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不思議な春の夜

再会のような出来事

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私の“ルーツ”がある、少し遠い町に行ってきた。


通過列車を待つ駅で、一旦ホームの待合室に出た。電車の外の空気を吸いたくて。
それで少し気分が悪いのを、まぎらわせようとした。

少し遅れて、別の車両から若者が降りてきた。
あの荷物では、途中で乗り降りするのは、結構な手間がかかりそうだけれど。

近いほうのドアの前で何秒か立ち止まり、何を思ったのか、遠いほうのドアから待合室に入ってきた。
若者が座ったのは、一つ置いて隣の椅子。


思わず、私は目を見張った。

そっくり……!
遠い昔に恋した人に、あまりにも似ている。
身にまと雰囲気ふんいきまで酷似こくじしている!

でも、当時のその人よりも若い。
話してみると、声の高さが違う。
まつ毛の密度も長さも違う。

そっくりな別人なのは、明らかだった。
なのに“その人”にわかりそうな話を振ってみた。


発車時刻が近づき、降りてきた時とは別の車両に乗り込む若者。
偶然にも、私が乗りたい車両。

若者の後を追うようにして、待合室と同じ距離を保ちながら座った。

会話を続けながら、恋した人がエステで若返り、まつ毛エクステをしているのかもしれないと思おうとした。


──我ながら、往生際おうじょうぎわが悪い──。


若者は、人違いをされていると感じた様子ながら、気持ちよく会話に付き合ってくれた。

次の駅で私が降りるまで続いた、ほんの数分間の会話──。


一瞬、一緒に降りるような動作をしてくれた理由は、都合よく解釈してもいいの……?
降りる駅はもっとずっと先だと言っていたのに、一瞬でも降りようとしてくれた。

まさか、隣の駅で一旦降りたのは、私がまだ気分悪そうに見えたから……?
まさか、それで、気にかけてくれた……??


夢見心地なまま、改札に続く階段を昇った。


「またどこかで会えたら、お茶でもしましょう」
なんて、人生初のセリフで若者を制してしまったけれど……。

その言葉すらも、夢の中だから出せたのだと、頭の中がふわふわしたまま歩いていた。


恋した人との再会代わりに、ほんのつか、そっくりな若者を会わせてくれたのかと思うような、不思議な出来事。

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