蠱毒な少年 -闇に咲く白い花-

こーいち

文字の大きさ
31 / 47
其の弐 桃日絆希と篠懸才児のケース

狂気の映像

しおりを挟む
「間違いないんですね!?」

「ああ、まことに信じ難い事じゃが。今からお前に"あるモノ"を見せる。これは、絶対に口外してはならない。複製も禁止じゃ。才児、わしについてこい」


 そう言うと、先生は立ち上がり部屋の奥へと向かう。ついにここまで来たか。俺は覚悟を決め、先生の後に続く。先生は"資料室"と書かれたプレートがかけられた分厚い扉の前に立つと、ポケットから鍵束を取り出し、扉の鍵穴に差し込む。カチャリ、と小気味よい音と共に、鈍重な扉がゆっくりと開かれる。

 資料室の中は、10畳程のスペースにこれまた膨大な数の古紙やファイルが敷き詰められていた。鼻をつく埃とカビの生えた紙の臭いに、思わず顔をしかめる。


「ここは、わしの研究室でも特別管理が必要な書類を集めておる。ほれ、こっちじゃ。ここに座れ」


 そこには、木で出来た長机と鉄パイプの椅子が2つ並べられていた。机の上にはモニターとDVDプレイヤーが接続されている。俺は先生に促されるままにパイプ椅子の1つに座る。彼は、俺に何を見せようとしているんだ...?


「いいか、これから見せるものはとある映像じゃ。入手先は言えんが、確かな筋からのものと言っておこう」

「映像…そこに"蠱毒な少年"が写っているのか?」

「それは見れば解る」


 先生は資料室の隅にある金庫の鍵を空け、一枚のDVDを取り出した。ただでさえ鍵がかかっている部屋の、鍵付きの金庫に入れられた"モノ"。一体どれほどヤバいものなのか、最早想像すらつかない。


「先生、先にどんな映像なのか教えてもらっても?」

「ああ、そうじゃな。このDVDに写っているのは………じゃ」

「人死に…! スナッフビデオか!?」

「いや、そうではない。じゃが、見る人間に相当なショックを与えるものであることは、間違いないじゃろう。やめておくというのなら今のうちじゃぞ」


 ゴクリ、と意図せず生唾を飲み込んでいることに気付く。人が死ぬ瞬間が写っているというDVD。ここまで厳重に保管してあるモノであるということからして、間違いなく"本物"の映像だろう。

 背筋に冷たい汗が流れ、全身に鳥肌が立っているのを感じる。自分の中で未知に対する恐怖と、先程の決意の天秤が揺れ動く。俺は大きく深呼吸して息を整えると、先生に向かってこう言い放った。


「ここまで来て見ずに帰った日にゃ、夜も眠れないぜ! 賢爺けんじい!」


 まさったのは決意の天秤の方だった。先生は俺の言葉を聞くと、うっすらと笑みを浮かべた。


「お前ならそう言うと思っておったよ。しかし、言葉遣いが段々昔に戻ってきておるぞ、才坊さいぼう

「そんな事はいいから、早く見せてくれよ」

「よし。覚悟はいいな。再生するぞ」


 賢爺がプレイヤーにディスクをセットすると、甲高い機械音と共にモニターに映像が映し出された。これは………監視カメラの映像のようだな。

 そこには、コンクリート製の床、壁、柱が上から見下ろすような形で映されていた。柱と柱の間に車が数台停められている事から、そこが駐車場だと分かる。


「賢爺、状況は分かった。一時停止はいいから再生してくれ」

「もうしておるよ。ただ映像に動きがないだけじゃ。もう少し待っとれ」


 暫く静止画のような映像を眺めていると、相変わらず動きは無いが何か音がする事に気付いた。


 トットットッ、トットットッ...。


 規則正しいリズムで聞こえる音は、徐々にその大きさを増していく。


 タッタッタッ、タッタッタッ…ダダダダ!!!


 その音の正体が画面に姿を現した。人だ。成人した男性と思しき人物が、映像の中に走り込んできたのだ。先程までの音は、その男性の足音だったのだと気付く。


『チクショウ!!! ○×□△○……!!!』


 映像に入り込んできた男性は、相当に焦っているのか言葉にならない声で喚き散らしている。


『お前……○×□△○!! 一体○×□△○!?』


 ところどころ聞き取れないが、男性は画面の外にいる"何か"に向かって指を差しながら叫んでいる様子だ。


「賢爺、これは…」

「まて、本番はここからじゃ」


 賢爺がそう言ったのも束の間、突如画面から凄まじい悲鳴が鳴り響いた。



『ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!』



 先程まで何やらわめいていた男性が、突如悶え苦しんでいる。しかし、その周りには何も変わった様子は無い。男性はただ一人で突っ立ったまま、勝手に苦しみ叫んでいるのだ。

 その様子に背筋が凍るような寒気を覚えたが、映像はここから更に苛烈かれつさを増していく。


「これは...! そんな莫迦ばかな!!」


 俺はその光景に叫ばざるをえなかった。男性は、相変わらず棒立ちのまま身悶えして苦しんでいる。だが、その体が、のだ。まるで、巨大な手に掴まれて持ち上げられているかの様に!!


『ああ、ぐふうううう、やっ、やめてくれええええええええええええええええええええええええ!!!』


 男性は必死に制止を求めるが、その体はとうとう2~3メートル上空まで浮いていた。そして、ついには。


『あっ、がああ、ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!』


 激しい断末魔と共に、男性の体はぐしゃぐしゃに折れ曲がった。鮮血の雨が飛散し、コンクリートにしたたかに打ち付けられる。宙に浮かんでいた男性の体は重力に従いべちゃりと落下した後、2度と動くことはなかった。



 俺は、思わず口に手を当てる。これは、凄まじい映像だ。厳重に保管されている意味も、よく分かる。常識では到底起こりえない現象が撮されたこの映像は、決して世に出てはならないものだ。あまりの映像の衝撃に絶句している俺に、賢爺が声をかけてくる。


か、才坊」

「ああ、凄まじい映像だったよ。人があんな風に死ぬなんて...」

「…やはりようじゃな。わしも最初はそうじゃった。無理もない」

「どういうことだ、賢爺?」

「少し巻き戻すぞ。ここじゃ、映像を止めるぞ。よぅく見てみい」


 賢爺が止めたのは、男性の体から鮮血が飛散し、雨のように降り注いでいるシーンだった。そして、賢爺が指差す部分を、俺は見てしまった。


 胃から喉を通り熱く粘ついたものが一気にせり上がってくる。俺は口を押さえ、それを必死に飲み込む。


「ウッ!! ガハッ!! ゲホゲホ!!!」

「おお、よく我慢したな。わしは最初見た時思わず吐いてしまったぞ」


 賢爺は俺にペットボトルに入った水を差し出してくれた。俺がこうなることを予想していたんだろう。それをひったくると、一息に飲み干した。


「はあっ、はあっ、助かったよ、賢爺」

「礼には及ばんよ。の」


 俺はもう一度、モニターを見返す。男性の体がひしゃげ、血の雨が降り注ぐ刹那の瞬間。真紅に染まった画面の隙間を縫うように。


 真っ白な髪をした少年が、画面越しにこちらを覗いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく… なお、スピンオフもございます。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...