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其の弐 桃日絆希と篠懸才児のケース
教えて下さい、先生
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文目先生は"蠱毒な少年"という言葉を聞くなり、一層目つきを鋭くさせた。
「お前、どこでその言葉を聞いた?」
「知っているのか、先生!?」
「どこで聞いたか、と聞いている。それに答えない限り、教えることはできん」
先生の言葉には、今まで感じたことのない、凄まじい"圧"があった。彼は間違いなく"蠱毒な少年"を知っている。そして、その言葉が何かヤバいものだということは、最早疑いようがない。俺は先生の問いに正直に答えた。
「…俺の依頼主からです。この言葉の意味を調べて欲しい、という依頼があって先生に尋ねに来た次第です」
「そうか、お前自身には心当たりはないんだな?」
「………はい、ありません」
「よし、分かった。ちょっと待っとれ」
先生は腰を上げ、巨大な本棚を探り始めた。数分の後、数冊の本を携えて俺の処に戻ってきた。
「やれやれ。年を取ると物覚えが悪くてかなわんな。ほれ、まずはこれじゃ」
「これは…。また随分如何わしい本が出てきましたね」
先生が持ってきたのは、"最恐! 最新! 都市伝説特集!!"と銘打たれたコンビニなんかによく置いてある、ややぶ厚めな廉価版の本だった。それも年代物なのか、表紙はかなり色褪せている。
「こいつの…ここじゃ。見てみい」
先生が開いてみせたページに、確かに書かれていた。間違いなく、"蠱毒な少年"と題された話が。俺は食い入るようにその一節を読む。
"蠱毒な少年"は神出鬼没でどこからともなく現れ、そして消える。それは他者を呪わんとする人間と契約を交わし、その望みを叶える。一方で、代償として契約者の命をも奪う。その見た目は………真っ白い髪が特徴の十歳程の少年!!!
「これは…俺たちが集めた情報とも一致する!!」
「俺たち…か。才児、やはりお前にも心当たりがあるようだな」
そこで、はっとする。先生が凄まじい形相で俺を睨んでいる。しまった。俺は昨日の依頼主の事しか先生に話していなかった。彼は先程、俺がこの"蠱毒な少年"について知っているかどうか、念入りに確認していた。その心までは分からないが、この状況は非常にまずい。このままではこれ以上の事が聞けなくなる。
「待った、先生。俺の話を聞いてくれ」
「ならん。依頼がどうとかはさておき、お前はこの"蠱毒な少年"というものに好奇心を抱いているな。それで調べまわっているのじゃろう?」
「そういう依頼があったのは本当です。ただ、まだ話していない事が………」
「好奇心があることは否定しないんじゃな」
「う...」
図星を突かれて言葉に詰まる。先生の言う事に否定出来ない自分がいることに、今になって気付く。
モモヒキや葦田さんの依頼があって、この"蠱毒な少年"について調べているのは、紛れもない真実だ。だが、俺が実際に体験した"ある夫婦"の事件に始まり、この街で起きている連続不審死事件について興味を持ち、"探偵"としてその謎を解き明かしたい、という気持ちも確かにあるのだ。
ただ、それはあくまで俺という人間の性分だ。それと"依頼"とはまた話が違う。俺が"探偵"である以上、"依頼"は絶対だ。どうやってでも、先生から話を聞き出す。例え俺のプライドに反する事をしてでもだ。
「先生、確かに俺自身の好奇心もあります。それは、認めましょう。ですが、それ以上に、俺は"探偵"という仕事に誇りを持っています。こんな俺にも、自身の願いや、思いを託してくれる人がいるんです。そんな依頼主の願いを叶える為にも、俺は"蠱毒な少年"について知らねばならないのです」
俺は立ち上がり、先生に深々と頭を下げた。
「お願いします。先生のご助力が必要なんです。どうか、どうか」
頭は下げたまま、何度も、何度も懇願する。
その様子を見かねたのか先生は俺の言葉を遮りこう言った。
「もういい、才児。頭を上げろ。試すような真似をして悪かった」
「で、では!」
「"蠱毒な少年"について、わしの知る限りの事は教えよう」
「ありがとうございます!」
俺は、また深々と先生に頭を下げた。
「しかし、あのプライドの高いお前がわしに頭を下げるとは思わんかったぞ」
「まあ、俺も少しは大人になったってことですかね」
「減らず口は変わっておらん様だがな。まず、この"蠱毒な少年"についてはあまり文献が残っておらん。わしも最近知った話じゃ」
「それは、さっきの本からですか?」
「いや、それはまた別の話じゃ。ちなみに、あの本の内容はネットの匿名掲示板に載っている話を引っ張ってきたものらしい。じゃが、わしはその話を見つけることが出来なんだ。お前も、そうではなかったか?」
「おっしゃる通りです。俺も見つけられませんでした」
「そうじゃろう。それについては…また後で説明しよう。次はこれを見てくれ」
先生が渡してきたのは、先程の廉価本よりもさらに古ぼけた本だった。紙は茶色く変色し、ところどころ破けたりページが欠損したりしている。
「この本は?」
「大体百年前の本じゃ。当時流行った物語をまとめたもので、まあ現在の都市伝説の前身のようなものじゃな。このページを見ろ。表題に見覚えのある言葉があるじゃろう」
そこには、今と字は異なるが、確かに"蠱毒な少年"と読めるタイトルが付けられた話が載っていた。
「確かに、蠱毒な少年と書かれていますね。"其ノ少年齢十ニシテ白髪"…内容も概ね先程の話と同じようだ」
「ああ、これだけではない。遡っていけば、同じような話が異なる時代に細々と語られ続けておる。じゃが、どの話も誰が語り始めたのかは分からんのじゃ」
「ふむ…。この"蠱毒な少年"の話が古くからあるのは分かりました。では、先生はこの"蠱毒な少年"が実在すると思いますか?」
これが、俺の知りたかった確信の部分だ。人間を呪い殺す少年というものが本当に実在しているのなら、それが俺が関わってきた"依頼"の真相に直結する。そして、先生はその存在を証明する何らかの"確証"を持っていると感じる。そうでなければ、あそこまで情報を出し渋る事はしなかっただろう。
先生は少し躊躇する素振りを見せたが、確かにこう言い放った。
「"蠱毒な少年"は、実在する」
「お前、どこでその言葉を聞いた?」
「知っているのか、先生!?」
「どこで聞いたか、と聞いている。それに答えない限り、教えることはできん」
先生の言葉には、今まで感じたことのない、凄まじい"圧"があった。彼は間違いなく"蠱毒な少年"を知っている。そして、その言葉が何かヤバいものだということは、最早疑いようがない。俺は先生の問いに正直に答えた。
「…俺の依頼主からです。この言葉の意味を調べて欲しい、という依頼があって先生に尋ねに来た次第です」
「そうか、お前自身には心当たりはないんだな?」
「………はい、ありません」
「よし、分かった。ちょっと待っとれ」
先生は腰を上げ、巨大な本棚を探り始めた。数分の後、数冊の本を携えて俺の処に戻ってきた。
「やれやれ。年を取ると物覚えが悪くてかなわんな。ほれ、まずはこれじゃ」
「これは…。また随分如何わしい本が出てきましたね」
先生が持ってきたのは、"最恐! 最新! 都市伝説特集!!"と銘打たれたコンビニなんかによく置いてある、ややぶ厚めな廉価版の本だった。それも年代物なのか、表紙はかなり色褪せている。
「こいつの…ここじゃ。見てみい」
先生が開いてみせたページに、確かに書かれていた。間違いなく、"蠱毒な少年"と題された話が。俺は食い入るようにその一節を読む。
"蠱毒な少年"は神出鬼没でどこからともなく現れ、そして消える。それは他者を呪わんとする人間と契約を交わし、その望みを叶える。一方で、代償として契約者の命をも奪う。その見た目は………真っ白い髪が特徴の十歳程の少年!!!
「これは…俺たちが集めた情報とも一致する!!」
「俺たち…か。才児、やはりお前にも心当たりがあるようだな」
そこで、はっとする。先生が凄まじい形相で俺を睨んでいる。しまった。俺は昨日の依頼主の事しか先生に話していなかった。彼は先程、俺がこの"蠱毒な少年"について知っているかどうか、念入りに確認していた。その心までは分からないが、この状況は非常にまずい。このままではこれ以上の事が聞けなくなる。
「待った、先生。俺の話を聞いてくれ」
「ならん。依頼がどうとかはさておき、お前はこの"蠱毒な少年"というものに好奇心を抱いているな。それで調べまわっているのじゃろう?」
「そういう依頼があったのは本当です。ただ、まだ話していない事が………」
「好奇心があることは否定しないんじゃな」
「う...」
図星を突かれて言葉に詰まる。先生の言う事に否定出来ない自分がいることに、今になって気付く。
モモヒキや葦田さんの依頼があって、この"蠱毒な少年"について調べているのは、紛れもない真実だ。だが、俺が実際に体験した"ある夫婦"の事件に始まり、この街で起きている連続不審死事件について興味を持ち、"探偵"としてその謎を解き明かしたい、という気持ちも確かにあるのだ。
ただ、それはあくまで俺という人間の性分だ。それと"依頼"とはまた話が違う。俺が"探偵"である以上、"依頼"は絶対だ。どうやってでも、先生から話を聞き出す。例え俺のプライドに反する事をしてでもだ。
「先生、確かに俺自身の好奇心もあります。それは、認めましょう。ですが、それ以上に、俺は"探偵"という仕事に誇りを持っています。こんな俺にも、自身の願いや、思いを託してくれる人がいるんです。そんな依頼主の願いを叶える為にも、俺は"蠱毒な少年"について知らねばならないのです」
俺は立ち上がり、先生に深々と頭を下げた。
「お願いします。先生のご助力が必要なんです。どうか、どうか」
頭は下げたまま、何度も、何度も懇願する。
その様子を見かねたのか先生は俺の言葉を遮りこう言った。
「もういい、才児。頭を上げろ。試すような真似をして悪かった」
「で、では!」
「"蠱毒な少年"について、わしの知る限りの事は教えよう」
「ありがとうございます!」
俺は、また深々と先生に頭を下げた。
「しかし、あのプライドの高いお前がわしに頭を下げるとは思わんかったぞ」
「まあ、俺も少しは大人になったってことですかね」
「減らず口は変わっておらん様だがな。まず、この"蠱毒な少年"についてはあまり文献が残っておらん。わしも最近知った話じゃ」
「それは、さっきの本からですか?」
「いや、それはまた別の話じゃ。ちなみに、あの本の内容はネットの匿名掲示板に載っている話を引っ張ってきたものらしい。じゃが、わしはその話を見つけることが出来なんだ。お前も、そうではなかったか?」
「おっしゃる通りです。俺も見つけられませんでした」
「そうじゃろう。それについては…また後で説明しよう。次はこれを見てくれ」
先生が渡してきたのは、先程の廉価本よりもさらに古ぼけた本だった。紙は茶色く変色し、ところどころ破けたりページが欠損したりしている。
「この本は?」
「大体百年前の本じゃ。当時流行った物語をまとめたもので、まあ現在の都市伝説の前身のようなものじゃな。このページを見ろ。表題に見覚えのある言葉があるじゃろう」
そこには、今と字は異なるが、確かに"蠱毒な少年"と読めるタイトルが付けられた話が載っていた。
「確かに、蠱毒な少年と書かれていますね。"其ノ少年齢十ニシテ白髪"…内容も概ね先程の話と同じようだ」
「ああ、これだけではない。遡っていけば、同じような話が異なる時代に細々と語られ続けておる。じゃが、どの話も誰が語り始めたのかは分からんのじゃ」
「ふむ…。この"蠱毒な少年"の話が古くからあるのは分かりました。では、先生はこの"蠱毒な少年"が実在すると思いますか?」
これが、俺の知りたかった確信の部分だ。人間を呪い殺す少年というものが本当に実在しているのなら、それが俺が関わってきた"依頼"の真相に直結する。そして、先生はその存在を証明する何らかの"確証"を持っていると感じる。そうでなければ、あそこまで情報を出し渋る事はしなかっただろう。
先生は少し躊躇する素振りを見せたが、確かにこう言い放った。
「"蠱毒な少年"は、実在する」
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