夢の記憶

VARAK

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四日目

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 また、僕はいつもの真っ暗な空間にいた。
 相変わらず、自分以外何も見えない。
「語り合うのはいいけど、この空間、もっと明るくならないの?」
『そうだねぇ。でも、これは君が原因でもある。君がもう少し段階を踏めばいづれ見えるようになるよ』
「そうなのかい?ならいいけど。今日は何を語るんだい?」
『そうだね。じゃぁ、今日は自分について考えることにしよう』
「えぇ?自分について考えるって具体的にどういうことなんだい?」
『文字通り、自分について考えるのさ。客観的に自分を見て、人から言われてではなく、自分のいい所、悪い所、癖だとか、あと、行動基準、自分の価値観、等を認識すること。そういったものは、ちゃんと自分から見ようとしなければ分からない。それと、君はきっと、自分の姿を正確に思い浮かべることはできないだろう?』
「う……確かに」
『それもまた、自分についてちゃんと考えてないからだ。鏡を見れば自分の姿は見えるけど、それはすぐに消えてしまう。その時だけの偶像さ』
「ふーん、何だか難しそうだなぁ」
『そうでもない。君がそう思うのは、自分について考えるのが面倒くさい、または怖いからだよ』
「そんなことはないよ。別に、自分のことなんだから、怖くなんかない」
『怖くないにせよ、めんどくさがっているのは確かだ。そうやって、自覚がないのも、自分についてちゃんと考えてないことによる結果だね』
「決めつけるような言い方はしないんじゃないの?」
『ボクはそんなことを言った覚えはないけど、まぁ、その通りだよ。でもこの件だけは決めつけていえる。ほかの意見、考え方があるなら聞きたいね。どうだい?』
「……なんか腹立つな、それ。まぁいいや、別の考え方っていっても思いつかないし」
『うむ、それでよし。じゃぁ本題に入ろうか』
「いや、自分というものはもうちょっと先にしよう。難しすぎるよ」
『そうかい?じゃぁ今日は人間という存在について語ろう』
「なんだよ、答えの出ない議論じゃないか」
『そうかな?別にここは、考える場所であって答えを出す場所じゃない』
「答えを出すために考えるんだろ?」
『その通りだね。でも、人それぞれの考え方というものがあるのさ。この空間で考えることは、最早完全に答えの出た――完全というのは実際の所存在しえないけど――まぁ答えの出たことなんかじゃない。答えの出ない疑問、いくつもの可能性があるもの。いろんな人がそれぞれの異なった考え方を持てるような内容じゃないと面白くもないよ』
「それこそ、君の考え方で、異なる意見を持つ人がたくさんいるでしょ」
『そうさ。異なる意見をボクは否定しない。どころか大歓迎だ。でも、ただの否定はいらない。違うと思うなら、ちゃんとした自分の考え方を述べて、否定じゃなくて、相手の意見、考え方を踏まえた上での、自論提唱じゃないと』
「こだわるねぇ。でも、自分を見るのが大切だという人はよくいるよね」
『確かに。自己啓発本だとか、そう言ったものでは、自分を見つめなおすことを重要視している。よって、ボクはこの意見を正しいと考えるのさ』
「なるほど。証明されては否定のしようがないね。……それにしても、突然だね。自分について考えろなんて」
『そうかい?まぁ、しょうがない。そこまで時間も残されてないからね。時間は大切にしないと』
「残されてないって、何か、期限みたいなのがあるの?」
『まぁあるのだけれど、まだ君には話す必要はないね』
「なんだよ。教えてくれないのか」
『うん。今は。いずれ教えなくとも、いやでも分かるときが来る』
「そうかい。なら、今余計に詮索するのはやめて、話を戻そう」
『うん。さて、今まで自分のことをちゃんと考えてこなかった分、今考えよう。幾つかの質問に答えてもらおう。まず一問目。君は下校中だ。道中、道の隅で死んでいる猫を見つけた。君はどう思い、どうする?』
「死んでいる猫か。子猫かい?飼い猫?野良猫?」
『それは関係ないから、あえて答えないよ』
「関係ないか。うーん。でも、普通に可哀相だと思う。普通にっておかしいけどね。それが子猫だろうと大人の猫だろうと、魂の重さは変わらないし、野良猫だろうと飼い猫だろうと、死んだとなると、そこに重要性はない。猫からすればどうかは分からないけど、短い人生しか歩めず、死んじゃった。それはどれだけ辛いのか、僕にはわからないよ。で、どうするか。まぁ、邪魔にならないところに埋めるかな」
『なるほど。では次の質問。君は兵士だ。ここで、別の人を連想しちゃいけない。君だ。その兵士は君。さて、戦争で、君は敵兵を殺さなければいけない。しかし、君は、逃げることを許されている。でも、君には大事な人がいて、もし、作戦が失敗すれば君の大事な人も死んでしまう。さて、どうする?』
「それ、その大事な人と一緒に逃げるということはできないの?」
『できない。君に逃げることは許されても、その大事な人達は逃げられない。敵の侵攻を少しでも遅らせるための囮にされてるんだ』
「それはひどい。その話からすると、悪役はこちらじゃないか」
『しかし、敵国も同じようなことをしているし、もっと酷いことをしているかもしれない』
「なるほど。だとしたら戦うよ。どうせ、大事な人をどうにかして助けるという手段も使えないんだろう?」
『その通り。常に監視されていて、連れ出すなんてできない。で、戦うの?敵国と?』
「うん。とにかく、大事な人を守るためにね。それで、生き残ることができたら、さっさと軍を辞めるよ」
『なるほど。そういう手もあるね。死亡フラグ確定だ。……ところで、大事な人のところで神無月さんのことを思い浮かべたのはどうしてかな?』
「そ、そんなわけ、ないだろ!?」
『おやおや、当てずっぽうで言ったのに、その様子だと図星かい?』
「うるさい!」
『ま、いいけど。片思いも青春だよ』
「そうかもしれないけど、それを君に言われる筋合いはないなぁ」
『そうだねぇ。でも、夢の中でもここ数日一緒に話し合った仲じゃないか』
「ここ数日、授業中眠って怒られてるのは君のせいだけどね」
『しょうがないよ。タイミングはこちらでは選べない』
「何のタイミングだよ。それに前は僕が眠るからって言ってたじゃないか」
『それは……いや、今それを言っても意味はない。君も、少しは自分で考えなよ。常に最初から模範解答が提示されてるんじゃ、考える意味もないだろう?』
「確かにそうだけど。何だか、君らしくないじゃないか。昨日の君ならもっと上手にごまかせたはずだ」
『…………』
<……まだだ。まだ話す時期ではない>
『分かっている。今のところは順調。無駄にしたくない』
「は?ちょっと、誰と話してるのさ。今の声は誰だい?』
『気にしないでくれ。というか、気にするな。いずれ分かることだから』
「気にするなっていう方が無理な気がするけど?」
『……今日はここまで。また明日』
「は?おい、ちょっとま――」

 ふと顔を上げる。
 周囲を見渡すと、そこは見慣れた教室だった。
「また強制的に起こしたな。ホント何なんだ?」
 今日のあいつは格段に変だった。必死に何かをごまかしているようで、内心の動揺や焦りがものすごく伝わってきた。時間がないと言っていたが、それに関係するのだろうか。
 その時間は何の時間だ?あの様子から見て、その時間、タイムリミットはかなり近い。そのタイムリミットがゼロになった時、何がどうなるのかは知らないし分からない。ただ一つわかるのは、あいつが何か隠してるということだけだ。
「今度絶対突き止めてやる」
「何を?」
 横から聞いてきたのは神無月さん。清楚でクールな人だ。
「あ、いや、何でもないよ」
「いつまでも寝ぼけてちゃ駄目だよ。さっきも寝てたでしょ」
 あぁ、また授業中に寝てたのか。にしても、あちらでタイミングが選べないとか言ってたけど、なんでそれが毎回授業中なんだよ。もはや狙ってやってるとしか思えないぐらいのタイミングだよ。
「ねぇ、ちょっと聞いていい?」
「うん。なに?」
「あなたは兵士で、戦争で人を殺さなければいけない。でも、あなたのいる戦線を破られるとあなたの大事な人が殺されちゃう。この状況であなたはどうする?」
 あれ?この質問、どこかで聞いたことあるな。どこだっけ。どちらにせよ、聞かれたんだから答えないと。
「うーん、や、考える必要もないか。戦うよ。きっと、その大事な人も逃げられない状況にあるんだろうから」
 答えると、神無月さんはなぜか驚いたように少しだけ目を見開いた。しかし、すぐにいつもの顔に戻ると、軽く首を傾げた。
「どうして逃げられないの?」
「え?」
 あれ、そういえばどうしてだろう。
 自然とそう答えていた。それにこの質問もどこかで聞いたことがある。どこだっけ。と考えてから、案外すぐに答えは出た。あの夢の会話だ。その中でそれも今日そのことについて聞かれたんだ。
 それを当日、ほとんど同じ質問をされるなんて、何たる偶然。
「えっと、まぁ、これは僕の勝手な想像だけど、大事な人は囮に使われた人たちの一人なんだ。それで、万が一、戦線を破られたら出来るだけ敵の侵攻を遅らせるためにね。それで、常に監視されていて、逃がすこともできないってさ」
 そこまで言うと、神無月さんは、表情は変わらないのだが、何故か、物凄く驚いているようで、こちらを見ている。
 ふと神無月さんは目を細めると、こちらを睨むようにして言った。
「ね、それ本当に自分で考えたの?」
 なんか、すごい凄い怖い。
 というか、何故、神無月さんはそんなことを聞くのだろう?いや、確かに半分以上はあいつの言ったことだけど、偶然にしては、ちょっと不自然だ。もしかして、神無月さんもあの空間のことを知っているのか?
 ちょっと遠回しに聞いてみるか。
「神無月さんは最近どんな夢を見てるの?」
「質問に質問で答えるわけね。しかも全く関係のない」
「う」
 そうだった。く、でもここで引き返せない。強行突破だ。
「まぁ、完全に無関係というわけでもないし……」
「何をブツブツ言ってるのよ。……まぁいいわ。答えてあげる。最近の夢ね。まぁ夢だからしょうがないけど、なんだかよく分からない夢を見てるわ」
「よく分からない夢?」
「うん。ただ、会話するだけ。色んなことを。と言っても、内容は答えの出ないものばかりだけどね」
 うん。なんか、あっさりと答えが、しかも思い通りの答えが返ってくるとちょっと拍子抜けだな。
 でも、やっぱり、神無月さんもあの夢を見てる。僕と同じ夢を。
「で、それが何なの?」
「うん。ちょっと信じられない話だけど、僕と全く同じ夢を神無月さんも見てる。思念の空間でしょ?」
「驚いた。佐々君も?確かに、さっき言ったあなたの答えもほぼ同じだった。どういうことかしら」
 神無月さんも驚いているようだがなんだか、傍から見ると全然驚いてるように見えないな。元から表情が希薄なのは知っていたけど、なんか、改めて見ると驚異的だな。いろいろと。
「分からないけど、それは確か。なんで神無月さんと僕なのかは知らないけど、いや、まてよ、もしかしたら僕たちのほかにも同じ夢を見てる人がいるかも?」
「でもそれを確認する術はないでしょ?まさか、一人一人に聞くわけにもいかないし」
 確かに。
「でも、私以外にも同じ夢を見てた人がいるのは、その、素直に嬉しいかな」
「うん、同じく。しかもそれが神無月さんなら尚更心強い」
「ちょっと、尚更って何よ」
「別に、何でもない」
 それにしても、同じ夢を見てる人がいるなんて一層あいつが怪しくなった。あの空間の存在、その空間で話しかけてくるあいつ、そしてそいつの隠し事。何か、普通でない何かが裏で動いているようだ。
 今度会ったら問い詰めてやる。そう、心に誓うのだった。
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