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第11章〜よつば様は告らせたい〜⑩
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~黄瀬壮馬と天竹葵の見解~
「――――――と言うわけで、紅野さんに関すること以外、天竹さんの推察は、概ね間違っていなかったみたいだよ」
白草さんとの会話を終えたあと、ボクは、図書室で待っていてくれた文芸部の部長を務めるクラスメートと落ち合い、重要参考人に対する事情聴取の報告をすることにした。
「そうですか――――――もう少し早く、白草さんの真意に気付くことが出来ていれば、ここまで事が大きくなることもなかったと思うので……仮に、自分たちの推察が正しかったとしても、『時すでに遅し』という感じで、悔しさが残りますが……」
言葉の通り、無念さをにじませながら語る天竹さんに返答する。
「ボクも同じ想いだけど……今回の一件については、白草さんの執念と言うか、彼女の強い思い入れにしてやられた、と素直に認めるしかないんじゃないかな?」
実際、小学生時代の白草さんに大きな影響を与えたと推察できる某コミック作品に倣ってて言うなら、
《本日の勝敗・白草四葉の完勝》
といったところだろう。
これは、面白いくらい、まんまと罠にハマった竜司だけでなく、彼女の思惑に振り回されたボクや天竹さんの思いだ。
それでも、唯一の救いは、天竹さんが必死になって防ごうとした、
「紅野さんが、竜司の告白の場面を目の当たりにする」
という最悪の事態を避けられたことだ。
その意味で、(言質を取れなかったので、彼女の狙いが、どういうモノだったのか定かではないが)白草さんは、紅野さんに対してだけは完勝したとは言えないのかも知れない。
ボクには、そのことが、鮮やかな奇襲攻撃を成功させながら、のちの戦局を左右するアメリカ太平洋艦隊の航空母艦を発見できずに帰投せざるを得なかった、旧日本海軍の真珠湾攻撃と共通するようにも感じられた。
――――――とはいえ、白草さんの思惑がどのようなものであろうと、本当に自身の復讐心のために面識のなかった紅野さんを巻き込み、彼女の気持ちを傷つけるような結果になっていたら、天竹さんだけでなく、ボク自身も、この(傍若無人といっても差し支えないであろう)転入生のことを許せない、と考えるようになっていただろうと思う。
それに、結果として、竜司が白草さんに見事にフラれる、というわかりやすいオチがついたことで、学校全体の雰囲気が丸く収まり、その後のボクたち広報部による、SNSを駆使した印象操作を容易に進めることができた。
「ボクとしては、校内の盛り上げに大いに貢献してくれたことと、安易に彼女の提案に乗ってしまった自分への戒めも含めて、白草さんを庇いたいと思う気持ちが半分と……結果的に大勢の生徒が彼女の思惑に巻き込まれたことに対して、恨めしく思う面が半分ってとこかな?」
そんな風に感じていることを口にすると、天竹さんは、
「そうですか……間近で白草さんや黒田君のようすを見ていた黄瀬君がそう感じているなら、私の方から意見することは無さそうですね……」
と、淡々と応じる。
こうして話しを聞いてくれている天竹さんには申し訳ないが、実際のところ、これほど大掛かりに多くの生徒が巻き込まれたことを認識しながら、ボク自身、白草さんのことを憎む気持ちにならなかった。
それが、白草四葉という女子の持つ人徳なのだろうか?
このあたりのことは、機会をみて、彼女にフラれたばかりの親友に、ぜひとも意見を聞いてみたいところではある。
白草さんとの会話でわかったことを報告し終えたボクは、一連の出来事に対する事後処理が終了したことに、安堵のため息をついた。
そんなボクのようすを眺めていたのか、読書家だけあって、文系方面の知識が豊富な天竹さんは、会話の最後に、こんなことを教えてくれた――――――。
「白草さんの名前は、シロツメクサ、一般的に言うところのクローバーを連想させますが……黄瀬君は、この植物の花言葉を知っていますか?」
「いや……ボクは、そういう方面の情報に、まったく無縁な人生を送ってきたから……」
苦笑しながら、首を横に振り、天竹さんにたずねる。
「そう言えば、白草さんに読んでもらった天竹さんの推理メモにも、クローバーの花言葉には、もう一つの意味がある、みたいなことが書いていたよね」
すると、彼女は、
「花言葉は、ひとつの植物に対して、複数の単語が設定されていることが多いんですけど――――――クローバーは、こんな感じですね」
と言って、あらかじめサイトを検索していたのか、彼女のスマホの画面を提示してくれた。
さまざまな植物の花言葉がまとめられているそのサイトには、こんな内容が記載されている。
四つ葉のクローバーの花言葉:「幸運」「私のものになって」
白いクローバー(シロツメクサ)の花言葉:「私を思って」「約束」
クローバー全般の花言葉:「幸運」「約束」「復讐」
最後の単語を目にした瞬間、ボクの背中に、ゾクリ――――――と、悪寒のようなものが走った。
「クローバーって、メルヘンチックなイメージがあるんだけど……ずいぶん、物騒な花言葉が設定されているんだね……?」
表情を引きつらせながら、天竹さんに同意を求めると、彼女は、こちらの問いかけに同意しつつ、
「そうですね……『復讐』という花言葉がつけられた由来には諸説あるようですが――――――」
と、前置きをしたあと、理路整然と、自身の見解を述べた。
「ただ……この言葉が、『私を思って』『約束』という言葉と表裏一体の意味を持つと考えると、ある人が、『私を思って』と相手に願い、その思いが届いても、その後、『約束』が破られたとしたら……最後に、その想いが『復讐』につながるというのは、理解できるような気もします」
「なるほど……確かに、そうだね……」
天竹さんの冷静な分析に同意し、納得しながら、ひと月前に転入してきたクラスメートのことを考える。
『幸運』『約束』『私を思って』――――――。
白草さんが、どのような想いで自分のアカウントに、《clover_field》というアカウント名を設定したのかはわからないが、なるほど、SNS上の彼女のイメージには、それらの言葉がピッタリと当てはまる気がする。
しかし――――――。
天竹さんの話しを聞かせてもらった今となっては、おそらく、小学生の時に竜司と別れた直後から、その機会をうかがっていたと思われる『復讐』という言葉の方が、今の白草さんには、相応しいとも感じる。
そして、いまのボクには、『カワイイ』を追求し、同世代の女子のカリスマとして圧倒的な人気を誇る白草四葉というクラスメートの女子の姿が、彼女の《ミンスタグラム》のアカウントと同名の映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』に登場する異形の怪獣そのものに見えたことだけは、最後に付け加えておきたい。
「――――――と言うわけで、紅野さんに関すること以外、天竹さんの推察は、概ね間違っていなかったみたいだよ」
白草さんとの会話を終えたあと、ボクは、図書室で待っていてくれた文芸部の部長を務めるクラスメートと落ち合い、重要参考人に対する事情聴取の報告をすることにした。
「そうですか――――――もう少し早く、白草さんの真意に気付くことが出来ていれば、ここまで事が大きくなることもなかったと思うので……仮に、自分たちの推察が正しかったとしても、『時すでに遅し』という感じで、悔しさが残りますが……」
言葉の通り、無念さをにじませながら語る天竹さんに返答する。
「ボクも同じ想いだけど……今回の一件については、白草さんの執念と言うか、彼女の強い思い入れにしてやられた、と素直に認めるしかないんじゃないかな?」
実際、小学生時代の白草さんに大きな影響を与えたと推察できる某コミック作品に倣ってて言うなら、
《本日の勝敗・白草四葉の完勝》
といったところだろう。
これは、面白いくらい、まんまと罠にハマった竜司だけでなく、彼女の思惑に振り回されたボクや天竹さんの思いだ。
それでも、唯一の救いは、天竹さんが必死になって防ごうとした、
「紅野さんが、竜司の告白の場面を目の当たりにする」
という最悪の事態を避けられたことだ。
その意味で、(言質を取れなかったので、彼女の狙いが、どういうモノだったのか定かではないが)白草さんは、紅野さんに対してだけは完勝したとは言えないのかも知れない。
ボクには、そのことが、鮮やかな奇襲攻撃を成功させながら、のちの戦局を左右するアメリカ太平洋艦隊の航空母艦を発見できずに帰投せざるを得なかった、旧日本海軍の真珠湾攻撃と共通するようにも感じられた。
――――――とはいえ、白草さんの思惑がどのようなものであろうと、本当に自身の復讐心のために面識のなかった紅野さんを巻き込み、彼女の気持ちを傷つけるような結果になっていたら、天竹さんだけでなく、ボク自身も、この(傍若無人といっても差し支えないであろう)転入生のことを許せない、と考えるようになっていただろうと思う。
それに、結果として、竜司が白草さんに見事にフラれる、というわかりやすいオチがついたことで、学校全体の雰囲気が丸く収まり、その後のボクたち広報部による、SNSを駆使した印象操作を容易に進めることができた。
「ボクとしては、校内の盛り上げに大いに貢献してくれたことと、安易に彼女の提案に乗ってしまった自分への戒めも含めて、白草さんを庇いたいと思う気持ちが半分と……結果的に大勢の生徒が彼女の思惑に巻き込まれたことに対して、恨めしく思う面が半分ってとこかな?」
そんな風に感じていることを口にすると、天竹さんは、
「そうですか……間近で白草さんや黒田君のようすを見ていた黄瀬君がそう感じているなら、私の方から意見することは無さそうですね……」
と、淡々と応じる。
こうして話しを聞いてくれている天竹さんには申し訳ないが、実際のところ、これほど大掛かりに多くの生徒が巻き込まれたことを認識しながら、ボク自身、白草さんのことを憎む気持ちにならなかった。
それが、白草四葉という女子の持つ人徳なのだろうか?
このあたりのことは、機会をみて、彼女にフラれたばかりの親友に、ぜひとも意見を聞いてみたいところではある。
白草さんとの会話でわかったことを報告し終えたボクは、一連の出来事に対する事後処理が終了したことに、安堵のため息をついた。
そんなボクのようすを眺めていたのか、読書家だけあって、文系方面の知識が豊富な天竹さんは、会話の最後に、こんなことを教えてくれた――――――。
「白草さんの名前は、シロツメクサ、一般的に言うところのクローバーを連想させますが……黄瀬君は、この植物の花言葉を知っていますか?」
「いや……ボクは、そういう方面の情報に、まったく無縁な人生を送ってきたから……」
苦笑しながら、首を横に振り、天竹さんにたずねる。
「そう言えば、白草さんに読んでもらった天竹さんの推理メモにも、クローバーの花言葉には、もう一つの意味がある、みたいなことが書いていたよね」
すると、彼女は、
「花言葉は、ひとつの植物に対して、複数の単語が設定されていることが多いんですけど――――――クローバーは、こんな感じですね」
と言って、あらかじめサイトを検索していたのか、彼女のスマホの画面を提示してくれた。
さまざまな植物の花言葉がまとめられているそのサイトには、こんな内容が記載されている。
四つ葉のクローバーの花言葉:「幸運」「私のものになって」
白いクローバー(シロツメクサ)の花言葉:「私を思って」「約束」
クローバー全般の花言葉:「幸運」「約束」「復讐」
最後の単語を目にした瞬間、ボクの背中に、ゾクリ――――――と、悪寒のようなものが走った。
「クローバーって、メルヘンチックなイメージがあるんだけど……ずいぶん、物騒な花言葉が設定されているんだね……?」
表情を引きつらせながら、天竹さんに同意を求めると、彼女は、こちらの問いかけに同意しつつ、
「そうですね……『復讐』という花言葉がつけられた由来には諸説あるようですが――――――」
と、前置きをしたあと、理路整然と、自身の見解を述べた。
「ただ……この言葉が、『私を思って』『約束』という言葉と表裏一体の意味を持つと考えると、ある人が、『私を思って』と相手に願い、その思いが届いても、その後、『約束』が破られたとしたら……最後に、その想いが『復讐』につながるというのは、理解できるような気もします」
「なるほど……確かに、そうだね……」
天竹さんの冷静な分析に同意し、納得しながら、ひと月前に転入してきたクラスメートのことを考える。
『幸運』『約束』『私を思って』――――――。
白草さんが、どのような想いで自分のアカウントに、《clover_field》というアカウント名を設定したのかはわからないが、なるほど、SNS上の彼女のイメージには、それらの言葉がピッタリと当てはまる気がする。
しかし――――――。
天竹さんの話しを聞かせてもらった今となっては、おそらく、小学生の時に竜司と別れた直後から、その機会をうかがっていたと思われる『復讐』という言葉の方が、今の白草さんには、相応しいとも感じる。
そして、いまのボクには、『カワイイ』を追求し、同世代の女子のカリスマとして圧倒的な人気を誇る白草四葉というクラスメートの女子の姿が、彼女の《ミンスタグラム》のアカウントと同名の映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』に登場する異形の怪獣そのものに見えたことだけは、最後に付け加えておきたい。
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