ある愛妻家の脳内

夕月 檸檬 (ゆづき れもん)

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妻のバースデーディナー

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今日は愛してやまない妻の誕生日。
グルメ情報のツイートを見せられ、リクエストされた店に来た。

うわぁ。
す……すごい!
ツイートの写真以上に圧巻な、フルーツミルフィーユの壁!
おとぎ話の世界に入り込んだような気がする。

妻は目を輝かせ、嬉しそうにしている。
ふたりで一緒に、フルーツミルフィーユの壁をひとしきり眺めてから、席についた。

テーブルの上では、アートキャンドルの炎が揺れている。
妻は、うっとりと炎を見つめる。
私は、妻の姿にうっとりとする。

コース料理のメニューは、妻の好みに合わせて、予約の際にすべて私が選んだものだ。

食前酒は、オレンジジュースとシャンパンのカクテル「ミモザ」。
南半球では妻の誕生花がミモザだと知り、選んでみた。
妻は柑橘類が好きなのも、理由のひとつだ。
私がアルコールを控えている時に、シャンメリーに生オレンジジュースを混ぜて、ノンアルコールミモザを作ってくれた思い出もある。

「食前酒がミモザなのは、ネッ友さんに南半球では私の誕生花がミモザだって教えてもらえたから?」
満面の笑みで尋ねる妻。
「覚えてた? そうなんだ。ミモザ違いだけどね」
ゆるみきった顔で答える私。

前菜はルッコラとカリフラワーのサラダ。
白い花束のイメージで、カリフラワーを使ったサラダを選んだ。

「このドレッシング、ゆずを使ってるのね! 美味しい!」

この顔だ!
妻が料理の美味しさに満足している時の顔。
眼福だ。
もっと見ていたい。
ずっと見ていたい。

スープは、じゃがいものポタージュ。
季節柄、かぼちゃのスープもいいが、甘味を避ける意味でこちらを選んでみた。

「スープのあっさり具合がいいわね。ミモザとゆずドレッシングのあとだから」

おぉっ、正解だった!
心の中でガッツポーズ。

スープと一緒に運ばれてきたソフトフランスパンのバスケットには、赤いリボンがあしらわれている。
妻の還暦を祝って、赤いリボンを使ってもらった。

ソフトフランスパンは、このレストランの隣で営業している系列の手作りパン屋で人気が高い物だ。
食べやすく、1cmほどの厚さに切り分けられている。

次は魚介のメインディッシュ。
「真鯛のポアレ レモンバターソース添え」が運ばれてきた。
レモンバターソースの香りが、一層、食欲をそそる。

ソルベはジンライム味。
ライムの果肉入り。

ソルベをひとくち食べたところで、妻が言った。
「幸せ~!」妻のこの表情と言葉……私にとっては、ご褒美であり、ご馳走だ。

肉類のメインディッシュは、黒毛和牛のステーキ。
焼き加減はミディアムレア。
ミニプレートで好きなように焼けと言う安レストランと違い、本当に注文通りの焼き加減。

食後のコーヒーはカフェ・ボニータ。
コーヒーの種類も、私なりのメッセージだ。
妻は気づいてくれた。

デザートは、壁と同じフルーツミルフィーユ。
テンションが上がり、無邪気にはしゃぐ妻。

クリスマス前から街を彩るイルミネーションの灯りよりも、妻がまばゆい。
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