプロポーズ台詞を耳にした時には、私は感極まり瞼が腫れ上がるほどに号泣し、
その顔を見た弟が その夜、どうやら夢の中に『お岩さん』化した私が出てきたらしく、しかもその形相がかなり怖かったようで、
「滅茶苦茶うなされて眠れなかった!! 今日は入試なのに どうしてくれんだ!! てめえ!コノヤローーっつ!!」
ーーなどと、朝いきなり起き抜けに私の部屋に入ってきて、全く身に覚えのない苦情を散々つけられた。
ーーはぁん?そんな夢の中の事まで知らんわ!しかも寝不足で入試とか、それって自己責任であって、私に責任ないっつーの。
そんな私はというと、若村の声優イケメンセクシーボイスで、しかも あの『四季』様の台詞の若村式アレンジバージョンを突然聞かされ、その なんともゾクゾクしてしまう様な色気の含む声に当てられてしまった私は、
その場に言葉もなく腰砕けでヘナヘナと力なく しゃがみ込むと、先ほどの伊月ではないが、今度は私が床に うずくまる。
ーーっつ、なんつぅ~反則技を! や、やられた! K.O.デス。
ただいま再起不能中につき………回復まで しばらくお待ちください。
「ちょっ! 珠里ちゃんっ!? 若先輩っ!! それ反則だよっ!! そんなイケメンボイスで、なに珠里ちゃん口説いちゃってんのさ!!
若先輩には昨年ウチを卒業した、今は大学生の前生徒会長だった『彼女』いるじゃん!! あんまり悪ふざけが過ぎると『彼女』に言いつけるよ?」
伊月は若村に釘を刺しつつ、私に寄り添うように自分もしゃがみ込んで私に声を掛ける。
「珠里ちゃん! 大丈夫!? 今のは若先輩の悪ふざけだからね? だから絶対に本気にしたら駄目だよ?
あの人はあんな大人しそうな顔をして天然の女っタラシなんだよ。それであの高潔な前生徒会長をその巧みな話術で落としたんだから!」
伊月の言葉に若村は小さく肩を竦めて首を振る。
「天然の女っタラシって、お前がそれを言うかな? 俺は自分で言うのもなんだけど、異性に対して誠心誠意、真面目に接しているよ?」
「それが罪作りなタラシなんですっ! 若先輩は女の子に優し過ぎるからさ、だから好意のある子は諦めきれずに つい期待しちゃうんだよ」
「う~ん、そういうものなのかなあ?」
そして何やら考え込む若村を他所に、伊月はまだうずくまっている私を心配そうに横から覗き込む。
「珠里ちゃん、大丈夫? 立てそう? よかったら俺の肩を貸すよ?」
そう言って伊月は私の前で背中を丸めてしゃがんでくれているが、私は片手をヒラヒラと左右に振る。
「ーー伊月、ありがとうね。でも もう大丈夫だよ? あまりに突然だったから、ちょっと油断した。私も若村とは付き合いが長いからね。そんな言葉遊びの冗談を真に受けるほど、頭の中に お花は咲いてないよ。
ーーだが、しっか~しっ!! ちょっと若村!! あんた、やり過ぎ!! それって『イエローカード』だから!
私がイケメンボイスに弱いの分かってて、敢えて言うとはズルいよ! しかもよりにもよって、その『台詞』かい! それに また何とも『四季』様の台詞が上手い具合にアレンジがはまってて、率直に言えばビックリ?
そんでもって、どうして若村がその超レアな『台詞』を一言一句、詳細に知っているのが全くもって疑問なんだケド?」
私は顔を上げて“白状しろ”と視線で物言いながら若村をジッと見つめると、若村は参ったなとでも言うような表情で笑いながら自分の後頭部を撫でる。
「あ~ごめんごめん。それと橘? それって目で言ってるつもりだろうけれど「白状しろ」ってもう口に出てるからね?」
そんな若村からの指摘に私はハッと慌てて手で口を隠す動作をすると、二人の生徒会長ズは顔を横に向けて ププッと笑っている。
……あかん、無意識に声に出ていたようだーーだけど、そこ笑うところ??
「あはは、橘はやっぱりいいよなあ。白状するから生徒会に戻ってきてよ。実は俺の妹がその『四季』先生が大好きなんだ。だから家で毎日のように妹からのリクエストで『四季』先生の『台詞』を言わせられ続けていたら自然と覚えてしまったんだよ。
しかもタイムリーにもその『台詞』が上手い具合に今の会話に被っていて使えそうだったからね。確か橘もそのゲーム好きだろ? だから つい?ーーね」
「は? じゃあ若先輩のそれって全部ゲームの『台詞』の受け売り?
な~んだ、どうりで若先輩がいきなりあんな現実で使うには超恥ずかしい言葉を真顔で言うからさ、マジで焦った!!
でも若先輩は あんな歯が浮いてしまうような『台詞』を自分で言ってて恥ずかしくないの?」
伊月は一先ず胸に手を当ててホッとした仕草を見せるも直ぐに また首を傾げる。
「ーーまあ、初めはさすがに俺も恥ずかしかったよ。それでも妹のリクエストに応えていたら、もう声優感覚みたいな感じなのかな? 自然と慣れるものだよ。
しかも それもあってか現実に異性と話すのにも結構、自信もついたし、う~ん、結局は得をしたのは自分だったかな?」
「へえー? そんなスピンオフ的な副産物効果もあるんだね? そうすると珠里ちゃん先輩も若先輩の妹ちゃんと同じくして、その『シキ先生』が好きなんだ?」
「え? 私??」
伊月に『四季』様が好きなのかと問われて私は片手を頬にあてがうと、少し考えてから答える。
「う~ん、それは勿論『四季』様も好きなんだけど、でも どちらかと言えば私の本命は『春人』クンかな? 色々なタイプの男の子がいるけれど、どうしても最後には『彼』に戻っちゃう」
「だああぁ~『シキ先生』とか『ハルト君』とか、一体何者なんっすか! 俺には分かんねーーっ!!」
伊月は難しい顔で、もどかしそうに叫びながら頭を抱えていると、若村がそんな後輩の肩をポンッと軽く叩く。
「伊月、よかったね?」
「はい??」
若村の今の会話からにしても何の脈絡もない意味不明の言葉に伊月の顔に?マークが浮かんでいるも若村はニッコリと微笑んだままだ。
「伊月、その『春人』君はね、主人公視点でいうところの“年下”なんだよ。だから橘が最後には『彼』に戻ってしまうと言っていただろ? それって、つまり橘の好きな男のタイプが“年下”ってことだよね?」
それを聞いた途端、伊月の表情が一瞬でパッと明るくなる。
「うおおおっつ! それマジかっ!? やったあ!! 俺、“年下”だよ!? 珠里ちゃん!!」
そして伊月は周囲の視線も全くの お構い無しで大声で叫ぶと同時に何度もガッツポーズを取る。
そんな彼に若村のニコニコとした優しげな笑顔の容赦のない言葉の槍が突き刺さる。
「ねえ? 伊月? ここが、どこだか忘れているよね?
ーー橘、ここにいると俺達が恥ずかしいからさ、二人で向こうの方に行かない? どうやら伊月の頭の中はお花畑でいっぱいだから、ここは一人にしてあげようと思うんだけどーーどうかな?」
そして私も勿論、若村の言葉に賛同するようにニッコリと笑いながら何度も頷く。
「勿論、激しく同感です、若村会長。それに私も人を待たせているから、歩きながらでもーーああっつ!!?」
そして私は ようやく自分が大変な『失念』をしている事に気が付いた。
ーーーか、奏!!
私は慌ててバッグからスマホを取り出して画面を見ると、奏からのメールと電話の着信が何度か入っていた。
「ひえぇぇぇーーどうしようっ!! かなり時間過ぎちゃってる!! しかもなんで着信音鳴らないの??
ーーって、ああっ! ここに来る前に電車だからってマナーモードにしたんだった! しかも通常モードに戻すの、すっかり忘れてたっ!! 早く戻らないと!!
ーーっつーか、これって絶対に怒ってるよね? もしかしたら、もう一人で帰っちゃたかも? さっきも少し怒ってる感じだったしな………ううっつ、どっちにしろ やばっつ、どっ、ど~しよ」
私は一人で慌てまくりながらスマホを握ったまま右往左往していると、そんな私の様子に二人もただ事ではないと感じ取ったらしく、申し訳なさそうに口を開く。
「ご、ごめん、橘。連れがいたんだね?つい話し掛けて長話になってしまって、もしかして相手をかなり待たせてしまっているのかな? それなら俺達も一緒に行って相手に謝るよ」
「珠里ちゃん、ホントに ごめんね? お友達と一緒だったんだ? それって帰蝶じゃないんだよね? だったら尚更、俺達が引き留めてしまった事をきちんと説明して謝らないとーーー」
二人の生徒会長は私を気遣って私の遅れた理由を釈明してくれるようだが、そんな事、絶対に出来るわけがない!!
それでなくとも、私と奏の関係は同じ学校の関係者にはトップシークレット。私の残り一年の平穏な学校生活を守る為にも今、奏を彼等に会わせるわけにはいかない!
「だ、大丈夫。元はと言えば、私がたい焼き屋に寄り道した時点で既にアウトだったからさ。私が全部悪いんだよ。だから気にしないで?」
「いや、でも実際、声を掛けて引き留めちゃったのは俺だし、珠里ちゃん、さっき相手が「怒ってる」って すごく不安そうな顔で言ってたでしょ? それなら尚更だよ。俺からも、そのお友達に謝らせてよ」
ーーくううっ、伊月! 私を気遣って庇ってくれようとしてくれるのは、すっごく ありがたい!! 感謝感激、雨霰!!
だけど、そーいうわけには いかんのだよっ!! だからお願い! そこは食い下がんないでっ!!
「いやいや、ほんんっとに大丈夫だから! さっきはちょっと大袈裟に騒いじゃったけど、実際は怒ってるっていっても、その相手は元々 心の広い持ち主だからさ。すぐに許してくれちゃうんだよ。
ーーま、そういう事だからさ、私はもう行くね? それじゃ二人とも また学校で! ーーじゃあね」
そんな私はとにかく“早く二人から離れなければ”と、最早、下半身は今にも駆け足寸前の足踏み状態で一方的に二人に声を掛け、彼等の言葉を待たずして直ぐ様、その場を立ち去ろうとした、まさにその瞬間ーーー
私の背後の方から いつも耳に聞き慣れていて、その姿を見なくても誰なのかが直ぐに分かってしまう、決して間違える事のないであろう声が…………
「珠里っ!!?」
ーーひええぇぇぇぇ!!ジーーザスっつ!! (神様っつ!!)
【5ー続】
「ははは、伊月は本当に甘え上手だね。それなら俺も真似して お願いしてみようかな?」
「へ?」
若村の予想外の言葉に思わず間抜けな返事と表情で目を丸くしていると、
若村はそんな私を爽やかな笑顔で見つめながら突如、イケメンキャラの声優そのもの思わず乙女心がキュンキュンしてしまうような甘い声で囁くように言葉を発した。
「橘、こんな事を言うのは俺は『生徒会長』としては失格なのかもしれない」
『橘、こんな事を言うのは俺は『教師』としては失格なのかもしれない』
……………あれ?
「生徒会役員ではない橘に こんな事を言えた言葉じゃないのは分かっている。けれど俺にはお前が必要らしい。いやーーお前しかいない。それをどうしても言いたくてーー今日………会えてよかった」
『一度はお前を拒絶した俺がこんな事を言えた言葉じゃないのは分かっている。けれど俺には お前が必要らしい。いやーーお前しかいない。それをどうしても言いたくてーー今日………会えてよかった』
………ち、ちょっと、待って!? こ、これって ま、まさか!!?
「お願いだから、俺からは卒業しないで欲しい。そして これからの残り一年を共に歩み、俺の隣で一緒に『生徒会』を支えてくれないか?」
『お願いだから、俺からは卒業しないで欲しい。そして これからの人生を共に歩み、俺の隣で一生支えてくれないか? お前を愛しているーー俺と結婚して欲しい』
こっ、この台詞は、『春夏秋冬~恋するLOVEパニック』の主人公が卒業式の後に学校に戻って、卒業式を待たずして学校を退職し家業の為に外国に行ってしまった『四季』先生との思い出の面影を追って一人、校庭で沈んでいく夕日を見つめて泣いていたら、
突然、夕日の逆光の中に いるはずのない『四季』先生が現れて主人公にプロポーズするーーという、
まさかの劇的ロマンチックなクライマックス!! 乙女ゲー、ユーザー達の涙腺崩壊! あの感動をもう一度! ーーなシーンの超レア台詞ではないですか!!
しかも『四季』様は隠しイベントの攻略キャラで最も攻略するのが難しく、ハッピーエンドにまで辿り着くには、様々なイベントを取り零さないように何度もフローチャートを周回しながら『四季』様の『秘密の手紙』を集めていくと、そこでようやく『四季』様ルートが開放されるという、
まさに乙女ゲー、ユーザー達への“根気”と“忍耐”が試される『四季』様ルートのハッピーエンディングである。
そんな私も『四季』様ルート開放の為に『秘密の手紙』を集めるべく、いくつものバッドエンドを心を痛め涙ながらに乗り越え、ようやくルート開放まで こぎつけたと喜ばせておいて、バッドエンドへの落とし穴トラップに何度も落とされるという、
「えげつねぇだろ! コラっ!」と思わず言わさるゲーム製作者の作為的なしてやったり顔が思い浮かんで(………まあ、だからこそのクリア達成時の涙腺崩壊な感動があるんだケド)
ちょおおお~腹立つぅぅぅ!! ーーな苦渋辛酸を耐えに耐え抜き、様々な苦労の果てに全てを乗り越えハッピーエンドルートが成功し『四季』様のあのプロポーズ台詞を耳にした時には、私は感極まり瞼が腫れ上がるほどに号泣し、
その顔を見た弟が その夜、どうやら夢の中に『お岩さん』化した私が出てきたらしく、しかもその形相がかなり怖かったようで、
「滅茶苦茶うなされて眠れなかった!! 今日は入試なのに どうしてくれんだ!! てめえ!コノヤローーっつ!!」
ーーなどと、朝いきなり起き抜けに私の部屋に入ってきて、全く身に覚えのない苦情を散々つけられた。
ーーはぁん?そんな夢の中の事まで知らんわ!しかも寝不足で入試とか、それって自己責任であって、私に責任ないっつーの。
そんな私はというと、若村の声優イケメンセクシーボイスで、しかも あの『四季』様の台詞の若村式アレンジバージョンを突然聞かされ、その なんともゾクゾクしてしまう様な色気の含む声に当てられてしまった私は、
その場に言葉もなく腰砕けでヘナヘナと力なく しゃがみ込むと、先ほどの伊月ではないが、今度は私が床に うずくまる。
ーーっつ、なんつぅ~反則技を! や、やられた! K.O.デス。
ただいま再起不能中につき………回復まで しばらくお待ちください。
「ちょっ! 珠里ちゃんっ!? 若先輩っ!! それ反則だよっ!! そんなイケメンボイスで、なに珠里ちゃん口説いちゃってんのさ!!
若先輩には昨年ウチを卒業した、今は大学生の前生徒会長だった『彼女』いるじゃん!! あんまり悪ふざけが過ぎると『彼女』に言いつけるよ?」
伊月は若村に釘を刺しつつ、私に寄り添うように自分もしゃがみ込んで私に声を掛ける。
「珠里ちゃん! 大丈夫!? 今のは若先輩の悪ふざけだからね? だから絶対に本気にしたら駄目だよ?
あの人はあんな大人しそうな顔をして天然の女っタラシなんだよ。それであの高潔な前生徒会長をその巧みな話術で落としたんだから!」
伊月の言葉に若村は小さく肩を竦めて首を振る。
「天然の女っタラシって、お前がそれを言うかな? 俺は自分で言うのもなんだけど、異性に対して誠心誠意、真面目に接しているよ?」
「それが罪作りなタラシなんですっ! 若先輩は女の子に優し過ぎるからさ、だから好意のある子は諦めきれずに つい期待しちゃうんだよ」
「う~ん、そういうものなのかなあ?」
そして何やら考え込む若村を他所に、伊月はまだうずくまっている私を心配そうに横から覗き込む。
「珠里ちゃん、大丈夫? 立てそう? よかったら俺の肩を貸すよ?」
そう言って伊月は私の前で背中を丸めてしゃがんでくれているが、私は片手をヒラヒラと左右に振る。
「ーー伊月、ありがとうね。でも もう大丈夫だよ? あまりに突然だったから、ちょっと油断した。私も若村とは付き合いが長いからね。そんな言葉遊びの冗談を真に受けるほど、頭の中に お花は咲いてないよ。
ーーだが、しっか~しっ!! ちょっと若村!! あんた、やり過ぎ!! それって『イエローカード』だから!
私がイケメンボイスに弱いの分かってて、敢えて言うとはズルいよ! しかもよりにもよって、その『台詞』かい! それに また何とも『四季』様の台詞が上手い具合にアレンジがはまってて、率直に言えばビックリ?
そんでもって、どうして若村がその超レアな『台詞』を一言一句、詳細に知っているのが全くもって疑問なんだケド?」
私は顔を上げて“白状しろ”と視線で物言いながら若村をジッと見つめると、若村は参ったなとでも言うような表情で笑いながら自分の後頭部を撫でる。
「あ~ごめんごめん。それと橘? それって目で言ってるつもりだろうけれど「白状しろ」ってもう口に出てるからね?」
そんな若村からの指摘に私はハッと慌てて手で口を隠す動作をすると、二人の生徒会長ズは顔を横に向けて ププッと笑っている。
……あかん、無意識に声に出ていたようだーーだけど、そこ笑うところ??
「あはは、橘はやっぱりいいよなあ。白状するから生徒会に戻ってきてよ。実は俺の妹がその『四季』先生が大好きなんだ。だから家で毎日のように妹からのリクエストで『四季』先生の『台詞』を言わせられ続けていたら自然と覚えてしまったんだよ。
しかもタイムリーにもその『台詞』が上手い具合に今の会話に被っていて使えそうだったからね。確か橘もそのゲーム好きだろ? だから つい?ーーね」
「は? じゃあ若先輩のそれって全部ゲームの『台詞』の受け売り?
な~んだ、どうりで若先輩がいきなりあんな現実で使うには超恥ずかしい言葉を真顔で言うからさ、マジで焦った!!
でも若先輩は あんな歯が浮いてしまうような『台詞』を自分で言ってて恥ずかしくないの?」
伊月は一先ず胸に手を当ててホッとした仕草を見せるも直ぐに また首を傾げる。
「ーーまあ、初めはさすがに俺も恥ずかしかったよ。それでも妹のリクエストに応えていたら、もう声優感覚みたいな感じなのかな? 自然と慣れるものだよ。
しかも それもあってか現実に異性と話すのにも結構、自信もついたし、う~ん、結局は得をしたのは自分だったかな?」
「へえー? そんなスピンオフ的な副産物効果もあるんだね? そうすると珠里ちゃん先輩も若先輩の妹ちゃんと同じくして、その『シキ先生』が好きなんだ?」
「え? 私??」
伊月に『四季』様が好きなのかと問われて私は片手を頬にあてがうと、少し考えてから答える。
「う~ん、それは勿論『四季』様も好きなんだけど、でも どちらかと言えば私の本命は『春人』クンかな? 色々なタイプの男の子がいるけれど、どうしても最後には『彼』に戻っちゃう」
「だああぁ~『シキ先生』とか『ハルト君』とか、一体何者なんっすか! 俺には分かんねーーっ!!」
伊月は難しい顔で、もどかしそうに叫びながら頭を抱えていると、若村がそんな後輩の肩をポンッと軽く叩く。
「伊月、よかったね?」
「はい??」
若村の今の会話からにしても何の脈絡もない意味不明の言葉に伊月の顔に?マークが浮かんでいるも若村はニッコリと微笑んだままだ。
「伊月、その『春人』君はね、主人公視点でいうところの“年下”なんだよ。だから橘が最後には『彼』に戻ってしまうと言っていただろ? それって、つまり橘の好きな男のタイプが“年下”ってことだよね?」
それを聞いた途端、伊月の表情が一瞬でパッと明るくなる。
「うおおおっつ! それマジかっ!? やったあ!! 俺、“年下”だよ!? 珠里ちゃん!!」
そして伊月は周囲の視線も全くの お構い無しで大声で叫ぶと同時に何度もガッツポーズを取る。
そんな彼に若村のニコニコとした優しげな笑顔の容赦のない言葉の槍が突き刺さる。
「ねえ? 伊月? ここが、どこだか忘れているよね?
ーー橘、ここにいると俺達が恥ずかしいからさ、二人で向こうの方に行かない? どうやら伊月の頭の中はお花畑でいっぱいだから、ここは一人にしてあげようと思うんだけどーーどうかな?」
そして私も勿論、若村の言葉に賛同するようにニッコリと笑いながら何度も頷く。
「勿論、激しく同感です、若村会長。それに私も人を待たせているから、歩きながらでもーーああっつ!!?」
そして私は ようやく自分が大変な『失念』をしている事に気が付いた。
ーーーか、奏!!
私は慌ててバッグからスマホを取り出して画面を見ると、奏からのメールと電話の着信が何度か入っていた。
「ひえぇぇぇーーどうしようっ!! かなり時間過ぎちゃってる!! しかもなんで着信音鳴らないの??
ーーって、ああっ! ここに来る前に電車だからってマナーモードにしたんだった! しかも通常モードに戻すの、すっかり忘れてたっ!! 早く戻らないと!!
ーーっつーか、これって絶対に怒ってるよね? もしかしたら、もう一人で帰っちゃたかも? さっきも少し怒ってる感じだったしな………ううっつ、どっちにしろ やばっつ、どっ、ど~しよ」
私は一人で慌てまくりながらスマホを握ったまま右往左往していると、そんな私の様子に二人もただ事ではないと感じ取ったらしく、申し訳なさそうに口を開く。
「ご、ごめん、橘。連れがいたんだね?つい話し掛けて長話になってしまって、もしかして相手をかなり待たせてしまっているのかな? それなら俺達も一緒に行って相手に謝るよ」
「珠里ちゃん、ホントに ごめんね? お友達と一緒だったんだ? それって帰蝶じゃないんだよね? だったら尚更、俺達が引き留めてしまった事をきちんと説明して謝らないとーーー」
二人の生徒会長は私を気遣って私の遅れた理由を釈明してくれるようだが、そんな事、絶対に出来るわけがない!!
それでなくとも、私と奏の関係は同じ学校の関係者にはトップシークレット。私の残り一年の平穏な学校生活を守る為にも今、奏を彼等に会わせるわけにはいかない!
「だ、大丈夫。元はと言えば、私がたい焼き屋に寄り道した時点で既にアウトだったからさ。私が全部悪いんだよ。だから気にしないで?」
「いや、でも実際、声を掛けて引き留めちゃったのは俺だし、珠里ちゃん、さっき相手が「怒ってる」って すごく不安そうな顔で言ってたでしょ? それなら尚更だよ。俺からも、そのお友達に謝らせてよ」
ーーくううっ、伊月! 私を気遣って庇ってくれようとしてくれるのは、すっごく ありがたい!! 感謝感激、雨霰!!
だけど、そーいうわけには いかんのだよっ!! だからお願い! そこは食い下がんないでっ!!
「いやいや、ほんんっとに大丈夫だから! さっきはちょっと大袈裟に騒いじゃったけど、実際は怒ってるっていっても、その相手は元々 心の広い持ち主だからさ。すぐに許してくれちゃうんだよ。
ーーま、そういう事だからさ、私はもう行くね? それじゃ二人とも また学校で! ーーじゃあね」
そんな私はとにかく“早く二人から離れなければ”と、最早、下半身は今にも駆け足寸前の足踏み状態で一方的に二人に声を掛け、彼等の言葉を待たずして直ぐ様、その場を立ち去ろうとした、まさにその瞬間ーーー
私の背後の方から いつも耳に聞き慣れていて、その姿を見なくても誰なのかが直ぐに分かってしまう、決して間違える事のないであろう声が…………
「珠里っ!!?」
ーーひええぇぇぇぇ!!ジーーザスっつ!! (神様っつ!!)
【5ー続】
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どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
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