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第13章~今夜はトークハード~③
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わずかに外ナリタブライアンか!?
二頭がゴール板を駆け抜けた瞬間、期せずして、大きな拍手が沸き上がる。
とてつもない場面を目撃してしまった……。
両手と両脚の震えを抑えることが出来ない……。
二頭が馬体を併せてゴールした瞬間、いや正確に言えば、二頭が残り一〇〇〇メートルのハロン棒を通過した時点からゴールまでの五十八秒あまりの間、西日に照らされ、漆黒に光るナリタブライアンと黄金色に輝くマヤノトップガン、両馬の美しさと力強さに、秀明は、ずっと、鳥肌が立つのを感じていた。
スポーツに限らず、映画、音楽、その他のあらゆる創作物に触れる時でも、事前に想像し、期待していた以上の衝撃を覚えるシーンを目撃することは、人生の中で、数える程しかないだろう。
その一つが、この日、この瞬間、目の前で達成された。
感動で身体の震えが止まらないということは、秀明にとって、初めての経験だ。
実力馬二頭のマッチレースになったこともさることながら、前年の秋以降、ケガをする前の豪脚が鳴りをひそめ、レースに勝てなくなってしまったナリタブライアンが、復活の勝利を遂げたことに、言葉にできない程の喜びを感じる。
世の中には、こんなにも胸を熱くさせるシーンがあるものなのか───。
競馬場のスタンドに立ち尽くしながら、秀明は、目の前のウイナーズサークルで武豊騎手の勝利騎手インタビューが始まるまで、感動の余韻に浸っていた。
しかし、目の前で展開された三分五秒たらずのドラマに、胸を熱く、締め付けられる様な想いをさせられた、その本当の理由に気づくのは、もう少し先のことだった。
※
観客席から、多くの観衆とともに、ウイナーズサークルでの勝利騎手インタビューを観覧したため、秀明は、少し足早になりながら、ビデオ・アーカイブ仁川店に向かった。
競馬場から、ほんの数分の場所にある店舗に入店すると、
「いらっしゃいませ!おっ、有間クンか!?」
と、店長が迎えてくれた。
「ウチの店員オススメの映画を取り置きしてるよ」
そう言いながら、カウンターから一本のビデオテープと外箱を取り出す。
ビデオテープと外箱には、『今夜はトーク・ハード』とタイトルが書かれていた。
「クリスチャン・スレーターの主演映画ですか?初めて聞くタイトルです!」
秀明が、そう言うと
「有間クンは、学校で校内放送をしてるんやろう?それなら、この映画を観て、感じるところがあるんちゃうかな」
店長は、そんな風に話しながら、会員証の確認をして、レンタルの手続きを進めつつ、
「今日は、土曜日やのに駅前が、すごい人混みやったわ。競馬場で何かあったんかな?」
問わず語りに、つぶやく。
それを聞いた秀明は、
「今日は、阪神競馬場に有力な馬が二頭出走して来たんで、みんな、そのレースを観に来てたんだと思います。ちなみに、ボクもレース観戦帰りです」
と、説明する。
「ほぉ~、有間クンは競馬やるんか?」
関心を示す店長に、
「いや、馬券は買いませんよ。レースを観るだけです」
秀明は、あくまで法律の範囲内で楽しんでいることを強調する。
「ふ~ん、TVゲームの影響で、中高生も競馬を観ていると聞いたことがあるけど、キミもそうなんか?」
「そうですね。ボクもゲームから競馬に興味を持ちました」
秀明の答えに、
「そうか~。それじゃあ、買って儲かりそうな馬がおったら、また教えてな」
と軽口を交えながら、レンタルの手続きと会計を済ませてくれた。
さらに、やや大きめの紙袋を提げている秀明を見て、
「今日は、えらい大荷物やな?その袋の中身もVHSテープ?」
と、たずねる。
「あ、いま放送中のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の録画テープなんですよ。亜莉寿さんにも観てもらおうと思って……」
秀明が答えると、
「そうか~!『エヴァンゲリオン』の人気もすごいもんな~。ウチでもレンタル始めたけど、ずっと貸出中になってるわ。やっぱり、若いコの流行も取り入れなアカンな~」
と、豪快に笑う。
「今日の映画も取り置きしてもらって、ありがとうございました。これから、吉野家に行って来ます」
と、秀明が告げると、
「いやいや!こちらこそ、いつもご利用ありがとう。気をつけて行って来てな」
店長は、快く店から送り出してくれた。
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わずかに外ナリタブライアンか!?
二頭がゴール板を駆け抜けた瞬間、期せずして、大きな拍手が沸き上がる。
とてつもない場面を目撃してしまった……。
両手と両脚の震えを抑えることが出来ない……。
二頭が馬体を併せてゴールした瞬間、いや正確に言えば、二頭が残り一〇〇〇メートルのハロン棒を通過した時点からゴールまでの五十八秒あまりの間、西日に照らされ、漆黒に光るナリタブライアンと黄金色に輝くマヤノトップガン、両馬の美しさと力強さに、秀明は、ずっと、鳥肌が立つのを感じていた。
スポーツに限らず、映画、音楽、その他のあらゆる創作物に触れる時でも、事前に想像し、期待していた以上の衝撃を覚えるシーンを目撃することは、人生の中で、数える程しかないだろう。
その一つが、この日、この瞬間、目の前で達成された。
感動で身体の震えが止まらないということは、秀明にとって、初めての経験だ。
実力馬二頭のマッチレースになったこともさることながら、前年の秋以降、ケガをする前の豪脚が鳴りをひそめ、レースに勝てなくなってしまったナリタブライアンが、復活の勝利を遂げたことに、言葉にできない程の喜びを感じる。
世の中には、こんなにも胸を熱くさせるシーンがあるものなのか───。
競馬場のスタンドに立ち尽くしながら、秀明は、目の前のウイナーズサークルで武豊騎手の勝利騎手インタビューが始まるまで、感動の余韻に浸っていた。
しかし、目の前で展開された三分五秒たらずのドラマに、胸を熱く、締め付けられる様な想いをさせられた、その本当の理由に気づくのは、もう少し先のことだった。
※
観客席から、多くの観衆とともに、ウイナーズサークルでの勝利騎手インタビューを観覧したため、秀明は、少し足早になりながら、ビデオ・アーカイブ仁川店に向かった。
競馬場から、ほんの数分の場所にある店舗に入店すると、
「いらっしゃいませ!おっ、有間クンか!?」
と、店長が迎えてくれた。
「ウチの店員オススメの映画を取り置きしてるよ」
そう言いながら、カウンターから一本のビデオテープと外箱を取り出す。
ビデオテープと外箱には、『今夜はトーク・ハード』とタイトルが書かれていた。
「クリスチャン・スレーターの主演映画ですか?初めて聞くタイトルです!」
秀明が、そう言うと
「有間クンは、学校で校内放送をしてるんやろう?それなら、この映画を観て、感じるところがあるんちゃうかな」
店長は、そんな風に話しながら、会員証の確認をして、レンタルの手続きを進めつつ、
「今日は、土曜日やのに駅前が、すごい人混みやったわ。競馬場で何かあったんかな?」
問わず語りに、つぶやく。
それを聞いた秀明は、
「今日は、阪神競馬場に有力な馬が二頭出走して来たんで、みんな、そのレースを観に来てたんだと思います。ちなみに、ボクもレース観戦帰りです」
と、説明する。
「ほぉ~、有間クンは競馬やるんか?」
関心を示す店長に、
「いや、馬券は買いませんよ。レースを観るだけです」
秀明は、あくまで法律の範囲内で楽しんでいることを強調する。
「ふ~ん、TVゲームの影響で、中高生も競馬を観ていると聞いたことがあるけど、キミもそうなんか?」
「そうですね。ボクもゲームから競馬に興味を持ちました」
秀明の答えに、
「そうか~。それじゃあ、買って儲かりそうな馬がおったら、また教えてな」
と軽口を交えながら、レンタルの手続きと会計を済ませてくれた。
さらに、やや大きめの紙袋を提げている秀明を見て、
「今日は、えらい大荷物やな?その袋の中身もVHSテープ?」
と、たずねる。
「あ、いま放送中のアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の録画テープなんですよ。亜莉寿さんにも観てもらおうと思って……」
秀明が答えると、
「そうか~!『エヴァンゲリオン』の人気もすごいもんな~。ウチでもレンタル始めたけど、ずっと貸出中になってるわ。やっぱり、若いコの流行も取り入れなアカンな~」
と、豪快に笑う。
「今日の映画も取り置きしてもらって、ありがとうございました。これから、吉野家に行って来ます」
と、秀明が告げると、
「いやいや!こちらこそ、いつもご利用ありがとう。気をつけて行って来てな」
店長は、快く店から送り出してくれた。
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