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第2部
【7】擬似デート?後の落とし穴②
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【7ー②】
「あ、そうだ! それでさっき康介から電話が来て、あんたが帰って来たら自分の携帯にメールするように言ってたけど」
「え? 康介が?」
そもそも私の追及から逃れる為に逃亡しておいてからに一体何なん!?
私は自分のバッグからスマホを取り出すと画面には康介の他に奏、伊月、若村からのメールの着信が入っていた。
「ありゃ、奏と伊月と若村からもメールが入ってる。あ~気付かなかった」
私は最初に入っていた伊月と若村のメールを開く。
【珠里ちゃん、今日はホントになんか ごめんね。バイト大丈夫だった? でも俺、今日珠里ちゃんに会えて超ハッピーだった!
今度は俺と二人っきりでデートしようね。絶対だよ!? してくれないと俺、寂しくて死んじゃうからーークッスン。
それと、これからも生徒会室に顔を出してくれるとスッゴく嬉しいな。俺にも会いに来てね。 待ってる♡】
「……ったく、寂しくて死ぬとか、あんたはウサギさんかっ! しかも相変わらず乙女な文章だな、おい。
仕方ないから来週は生徒会に顔出すか~ 今日の事もあるし再度きちんと説明しないと伊月が煩くなりそうだしなーーー」
私は呟きながら伊月にメールを返すと今度は若村のメールを開く。
【橘、バイトの時間は間に合った? しかも今日は折角の休日デートの邪魔までしてしまって色々とごめん。
伊月には可哀想だけれど彼とすごくお似合いだったよ。だけど同僚としては気になるところなので、今度彼の話を聞かせて貰いたいな。(勿論、伊月のいない所でね)
追伸ーー俺達生徒会一同は橘が必要不可欠なので、今までと同様にこれからも、どうかご助力のほどお願いします】
「だから『デート』じゃないっつーの!! 買い物だって初めっから言ってたじゃん! しかも、お似合いだから伊月が可哀想とかもう~わけわからん」
そんなスマホのメールに否定しつつ、若村にもメールを返すと続けて奏のメールを開く。
【珠里、お仕事お疲れ様です。バイトの時間には間に合いましたか? 元はといえば自分のせいで色々と時間を取らせてしまって本当にごめんなさい。
だけど今日は一緒に出掛ける事が出来て本当に すごく楽しかった。また一緒に出掛けてくれると嬉しいです。 そして家族へのお土産やタオルもありがとう。早速、宿泊研修で使わせて貰います。
それと疲れているところを申し訳ないのですが、自宅に帰ったらメールを一言入れては貰えませんか? 一応心配なのでーーすいません】
ーーう~ん。如何にも奏らしい文章だな。しかも、また敬語に戻っちゃってるし。
まあ、メールもお手紙のようなものだから真正面な奏の事だから、その辺はきちんとしてるんだろうなあーーー
私はそんな奏のメールに無事に帰宅した事を入れるべくバイトも大丈夫だった旨を添えて、同じく今日のお礼を返信した。
そして最後に康介のメールに目を通すと弟のメール内容はーーー
【馬鹿姉貴! 今日という今日は心底おめーの弟 名乗るの嫌になったぜ。 マジで恥ずかしいヤツ】
「なんなのアイツ!! 馬鹿姉貴とか恥ずかしいヤツってどういう事よ! しかも弟名乗るのも嫌って、そこまで言うか? 全く意味分かんないんだけど!」
私は弟の意味不明のメールに腹が立って直接文句を言ってやらねばと康介に電話を掛ける。すると何コールかした後、相手に繋がった。
『あ~姉貴かーーー』
「あ~ 姉貴かーーじゃないわ! 一体なんなのさ! あのメールは!? ひとを馬鹿だの恥ずかしいヤツだの意味分っかんないし。
それに今日だってあんたが言い出しっぺのくせして一緒に来なかったせいで色々あって大変だったんだから!
しかも何ちゃっかり奏の家にお泊まりしちゃってんの? さてはあんた私から逃げたでしょ。それなのに、あのメールは何?
だああーームカつく!! 私だってあんたみたいな生意気な弟の姉なんてやりたかねーわ!」
『ああ~ うるっせーな。 電話越しに耳元で大声だすなよな。 おめーの声、奏の家族に聞こえてんぞ?』
「うっ、もしかして、あんたの側に みんないるの?」
『ああ、居間にいるからな。だから取り敢えず室外に移動中だ。さすがに この会話を奏達に聞かせるわけにはいかねぇし』
「はあ? 別に姉弟喧嘩なんて いつもの事だし、あんたと長話をするつもりなんてさらっさら無いから聞かれて困る会話なんて無いじゃん。
私はあんたの失礼極まりないメールに直接文句を言いたかっただけだから、続きはあんたが帰ってきたら散々愚痴ってやるから覚悟なさい?」
『はああ………それどころじゃねぇよ。 おめーさ、今日買い物してきたんだろ?』
「当ったり前でしょ? 勿論初めっから買い物が目的だったんだから。 それなのに、あんたまで『デート』とか抜かしやがったら後で逆エビ固め食らわしてやるかんね」
『ーーんな事言わねーよ。そんでもって確か服を買いに行ったんだよな?』
「うん? そうだけど? ーーあ、もしかして私の趣味にケチつけたいんでしょ。そう来ると思ったからあんたに言われた通り、ちゃんと奏に選んで貰ったから大丈夫だもんね。普通にカジュアルな服だから安心してもいいよ?」
『…………果たして“アレ”を安心しろって言えんのか? “アレ”はさすがに奏が選んだわけじゃねぇだろ。しかもまだ、そこまでの“関係”ってわけでもねぇしな。
………まあ、個人の趣味はそれぞれだとしても“アレ”は無いぜ。普通の健全男子なら確実に退くぞ?』
「んん? “アレは無い”って、奏に買ったフェイスタオルの事?
確かに色は赤色で大きなメーカーロゴも入っているから少し派手めかもしれないケド、スポーツ用品店で買ったモノだし特に変なところなんてあったっけ?ーーー」
『買ったモノは それだけじゃねーだろ? よく思い出してみろよ?』
「思い出してみろって………私の洋服に奏へのフェイスタオルでしょ、後はたい焼きとーーー」
私は片手にスマホで会話しつつ、買ってきた洋服の入った紙袋を開いてハッと思い出す。
ーーそういえば、私、下着売り場に………
そう思い出した瞬間、私の顔から血の気が みるみる退いていく。
ーーま、まさか………
慌てて紙袋の中身をひっくり返すも、買ったはずの“アレ”が入った白い小さな紙袋がどこにもない。
もしやと思い自分のバッグの中も探ってみたがーー無い無い無い。
「………こ、康介。あ、あのさ、あんたが言ってる“アレ”って小さい白い紙袋のヤツ………?」
………嫌な予感しかしない。だって私の手元には“アレ”が無いのだ。ーーという事は………
『はあぁ………そうだよ。奏の紙袋の方に入ってたゼ? 小さい白い紙袋のヤツな。
おめーさ、なんで あんなの買ったんだよ? いくらなんでも“アレ”は無ぇだろ。さすがに俺もマジで言葉が出ねェわ。
いいか? ああいうのを好むのはエロオヤジだけだから覚えとけ!』
ーーいやああぁぁぁ!! う、嘘でしょ!! お願いだから嘘だと言って!!
「ね、ねえ、康ちゃん? “ソレ”を見たのは あんただけだよね?」
『ーーご愁傷様だな。女向けの小さい紙袋だったから、凛音がみんなの前で袋を開いて中身を取り出しちまった』
「い、いやあああぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと珠里!? どうしたの!?」
「珠里!? おい、どうしたんだ!?」
突如、私の絶叫に両親が驚いて声を掛けてくるも、それどころではない。襲い来る羞恥心の大嵐に頭の中はパニック状態だ。
私が買った“アレ”とは、奏を一人置いて下着売り場へ駆け込んだ時に、たまたまバーゲンセールで半額以下の破格の値で売っていた海外ブランドの下着が目に留まり、
乙女ゲームの恋愛イベントの為の勝負下着があってもいいよね?と思っていたので、値段もお手頃でブランド下着だけに品も良いだろうとブラとショーツのセットを購入したのだ。
ただ海外モノだけあって少々セクシーなデザインで、私が購入した下着もブラは白いレースやリボンのついた お洒落な可愛い感じのモノだったのだが、問題は下のショーツの方だった。
それはもはや下着の役目を果たしていないであろう、お尻丸見えのレースのTバックに前側もシースルー素材のいわゆる中身スケスケおパンツというヤツだ。
私もそれには、さすがに抵抗感はあったものの、まあ、私の場合は下着など他人様に見せるモノでも無く、
ブラのデザインはそこそこ気に入っていたので、スケスケおパンツの方は後で、こっそり処分しようと思っていたのにだ。
それが、まさかの うっかりで、しかもよりにもよって奏の方の手荷物に紛れ込んでしまうとは
ーーー更に最悪な事に有島家の家族全員の前で、それを公開されてしまっただなんて!!
ーーあああああ! 私の人生終わった!! 恥ずかしすぎて死んじゃううぅぅぅ!!
『おい! だから大声で叫ぶなって言ってんだろ! 鼓膜破れたら、どーすんだ!!』
「ううっつ、康介。違う、違うからね? たまたまバーゲンセールでお得に売っていたから、
ブラのデザインが可愛くて、つい買っただけなの。勿論下の方は着ける気なんて全く無くって、後でこっそり処分するつもりだったんだよ。
ふえぇぇん~ どうしよう、康介。 私もう奏とは二度と顔合わせらんない!! っつーか、有島家の人達ともお付き合いが出来ないよ。寧ろ恥ずかしくって死ぬからぁぁぁ~」
私は半泣き状態でテーブル突っ伏すと、耳元のスマホから康介の焦っているような声が聞こえてくる。
『おい! ちょい待て! 落ち着けよ。そこまで深刻じゃねーから。 おめーの事だから多分そうだと思って俺もフォローしといたし、奏も大して気にしてねぇから大丈夫だって!』
「そんな大丈夫なわけないじゃん!! あんな下着見られてきっと私、ドスケベ女とか思われてるよ! ううっつ、あんたの言った通り弟名乗りたくないのも分かるぅ。
康介、ゴメンーー奏にはもう家には来ないように、あんたから言って? これからは、あんたが奏の家に行けばいいよ。ああ~もう自分が嫌だあぁぁ!!」
すると康介は益々焦ったように宥めてくる。
『待て待て待て!! ホントに大丈夫だってんの!! おめーは大袈裟に考え過ぎなんだって。それこそいつもの能天気はどうしたよ。
しかもそんな事、奏に口が裂けても言えっかよ! アイツが本気で怒る方がマジで怖えぇから!
それに姉貴の“ヌケ作”ぶりは今に始まった事じゃねーし、奏の家族達も知ってっから誰も本気にしてねぇし大丈夫だって。そんな姉貴が多少何かやらかしたところで今更驚きやしねーよ』
「ううっ~ 康介が苛めるぅ~しかも“ヌケ作”って、私って周りからそんな風に思われてたの? ショックぅぅ~ それって私が根っからの阿呆みたいじゃないのぉぉ~」
『ああ~ もう違うって言ってんだろ! 苛めてもいねーし、そういう意味じゃねーんだって!! クッソ、これだから女は面倒クセーんだよ。
とにかくな、ホントに大丈夫だからもう気にすんな! それに、おめーはそんな些細な事を気にするような性格じゃねーだろうがよ。いつものように、のほほんとしてりゃいいんだよ』
「のほほんってさあーーううぅ、もういいよ! なんか あんたと話してると励まされてるのか、落ち込まされているのか分かんなくなってきたわ。
ーーじゃあ、もう切るから!!」
そう言って、こちらから一方的に通話を切ると私は、こと切れたように再びテーブルに突っ伏しているところへ父と母が私の側に移動してくる。
「ちょっと! 今のはどういう事なの? 珠里!? しかも下着がどうとか言ってたけど、あんたまた奏くんを巻き込んで何かとんでもない事をやらかしたんじゃないでしょうね!?」
「ううっ、お母さんまで、そんな事言うーーって言いたいところだけど、その通りだから言い返せないぃぃ~」
「珠里!? あんた何したの!?」
「うぅ~ 言えないっていうか、超恥ずかしくって言いたくないぃぃ。 奏にも合わせる顔が無いよ! お母さ~ん! 私もうお嫁に行けない!!」
すると母は何かを察したように怒る。
「もう! このお馬鹿!! 何て事をしたの! いつも行動には気をつけるように言ってるのに、あんたは昔っから そそっかしくて、ぼんやりしてるんだから!
しかも18にもなって、こんなんで社会人が務まるとでも思ってるの? 本当に、いつまでも子供のままじゃ あんたが困るのよ?」
「ふえぇぇんーー私まだ何も言ってないのに お母さんに怒られたあぁぁ」
私は益々落ち込んで泣き伏すと、その背中を父がポンポンと叩く。
「え~っとだな、珠里、何があったかは知らないが、気にする事なんてないぞ? しかもお前は親の贔屓目からみても美人だから
“ヌケ作” ーーいや多少そそっかしくても、結婚相手に困る事はないから心配するな。
なあに、家事とか一人前に出来なくても愛嬌さえあれば意外にどうにかなるもんだ。そしてお前の愛嬌の良さは天下一品だから安心していいぞ?」
「お父さぁ~ん、いつもフォローありがとね~ そして恥ずかしい娘でゴメン。
因みに孫は姉よりもしっかり者で頭も賢い女子に大人気の息子の康介に期待してね?
私はもう二次元の世界でしか生きられない女なのよ~ うぇぇ~ん」
そんな私を見て母は呆れたように深い ため息を吐いて首を横に振って呟く。
「はあぁ………事の詳細は後で康介に聞いた方が早いわね」
【7ー終】
「あ、そうだ! それでさっき康介から電話が来て、あんたが帰って来たら自分の携帯にメールするように言ってたけど」
「え? 康介が?」
そもそも私の追及から逃れる為に逃亡しておいてからに一体何なん!?
私は自分のバッグからスマホを取り出すと画面には康介の他に奏、伊月、若村からのメールの着信が入っていた。
「ありゃ、奏と伊月と若村からもメールが入ってる。あ~気付かなかった」
私は最初に入っていた伊月と若村のメールを開く。
【珠里ちゃん、今日はホントになんか ごめんね。バイト大丈夫だった? でも俺、今日珠里ちゃんに会えて超ハッピーだった!
今度は俺と二人っきりでデートしようね。絶対だよ!? してくれないと俺、寂しくて死んじゃうからーークッスン。
それと、これからも生徒会室に顔を出してくれるとスッゴく嬉しいな。俺にも会いに来てね。 待ってる♡】
「……ったく、寂しくて死ぬとか、あんたはウサギさんかっ! しかも相変わらず乙女な文章だな、おい。
仕方ないから来週は生徒会に顔出すか~ 今日の事もあるし再度きちんと説明しないと伊月が煩くなりそうだしなーーー」
私は呟きながら伊月にメールを返すと今度は若村のメールを開く。
【橘、バイトの時間は間に合った? しかも今日は折角の休日デートの邪魔までしてしまって色々とごめん。
伊月には可哀想だけれど彼とすごくお似合いだったよ。だけど同僚としては気になるところなので、今度彼の話を聞かせて貰いたいな。(勿論、伊月のいない所でね)
追伸ーー俺達生徒会一同は橘が必要不可欠なので、今までと同様にこれからも、どうかご助力のほどお願いします】
「だから『デート』じゃないっつーの!! 買い物だって初めっから言ってたじゃん! しかも、お似合いだから伊月が可哀想とかもう~わけわからん」
そんなスマホのメールに否定しつつ、若村にもメールを返すと続けて奏のメールを開く。
【珠里、お仕事お疲れ様です。バイトの時間には間に合いましたか? 元はといえば自分のせいで色々と時間を取らせてしまって本当にごめんなさい。
だけど今日は一緒に出掛ける事が出来て本当に すごく楽しかった。また一緒に出掛けてくれると嬉しいです。 そして家族へのお土産やタオルもありがとう。早速、宿泊研修で使わせて貰います。
それと疲れているところを申し訳ないのですが、自宅に帰ったらメールを一言入れては貰えませんか? 一応心配なのでーーすいません】
ーーう~ん。如何にも奏らしい文章だな。しかも、また敬語に戻っちゃってるし。
まあ、メールもお手紙のようなものだから真正面な奏の事だから、その辺はきちんとしてるんだろうなあーーー
私はそんな奏のメールに無事に帰宅した事を入れるべくバイトも大丈夫だった旨を添えて、同じく今日のお礼を返信した。
そして最後に康介のメールに目を通すと弟のメール内容はーーー
【馬鹿姉貴! 今日という今日は心底おめーの弟 名乗るの嫌になったぜ。 マジで恥ずかしいヤツ】
「なんなのアイツ!! 馬鹿姉貴とか恥ずかしいヤツってどういう事よ! しかも弟名乗るのも嫌って、そこまで言うか? 全く意味分かんないんだけど!」
私は弟の意味不明のメールに腹が立って直接文句を言ってやらねばと康介に電話を掛ける。すると何コールかした後、相手に繋がった。
『あ~姉貴かーーー』
「あ~ 姉貴かーーじゃないわ! 一体なんなのさ! あのメールは!? ひとを馬鹿だの恥ずかしいヤツだの意味分っかんないし。
それに今日だってあんたが言い出しっぺのくせして一緒に来なかったせいで色々あって大変だったんだから!
しかも何ちゃっかり奏の家にお泊まりしちゃってんの? さてはあんた私から逃げたでしょ。それなのに、あのメールは何?
だああーームカつく!! 私だってあんたみたいな生意気な弟の姉なんてやりたかねーわ!」
『ああ~ うるっせーな。 電話越しに耳元で大声だすなよな。 おめーの声、奏の家族に聞こえてんぞ?』
「うっ、もしかして、あんたの側に みんないるの?」
『ああ、居間にいるからな。だから取り敢えず室外に移動中だ。さすがに この会話を奏達に聞かせるわけにはいかねぇし』
「はあ? 別に姉弟喧嘩なんて いつもの事だし、あんたと長話をするつもりなんてさらっさら無いから聞かれて困る会話なんて無いじゃん。
私はあんたの失礼極まりないメールに直接文句を言いたかっただけだから、続きはあんたが帰ってきたら散々愚痴ってやるから覚悟なさい?」
『はああ………それどころじゃねぇよ。 おめーさ、今日買い物してきたんだろ?』
「当ったり前でしょ? 勿論初めっから買い物が目的だったんだから。 それなのに、あんたまで『デート』とか抜かしやがったら後で逆エビ固め食らわしてやるかんね」
『ーーんな事言わねーよ。そんでもって確か服を買いに行ったんだよな?』
「うん? そうだけど? ーーあ、もしかして私の趣味にケチつけたいんでしょ。そう来ると思ったからあんたに言われた通り、ちゃんと奏に選んで貰ったから大丈夫だもんね。普通にカジュアルな服だから安心してもいいよ?」
『…………果たして“アレ”を安心しろって言えんのか? “アレ”はさすがに奏が選んだわけじゃねぇだろ。しかもまだ、そこまでの“関係”ってわけでもねぇしな。
………まあ、個人の趣味はそれぞれだとしても“アレ”は無いぜ。普通の健全男子なら確実に退くぞ?』
「んん? “アレは無い”って、奏に買ったフェイスタオルの事?
確かに色は赤色で大きなメーカーロゴも入っているから少し派手めかもしれないケド、スポーツ用品店で買ったモノだし特に変なところなんてあったっけ?ーーー」
『買ったモノは それだけじゃねーだろ? よく思い出してみろよ?』
「思い出してみろって………私の洋服に奏へのフェイスタオルでしょ、後はたい焼きとーーー」
私は片手にスマホで会話しつつ、買ってきた洋服の入った紙袋を開いてハッと思い出す。
ーーそういえば、私、下着売り場に………
そう思い出した瞬間、私の顔から血の気が みるみる退いていく。
ーーま、まさか………
慌てて紙袋の中身をひっくり返すも、買ったはずの“アレ”が入った白い小さな紙袋がどこにもない。
もしやと思い自分のバッグの中も探ってみたがーー無い無い無い。
「………こ、康介。あ、あのさ、あんたが言ってる“アレ”って小さい白い紙袋のヤツ………?」
………嫌な予感しかしない。だって私の手元には“アレ”が無いのだ。ーーという事は………
『はあぁ………そうだよ。奏の紙袋の方に入ってたゼ? 小さい白い紙袋のヤツな。
おめーさ、なんで あんなの買ったんだよ? いくらなんでも“アレ”は無ぇだろ。さすがに俺もマジで言葉が出ねェわ。
いいか? ああいうのを好むのはエロオヤジだけだから覚えとけ!』
ーーいやああぁぁぁ!! う、嘘でしょ!! お願いだから嘘だと言って!!
「ね、ねえ、康ちゃん? “ソレ”を見たのは あんただけだよね?」
『ーーご愁傷様だな。女向けの小さい紙袋だったから、凛音がみんなの前で袋を開いて中身を取り出しちまった』
「い、いやあああぁぁぁぁ!!!」
「ちょっと珠里!? どうしたの!?」
「珠里!? おい、どうしたんだ!?」
突如、私の絶叫に両親が驚いて声を掛けてくるも、それどころではない。襲い来る羞恥心の大嵐に頭の中はパニック状態だ。
私が買った“アレ”とは、奏を一人置いて下着売り場へ駆け込んだ時に、たまたまバーゲンセールで半額以下の破格の値で売っていた海外ブランドの下着が目に留まり、
乙女ゲームの恋愛イベントの為の勝負下着があってもいいよね?と思っていたので、値段もお手頃でブランド下着だけに品も良いだろうとブラとショーツのセットを購入したのだ。
ただ海外モノだけあって少々セクシーなデザインで、私が購入した下着もブラは白いレースやリボンのついた お洒落な可愛い感じのモノだったのだが、問題は下のショーツの方だった。
それはもはや下着の役目を果たしていないであろう、お尻丸見えのレースのTバックに前側もシースルー素材のいわゆる中身スケスケおパンツというヤツだ。
私もそれには、さすがに抵抗感はあったものの、まあ、私の場合は下着など他人様に見せるモノでも無く、
ブラのデザインはそこそこ気に入っていたので、スケスケおパンツの方は後で、こっそり処分しようと思っていたのにだ。
それが、まさかの うっかりで、しかもよりにもよって奏の方の手荷物に紛れ込んでしまうとは
ーーー更に最悪な事に有島家の家族全員の前で、それを公開されてしまっただなんて!!
ーーあああああ! 私の人生終わった!! 恥ずかしすぎて死んじゃううぅぅぅ!!
『おい! だから大声で叫ぶなって言ってんだろ! 鼓膜破れたら、どーすんだ!!』
「ううっつ、康介。違う、違うからね? たまたまバーゲンセールでお得に売っていたから、
ブラのデザインが可愛くて、つい買っただけなの。勿論下の方は着ける気なんて全く無くって、後でこっそり処分するつもりだったんだよ。
ふえぇぇん~ どうしよう、康介。 私もう奏とは二度と顔合わせらんない!! っつーか、有島家の人達ともお付き合いが出来ないよ。寧ろ恥ずかしくって死ぬからぁぁぁ~」
私は半泣き状態でテーブル突っ伏すと、耳元のスマホから康介の焦っているような声が聞こえてくる。
『おい! ちょい待て! 落ち着けよ。そこまで深刻じゃねーから。 おめーの事だから多分そうだと思って俺もフォローしといたし、奏も大して気にしてねぇから大丈夫だって!』
「そんな大丈夫なわけないじゃん!! あんな下着見られてきっと私、ドスケベ女とか思われてるよ! ううっつ、あんたの言った通り弟名乗りたくないのも分かるぅ。
康介、ゴメンーー奏にはもう家には来ないように、あんたから言って? これからは、あんたが奏の家に行けばいいよ。ああ~もう自分が嫌だあぁぁ!!」
すると康介は益々焦ったように宥めてくる。
『待て待て待て!! ホントに大丈夫だってんの!! おめーは大袈裟に考え過ぎなんだって。それこそいつもの能天気はどうしたよ。
しかもそんな事、奏に口が裂けても言えっかよ! アイツが本気で怒る方がマジで怖えぇから!
それに姉貴の“ヌケ作”ぶりは今に始まった事じゃねーし、奏の家族達も知ってっから誰も本気にしてねぇし大丈夫だって。そんな姉貴が多少何かやらかしたところで今更驚きやしねーよ』
「ううっ~ 康介が苛めるぅ~しかも“ヌケ作”って、私って周りからそんな風に思われてたの? ショックぅぅ~ それって私が根っからの阿呆みたいじゃないのぉぉ~」
『ああ~ もう違うって言ってんだろ! 苛めてもいねーし、そういう意味じゃねーんだって!! クッソ、これだから女は面倒クセーんだよ。
とにかくな、ホントに大丈夫だからもう気にすんな! それに、おめーはそんな些細な事を気にするような性格じゃねーだろうがよ。いつものように、のほほんとしてりゃいいんだよ』
「のほほんってさあーーううぅ、もういいよ! なんか あんたと話してると励まされてるのか、落ち込まされているのか分かんなくなってきたわ。
ーーじゃあ、もう切るから!!」
そう言って、こちらから一方的に通話を切ると私は、こと切れたように再びテーブルに突っ伏しているところへ父と母が私の側に移動してくる。
「ちょっと! 今のはどういう事なの? 珠里!? しかも下着がどうとか言ってたけど、あんたまた奏くんを巻き込んで何かとんでもない事をやらかしたんじゃないでしょうね!?」
「ううっ、お母さんまで、そんな事言うーーって言いたいところだけど、その通りだから言い返せないぃぃ~」
「珠里!? あんた何したの!?」
「うぅ~ 言えないっていうか、超恥ずかしくって言いたくないぃぃ。 奏にも合わせる顔が無いよ! お母さ~ん! 私もうお嫁に行けない!!」
すると母は何かを察したように怒る。
「もう! このお馬鹿!! 何て事をしたの! いつも行動には気をつけるように言ってるのに、あんたは昔っから そそっかしくて、ぼんやりしてるんだから!
しかも18にもなって、こんなんで社会人が務まるとでも思ってるの? 本当に、いつまでも子供のままじゃ あんたが困るのよ?」
「ふえぇぇんーー私まだ何も言ってないのに お母さんに怒られたあぁぁ」
私は益々落ち込んで泣き伏すと、その背中を父がポンポンと叩く。
「え~っとだな、珠里、何があったかは知らないが、気にする事なんてないぞ? しかもお前は親の贔屓目からみても美人だから
“ヌケ作” ーーいや多少そそっかしくても、結婚相手に困る事はないから心配するな。
なあに、家事とか一人前に出来なくても愛嬌さえあれば意外にどうにかなるもんだ。そしてお前の愛嬌の良さは天下一品だから安心していいぞ?」
「お父さぁ~ん、いつもフォローありがとね~ そして恥ずかしい娘でゴメン。
因みに孫は姉よりもしっかり者で頭も賢い女子に大人気の息子の康介に期待してね?
私はもう二次元の世界でしか生きられない女なのよ~ うぇぇ~ん」
そんな私を見て母は呆れたように深い ため息を吐いて首を横に振って呟く。
「はあぁ………事の詳細は後で康介に聞いた方が早いわね」
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主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
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