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第9章~ロッキー・ホラー・ショー~①
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十月も下旬を迎えた週末、秀明は喜びと疑問、そして、期待と不安が綯交ぜ(ないまぜ)になった複雑な想いを抱えながら帰宅の途に着いていた。
彼を複雑な心境にさせていたのには、二つの要因があった。
一つ目は、この週末の日曜日に行われる秋の天皇賞で、春のレース後に股関節の故障で戦線を離脱していた前年度の三冠馬ナリタブライアンが復帰することだった。
圧勝続きだった前年に続き、故障前の最後のレースだった阪神大賞典も圧巻の走りで他馬を圧倒し、この年も『ブライアンの前に敵はナシ』と思わせるレースぶりだったが、前述の様に、この馬が戦線離脱していたことで、秀明の競馬に対する注目度や熱の入り具合は、やや下がりつつあった。
しかし、彼が最も注目する三冠馬が、ついに秋の大レースに戻って来る!
怪我をした故障馬の復帰後の成績が全体的に芳しくないことや、天皇賞に向けた調整過程に対する不安などは感じていたが、それでも、秀明にとっては、「ナリタブライアンを秋のG1レースで見ることができる」という期待感が、遥かに大きかった。
そして、もう一つの要因は、さらに彼を期待と不安の混じる複雑な想いにさせた───。
金曜日の昼休み、いつもの様に放送室から教室に戻る際、亜莉寿から、こんな風に声を掛けられたのだ。
「有間クン、来週の土曜日の夜の予定は空いてる?もし、良ければ、この映画を一緒に観に行かない?」
彼女は、そう言って、一枚のチラシを差し出した。
チラシには、
《ロッキー・ホラー・ショー ハロウィン特別上映》
と書かれている。
「へぇ~、『ロッキー・ホラー・ショー』のリバイバル上映があるの?面白しそうやね」
チラシに目を通した秀明が答えると、
「しかも、ただの上映じゃないの!詳しくは、観てのお楽しみ!なんだけど……。それで───、予定は、どうかな?」
いつも、ハッキリとした口調で話す亜莉寿にしては珍しく、控えめなトーンでたずねてきた。
「うん、大丈夫!レイトショーで、場所は心斎橋のアメリカ村か……。なら、女子一人より、誰かボディーガードになる役になる人間が必要かな?いや、オレで役に立つか、わからんけど」
わざと、おどけた口調で語る秀明に、
「うん。それもあるんだけど……。ちょっと、有間クンに話したいこともあるから───」
亜莉寿は、何かを言いたそうな、それでも、話しにくそうな口調で答える。
「……そっか。わかった!」
と、一呼吸おいて快諾したあと、秀明は小声で「亜莉寿の話しも、しっかり聞かせてもらうわ」と、彼女にだけ聞こえる様にささやいた。
───と、この様な経緯で、十月の最終土曜日に、秀明は吉野亜莉寿とともに、レイトショーの映画を観に行くことになったのだが……。
(亜莉寿から、映画に誘われた!誘われた!誘われた!)
(しかも、レイトショー!レイトショーやって!)
喜びと興奮のあまり、普段でさえ高くない秀明の脳機能は、著しく低下する。
読書諸氏におかれては、どうか
「吉野亜莉寿と映画に行くくらい、『シネマハウスにようこそ』のための試写会で何度も経験済みだろう!!」
とツッコミを入れないであげて欲しい。
これまで、『シネマハウスにようこそ』に関連しない映画を二人で観に行くようなことは無かったし、まして、亜莉寿から直々に声を掛けて来たのだから、秀明は、まさしく《天にも登る気持ち》であった。
しかし、一方で彼女の言った『話したいこと』とは、何なのか?
そのことを考えるだけで、胸の奥には、モヤモヤとした気分が充満する。
放送では、亜莉寿やブンちゃんに付きまとうことに対して、釘を差す内容の話しをしたが、直接的な効果が出るのか秀明には、判断が付かなかった。
(亜莉寿も、ブンちゃんみたいに異性の視線にさらされてるのかな?)
そう考えると、モヤモヤとした気分が、チクリとした痛みに変わる。
(ショウさんが、言ってくれてたことは、このことか……)
今さらながらに、委員会活動などで時間をともにすることが増えたクラスメートの言葉が、身に染みる。
とは言うものの、秀明自身にこれ以上、何か出来ることがある訳ではない。
「まあ、自分に出来ることは、亜莉寿の話しを聞くことくらいか……」
自分自身を納得させるために、彼はつぶやく。
もう一つ、秀明は疑問に思うことがあった。
亜莉寿から《持って来るものリスト》として、メモ用紙には、こんなことが書かれていた。
・米粒の大きさに丸めたティッシュペーパー
・新聞紙
・ペンライト
・パーティ用のクラッカー
・野球の応援に使う風船
あまりにも不思議なリストの内容に思わず、もう一言つぶやいてしまった。
「これ、いったいナニに使うの!?」
彼を複雑な心境にさせていたのには、二つの要因があった。
一つ目は、この週末の日曜日に行われる秋の天皇賞で、春のレース後に股関節の故障で戦線を離脱していた前年度の三冠馬ナリタブライアンが復帰することだった。
圧勝続きだった前年に続き、故障前の最後のレースだった阪神大賞典も圧巻の走りで他馬を圧倒し、この年も『ブライアンの前に敵はナシ』と思わせるレースぶりだったが、前述の様に、この馬が戦線離脱していたことで、秀明の競馬に対する注目度や熱の入り具合は、やや下がりつつあった。
しかし、彼が最も注目する三冠馬が、ついに秋の大レースに戻って来る!
怪我をした故障馬の復帰後の成績が全体的に芳しくないことや、天皇賞に向けた調整過程に対する不安などは感じていたが、それでも、秀明にとっては、「ナリタブライアンを秋のG1レースで見ることができる」という期待感が、遥かに大きかった。
そして、もう一つの要因は、さらに彼を期待と不安の混じる複雑な想いにさせた───。
金曜日の昼休み、いつもの様に放送室から教室に戻る際、亜莉寿から、こんな風に声を掛けられたのだ。
「有間クン、来週の土曜日の夜の予定は空いてる?もし、良ければ、この映画を一緒に観に行かない?」
彼女は、そう言って、一枚のチラシを差し出した。
チラシには、
《ロッキー・ホラー・ショー ハロウィン特別上映》
と書かれている。
「へぇ~、『ロッキー・ホラー・ショー』のリバイバル上映があるの?面白しそうやね」
チラシに目を通した秀明が答えると、
「しかも、ただの上映じゃないの!詳しくは、観てのお楽しみ!なんだけど……。それで───、予定は、どうかな?」
いつも、ハッキリとした口調で話す亜莉寿にしては珍しく、控えめなトーンでたずねてきた。
「うん、大丈夫!レイトショーで、場所は心斎橋のアメリカ村か……。なら、女子一人より、誰かボディーガードになる役になる人間が必要かな?いや、オレで役に立つか、わからんけど」
わざと、おどけた口調で語る秀明に、
「うん。それもあるんだけど……。ちょっと、有間クンに話したいこともあるから───」
亜莉寿は、何かを言いたそうな、それでも、話しにくそうな口調で答える。
「……そっか。わかった!」
と、一呼吸おいて快諾したあと、秀明は小声で「亜莉寿の話しも、しっかり聞かせてもらうわ」と、彼女にだけ聞こえる様にささやいた。
───と、この様な経緯で、十月の最終土曜日に、秀明は吉野亜莉寿とともに、レイトショーの映画を観に行くことになったのだが……。
(亜莉寿から、映画に誘われた!誘われた!誘われた!)
(しかも、レイトショー!レイトショーやって!)
喜びと興奮のあまり、普段でさえ高くない秀明の脳機能は、著しく低下する。
読書諸氏におかれては、どうか
「吉野亜莉寿と映画に行くくらい、『シネマハウスにようこそ』のための試写会で何度も経験済みだろう!!」
とツッコミを入れないであげて欲しい。
これまで、『シネマハウスにようこそ』に関連しない映画を二人で観に行くようなことは無かったし、まして、亜莉寿から直々に声を掛けて来たのだから、秀明は、まさしく《天にも登る気持ち》であった。
しかし、一方で彼女の言った『話したいこと』とは、何なのか?
そのことを考えるだけで、胸の奥には、モヤモヤとした気分が充満する。
放送では、亜莉寿やブンちゃんに付きまとうことに対して、釘を差す内容の話しをしたが、直接的な効果が出るのか秀明には、判断が付かなかった。
(亜莉寿も、ブンちゃんみたいに異性の視線にさらされてるのかな?)
そう考えると、モヤモヤとした気分が、チクリとした痛みに変わる。
(ショウさんが、言ってくれてたことは、このことか……)
今さらながらに、委員会活動などで時間をともにすることが増えたクラスメートの言葉が、身に染みる。
とは言うものの、秀明自身にこれ以上、何か出来ることがある訳ではない。
「まあ、自分に出来ることは、亜莉寿の話しを聞くことくらいか……」
自分自身を納得させるために、彼はつぶやく。
もう一つ、秀明は疑問に思うことがあった。
亜莉寿から《持って来るものリスト》として、メモ用紙には、こんなことが書かれていた。
・米粒の大きさに丸めたティッシュペーパー
・新聞紙
・ペンライト
・パーティ用のクラッカー
・野球の応援に使う風船
あまりにも不思議なリストの内容に思わず、もう一言つぶやいてしまった。
「これ、いったいナニに使うの!?」
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