初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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回想②〜白草四葉の場合その1〜拾

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「わたしも歌わせてもらって良い?」

 クロの返事を聞く前に、プレイステーションのコントローラーを握ったわたしは、検索画面を表示させ、一曲目の曲目を検索する。
 曲のタイトルが表示され、イントロなしで楽曲の演奏が始まった。
 それは、祝川の遊歩道で、クロとジェラートを食べながら、語り合ったアニメのオープニング・ソングだ。

「シェリルじゃね~のかよ!?」

 曲が間奏に入った瞬間に、クロのツッコミが入ったが、気に留めず歌い続ける。
 ただ、歌いながら、わたしには、気がついたことがあった。
 それは、歌うわたしの姿を見つめるクロの視線だ――――――。
 熱を帯びながらも、惚けたような表情から送られる、その視線に、最初はくすぐったいような違和感を覚えながら、歌い続ける。

(クロは、わたしの歌に、どんな感想を言ってくれるんだろう)

 そんなことを考えながら、イントロと同じく、終奏《アウトロ》が短い一曲を歌い終えると、熱を帯びた視線をわたしに向けていたクロは、ハッとした表情になり、少し頬を紅潮させながら、

「シ、シロも、なかなか、上手いじゃねぇか……」

と、視線を反らして感想を述べる。

(ふ~ん、そういう風に言うんだ……もっと、素直に感じたことを口にすればイイのに!!)

 歌声を聞いている最中に見せていた表情と、実際に発したクロの言葉とのギャップに、少しカチンときたわたしは、

「じゃ、次はクロが歌ってみてよ!」

と、コントローラーを手渡し、彼が歌う間に、次に歌うべき楽曲の選定に入ることにした。

(もっと上手に歌って、クロに「スゴかった!!」と言わせてやる)

 火に油が注がれるように、さらに燃え上がる自分の気持ちを感じながら――――――同時に、わたしは、クロから熱い視線で見つめられている時に覚えた感覚の正体を探りたいと考えていた。
 こうして、アプリの採点システムを使ったクロとわたしのカラオケ・バトルが始まった――――――。



 Linked Horizon、BUMP OF CHICKEN、UNISON SQUARE GARDENなど、クロは彼の好む2010年代前半を代表するアニメソングを披露した。
 一方のわたしは、家族で良く聞いていた、セリーヌ・ディオン、サラ・ブライトマンなどの洋楽アーティストの楽曲を熱唱したあと、最後は、『マクロスF』のアノ曲で締めさせてもらった。
 自画自賛をするのは、決してわたしの趣味ではないけれど――――――。
 わたしたち二人の対決の結果は、控えめに言って、わたしの圧勝だった。
 クロも、小学生男子にしては、十分な歌唱力だったと言える。
 ただ、何よりも彼の表情が、その勝敗について、雄弁に語っていた。
『射手座☆午後九時 Don’t be late』を歌い終わったわたしが、

「クロ、どうだった?」

と、たずねると、彼は、いつか見たTVコマーシャルのキャッチ・コピーのように、

『天才はいる。悔しいが。』

という表情をしていた(ちなみに、わたしは、これが何のCMだったのかを思い出せない)。
 そして、彼は、感嘆と諦念が交じわったような顔で、

「シロ、スゲェな……どこかで歌を習ったりしてるのか?」

と、たずねてきた。

「うん……実は、マン・ツーマンのボーカル教室に通ってるんだ……」

 両親の影響で、プロの指導を受けているというのは、このバトルにおいて、さすがにフェアではないと感じ、若干の後ろめたさを感じながら答えると、彼は

「そっか~! どうりで、プロ並みに上手いわけだ……」

感心したように言ったあと、

「そりゃ、勝てねぇわ……」

と、さわやかに笑った。
 彼の表情に、ホッとすると同時に、気付いたことがあった。
 最後の曲を歌っている最中、わたしは、一曲目の歌唱中に感じたのと同じ熱い視線で、クロが、自分を見つめていることを認識していた。
 その時、わたしが感じたのは、

「クロを魅了し、その視線を釘付けにできた」

という喜びだ。
 さらに、その感覚は、《快感》という言葉が相応しい、ということも――――――。
 ボーカル教室で歌唱レッスンを受けるのが楽しみなくらい、小さな頃から歌うこと自体は大好きだったが、この頃までのわたしは、人前で歌声を披露することに、かなり抵抗があった。
 
 だけど――――――。
 
 この日のカラオケ・バトルで、クロの視線を感じ取ったわたしは、たしかに、彼の目の前で歌うことに心地よさを感じていた。

(そうか……これが、誰かの前で歌うことの楽しさなんだ……)

 この時になって、母親が『ローマの休日』のヘプバーンを見て女優の仕事を目指そうとした理由も、わたし自身がシェリルに憧れる気持ちを持った理由も、心の底から理解できた気がする。
 それは、この時まで、人前に出ることが苦手だったわたしが、他人から注目を浴びること、そして、その視線を釘付けにすることに対して『悦び』を感じる、と実感できた、はじめての瞬間でもあった。
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