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五日目
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顔を上げる。
そこには相変わらず真っ暗な空間が広がっている。
「……いい加減、この背景にも飽きてきたわ」
<そう言ったって、しょうがないよ。我慢するしかない>
「これは夢なんでしょう?だったら私次第でどうにかできるものじゃないの?」
<うーん、ちょっと複雑なんだよ。こちらにも色々あってね>
「そ。じゃぁそれはいいとして、私は聞いてないわよ?私の他にもこの場所に来てる人がいるなんて」
<そうだね。言ってないから。言う必要もないでしょ?>
「勝手にそういう判断しないでほしいわ」
<仮にボクが言っていたとしたら君はどうするの?>
「どうするという訳でもないけど、外でここのことを話せるじゃない」
<何を話すんだい?>
「何をって……まぁ色々と」
<ふーん、でも、君は知らない状況でも彼にここでの会話でボクが聞いたことを聞いたじゃないか>
「まぁね、ちょっと気になったのよ。他の人がどういう答えをするのか。結局、私と同じ考え方だったけど」
<そうだね。そこは実に興味深い結果だ。ま、バレたから話すけど、君と彼の他にもう一人いるんだけど、その人も君らとほぼ同じ回答だった。君らの共通点は未だ不明だが、もしかしたら……>
「そんなの知らないわよ。彼やその人がどんな考え方をしようと、私の考え方と同じだろうと、関係ない」
<そうかい。確かに、君は少し人と話すのが苦手なようだね>
「そうね。あまり得意ではないわ。……で、今日は何を?」
<そうだな、じゃぁ、正義って何か。それにしよう>
「正義、ね。また難しいことを……」
<そらね。まぁ、ボクが好きだからだけど、君もこういう難しい、答えのない問題はよく自問してるでしょ?>
「そういう、私のことを大体把握してるのやめてほしいわ。なんだか不気味」
<あはは、確かにそうだね。君は女性だから余計にね。でも気にすることはないよ。こちらからは、何してるか分からないし、君にも見えないだろうけど、ボクからも、ある意味では見えないからね>
「ふーん、意外ね。まぁいいわ。本題に入りましょ。正義、についてね」
<うん。さて、大体の人は自分なりの正義感を持ってるけど、その正義感というのは何なのだろう>
「基本的に、正義というのは人を助けたり、守ったりすること。そう思う人が多いんじゃない?」
<まぁね。でも、目的がそうでも、その人のやり方次第では、他の人からは悪人だと思われてしまうこともある>
「戦争では、たくさん人を殺すけど、それは自国を守るためだからしょうがないっていう考え方。たしかに、自国が攻撃されて、戦わないと国民が他国に支配されてしまうという状況ならまだしも、自国を守るためだとか言って、自分たちを攻撃してきたわけではない国を攻撃するのは、正義ではなく、それは、言ってしまえば悪よね」
<そうだね。ただ、それは当事者の見方だ。では、攻められたから守るために敵を殺しました。では、その敵の家族はどう思うと思う?>
「なるほど、その人達からしたら、悪人はこっちになるのね。負のループ」
<そう。正義というのは、その人のいる環境、立場、考え方によって大きく変わってしまう。厄介だよね>
「そもそも、戦争自体が悪でしょ。戦争で利益を得ている人たち以外には、良いことなんてないもの」
<まぁそうだね。欲を満たすために人を殺すというのは人道を外れた行為だ>
「でも、人道というのも、人間の決めたものよ。それこそ、欲にまみれた人たちに操作されてるんじゃないの?」
<そうかな?欲にまみれた人たちはそもそも人道というものを思いつかないと思うよ。そういった人たちにとっては、邪魔なものだろうしね。それに、人の中にあるそういう人道だとか、正義感だとかを変えさせるのは難しいと思うけど>
「金で買える心は真心ではないってね。それに、私は金があればいいとか、この人がいればいいとか、そういうのは気に入らないわ。依存するのもされるのも嫌」
<はは、君らしいね。と言うほど君のことを知っているわけではないけどね。依存するもされるも嫌か。複雑だね。おそらく、君が今まで誰からの告白も受け入れなかったのもそのためだろう?>
「当然よ。あの人達、君だけがどうとか、俺には君しかいないだとか言っちゃって、ホントにうざかったわ」
<アハハ!それはお気の毒様!>
「何が面白いのよ」
<そうかい?いや、傍から見れば笑える話さ。それにしても、何でこんな話になったんだっけ?>
「私がそう言ったからでしょ?もう忘れたわけ?……だって、戦争を起こして儲けてる人達って、お金に依存してるじゃない。お金が無くなることが大嫌いで、増やすためには、自分ではなく他人の命を利用する。それで、お金が無くなってしまうと、自分一人じゃ何もできないからただ絶望して終わる。くだらないわ」
<なるほど、手厳しいね>
「それにしても、あなたは戦争だとかに結び付けることが多いわね。そんなに戦争が好きなの?」
<いや、そういうわけじゃない。どちらかと言えば戦争は嫌いだよ。ただ、少し詳しいだけさ>
「好きだから詳しいのではなくて?」
<詳しい=好きってわけではないよ。戦争が怖いから戦争のことを知って戦争から離れることだってできる>
「なるほどね、まぁいいわ。深く詮索する気はない。それで、話を戻すけど、正義感って変えることはできなくても、操作することはできない?」
<言われてみれば、確かにあるかもね>
「戦時中の日本が最もな例ね。兵士一人一人は大事なものや人を守ることが正義だと思っていて、それを曲げないようにしながら、さらに、敵兵を殺すことを正義だと思うようにさせた」
<そうして、いつの間にか大事な人のためにではなく、日本という国を守るために闘うようになった>
「そういう考え方は嫌だな。私は、皆変わっていないと思う。確かに、敵を殺すのが正義だと思うようになった。でも、敵兵と戦う理由、守るものまで変わったわけじゃない。大事な人を守るのが、結果として国を守ることになっただけ」
<なるほど、君はそう考えるのか。うん、いいね。純粋で、綺麗だ。じゃぁ話を変えるけど、復讐はどうとる?大事な人を殺されたから、復讐するのは?>
「復讐。それを、否定することはできないわ。復讐を、愚かなことだっていう人もいるけど、必ずそうとは言えないわ。だって、大事な人を傷つけられたのよ?相手はすでに加害者。被害者を守り、加害者に報いを受けさせるのは当然よ」
<あれだね、ハンムラビ法典。目には目を歯には歯をってやつ。ただ、犯罪者に仕返しするために自分まで犯罪者になってたら意味がないんじゃない?>
「確かにそうよ。でも、犯罪者への仕返しが全て犯罪なわけじゃないわ。例えば、詳しい所は省くけど、どうにかしてその犯罪者を捕まえて、警察に突き出すの。それで、法で正しく裁いてもらえればいい。それで十分報いは受けさせたわ」
<……まぁ、間違ってはいない。ただ、世界はそんなに綺麗じゃない。例えば、そいつがただの犯罪者ではなく、大きな組織の人間だったら?裁判長は無理でも、他の裁判官や、弁護士、検察を買収していれば、相手に有利な裁判を行われることになる>
「希少な例でしょう?それに、その時敗訴しても、もっと詳しい証拠を探してもう一度裁判を行えばいい」
<その前に、その組織に消されるよ。言ったでしょ?世界はそんなに綺麗じゃない>
「あなたは、どうしてそうやってはっきりと言い切れるの?あなたは本当に何者なの?」
<……そう急かさないで。時間は、あまりないけど、いずれ分かることを今急いで知る必要もない。さて、今日はこのぐらいにしようか。君も疲れただろう>
「そうやって、自分のことが出ると逃げるように会話を終わらせるのはどうしてなの?」
<今知る必要はない。じゃぁ、また会おう>
「ちょ――」
目を覚ましてゆっくり目を開ける。目の前には真っ白い無機質な天井がある。とっくの昔に見慣れているからわかる。ここは私の部屋だ。私は自分のベッドに寝ている。
外は真っ暗。制服も着たまま。どうやら帰ってきてすぐに寝てしまったようだ。むくりと起き上がり、起き上がったところで、なぜか異様にデジャブを感じ首を傾げる。今まで制服を着たまま寝るなんてことはしたことがない。それなのに過去に一度同じことがあったような気がする。しかし、どれだけ思い出そうとしても、それがいつだったか思い出せないし、まずこういう状況は初めてなはずだ。帰ってすぐに、布団もかぶらず寝るなんてことしたことない。しかし、ではこのデジャブは何なのか。
「そんなこと考えても無駄か。さっさと着替えよ」
私は、おしゃれとかそういうのは分からない。女の子の部屋というものが分からない。部屋には必要なものしかなく、唯一女の子らしいものよと云えば、ベッドに置かれたピンク色の抱き枕ぐらいか。といっても、これも幼いころから使っていたもので、捨てたくないという理由で使っているだけだけど。
とは言うが、別に興味がないから分かろうともしない。私からすれば、異文化でしかない。
着替えた後、部屋を出て階下に降りても、音は静かなままで、誰かがいる気配もしなかった。
「あれ……?」
台所に行くと、コンロの火が点きっぱなしだった。カレーを作っていたのだろう。匂いがする。それともう一つ、異様な臭いがする。これは、何の臭いだろう。
とりあえず、コンロの火を消そうと一歩進んだところで、それが見えた。見えて、しまった。
「うそ……なに、これ」
台所の、コンロの前。そこに人が倒れていた。服装からしておそらくお母さんだ。
しかし、目の前で倒れているものはかなり凄惨だった。その人は仰向けに倒れているのだが、顔は分からない。なぜなら、その顔は何かで強引に抉られたかのように無くなっていたからだ。
床は、血とカレーが混ざったものでぐちゃぐちゃだ。その中に、何かを引きずったような跡があった。それをゆっくり視線でたどっていくと、その先には、その先にいたのは、おそらくお父さんだった化け物。
首は変な風に曲がり、目だけがこちらを見ている。その来ている服は血だらけで、少し固まっている。足も折れているし、片腕はない。明らかに立っていられるような状況ではないはずだ。それなのに、そいつは立って、こちらにゆっくりと近づいてくる。
「いや、来ないで……」
うまく立ち上がれない。そいつは近づいてくる。足に力を入れようとするが、動かない、体の動かし方を忘れてしまった。あと二メートル。そいつが腕を伸ばした。下がろうと必死に藻掻くが、一切身体が言うことを聞いてくれない。
もうすぐで手が私に触れるというところで、誰かに大声で呼ばれ、たような気がした。
そして、気が付くと目の前に化け物はいなくて、代わりに心配そうに私を見るお父さんの顔があった。
「大丈夫か!?彩夏!」
ようやく我に返り、後ろを見る。そこにお母さんの死体はない。お母さんは、お父さんの後ろで同じように心配そうな顔をして立っている。
「あ……えと、うん、だい、じょうぶ。……ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、それは大丈夫なんだが、どうしたんだ?何かいたのか?」
何か。確かにあれは誰かではなく何かだった。
「ううん、大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって」
「そうか?まぁ大丈夫ならいいけど、何かあったら言えよ?出来る事なら何でもするから」
「うん、ありがと。お母さんもね。おやすみなさい」
そう言って自分の部屋に戻る。
まだ頭が混乱している。さっきのは何だったのか。幻覚にしてはリアルすぎだった。
最近、変なこと続きだ。夢のことと言い、変なデジャブといい、さっきの幻覚?といい。
「あ、もしかしたら……」
あの人、佐々君も同じものを見ているかもしれない。それに夢の中で語りかけてくるあいつも何か知っているかも。
明日聞いてみよう。そう決めて布団に入る。結局、寝付けたのはそれから約二時間後だった。
そこには相変わらず真っ暗な空間が広がっている。
「……いい加減、この背景にも飽きてきたわ」
<そう言ったって、しょうがないよ。我慢するしかない>
「これは夢なんでしょう?だったら私次第でどうにかできるものじゃないの?」
<うーん、ちょっと複雑なんだよ。こちらにも色々あってね>
「そ。じゃぁそれはいいとして、私は聞いてないわよ?私の他にもこの場所に来てる人がいるなんて」
<そうだね。言ってないから。言う必要もないでしょ?>
「勝手にそういう判断しないでほしいわ」
<仮にボクが言っていたとしたら君はどうするの?>
「どうするという訳でもないけど、外でここのことを話せるじゃない」
<何を話すんだい?>
「何をって……まぁ色々と」
<ふーん、でも、君は知らない状況でも彼にここでの会話でボクが聞いたことを聞いたじゃないか>
「まぁね、ちょっと気になったのよ。他の人がどういう答えをするのか。結局、私と同じ考え方だったけど」
<そうだね。そこは実に興味深い結果だ。ま、バレたから話すけど、君と彼の他にもう一人いるんだけど、その人も君らとほぼ同じ回答だった。君らの共通点は未だ不明だが、もしかしたら……>
「そんなの知らないわよ。彼やその人がどんな考え方をしようと、私の考え方と同じだろうと、関係ない」
<そうかい。確かに、君は少し人と話すのが苦手なようだね>
「そうね。あまり得意ではないわ。……で、今日は何を?」
<そうだな、じゃぁ、正義って何か。それにしよう>
「正義、ね。また難しいことを……」
<そらね。まぁ、ボクが好きだからだけど、君もこういう難しい、答えのない問題はよく自問してるでしょ?>
「そういう、私のことを大体把握してるのやめてほしいわ。なんだか不気味」
<あはは、確かにそうだね。君は女性だから余計にね。でも気にすることはないよ。こちらからは、何してるか分からないし、君にも見えないだろうけど、ボクからも、ある意味では見えないからね>
「ふーん、意外ね。まぁいいわ。本題に入りましょ。正義、についてね」
<うん。さて、大体の人は自分なりの正義感を持ってるけど、その正義感というのは何なのだろう>
「基本的に、正義というのは人を助けたり、守ったりすること。そう思う人が多いんじゃない?」
<まぁね。でも、目的がそうでも、その人のやり方次第では、他の人からは悪人だと思われてしまうこともある>
「戦争では、たくさん人を殺すけど、それは自国を守るためだからしょうがないっていう考え方。たしかに、自国が攻撃されて、戦わないと国民が他国に支配されてしまうという状況ならまだしも、自国を守るためだとか言って、自分たちを攻撃してきたわけではない国を攻撃するのは、正義ではなく、それは、言ってしまえば悪よね」
<そうだね。ただ、それは当事者の見方だ。では、攻められたから守るために敵を殺しました。では、その敵の家族はどう思うと思う?>
「なるほど、その人達からしたら、悪人はこっちになるのね。負のループ」
<そう。正義というのは、その人のいる環境、立場、考え方によって大きく変わってしまう。厄介だよね>
「そもそも、戦争自体が悪でしょ。戦争で利益を得ている人たち以外には、良いことなんてないもの」
<まぁそうだね。欲を満たすために人を殺すというのは人道を外れた行為だ>
「でも、人道というのも、人間の決めたものよ。それこそ、欲にまみれた人たちに操作されてるんじゃないの?」
<そうかな?欲にまみれた人たちはそもそも人道というものを思いつかないと思うよ。そういった人たちにとっては、邪魔なものだろうしね。それに、人の中にあるそういう人道だとか、正義感だとかを変えさせるのは難しいと思うけど>
「金で買える心は真心ではないってね。それに、私は金があればいいとか、この人がいればいいとか、そういうのは気に入らないわ。依存するのもされるのも嫌」
<はは、君らしいね。と言うほど君のことを知っているわけではないけどね。依存するもされるも嫌か。複雑だね。おそらく、君が今まで誰からの告白も受け入れなかったのもそのためだろう?>
「当然よ。あの人達、君だけがどうとか、俺には君しかいないだとか言っちゃって、ホントにうざかったわ」
<アハハ!それはお気の毒様!>
「何が面白いのよ」
<そうかい?いや、傍から見れば笑える話さ。それにしても、何でこんな話になったんだっけ?>
「私がそう言ったからでしょ?もう忘れたわけ?……だって、戦争を起こして儲けてる人達って、お金に依存してるじゃない。お金が無くなることが大嫌いで、増やすためには、自分ではなく他人の命を利用する。それで、お金が無くなってしまうと、自分一人じゃ何もできないからただ絶望して終わる。くだらないわ」
<なるほど、手厳しいね>
「それにしても、あなたは戦争だとかに結び付けることが多いわね。そんなに戦争が好きなの?」
<いや、そういうわけじゃない。どちらかと言えば戦争は嫌いだよ。ただ、少し詳しいだけさ>
「好きだから詳しいのではなくて?」
<詳しい=好きってわけではないよ。戦争が怖いから戦争のことを知って戦争から離れることだってできる>
「なるほどね、まぁいいわ。深く詮索する気はない。それで、話を戻すけど、正義感って変えることはできなくても、操作することはできない?」
<言われてみれば、確かにあるかもね>
「戦時中の日本が最もな例ね。兵士一人一人は大事なものや人を守ることが正義だと思っていて、それを曲げないようにしながら、さらに、敵兵を殺すことを正義だと思うようにさせた」
<そうして、いつの間にか大事な人のためにではなく、日本という国を守るために闘うようになった>
「そういう考え方は嫌だな。私は、皆変わっていないと思う。確かに、敵を殺すのが正義だと思うようになった。でも、敵兵と戦う理由、守るものまで変わったわけじゃない。大事な人を守るのが、結果として国を守ることになっただけ」
<なるほど、君はそう考えるのか。うん、いいね。純粋で、綺麗だ。じゃぁ話を変えるけど、復讐はどうとる?大事な人を殺されたから、復讐するのは?>
「復讐。それを、否定することはできないわ。復讐を、愚かなことだっていう人もいるけど、必ずそうとは言えないわ。だって、大事な人を傷つけられたのよ?相手はすでに加害者。被害者を守り、加害者に報いを受けさせるのは当然よ」
<あれだね、ハンムラビ法典。目には目を歯には歯をってやつ。ただ、犯罪者に仕返しするために自分まで犯罪者になってたら意味がないんじゃない?>
「確かにそうよ。でも、犯罪者への仕返しが全て犯罪なわけじゃないわ。例えば、詳しい所は省くけど、どうにかしてその犯罪者を捕まえて、警察に突き出すの。それで、法で正しく裁いてもらえればいい。それで十分報いは受けさせたわ」
<……まぁ、間違ってはいない。ただ、世界はそんなに綺麗じゃない。例えば、そいつがただの犯罪者ではなく、大きな組織の人間だったら?裁判長は無理でも、他の裁判官や、弁護士、検察を買収していれば、相手に有利な裁判を行われることになる>
「希少な例でしょう?それに、その時敗訴しても、もっと詳しい証拠を探してもう一度裁判を行えばいい」
<その前に、その組織に消されるよ。言ったでしょ?世界はそんなに綺麗じゃない>
「あなたは、どうしてそうやってはっきりと言い切れるの?あなたは本当に何者なの?」
<……そう急かさないで。時間は、あまりないけど、いずれ分かることを今急いで知る必要もない。さて、今日はこのぐらいにしようか。君も疲れただろう>
「そうやって、自分のことが出ると逃げるように会話を終わらせるのはどうしてなの?」
<今知る必要はない。じゃぁ、また会おう>
「ちょ――」
目を覚ましてゆっくり目を開ける。目の前には真っ白い無機質な天井がある。とっくの昔に見慣れているからわかる。ここは私の部屋だ。私は自分のベッドに寝ている。
外は真っ暗。制服も着たまま。どうやら帰ってきてすぐに寝てしまったようだ。むくりと起き上がり、起き上がったところで、なぜか異様にデジャブを感じ首を傾げる。今まで制服を着たまま寝るなんてことはしたことがない。それなのに過去に一度同じことがあったような気がする。しかし、どれだけ思い出そうとしても、それがいつだったか思い出せないし、まずこういう状況は初めてなはずだ。帰ってすぐに、布団もかぶらず寝るなんてことしたことない。しかし、ではこのデジャブは何なのか。
「そんなこと考えても無駄か。さっさと着替えよ」
私は、おしゃれとかそういうのは分からない。女の子の部屋というものが分からない。部屋には必要なものしかなく、唯一女の子らしいものよと云えば、ベッドに置かれたピンク色の抱き枕ぐらいか。といっても、これも幼いころから使っていたもので、捨てたくないという理由で使っているだけだけど。
とは言うが、別に興味がないから分かろうともしない。私からすれば、異文化でしかない。
着替えた後、部屋を出て階下に降りても、音は静かなままで、誰かがいる気配もしなかった。
「あれ……?」
台所に行くと、コンロの火が点きっぱなしだった。カレーを作っていたのだろう。匂いがする。それともう一つ、異様な臭いがする。これは、何の臭いだろう。
とりあえず、コンロの火を消そうと一歩進んだところで、それが見えた。見えて、しまった。
「うそ……なに、これ」
台所の、コンロの前。そこに人が倒れていた。服装からしておそらくお母さんだ。
しかし、目の前で倒れているものはかなり凄惨だった。その人は仰向けに倒れているのだが、顔は分からない。なぜなら、その顔は何かで強引に抉られたかのように無くなっていたからだ。
床は、血とカレーが混ざったものでぐちゃぐちゃだ。その中に、何かを引きずったような跡があった。それをゆっくり視線でたどっていくと、その先には、その先にいたのは、おそらくお父さんだった化け物。
首は変な風に曲がり、目だけがこちらを見ている。その来ている服は血だらけで、少し固まっている。足も折れているし、片腕はない。明らかに立っていられるような状況ではないはずだ。それなのに、そいつは立って、こちらにゆっくりと近づいてくる。
「いや、来ないで……」
うまく立ち上がれない。そいつは近づいてくる。足に力を入れようとするが、動かない、体の動かし方を忘れてしまった。あと二メートル。そいつが腕を伸ばした。下がろうと必死に藻掻くが、一切身体が言うことを聞いてくれない。
もうすぐで手が私に触れるというところで、誰かに大声で呼ばれ、たような気がした。
そして、気が付くと目の前に化け物はいなくて、代わりに心配そうに私を見るお父さんの顔があった。
「大丈夫か!?彩夏!」
ようやく我に返り、後ろを見る。そこにお母さんの死体はない。お母さんは、お父さんの後ろで同じように心配そうな顔をして立っている。
「あ……えと、うん、だい、じょうぶ。……ごめんなさい、起こしちゃった?」
「いや、それは大丈夫なんだが、どうしたんだ?何かいたのか?」
何か。確かにあれは誰かではなく何かだった。
「ううん、大丈夫。ごめんね、心配かけちゃって」
「そうか?まぁ大丈夫ならいいけど、何かあったら言えよ?出来る事なら何でもするから」
「うん、ありがと。お母さんもね。おやすみなさい」
そう言って自分の部屋に戻る。
まだ頭が混乱している。さっきのは何だったのか。幻覚にしてはリアルすぎだった。
最近、変なこと続きだ。夢のことと言い、変なデジャブといい、さっきの幻覚?といい。
「あ、もしかしたら……」
あの人、佐々君も同じものを見ているかもしれない。それに夢の中で語りかけてくるあいつも何か知っているかも。
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