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六日目
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赤い。
まずそう思った。いつも、ここは真っ黒で、飲み込まれるような気がした。だけど、今は真っ黒から、真っ赤へと変化している。といっても、綺麗な赤ではなく、どちらかと言えば、血のようにどす黒い赤。それでも、赤であることに変わりはない。
「なんだか、色が違うとちょっと良くなったね、ここも」
『そうだね。でも、僕には見えないけど。前にも言ったように僕から君たちがいる場所は見ることができない』
「そんなこと言ってないよ」
『おっと、これはあっちの話か。ごめんごめん、少しこんがらがった』
「にしても、どうして突然色が変わったんだろう」
『君が一歩進化したのさ。少しだけど、着実に君は変化している。凄いな、ボクもびっくりしているんだ』
「何に進化するって言うのさ。ホント、君は一体何を知っているの?」
『ある意味では、全てのことを知っている。事実はね。でも世界のことは実際誰も知らない。知ることなんてできない』
「よく分からないよ。この話はもういいよ。どうせ話してはくれないんだろう?それより、大事な話というか、変なことがあったんだ」
『一体どうしたの?』
「変な幻覚を見たんだ。いや、あれを幻覚と言っていいのかもわからないけど、昨日、家に帰った時、家の中がやけに静かだったんだ。だから、留守なのかなって、台所を見たんだ。そしたら、台所は血だらけで、さらにかなり荒らされていた。最初強盗でも入ったかと思ったけど、違った。水の音がしたから、風呂場に行ったんだ。風呂場の扉も血だらけで扉を開けたら……妹が、血だらけで立ってて、僕に飛び掛かってきた瞬間、何もなくなったんだ。何というか、落ち着いて考えると、さながら映画でよく見るゾンビだったよ」
『…………なんてことだ……夢の中で現実を……?信じられない。記憶の中に生きて……』
「おい、どうしたんだ?何を言っているんだよ」
『……今日の会話は中止。そのことについて色々聞きたい』
「えぇ?一体何を聞くのさ」
『いいから。まず一つ目。その時、何か、日にちとか、時間でもいい。そう言うのを見たかい?』
「えっと、うん、見た。玄関のカレンダー。確か、六月の十八日だった」
『……一致。次。外の天気は?』
「晴れだよ。気持ちがいいくらいの快晴」
『……一致。次。外が騒がしくなかった?』
「どうだったかな。確か、物凄く静かだった気がする」
『これは不一致。次。妹が血だらけだったのは、特に口周辺?』
「うん。だからゾンビのイメージを持ったんだ」
『一致。……間違いない。でも、あまりに早すぎる。まだ何も準備ができていないのに。しかし、だとすると尚更時間がない。何としても成功させなければいけないんだ』
「ねぇ、この質問に何の意味があるの?それに一致不一致って何と比較してるの?」
『うん……ちょっと待ってね、もしかしたら…………』
「何?」
≪うわ、何これ、赤……≫
「って、その声、神無月さん?」
≪え?もしかして佐々君?≫
『できた……驚いた。二人とも進化のスピードが速過ぎる……』
≪ちょっと、ブツブツ言ってないで説明しなさいよ≫
『ちょっと、信じられないけど、君達はどうやら元から特殊だったんだ。でないと説明ができない。あ、待てよ、それが共通点なら、彼も?』
「君はどうやら質問を無視することが得意なようだね」
≪何か隠してるんなら、そのことに関係してるんでしょう。はぁ、一緒に会話できても姿は見えないのね≫
「そうだね。時間がたてば見えるようになるかな?」
≪そうだといいけど、なんだか、会話してるのに相手が見えないって本当嫌だわ≫
『なんだい、二人ともやけに残念そうじゃないか』
「そりゃそうだよ。君が見えないから実質僕は一人みたいだったもの。やっと、他の人が来たと思ったのに見えない」
≪正直、期待したわ≫
『そうか、それは残念だったね。でも、この調子ならもしかしたらいつか見えるようになるかもね』
「そうなのかい?だったら、それを気長に待ちますか」
≪ん。それで、今日は何を?≫
『うん。今日は会話ではなく、君にも聞きたいことがある。昨日、おかしな幻覚を見なかったかい?』
≪やっぱり、あなた何か知ってるのね。うん、見た。お母さんが死んでて、お父さんが、いや、あれをお父さんと呼んでいいのか……あれは、もう死んでてもおかしくない状態なのに、近づいて来て……≫
『自分に触れそうになった瞬間消えた』
≪うん≫
『一致。日付とかは見た?』
≪見て、ないわね≫
『ふむ、外が騒がしくなかった?』
≪ううん、何も聞こえなかった。静かすぎるぐらい≫
『そこは彼と同じか。うん、やっぱり君もだな。これはもしかしたら期待大かもしれない』
≪あ、やっぱり佐々君も見たのね≫
「うん。なんだか、酷いものだったよ。あれが何か、あいつは知ってるようだけど何も教えてくれない」
[それハ、俺も同じだナ]
≪おっと、また新しい人が来たわね≫
「そういや、僕と神無月さんの他にもう一人いるって言ってた。君のことかい?」
[そうだナ。俺の他にもいたって聞いた時は嬉しかったぜ]
「声のイントネーションから、君は日本人ではない?」
[正解。俺は生まれて十歳まで、ベトナムに住んでたからナ。と言っても、ベトナムに住んでたってだけで、親はアメリカ人さ。ベトナム戦争の頃から住んでたらしイ]
≪父親が兵士だったのね。それで、あなたは、何か知ってる?この空間だとか、あの人の言ってることについて≫
[残念ながら、俺モ何も分からネェ。ただ、この前オヤジ直伝の、尋問やったら、少しだけ聞き出せた]
「本当?凄いね。一体何を聞けたの?」
[一つ、俺たちが今生活してるここは、夢みてぇナもんだって言ってタ]
≪夢……?どういうこと?ねぇ、さっきから黙ってるけどどういうことよ≫
『……そのことはうっかりしていた。まんまと罠にかかってね。で、その夢って話だけど、今はまだ話せないけど、君たちはいづれ自分たちで気付くことになるよ』
「僕たちで?そうやって、はぐらかすのは一体どうしてなんだろうね」
[さぁナ、まったく分からねぇ。それより、お前らどこに住んでるんだ?ここじゃないところでも、一度顔合わせしときたい。どうダ?]
≪いいわね、私は、新宿駅から北にちょうど二百歩歩いたらあるわ≫
[またよく分かりづらい教え方だナ、おい。ナンつーか、普通ニ不親切だぞ]
「あはは、そうだね。ちなみに僕はそこからさらに五十歩ぐらい歩いたらあるよ」
≪え?そんなに家近かったの?知らなかった≫
「そうだね、登校下校完全にタイミング合ってないから」
[なんだ、おめーら同じ学校ニ通ってンのか。どうりでなんか親しそうだとおもったぜ]
≪あなたはどこなの?≫
[俺か?俺も一応新宿だけど、おメーらのとこからは結構遠いナ]
≪あなたもちゃんとした住所は言わないのね≫
[覚えてねーしナァ]
「はは、実は僕も。家の場所は分かるから、いちいち覚えようとしないんだよね」
≪まったく、私は覚えてるけど、あなた達が覚えてないなら私も言わない≫
『さて、まぁ、親睦会はそこまでにして、話がある』
[お?なんだ、ナンカ教えてくれるのか?]
『少しだけ、えっと、ヒンプトン君も君達と同じように、同じ日に、似たようなものを見ている。君たちが見たものは、幻覚とは少し違う。謂わば、記憶だ。君たちの記憶。でも、この世界での記憶ではない』
「あぁ、うん、分かってたよ。やっぱりよく分からない言い方するんだ」
≪わざとやってるんでしょ、何か知られたくないことがあるから≫
『仕方がないんだよ。もし、話して君たちが受け入れられず失敗したら大変だ』
[何が大変ナノかは、言うつもりがない、と]
『そうだね』
「まぁよく分からないけど、記憶ってことは、僕たちが一度経験したことってこと?」
≪この世界の記憶ではないって言ってた≫
[そんなン、俺たちのいる場所とは違う別の世界がアルってことになるじゃネーカ]
「別に無いと言い切ることはできないよ。この世界があるんだ。まさか一つしかないと思う方が難しいと思うのだけど」
≪確かに。ヒンプトン君はそう考えないの?≫
[あぁ?俺名前言ったか?]
「あいつがさっき言ったよ」
≪ねぇ、あいつって呼んでるけど、実際なんて名前なの?≫
『そうだねぇ、まぁ名前くらいいいか。ボクは来島経人たい……間違えた。うん、来島経人だよ』
≪たいって言いかけたのが凄く気になるけど、分かったわ≫
「来島経人ね。来島って名字は初めて聞いた。まぁ色んな名字があるんだね」
[まぁ、海外の名前のバリエーションの多さよりはマシだろ]
≪確かに≫
「さて、名前が分かったところで、今日はどうすんだ?もう解散か?]
『そうだね。もう今日は大きな収穫もあったし、もういいかな。じゃぁ解散にしよう明日は四人でまた会話しようじゃないか。実に面白くなると思うよ』
≪ま、どうだっていいけど≫
「じゃぁ、ヒンプトン君、また明日。いづれちゃんと顔合わせしよう」
[おう、じゃぁな。]
『じゃ、皆また会おう』
突然の衝撃で完全に目を覚ました。
隣を見ると教科書を丸めてこちらに突き出している神無月さんがいた。
「えっとぉ、神無月さん、僕はなぜ叩かれたので?」
「目覚めてすぐに起きないからよ」
「理不尽!?」
しかし、文字通り叩き起こすということは、それなりに待ったはずだ。しかし、僕はさっき起きたばかりだ。起きるのに時間差があった。偶然だろうか。
「まだ寝惚けてるの?もう一発いるかしら」
「いやいや、いらないから。……にしても神無月さんも同じような幻覚を見てたなんて、なんだか、ホント安心するよ」
「どうして?それ、もしかして私じゃなくても言うの?」
「まさか。神無月さんだからだよ」
「そうはっきりと言い切られるとちょっと照れるわね」
口ではそう言っているが、顔は全然照れていない。真顔そのものだ。まぁ、もとから、神無月さんは感情を表に出さない。だから、ありきたりに氷姫なんて呼ばれてる。ホントありきたりすぎてつまらないし、それだと神無月さんが冷たい人間みたいだ。ちなみに、本人がそう呼ばれることをどう思っているのか訊いてみると、
「勝手に言わせとけばいいの。どうせ、そういう奴は人を見た目で判断するような奴だってこと」
だそうだ。
彼女らしい回答だと思う。
「あぁあ、よく分からないなぁ。あいつ、来島。一体、何を隠してるんだと思う?」
「それが分かったら苦労しないわ。ただ、祖父の教えでは、模範解答ばかりを望まないで、自分で答えを求めろってさ」
「結構厳しい人だったんだね」
「確かに厳しい人ね。それを小学四年生に言うんだもの」
「それは、厳しいね、ホント」
こうやって、何気ない会話を、神無月さんとできるようになるのに、結構頑張ったんだよなぁ。最初は話しかけてもほとんど返してくれなかったし。たまに、凄い睨まれてたし。
それでもめげずに話しかけ続け、今ではあちらから話しかけてくれるようにまでなった。他のクラスメイトからも、奇異の目を向けられながらも、近づき続けた甲斐があった。ホント。
「さて、神無月さん、改めて、これからもよろしく」
「何、突然。今更過ぎるでしょ。まぁ、あの夢の中で一緒に会話できるのは確かに……けど、いつでも、ここで会えるんだからよろしくも何もないわよ」
「そうだけど、僕は変化を未来への一歩だって思ってるんだ。その中で、その一歩を共有できる人ができた。これからもその一歩ずつを共に進んでいく。だから、これからもよろしく」
「……ねぇそれプロポーズ?」
「え!?ち、違うよ!?」
「あれを、無自覚で言ってたの?あなた、ホント天然なのかバカなのか……」
「なんか酷い」
こういう会話も、今は苦労なくできる。ホント、良かった。
僕は、こういう日常が一番気に入っている。どうか、この日常が壊れる日が来ませんように。
まずそう思った。いつも、ここは真っ黒で、飲み込まれるような気がした。だけど、今は真っ黒から、真っ赤へと変化している。といっても、綺麗な赤ではなく、どちらかと言えば、血のようにどす黒い赤。それでも、赤であることに変わりはない。
「なんだか、色が違うとちょっと良くなったね、ここも」
『そうだね。でも、僕には見えないけど。前にも言ったように僕から君たちがいる場所は見ることができない』
「そんなこと言ってないよ」
『おっと、これはあっちの話か。ごめんごめん、少しこんがらがった』
「にしても、どうして突然色が変わったんだろう」
『君が一歩進化したのさ。少しだけど、着実に君は変化している。凄いな、ボクもびっくりしているんだ』
「何に進化するって言うのさ。ホント、君は一体何を知っているの?」
『ある意味では、全てのことを知っている。事実はね。でも世界のことは実際誰も知らない。知ることなんてできない』
「よく分からないよ。この話はもういいよ。どうせ話してはくれないんだろう?それより、大事な話というか、変なことがあったんだ」
『一体どうしたの?』
「変な幻覚を見たんだ。いや、あれを幻覚と言っていいのかもわからないけど、昨日、家に帰った時、家の中がやけに静かだったんだ。だから、留守なのかなって、台所を見たんだ。そしたら、台所は血だらけで、さらにかなり荒らされていた。最初強盗でも入ったかと思ったけど、違った。水の音がしたから、風呂場に行ったんだ。風呂場の扉も血だらけで扉を開けたら……妹が、血だらけで立ってて、僕に飛び掛かってきた瞬間、何もなくなったんだ。何というか、落ち着いて考えると、さながら映画でよく見るゾンビだったよ」
『…………なんてことだ……夢の中で現実を……?信じられない。記憶の中に生きて……』
「おい、どうしたんだ?何を言っているんだよ」
『……今日の会話は中止。そのことについて色々聞きたい』
「えぇ?一体何を聞くのさ」
『いいから。まず一つ目。その時、何か、日にちとか、時間でもいい。そう言うのを見たかい?』
「えっと、うん、見た。玄関のカレンダー。確か、六月の十八日だった」
『……一致。次。外の天気は?』
「晴れだよ。気持ちがいいくらいの快晴」
『……一致。次。外が騒がしくなかった?』
「どうだったかな。確か、物凄く静かだった気がする」
『これは不一致。次。妹が血だらけだったのは、特に口周辺?』
「うん。だからゾンビのイメージを持ったんだ」
『一致。……間違いない。でも、あまりに早すぎる。まだ何も準備ができていないのに。しかし、だとすると尚更時間がない。何としても成功させなければいけないんだ』
「ねぇ、この質問に何の意味があるの?それに一致不一致って何と比較してるの?」
『うん……ちょっと待ってね、もしかしたら…………』
「何?」
≪うわ、何これ、赤……≫
「って、その声、神無月さん?」
≪え?もしかして佐々君?≫
『できた……驚いた。二人とも進化のスピードが速過ぎる……』
≪ちょっと、ブツブツ言ってないで説明しなさいよ≫
『ちょっと、信じられないけど、君達はどうやら元から特殊だったんだ。でないと説明ができない。あ、待てよ、それが共通点なら、彼も?』
「君はどうやら質問を無視することが得意なようだね」
≪何か隠してるんなら、そのことに関係してるんでしょう。はぁ、一緒に会話できても姿は見えないのね≫
「そうだね。時間がたてば見えるようになるかな?」
≪そうだといいけど、なんだか、会話してるのに相手が見えないって本当嫌だわ≫
『なんだい、二人ともやけに残念そうじゃないか』
「そりゃそうだよ。君が見えないから実質僕は一人みたいだったもの。やっと、他の人が来たと思ったのに見えない」
≪正直、期待したわ≫
『そうか、それは残念だったね。でも、この調子ならもしかしたらいつか見えるようになるかもね』
「そうなのかい?だったら、それを気長に待ちますか」
≪ん。それで、今日は何を?≫
『うん。今日は会話ではなく、君にも聞きたいことがある。昨日、おかしな幻覚を見なかったかい?』
≪やっぱり、あなた何か知ってるのね。うん、見た。お母さんが死んでて、お父さんが、いや、あれをお父さんと呼んでいいのか……あれは、もう死んでてもおかしくない状態なのに、近づいて来て……≫
『自分に触れそうになった瞬間消えた』
≪うん≫
『一致。日付とかは見た?』
≪見て、ないわね≫
『ふむ、外が騒がしくなかった?』
≪ううん、何も聞こえなかった。静かすぎるぐらい≫
『そこは彼と同じか。うん、やっぱり君もだな。これはもしかしたら期待大かもしれない』
≪あ、やっぱり佐々君も見たのね≫
「うん。なんだか、酷いものだったよ。あれが何か、あいつは知ってるようだけど何も教えてくれない」
[それハ、俺も同じだナ]
≪おっと、また新しい人が来たわね≫
「そういや、僕と神無月さんの他にもう一人いるって言ってた。君のことかい?」
[そうだナ。俺の他にもいたって聞いた時は嬉しかったぜ]
「声のイントネーションから、君は日本人ではない?」
[正解。俺は生まれて十歳まで、ベトナムに住んでたからナ。と言っても、ベトナムに住んでたってだけで、親はアメリカ人さ。ベトナム戦争の頃から住んでたらしイ]
≪父親が兵士だったのね。それで、あなたは、何か知ってる?この空間だとか、あの人の言ってることについて≫
[残念ながら、俺モ何も分からネェ。ただ、この前オヤジ直伝の、尋問やったら、少しだけ聞き出せた]
「本当?凄いね。一体何を聞けたの?」
[一つ、俺たちが今生活してるここは、夢みてぇナもんだって言ってタ]
≪夢……?どういうこと?ねぇ、さっきから黙ってるけどどういうことよ≫
『……そのことはうっかりしていた。まんまと罠にかかってね。で、その夢って話だけど、今はまだ話せないけど、君たちはいづれ自分たちで気付くことになるよ』
「僕たちで?そうやって、はぐらかすのは一体どうしてなんだろうね」
[さぁナ、まったく分からねぇ。それより、お前らどこに住んでるんだ?ここじゃないところでも、一度顔合わせしときたい。どうダ?]
≪いいわね、私は、新宿駅から北にちょうど二百歩歩いたらあるわ≫
[またよく分かりづらい教え方だナ、おい。ナンつーか、普通ニ不親切だぞ]
「あはは、そうだね。ちなみに僕はそこからさらに五十歩ぐらい歩いたらあるよ」
≪え?そんなに家近かったの?知らなかった≫
「そうだね、登校下校完全にタイミング合ってないから」
[なんだ、おめーら同じ学校ニ通ってンのか。どうりでなんか親しそうだとおもったぜ]
≪あなたはどこなの?≫
[俺か?俺も一応新宿だけど、おメーらのとこからは結構遠いナ]
≪あなたもちゃんとした住所は言わないのね≫
[覚えてねーしナァ]
「はは、実は僕も。家の場所は分かるから、いちいち覚えようとしないんだよね」
≪まったく、私は覚えてるけど、あなた達が覚えてないなら私も言わない≫
『さて、まぁ、親睦会はそこまでにして、話がある』
[お?なんだ、ナンカ教えてくれるのか?]
『少しだけ、えっと、ヒンプトン君も君達と同じように、同じ日に、似たようなものを見ている。君たちが見たものは、幻覚とは少し違う。謂わば、記憶だ。君たちの記憶。でも、この世界での記憶ではない』
「あぁ、うん、分かってたよ。やっぱりよく分からない言い方するんだ」
≪わざとやってるんでしょ、何か知られたくないことがあるから≫
『仕方がないんだよ。もし、話して君たちが受け入れられず失敗したら大変だ』
[何が大変ナノかは、言うつもりがない、と]
『そうだね』
「まぁよく分からないけど、記憶ってことは、僕たちが一度経験したことってこと?」
≪この世界の記憶ではないって言ってた≫
[そんなン、俺たちのいる場所とは違う別の世界がアルってことになるじゃネーカ]
「別に無いと言い切ることはできないよ。この世界があるんだ。まさか一つしかないと思う方が難しいと思うのだけど」
≪確かに。ヒンプトン君はそう考えないの?≫
[あぁ?俺名前言ったか?]
「あいつがさっき言ったよ」
≪ねぇ、あいつって呼んでるけど、実際なんて名前なの?≫
『そうだねぇ、まぁ名前くらいいいか。ボクは来島経人たい……間違えた。うん、来島経人だよ』
≪たいって言いかけたのが凄く気になるけど、分かったわ≫
「来島経人ね。来島って名字は初めて聞いた。まぁ色んな名字があるんだね」
[まぁ、海外の名前のバリエーションの多さよりはマシだろ]
≪確かに≫
「さて、名前が分かったところで、今日はどうすんだ?もう解散か?]
『そうだね。もう今日は大きな収穫もあったし、もういいかな。じゃぁ解散にしよう明日は四人でまた会話しようじゃないか。実に面白くなると思うよ』
≪ま、どうだっていいけど≫
「じゃぁ、ヒンプトン君、また明日。いづれちゃんと顔合わせしよう」
[おう、じゃぁな。]
『じゃ、皆また会おう』
突然の衝撃で完全に目を覚ました。
隣を見ると教科書を丸めてこちらに突き出している神無月さんがいた。
「えっとぉ、神無月さん、僕はなぜ叩かれたので?」
「目覚めてすぐに起きないからよ」
「理不尽!?」
しかし、文字通り叩き起こすということは、それなりに待ったはずだ。しかし、僕はさっき起きたばかりだ。起きるのに時間差があった。偶然だろうか。
「まだ寝惚けてるの?もう一発いるかしら」
「いやいや、いらないから。……にしても神無月さんも同じような幻覚を見てたなんて、なんだか、ホント安心するよ」
「どうして?それ、もしかして私じゃなくても言うの?」
「まさか。神無月さんだからだよ」
「そうはっきりと言い切られるとちょっと照れるわね」
口ではそう言っているが、顔は全然照れていない。真顔そのものだ。まぁ、もとから、神無月さんは感情を表に出さない。だから、ありきたりに氷姫なんて呼ばれてる。ホントありきたりすぎてつまらないし、それだと神無月さんが冷たい人間みたいだ。ちなみに、本人がそう呼ばれることをどう思っているのか訊いてみると、
「勝手に言わせとけばいいの。どうせ、そういう奴は人を見た目で判断するような奴だってこと」
だそうだ。
彼女らしい回答だと思う。
「あぁあ、よく分からないなぁ。あいつ、来島。一体、何を隠してるんだと思う?」
「それが分かったら苦労しないわ。ただ、祖父の教えでは、模範解答ばかりを望まないで、自分で答えを求めろってさ」
「結構厳しい人だったんだね」
「確かに厳しい人ね。それを小学四年生に言うんだもの」
「それは、厳しいね、ホント」
こうやって、何気ない会話を、神無月さんとできるようになるのに、結構頑張ったんだよなぁ。最初は話しかけてもほとんど返してくれなかったし。たまに、凄い睨まれてたし。
それでもめげずに話しかけ続け、今ではあちらから話しかけてくれるようにまでなった。他のクラスメイトからも、奇異の目を向けられながらも、近づき続けた甲斐があった。ホント。
「さて、神無月さん、改めて、これからもよろしく」
「何、突然。今更過ぎるでしょ。まぁ、あの夢の中で一緒に会話できるのは確かに……けど、いつでも、ここで会えるんだからよろしくも何もないわよ」
「そうだけど、僕は変化を未来への一歩だって思ってるんだ。その中で、その一歩を共有できる人ができた。これからもその一歩ずつを共に進んでいく。だから、これからもよろしく」
「……ねぇそれプロポーズ?」
「え!?ち、違うよ!?」
「あれを、無自覚で言ってたの?あなた、ホント天然なのかバカなのか……」
「なんか酷い」
こういう会話も、今は苦労なくできる。ホント、良かった。
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