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白い追憶 野乃花のケース
懐かしの学び舎
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車の窓から外を眺めると、見慣れた街のはずなのに見慣れない風景が広がっていた。学校までの道のりの途中、以前にはなかったお店や建物を数えていたのだが、それももう十は超えた。私と同じ制服を着た、見知らぬ子達とも幾度かすれ違う。
たった半年通っていないだけなのに。そのたった半年で、様々なものが目まぐるしく変わっていく。時の流れは残酷なもので、その途中に置いていかれた私は一体どうやって追いつけばいいんだろう。
「野乃花、そろそろ着くわよ。準備しておいて」
「は~い」
運転席の母が私に声をかける。本当は歩いて行きたかったのだけど、流石に許しを得られなかった。暫くして、母の運転する車が校門近くに停車する。
「それじゃあ、野乃花。何かあったらすぐに連絡するのよ」
「うん、分かった。ありがとね」
車から荷物を降ろし、母を見送る。久々に持った学生鞄はずっしりと重たい。
とうとう学校に来てしまった。昨日は緊張とワクワクでほとんど寝られなかった。そのせいか、今朝鏡で顔を見たら目にうっすらクマができていてショックだった。
一つ深呼吸して校門をくぐると、大きくそびえ立つ私の学び舎が目に映った。以前とまったく変わらないその出で立ちに、妙な安心感を覚える。
けど、それと同時に不安も沸き起こってくる。
久々に登校した私に、クラスメイトはどんな反応を見せるだろうか。変な目で見られないだろうか。邪険に扱われないだろうか。
踏み出すごとに重くなる足取り。私の背中を次々と追い抜いていく生徒たち。徐々に近づいてくる校舎の入口が、私にはまるで魔界の門に思えた。何だか視界がぐるぐるしてきた。ああ、やっぱりダメかも...。
緊張でくらくらしていた私の目に、"初めて"見知った人影が映った。あれは…?
「「………あ!」」
2人の声が重なる。魔界の門の手前には、一人の天使が立っていた。天使は私を見つけると、両の腕をこちらに大きく開いて迎えてくれた。
「野乃花~! 待ってたよ~!」
「さ、幸世~!!」
私は、人目も憚らず幸世に抱きついた。
「わ! 野乃花、朝から強烈だね~」
「幸世~! 寂しかったよ~!」
「おお、よしよし。ここからは一緒に行こうね~」
幸世になだめられた後、二人で教室へと向かう。ひとつ階を上がり、廊下を進むと漸く教室にたどり着いた。ここまでの道のりも、何だか随分と長く感じられた。
「ほら、ここだよ。覚えてた?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
「じゃ、入ろっか」
幸世が教室の扉を開けると、ふわっと懐かしい香りが鼻をくすぐる。四角い教室に並べられた机、荷物が雑多に置かれたロッカー、消しあとの残る黒板。そして、そこにいるクラスメイトたち。どれもこれも、半年前とほとんど変わってない。
思わず感傷に浸っていると、ぽん、と幸世に背中を押された。
「野乃花の席はあそこだよ」
「うん、ありがとう」
幸世が指差した方へ向かおうとすると、教室に入ってきた私を見つけたクラスメイトたちが一斉に声をかけてきた。
「おお! 野乃花じゃん! 久しぶり~!」
「野乃花! 生きてたのかお前~! よく来たな!」
「体はもう大丈夫なの?」
次から次へと飛んでくる言葉の数々。ああ、皆、私の事を覚えてくれてたんだ。嬉しい。凄く嬉しいんだけど、まともに対応していたらキリがなさそうだ。
皆の呼びかけに笑顔で答えつつ、自分の席に到着する。あまり使われた跡のない、ピカピカの机と椅子が、そこにあった。
この机と椅子も、私がちょっとだけ使っていたものをずっと置いていてくれたんだろうなぁ。そんな事を思いながら、席に座る。
その瞬間、お尻から全身にぞわわっと鳥肌が伝播した。
「ひゃっ!?」
素っ頓狂な声を上げて勢いよく立ち上がる私。
その原因は、椅子だ。木で出来た椅子は、冬の寒さに晒されてまるで氷で出来ているかのように冷たくなっていた。しかも、今日はスカートだからほぼ直。普段病院でぬくぬくと過ごしていた私には、強烈すぎる刺激だった。
少しの沈黙がその場を支配する。その後、少しずつ皆がざわざわとし始めた。
「ぷっ」
「ちょ、笑うなって...フフッ」
「だ、だめ...。野乃花、ごめん...アハハハッ」
それは少しずつ広がっていき、とうとう教室の中が笑い声で包まれた。
私は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆って首を左右に振る事しか出来なかった。ああ、久々に来て早々やらかしてしまった。恥ずかしくて死んじゃいそう...。
教室のざわめきが落ち着いてきた頃、今度はゆっくりと、慎重に、椅子に座って机に突っ伏す。頭からはぷしゅーっと熱い蒸気が漏れ出ていた。席の近いクラスメイト達が慰めてくれるが、暫くは立ち直れそうになかった。
たった半年通っていないだけなのに。そのたった半年で、様々なものが目まぐるしく変わっていく。時の流れは残酷なもので、その途中に置いていかれた私は一体どうやって追いつけばいいんだろう。
「野乃花、そろそろ着くわよ。準備しておいて」
「は~い」
運転席の母が私に声をかける。本当は歩いて行きたかったのだけど、流石に許しを得られなかった。暫くして、母の運転する車が校門近くに停車する。
「それじゃあ、野乃花。何かあったらすぐに連絡するのよ」
「うん、分かった。ありがとね」
車から荷物を降ろし、母を見送る。久々に持った学生鞄はずっしりと重たい。
とうとう学校に来てしまった。昨日は緊張とワクワクでほとんど寝られなかった。そのせいか、今朝鏡で顔を見たら目にうっすらクマができていてショックだった。
一つ深呼吸して校門をくぐると、大きくそびえ立つ私の学び舎が目に映った。以前とまったく変わらないその出で立ちに、妙な安心感を覚える。
けど、それと同時に不安も沸き起こってくる。
久々に登校した私に、クラスメイトはどんな反応を見せるだろうか。変な目で見られないだろうか。邪険に扱われないだろうか。
踏み出すごとに重くなる足取り。私の背中を次々と追い抜いていく生徒たち。徐々に近づいてくる校舎の入口が、私にはまるで魔界の門に思えた。何だか視界がぐるぐるしてきた。ああ、やっぱりダメかも...。
緊張でくらくらしていた私の目に、"初めて"見知った人影が映った。あれは…?
「「………あ!」」
2人の声が重なる。魔界の門の手前には、一人の天使が立っていた。天使は私を見つけると、両の腕をこちらに大きく開いて迎えてくれた。
「野乃花~! 待ってたよ~!」
「さ、幸世~!!」
私は、人目も憚らず幸世に抱きついた。
「わ! 野乃花、朝から強烈だね~」
「幸世~! 寂しかったよ~!」
「おお、よしよし。ここからは一緒に行こうね~」
幸世になだめられた後、二人で教室へと向かう。ひとつ階を上がり、廊下を進むと漸く教室にたどり着いた。ここまでの道のりも、何だか随分と長く感じられた。
「ほら、ここだよ。覚えてた?」
「うん、ちゃんと覚えてるよ」
「じゃ、入ろっか」
幸世が教室の扉を開けると、ふわっと懐かしい香りが鼻をくすぐる。四角い教室に並べられた机、荷物が雑多に置かれたロッカー、消しあとの残る黒板。そして、そこにいるクラスメイトたち。どれもこれも、半年前とほとんど変わってない。
思わず感傷に浸っていると、ぽん、と幸世に背中を押された。
「野乃花の席はあそこだよ」
「うん、ありがとう」
幸世が指差した方へ向かおうとすると、教室に入ってきた私を見つけたクラスメイトたちが一斉に声をかけてきた。
「おお! 野乃花じゃん! 久しぶり~!」
「野乃花! 生きてたのかお前~! よく来たな!」
「体はもう大丈夫なの?」
次から次へと飛んでくる言葉の数々。ああ、皆、私の事を覚えてくれてたんだ。嬉しい。凄く嬉しいんだけど、まともに対応していたらキリがなさそうだ。
皆の呼びかけに笑顔で答えつつ、自分の席に到着する。あまり使われた跡のない、ピカピカの机と椅子が、そこにあった。
この机と椅子も、私がちょっとだけ使っていたものをずっと置いていてくれたんだろうなぁ。そんな事を思いながら、席に座る。
その瞬間、お尻から全身にぞわわっと鳥肌が伝播した。
「ひゃっ!?」
素っ頓狂な声を上げて勢いよく立ち上がる私。
その原因は、椅子だ。木で出来た椅子は、冬の寒さに晒されてまるで氷で出来ているかのように冷たくなっていた。しかも、今日はスカートだからほぼ直。普段病院でぬくぬくと過ごしていた私には、強烈すぎる刺激だった。
少しの沈黙がその場を支配する。その後、少しずつ皆がざわざわとし始めた。
「ぷっ」
「ちょ、笑うなって...フフッ」
「だ、だめ...。野乃花、ごめん...アハハハッ」
それは少しずつ広がっていき、とうとう教室の中が笑い声で包まれた。
私は恥ずかしさのあまり、両手で顔を覆って首を左右に振る事しか出来なかった。ああ、久々に来て早々やらかしてしまった。恥ずかしくて死んじゃいそう...。
教室のざわめきが落ち着いてきた頃、今度はゆっくりと、慎重に、椅子に座って机に突っ伏す。頭からはぷしゅーっと熱い蒸気が漏れ出ていた。席の近いクラスメイト達が慰めてくれるが、暫くは立ち直れそうになかった。
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