黒髪狼少女は、白髪の青年に何を思う?

ルシェ(Twitter名はカイトGT)

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飢えた狼編

狩夜(イラスト有り)

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 頭がぼうっとする。
 ボロボロの布切れを身にまとった私の姿は、他人から見ればあまりにも滑稽に見えるのだろう。
 現にここは道の真ん中で通行人が幾人か通り過ぎたが、誰も声をかけてくれない。
 そりゃそうか....、魔物に襲われている赤の他人を助ける理由などないからだ。
 それが何も持ってない人狼の女の子ならなおさらだ。
 私はうずくまり魔物が私を嬲りあきるのを待った。
 棍棒を振り上げて私の体に叩きつけてくる。
 棍棒が当たった部位に痛みを感じると意識がハッキリする。
 私は情けない声をあげて泣き叫ぶ。
 その声を楽しむかのように魔物は続けて殴り続ける。
 私は涙を流しながら助けを呼ぶ声を繰り返す。
 何度か逃げようと心見るが、魔物の方が力があり、足を握られるだけ魔物の間合いに引きずりこまれる。
 引きずりこまれるたびに力の差を思い知らされる。
 私はただただ嵐が過ぎ去るのを待つ事しかできない。
 突然魔物の声が大きくなった。
 声の後しばらくしても殴られないので恐る恐る目を開く。
 すると、先ほどの魔物は倒れ伏していて、側に男が立っていた。
 男の服装は黒のフリースに黒のストレートパンツ、白髪の髪が風を受けてわずかに揺れる。

「おい、大丈夫か?」

 男は私に言葉をかけてくる。
 私は涙を拭いて男の方に向き直る。
 足を力いっぱい握られていたのでなかなか立てない。
 やっとの思いで立ち上がると、男は倒れた魔物の方に注意を向けながら私の状態を確認しているようだった。

「あの...、ありがとうございます...」

 私にお礼で出せるような物は何もない。
 精一杯のお礼がこの言葉だった。

「気にするな、俺の視界に不快な行動が映っただけだ、別にお前がどうなろうと知ったことじゃない」

 男はそれだけ言うとこの場を後にして行く。
 私は思わずその男の後をついて行く。
 そう、今の私には行くところが他にないのだった。
 男は不機嫌そうな顔をしながらも黙って歩いて行く。

 しばらく歩くと人だかりが見えて来た。
 なぜか人だかりができていたので、二人は人だかりをすり抜けた先で現状を確認した。
 どうやら最近の土砂崩れにより橋が崩れたようだ。
 所々に橋の残骸が残っていて、激流がそれを今にも押しのけて全潰寸前で誰も通れないようだった。
 だが、男は全潰寸前の橋を上手いこと駆け抜けて行く。
 僅かに残った橋だった部分を飛び越えながら向こう岸を目指している。
 周りが驚きの声を上げる中、私も挑戦する。
 周りの制止を振り切って飛び越えようと橋だった残骸の部分に着地しようとするが、飛距離が全く足りずに激流に飲み込まれる。
 苦しい...、息ができない...。
 そこから後の記憶は途切れた。


 私は目を開く。
 側にはシャツ一枚の彼がいた。
 髪と服も濡れているのを見て気づいてしまう。
 彼は私を助けにあの濁流の中に身を投げ出したのだと。

「ごめんなさい!」

 私はいきなり大きい声で彼に謝る。
 彼は私を見た後に急に視線をそらした。
 私の布切れを木の上にかけて干していたので、代わりに彼のフリースをかけてもらっていたのだ。
 それを知らずに急に動いたためフリースが地面に落ちて、私は裸を晒していた。
 顔が熱くなるのを感じた私は急いで彼のフリースを着込む。
 彼は私を手招きで呼ぶと焚き火の方へと呼んでくれた。
 彼は一度間を置き、私に緑の木の実を渡してくる。

「食え、まだ少し青い木の実だがそこそこ美味い」

 彼が木の実にかじりつくのを見ると私のお腹は限界を迎えていた。
 私は一心不乱にかぶりつく。
 何日か食べていなかったので青い木の実だろうが物凄く美味しく感じる。
 口の中で噛み砕く度に甘い果汁が口の中を包み込む。
 必死の勢いで食べる私を見た彼は少し安堵した表情を浮かべていた。

「食べる元気があるなら良かった」

 彼はそれだけ言うと木の実を頬張った。



 木の実を食べ終わった私と彼は焚き火で暖まりながら話あった。
 彼の名前は狩夜と言うらしい。
 父親を黒い悪魔なる者に殺されて、その復讐のために旅をしているのだそうだ。

「お前は何であんなところで魔物に襲われていたんだ?」

 狩夜が私に聞いてきたので正直に答える。

「私は身売りの奴隷商人に飼われていたのですが、あなたがくる少し前に奴隷商人の荷馬車が魔物に襲われ、今しか逃げられないと思い逃げてきたのです」

「そうか....」

 狩夜は急に暗い顔になる。

「お前の名前は?」

「私の名前ですか?」

 狩夜に名前を聞かれて思い出す。

「私に名前などありません...、気がついた時から奴隷商人に売り物として調教されてきたので、名前など不要だと思われていたんでしょうね...」

 狩夜は重苦しい話も真剣に聞いてくれているようだった。
 思えば生まれてこのかたこんなことを話せる相手がいなかったのだと思うと自然に涙が溢れてきた。

「どうした?」

 彼は私の涙を心配をしたのか動揺していた。

「いえ、嬉しかったのです、私は今までこんなことを話せる相手すらいない環境にいたので、ただ自然に会話ができることがこんなにも幸福なことだとは気づいていなかった...」

 狩夜は私が涙を流し切り落ち着くまでの間、静かに暖かい手で抱きしめてくれていた。
 私が落ち着くと彼は静かにこう告げた。

「お前は今日から花夜と名乗れ、俺の名前の一文字と花をつけただけだが、とりあえずの名前は必要だろう?」

 彼から与えられた花夜という名前。
 それは私にとってはこれ以上ないくらいの喜びを与えてくれていた。
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