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三日目
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お馴染みの空間。
音も、光もない。しかし、何故か自分の姿だけは見える。
「……何というか、最早慣れてきてるせいで、逆に懐かしい気がしてきたよ」
『それは当然。人間の根本的な所にあるのは考えること。その考えることをするこの空間が懐かしいと感じるのは、本能に近い。別におかしいことなんて何にもない』
「まぁ、否定はしないけど。……で、今日は何の話を?」
『今日はね、少し面白い話さ』
「そうなのかい?では、始めてどうぞ、僕は準備はできてる」
『うん。では、始めよう。人間の仕事をね』
「また新しい言葉を出してきた。まぁいいや。どうぞ」
『――人の五感って、あやふやだと思わない?そういう話さ』
「ふーん。そうかな。僕は違うと思う。だって、ちゃんと、分かるじゃないか。触れば触った感触がするし、声も聞こえる、匂いもするし、味も感じる、それに物もちゃんと見える」
『じゃぁ、耳が聞こえない人は?味を感じることができない人は?目が見えない人は?そういった人たちは、それぞれ、五感ではなく、四感だったり、ヘレン・ケラーのような人は三感だ。触覚も、麻酔を打てば消すことができる』
「でも、そういった人たちは少数派だよ。大抵の人がちゃんと五感を持ってる」
『なら、四感や、三感しか持たない人は異常だと?』
「そうは、言わないけど」
『五感とは、本当にあやふやだと思うよ。人によって違ったりするんだから。また、さっきはそういった感覚を四つや三つしか持たない人もいると言ったけど、僕は逆に第六感という存在も信じている』
「そうなの?でも、そんなの、物語の中だけのものじゃないの?」
『まぁ、確かに映画や小説では、第六感という存在を題材にしたものもある。でも、現実世界でもそれは十分存在しうるんだ』
「例えば、どんなの?」
『そうだね、例えば、まぁ物語で使われる、第六感というのは、ようするに、どこに何があるか分かったり、どこに誰がいるかとか、どこに球が飛んでくるか分かる、とかいったものでしょ?だったら、そういったのは、リアルでも実際に起こることばかりじゃないか。例えば、物を失くした時、ここにあるかもって見てみたらあったり、そこに誰々がいるかもしれないって行ってみたら本当にいたり、とか。野球もそうでしょ?バッターは、球がどこに飛んできたかが分かるから、バットを振って、球を打つことができるんだ』
「でも、それって全部分かりやすく言えば、勘じゃない」
『そう。勘だよ。僕は、勘って言うのは立派な第六感だと思ってる。だって本当に当たったりするんだからね』
「でも、正確ではないじゃないか。そこにあるかもしれないって言って、無かったりすることもある。勘はどちらかといえば、当たることより、外れることのほうが、多い」
『そうだね。だから人々は、勘は第六感だと思わないし、考えもしない』
「それなのに君はそれを第六感だと語るの?」
『そうさ。だって――まぁこれはちょっと無理矢理かもしれないけど、人は勘のことを《感覚》ということもあるじゃないか。感覚、勘覚ってね。それに、そうと信じればそうなるのさ』
「確かにちょっと無理矢理かも。でも、仮にその勘を第六感とするなら、他にも幾つも感覚と呼べるものが出てくることにならない?ほら、体感とか、直感とか」
『体感に関しては、それは、触覚、視覚、等の感覚、それに、記憶等から生まれるもので、それ単体で生まれることはできない。それに、直感は、まんま勘のことじゃないか。墓穴を掘ってるよ』
「そうだった。言われて気付いたよ」
『うん』
「う~ん、でもやっぱり分からないなぁ」
『それでも構わないよ。僕は自分の考えを語っているだけに過ぎないから』
「まぁそうだね。人それぞれ、考え方が違うのは当然。いろいろな主張があって、だからこそ面白いと感じることのできるものもある」
『皆が同じ主張の世界か。それはそれで大変だろうね。もしそんな世界だったら、この世界は未だ技術が進まず、原始人レベルだったろう』
「考えの違いによって人は進化してきたからね」
『そして、この意見にも必ず異なった考え方を持つ人がたくさんいる』
「そう考えると、意外と、人と意見のぶつかり合いで喧嘩したりすることもなくなるかもね」
『そうだね』
「もし、皆がそれぞれの意見を尊重しあっていけるような世界になったら、それは素晴らしいことじゃない?」
『うん。そんな世界があればいいね。でも、この世界はそうじゃない。人は毎日のように言い争い、それをきっかけに破滅を生む。この世界はそんなものだ』
「そんな言い方はないだろう。皆が努力すれば、いつかそうなるよ」
『それでも、全員はそうしない。一部の人間だけさ。でも、それでいいのさ。全員が変わる必要はない。少なからず、そういう人たちがいれば十分。それもまた、異なる意見が並列してるだけであって、皆が同じ主張じゃ面白くもなんともないからね』
「君の言いたい事は理解したよ。確かにそうかもしれないね」
『じゃぁ、一段落ついたところで、終わろうか』
「そうだね。お別れだ。……どうせまた会うことになるだろうけど」
『そうさ、君が考えることを止めない限りはね』
「まぁいいよ。結局、君は何者なんだい?」
『ボクかい?ボクはね、君さ』
「は?」
聞き返した瞬間、目の前が真っ白になった。
――気づけば、見慣れた教室が目の前にはあった。
「……あいつ、強制的に目覚めさせやがった」
あいつが僕?そんなわけがない。僕にはあんなに考えることが好きじゃない。それに、あんなに知識もない。
「まったく、次会ったら絶対に問い詰めてやる」
そんなことを考えながら立ち上がり伸びをする。
きっと、あいつのことだから普通に突然話題を変えて聞き流すだろう。そしてそれが少し楽しみだ。
音も、光もない。しかし、何故か自分の姿だけは見える。
「……何というか、最早慣れてきてるせいで、逆に懐かしい気がしてきたよ」
『それは当然。人間の根本的な所にあるのは考えること。その考えることをするこの空間が懐かしいと感じるのは、本能に近い。別におかしいことなんて何にもない』
「まぁ、否定はしないけど。……で、今日は何の話を?」
『今日はね、少し面白い話さ』
「そうなのかい?では、始めてどうぞ、僕は準備はできてる」
『うん。では、始めよう。人間の仕事をね』
「また新しい言葉を出してきた。まぁいいや。どうぞ」
『――人の五感って、あやふやだと思わない?そういう話さ』
「ふーん。そうかな。僕は違うと思う。だって、ちゃんと、分かるじゃないか。触れば触った感触がするし、声も聞こえる、匂いもするし、味も感じる、それに物もちゃんと見える」
『じゃぁ、耳が聞こえない人は?味を感じることができない人は?目が見えない人は?そういった人たちは、それぞれ、五感ではなく、四感だったり、ヘレン・ケラーのような人は三感だ。触覚も、麻酔を打てば消すことができる』
「でも、そういった人たちは少数派だよ。大抵の人がちゃんと五感を持ってる」
『なら、四感や、三感しか持たない人は異常だと?』
「そうは、言わないけど」
『五感とは、本当にあやふやだと思うよ。人によって違ったりするんだから。また、さっきはそういった感覚を四つや三つしか持たない人もいると言ったけど、僕は逆に第六感という存在も信じている』
「そうなの?でも、そんなの、物語の中だけのものじゃないの?」
『まぁ、確かに映画や小説では、第六感という存在を題材にしたものもある。でも、現実世界でもそれは十分存在しうるんだ』
「例えば、どんなの?」
『そうだね、例えば、まぁ物語で使われる、第六感というのは、ようするに、どこに何があるか分かったり、どこに誰がいるかとか、どこに球が飛んでくるか分かる、とかいったものでしょ?だったら、そういったのは、リアルでも実際に起こることばかりじゃないか。例えば、物を失くした時、ここにあるかもって見てみたらあったり、そこに誰々がいるかもしれないって行ってみたら本当にいたり、とか。野球もそうでしょ?バッターは、球がどこに飛んできたかが分かるから、バットを振って、球を打つことができるんだ』
「でも、それって全部分かりやすく言えば、勘じゃない」
『そう。勘だよ。僕は、勘って言うのは立派な第六感だと思ってる。だって本当に当たったりするんだからね』
「でも、正確ではないじゃないか。そこにあるかもしれないって言って、無かったりすることもある。勘はどちらかといえば、当たることより、外れることのほうが、多い」
『そうだね。だから人々は、勘は第六感だと思わないし、考えもしない』
「それなのに君はそれを第六感だと語るの?」
『そうさ。だって――まぁこれはちょっと無理矢理かもしれないけど、人は勘のことを《感覚》ということもあるじゃないか。感覚、勘覚ってね。それに、そうと信じればそうなるのさ』
「確かにちょっと無理矢理かも。でも、仮にその勘を第六感とするなら、他にも幾つも感覚と呼べるものが出てくることにならない?ほら、体感とか、直感とか」
『体感に関しては、それは、触覚、視覚、等の感覚、それに、記憶等から生まれるもので、それ単体で生まれることはできない。それに、直感は、まんま勘のことじゃないか。墓穴を掘ってるよ』
「そうだった。言われて気付いたよ」
『うん』
「う~ん、でもやっぱり分からないなぁ」
『それでも構わないよ。僕は自分の考えを語っているだけに過ぎないから』
「まぁそうだね。人それぞれ、考え方が違うのは当然。いろいろな主張があって、だからこそ面白いと感じることのできるものもある」
『皆が同じ主張の世界か。それはそれで大変だろうね。もしそんな世界だったら、この世界は未だ技術が進まず、原始人レベルだったろう』
「考えの違いによって人は進化してきたからね」
『そして、この意見にも必ず異なった考え方を持つ人がたくさんいる』
「そう考えると、意外と、人と意見のぶつかり合いで喧嘩したりすることもなくなるかもね」
『そうだね』
「もし、皆がそれぞれの意見を尊重しあっていけるような世界になったら、それは素晴らしいことじゃない?」
『うん。そんな世界があればいいね。でも、この世界はそうじゃない。人は毎日のように言い争い、それをきっかけに破滅を生む。この世界はそんなものだ』
「そんな言い方はないだろう。皆が努力すれば、いつかそうなるよ」
『それでも、全員はそうしない。一部の人間だけさ。でも、それでいいのさ。全員が変わる必要はない。少なからず、そういう人たちがいれば十分。それもまた、異なる意見が並列してるだけであって、皆が同じ主張じゃ面白くもなんともないからね』
「君の言いたい事は理解したよ。確かにそうかもしれないね」
『じゃぁ、一段落ついたところで、終わろうか』
「そうだね。お別れだ。……どうせまた会うことになるだろうけど」
『そうさ、君が考えることを止めない限りはね』
「まぁいいよ。結局、君は何者なんだい?」
『ボクかい?ボクはね、君さ』
「は?」
聞き返した瞬間、目の前が真っ白になった。
――気づけば、見慣れた教室が目の前にはあった。
「……あいつ、強制的に目覚めさせやがった」
あいつが僕?そんなわけがない。僕にはあんなに考えることが好きじゃない。それに、あんなに知識もない。
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