現実は乙女ゲーよりも奇なり

春賀 天(はるか てん)

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第3部

【8】因縁の再会⑭ー2(~年上のお友達)

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【8ー⑭】



それから私達はあきさんが作った“あんみつ”の撮影会に突入する。



「それにしても意外だな~ 暁がこんな芸当をするなんて。 しかもマジで この白玉超カワイイんですけど」



早智さちさんが感心しながら、あんみつの入っているガラスの器をつついている。 そしてあやさんは私に気を遣ってくれているのか、私に対面するように場所を移動して、七奈心ななこさんがいる方向から視界を遮るように壁になって何事もないかのように、あんみつを見つめている。



「ほ~んと、細工が細かいわ~ 白玉に色んな顔がついていて面白いよね。 あの暁がこれを一生懸命作っている姿を想像するだけでなんか笑える~」



二人が言うように、そのあんみつの中に入っている白玉には、ひと工夫がしてあって、その一つ一つに黒ゴマや海苔で、笑い顔や怒り顔、泣き顔や困った顔など、器用に表情が作ってある。


た、確かにメッチャ可愛いんですけど! ーーっていうか、暁さん、スッゴい器用だ! 私だったら、こんな細かい作業なんて出来ないよ。 だって不器用で「きいぃぃぃーー」ってなるから。


………暁さんって、キャラ弁とか得意そうだな。今度、リクエストしたら作ってくれるかなあ。



「う~ん、これを可愛い後輩の為に作ったとはね。タマちゃん、ホントに暁に愛されてるなあ。アイツ意外に尽くすタイプだったんだ。普段見ている分には“俺に ついてこい”タイプなのに、な~んか騙された」



早智さんの言葉に綾乃さんも笑う。



「いやいや、それは相手がタマちゃんだからじゃないの? 人間って可愛い生き物には基本的に弱いでしょ? とうにしてもそうだけれど、早智だってタマちゃんに もうメロメロだしね」


「だって、タマちゃんって本当に可愛いんだもの。今時、こんな風にスレれてない女子高生は珍しいよ。 しかも こんなに可愛いのに意識したあざとさも無くって、なんか子供のまま大きくなったって感じだよね。

だからかな、見ていて危なっかしいというか、暁が放っておけない気持ちが分かるよ。なんかこうタマちゃんを見ていると、ついつい構いたくなる衝動に駆り立たされるというか、とにかく可愛い!」



そんな早智さんは私の頭を「いい子いい子」と何度も撫でてくる。



「あははは、それってもう、構いたがりの近所や親戚の おばちゃんじゃん。タマちゃん、早智がウザかったら、はっきり言ってやって。このお姉さん調子に乗ると、すぐ暴走するからさ」



すると早智さんが頬を少しふくらませて反論する。



「よく言うよ。 綾乃、あんただって自分のおいっ子、超溺愛している本物の“おばちゃん”じゃんか。その点、私はまだ甥も姪もいないから、実質まだ“おばちゃん”じゃないもんね~」


「あら~ 甥っ子姪っ子の可愛いさを実感出来なくてお気の毒ね。ウチの甥っ子なんて、私に会う度に「お姉ちゃん。大好き」って、ほっぺにチューしてくれるんだから❤️ すっごく、すっごく可愛いの。

ーーああっ、甥っ子の可愛さに比べたら『彼氏カレシ』の存在なんて及びじゃないわ!」



すごく嬉しそうに表情をほころばせている綾乃さんの様子に、思わず その光景を想像してしまう。



小さな可愛い男の子がほっぺにチュー!? か、可愛いっつ!! うらやましすぎるっ!!



「ほっぺにチュー………う、うらやましい」



ぽそりと私が呟くと、綾乃さんはスマホの画面をいじりながら、自分の甥っ子の秘蔵写真を見せてくれた。



「でしょ、でしょ~ タマちゃん見て見て。これウチの甥っ子。今、5歳でね、すっごく可愛いの❤️」



その写真には大きなクマさんの ぬいぐるみを抱っこしているクリクリおめめの可愛い小さな男の子が写っている。



!? ーーぐはあぁぁ、か、可愛いぃぃぞぉぉ。



「いやぁん、綾乃さん。甥っ子くん超カワイイ~激可愛ですぅ~!! しかも自分よりおっきいクマさん抱っことか、マジ可愛いすぎて鼻血出そう! 

まさか! この子がほっぺにチューですか!? ああっ、うらやましいぃぃ。私も絶対こんな甥っ子欲しいぃぃ!」


「うふふっ、でしょ~ もう私の自慢の甥っ子なの。勿論、誰にもあげな~い。でねでね? まだまだ、とっておきの悩殺ものの写真があるの❤️」


「の、悩殺!? うっひゃあーー」



私の反応に気を良くした綾乃さんは、更に次々と他の写真も見せてくれる。

クマさんの着ぐるみを着ているものや、ソフトクリームを頬張って顔中クリームだらけのもの、極めつけは子供用の小さなビニールプールで、まぁるい可愛いプリプリのおしりちゃんが丸出し(まだ子供だからいいよね?)で遊んでいるものなど、

すっかり意気投合した綾乃さんと一緒に「きゃあきゃあ」言いながら興奮のあまり、本来の地が出てしまっているが、一応、私はショタコンではない。そもそも人間というものは、可愛いものが好きな生き物なのだ❤️



そんな私と綾乃さんが二人で盛り上がっているのを見て、早智さんが悔しそうに間に入ってくる。



「もう! 綾乃はすぐそうやって色んな人に甥っ子自慢するんだから。 しかもすっかりタマちゃんともうち解けちゃってるし、ズルいよ! 

タマちゃん、こっちも見て見て! これ、ウチの可愛い愛犬。今は大きくなっちゃったけど、赤ちゃんの時の写真はコロコロしていて、すっごくカワイイんだから!」



そう言って早智さんも綾乃さんに対抗するように自分の愛犬の写真を繰り出してくる。



おおぅ! 子犬もメッチャ可愛いぞぉぉ。……いいなあ、ウチは私と弟だけだから当然、甥っ子姪っ子なんて康介こうすけが結婚しない事には実現しないし、しかもまだまだずっと先の話だ。それにペットも飼っていないので、唯一いるのは図体のデカい可愛くない弟だけである。



はあぁ………せめてかなでが弟だったら、みんなに自慢出来るのに。



そして早智さんと綾乃さんの写真自慢に盛り上がっていた中、チラリと七奈心さんの方に視線を向けると、七奈心さんはもうこちらを見てはおらず、数人の友人達と談笑しているのを見て、何故かホッと胸を撫で下ろす。



ーー別にやましい事なんて何一つ無いんだけど、暁さんとの事で変に疑われるのもな~ それでなくても男がからむと女子って怖いし、面倒事に巻き込まれるのだけは嫌だから、一応、気を付けておこうかな。


それから一通り、新郎新婦の友人達のお祝いの祝辞や歌が披露され、最後の方で司会の人から桃華さんの弟の緋色くんが紹介されて現れると、周囲のお姉さん達から「キャー!!❤️」と黄色い声援が掛けられる。

しかし緋色くんの方は全くの無反応、無表情のまま客席に向けて一礼すると、ピアノの方に歩いて行く。



「う~ん、やっぱり桃華の弟くんってカッコいいなあ。さすが桃華の自慢の弟だけあるわ。いい男は仏頂面さえもイケてるんだもんな。 私もあと数年若かったら絶対アタックしてたのにぃぃ。ああっ~年の差が憎いっ!  ほ~んっと、残念!」



緋色くんを見て残念そうにしている早智さんに、綾乃さんが小さく肩をすくめた。



「でも、あの手のタイプは早智には無理だと思うよ。あの子ってグイグイ来るタイプの女の子は苦手だよ、きっと。それにちょっと気難しそうだし、お互い会話にも苦労するかも」



綾乃さんの言葉に早智さんがチッチッと人差し指を横に振る。



「もう、分かってないなあ~綾乃は。ああいうタイプほどギャップ萌えがあるから良いんじゃないの。 今流行りの『ツンデレ』というやつよ。 

初めっから優しくされて甘い言葉を掛けられるよりも、普段は素っ気無いのに、突然、優しさや独占欲を見せられる方が、女としては萌えキュンしちゃうでしょ?」


「え~?  私は初めから優しい方が断然いいなあ。だって冷たくされたら、ホントは嫌われているのかなって逆に不安になるもん。 

それに好かれていたとしても、それを言葉や態度で表してくれないと、相手が何を考えているのか分からないから、それで誤解したまま破局するケースって、よくあるハナシだし?」



そんな綾乃さんに早智さんもうなる。



「うう~ それはそうなんだけどさ、逆に優しい男は男で結構、浮気者が多いじゃん。しかも女も寄って来やすいしさ、誰にでも優しいと勘違いしちゃう子も出てきちゃうし。それなら やっぱり『ツンデレ』が良くない? ーーね、タマちゃんは、どっちがいい?」
 

「は、はい?」



突然、早智さんから話を振られてアワアワしてしまう。



「ど、どっちと言われましても」


「タマちゃん、そんなに難しく考える事ないのよ? 『優しい男』が好きか『ちょっぴり意地悪な男』が好きかってだけだから。  ほら、タマちゃんも現役の学生なんだしさ、身近に そういう男の子くらい いるでしょ?」



早智さんに詰め寄られて仕方なく思い浮かべる。



ーーうぅ~ 困ったな。『優しい』といえば奏や若村わかむらだし、『意地悪』といえば康介や緋色くん。暁さんは優しいけど、口うるさいから、その中間層。

れんさんは比較するのも申し訳ないくらい大人だから除外として、ああ、づきは もう可愛い『ワンコ』枠かな?w。


ーーど、どうしよう? 考えてみたら私、好きなタイプは『可愛い年下』ってだけで、特に性格の好みなんて考えた事ない。だって現実の男に対して恋愛感情が欠落している人間なんだもん。

しかも唯一、私が恋する『乙女ゲー』はその都度、攻略対象が巡るめく変わるから、お気に入りの一押しはいるんだけど、ゲームする度に色んなタイプの男の子に恋しちゃうし、

恋愛ゲームならではの究極の『ハーレムエンド』とかでも喜んじゃうし、こういうのって『現実世界』では“八方美人”とか“浮気者”とかって言うんでしょ?


ーーはあぁ………すみません。 私、“乙女ゲーオタク”なんで、好きなタイプは その都度、変わるんです。………なんて さすがに言えないな………うん。



「ーーえっと、その、どっちとも言えないというか、(現実の)男の子を好きになった事が今まで無いので、よく分からないです」


「え!  うそ!? マジで??」


「ええっ!?」



早智さんと綾乃さんは思いの外、驚いて目を丸くしている。



「ホントに? 今の今まで? すると『初恋』もまだの?」


「は、はい。『現実的』には」



ーー正確に言えば、私の『初恋』はテレビアニメの登場人物の男の子でした。なので現実的には一度もありません………はい。



そんな早智さんの問いに答えていると、綾乃さんも続く。



「もしかしてタマちゃんって、良家の箱入り お嬢様だったりする?」


「とんでもない! 普通の一般家庭育ちです。ただ現実の男の子に興味が持てないだけで、まあ、言うなれば『変り者』なんですよね~私」


「もしかして、男嫌いとか?」



綾乃さんの伺うような言葉に私はブンブンと首を横に振る。



「そういうわけじゃないです。特に嫌いとかじゃなくって、本当に恋愛事に関して興味が無いだけで、他はいたって普通ですから」



すると早智さんが頷く。



「そうだよね~ 男嫌いだったら、それこそ、こんな男だらけの職場でなんて働けないし、会話する事自体、嫌悪ものでしょ。

だとすると、タマちゃんはまだ自分の理想の男に出会えてないって事か~ 全く世の中の男共は情けないったらないね。こんな美少女の心を射止められないだなんて」



綾乃さんも頷く。



「きっとタマちゃんが美人だから男にとっては『高嶺の花』なんだよ、きっと。だけどチャンスが無いわけでも無いのに挑戦すらしないなんて、世の男は確かに情けないわね。

今時、平凡な芸人だって美人女優を射止める気概を見せている時代なのに、それだけ世の中『草食男子』が多い事の表れなのかもね~」


「だからこれといった男がいないのかぁ~ なんかタマちゃんの気持ちが分かる気がする。 

思えば私も今まで付き合って別れた男はどれも問題ありだったし、新しい恋が したくっても、これといったトキメキすらないんだもの。

あ~あ、私も中、高校生時代に戻りたいな。そして大人の打算的な恋愛じゃなくって、純粋に相手を好きっていうだけのピュアな恋愛がしたいぃぃ~」



そんな早智さんの言葉に綾乃さんも共感している。



「ホントにね~ 大人になると恋愛もピュアじゃなくなるし、体関係だけの恋愛もあるしさ。そう思うと、あの頃の中高校時代が一番良かったよね。  

毎日、好きな男子の事で「きゃあきゃあ」騒いで一喜一憂したり、手を繋いだ日なんかドキドキして夜、眠れなくなったり、一瞬 触れるだけのぎこちないキスがすごく嬉しくて幸せだったり、それを考えると大人の世界って、ホント汚れてるよね~」


「綾乃、それ以上言わないで。なんか無性に虚しくなるから」



早智さんと綾乃さんが二人で同時に深いため息をついている。そんな二人の会話から、なにやら大人の世界は大変そうだ。

確かに子供と違って色々考えて行動しなければならない責任があるし、世間体もあるだけに、たとえ それが理不尽な事でも、我慢しなければならない事も理解しているが、恋愛方面に関しても色々あるらしい。


そんな二人を見ていると、これから社会に出て行く私は果たして生きていけるのだろうか? と先行きが少々不安になってきた。

そして二人がさっきから私の事を可愛いだの美人だの美少女だのと口にするが、自分の事は自分で自覚しているので敢えてスルーしている。

それも今時の女子校生なのに、お化粧どころかオシャレ一つもせず毎日、ヨレヨレ部屋着のボサボサ頭でゲームに熱中するあまり、汚部屋になっている事も全く気にしない汚泥女にそのような美辞麗句の賛辞ワードが当てはまるわけがない。

けれど、そんなお世辞にいちいち反応して「全然可愛くない」とか「美人なんかじゃない」と全否定するのも、なんか いい子ぶりっ子の謙遜みたいでモヤモヤと嫌な感じしかないので、その手のワードは敢えて聞き流す事にしていた。

それでなくても過去にそれで大失敗していたから………



じゅってさ、前から思ってたけど、なんか、いい子ぶりっ子だよね~ しかも自分で可愛くないとか美人じゃないとか言ってるけど、それ、わざとらしい嫌味だから。聞いている方は小賢しいとしか思えないんだけど』


『ホントは美人って言われて当然だと思ってるんじゃない? ちょっと男から、もてはやされただけで、一人で舞い上がっちゃって、バっカみたい。まじウザイ』


『そうそう、しかも「私なんかより他の女子の方が ずっと可愛いよ」とか、上から目線で白々しいマウント取っちゃってさ~あんた何様って感じ?』


『あはは、だから”女王様“なんじゃないの? 男の気を引くのもメッチャ得意みたいだし、しかも、ちゃっかり男先生まで丸めこんじゃってさ~ もしかして裏で“売り”でもやってんじゃないの~? うっわ、まじキモ~ぃ』


『あたしらって所詮、珠里女王様の引き立て役だもんね~ さぞかし比較対象がいて、いい気分だったでしょ? ああ、言っとくけど、あんた周りの女子達からかなり嫌われてるから。それなのに、いつまでも調子に乗って いい気になってると、その内 痛い目みるかもよ?』



………あの頃の忘れたくても忘れられない嫌な記憶がふっと頭をよぎり、もう過去の事だと自分に言い聞かせるように頭を振って急いで記憶をかき消す。



ーーああ、駄目だな。もう忘れなきゃなのに。今はあの頃の人達とは同じ学校でもないし、すでに縁は切れている。康介や奏にも嫌な思いをさせちゃったし、これ以上、誰にも迷惑掛けたくないよ。


……早智さんと綾乃さんは良い人だと信じたいけど、心のどこかでまた突然裏切られるんじゃないかと思ってるあたり、私って全然成長出来ていないんだな………心のトラウマって自分でも、どうにもならないから難しいよ。


ーーあ、私、緋色くんにも同じようにトラウマを植え付けたんだった。それなのに私は自分ばかり被害者づらなんかして、ああ………私って最低だな。




【8ー続】



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