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【大帝】⑦

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「そん...な...」

 流石の結美も今の攻撃をそよかぜの如く掻き消されてしまっては精神的ダメージが多かったのだろう。

 戦闘中に完全に固まってしまう彼女など今まで見た事がない。

「ふむ...、なかなかやると思ったけれど、今ので限界のようね。まあ、人間を滅ぼすまでの退屈凌ぎにはなったかな...」

 そう呟くと【大帝】は結美に攻撃を開始する。

「結美!!!」

 俺はなりふり構わず結美の場所に向かい、彼女の盾となった。

 ザシュ...。

 冷たく命を奪う氷の冷ややかな一撃が俺の体を貫いた...。

「がっ...!」

「...あれっ? 順番が変わったかしら?」

「馬鹿者!!! 我の後ろに隠れていろと言っただろ!!!」

 そうアピスにキレられるが勝手に体が動いてしまったのだから仕方がない。

 その数秒後、何が起きたのか理解したのか結美の叫び声が響いた。

「いやああああああ!!!!! カズ君!!!」

 体の体温が冷たくなっていくのが分かる...。

 その中でも血がたらりと落ち切る前に瞬時に凍結し、更に命の温かさを奪っていかれているのも理解した。

「ゆ...み...」

 言葉を発しようとしても口が上手いこと動かない。

 そう、俺は自分の体の何処を貫通させられたのかもわかっていないのだ。

 ただただ痛みと寒さに意識が昏倒としてくる中、俺は愛川結美と言う存在の暖かさに包まれているという最後の幸福を味わいながら意識を失うのだった。
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