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〜風呂上がり〜

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「いい湯でした」

「いい湯だった~」

 ポッカポッカなお湯を堪能し、呑気な声を出す妹を見ると安心する。
 母さんが既に夕食の準備を終え俺たちを呼ぶ。

「タルトさん!ノーレ!ご飯ですよ!」

 俺と妹は顔を見合わせた後、リビングに急ぐ。
 焼き魚のいい匂いが部屋に充満していて、嫌でも食欲をそそる。
 俺はいつもの席に座り、皆が席に着くのを待つ。
 皆が席に座ると晩御飯を食べ始める。
 焼き魚と野菜サラダという簡単な食事なのに、こんなに心が暖まるのはきっと家族と一緒に食べているからであろう。
 こんな感覚は前世ではあまり味わえなかっただけに感慨深い。

「美味いな...」

「それは良かった、お母さんタルトさんの為腕によりをかけて作ったから嬉しいわ、ところでびしょ濡れだったのは何かあったの?」

「えっと...」

 上手い言葉が見つからず、言葉に詰まっていると。

「美味しい~」

 妹が無邪気に笑いながら食事を楽しむような声を上げた。

「ノーレ、それ美味しい?」

 母さんが野菜サラダを指差して質問する。
 それに対して妹はこくんと首を縦に振った。

「うん!美味しいよ!母さんが作ってくれる料理はなんでも美味しい!」

「まあこの子ったら...、母さん嬉しい」

 ノーレに笑顔を向ける母さんは頰に手を当てて微笑し俺の方を見てこう言った。

「タルトさん、何があったかは知らないけど、母さんは貴方の味方ですから、いつでも頼っていいのよ」

「...」

 俺は言葉を失った。
 こんな事を言われたのは生まれて初めてだったからである。
 あんな風にびしょ濡れで帰ってきたら親に怒られるに決まっていると思っていたが、タルトの母さんは違う。
 この人は自分の子供に甘いと今のでよ~く分かった。

「...、実は泉で遊んでいて服を濡らしちゃったんだ...ごめんなさい」

 素直に本当の事を言い謝る。
 やはりこれが一番いい方法だと思う。
 洗濯するのは母さんなので、謝るのは当然のことだと割り切って頭を下げる。
 すると、母さんは笑っていた。

「タルトさん、いいんですよ、本当の事を話してくれたおかげでモヤモヤした気分いならずに済んだのですから」

「母さん...ごめんなさい...」

 申し訳ない気持ちで心が一杯になりながらも、母さんの器量のデカさに救われる俺だった。


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