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第二部
第4章〜推しが尊すぎてしんどいのに表現力がなさすぎてしんどい〜⑧
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5月13日(金)
~白草四葉の裏アカウント~
「クッ……覚えていなさいよ!」
表情は強張り、手のひらにツメを食い込ませ、ギリッと歯ぎしりをしながら、思わず、そう叫び、わたしは、クロ達が《編集スタジオ》として使っている三◯二号室のマンション部屋を飛び出した。
どうして、こんなことになってしまったのか――――――?
出会ったばかりの頃、お互いを想い合い、五年もの月日を経て、幼なじみのクロ……黒田竜司が、ようやく、彼《・》自《・》身《・》の《・》本《・》当《・》の《・》キ《・》モ《・》チ《・》に気づいて、大《・》勢《・》の《・》生《・》徒《・》の《・》前《・》で、わたしに想いを告げてきた、というのに……。
月曜日の放課後、小学生の頃から仲の良かったという黄瀬クンから、クロの初《・》恋《・》の《・》相《・》手《・》(誰のことを指しているのか言うまでもないだろう)について聞かせてもらった時、わたしは、これまで生まれてから十六年あまりの自分の人生を心から肯定してもらえたような気持ちになった。
女優として活躍していた母に、幼い頃から、憧れと同時に、劣等感を抱いていた自分が、自分自身で選んだ、人前で歌うことの喜びを、最初に気づかせてくれたのは、クロだった。
わたしがマイクを持って歌を披露した時、まだ、十歳だった彼が、憧れと陶酔が混じったような視線を自分に向けていた時の喜びは、いまも、わたしの心に深く刻まれている。
それだけに、お互い、まだ思春期を迎える前だったとはいえ、自分たちの気持ちが通じ合っていると思っていたわたしは、(列車が発車する時のとっさの出来事だったとは言え)自分の想いを伝えた告白が、
「オレは、シロとは……ずっと、友達でいたいと思ってる!」
と、拒否されたと感じた時には、この世の終わりではないか、というくらいに落ち込んだ。
その日から、彼と再会した時には、
「あの日のことを思い切り後悔させてやろう」
「わたしの魅力を認めなかった彼を見返してやろう」
という想いで、テレビ局の歌番組への出演、SNSでの情報発信、そして、動画サイトへの投稿を繰り返してきたのだけど――――――。
(やっぱり、あの時のわたしを、クロは、ちゃんと見ていてくれたんだ――――――)
そのことを認識できるだけで、わたしのこれまでの想いは、すべて報われ、あとは、クロと、お互いに想いを伝え合うだけだ、と気持ちは高ぶる一方だった。
まあ、春休みの前には、他《・》の《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》し《・》て《・》い《・》た《・》こともあったようだが、それは、せいぜい数《・》ヶ《・》月《・》か《・》ら《・》半《・》年《・》の《・》短《・》い《・》間《・》のことだったのだろうから、いまとなっては、大目に見てあげよう、という寛容で慈悲深い感情も芽生える。
また、クロの片思いの相手だった紅野サンが、思ったよりも性格の良いヒトだったので、彼女と正面をきって闘おうという気持ちは、いつの間にか、消えていた。
それなのに――――――。
火曜日の授業が始まる前に、わたしたちの教室に、あ《・》の《・》下《・》級《・》生《・》があらわれた時から、状況は変わってしまった。
彼女――――――佐倉桃華が、わたしの目の前にあらわれる前から、クロと黄瀬クンの間では、ちょくちょく話題に上がっていた名前ではあるので、彼らと親しい後輩なのだろうな、というくらいの認識はあったんだけど……。
まさか、あれほど、わたしに対して敵意むき出しで感情をぶつけてきたうえに、いまや両《・》想《・》い《・》と《・》言《・》っ《・》て《・》も《・》良《・》い《・》、わたしとクロの間に割って入って来ようとするとは……。
しかも、(かろうじて隣室ではないとは言え)わたしを差し置いて、クロの住む部屋と同じフロアに引っ越すという事態に至っては、とうてい見過ごすことのできない『暴挙』だと言っても言い過ぎじゃない。
彼女が、中学校時代のクロとどんな関係であったのか、今の時点で知る手段はないけれど、ヒトのモノに手を出そうという性悪な《・》メ《・》ス《・》ガ《・》キ《・》には、キッチリとわ《・》か《・》ら《・》せ《・》る機会を用意してあげ
るのが、歳上の人間としての役目だろう。
そう考えたわたしは、マンションのエントランスを出ると、中学時代のクロと彼女の関係性を知るため、LANEのアプリをタップして、同級生にメッセージを送る。
==============
黄瀬クンにお願いがあります。
中学校時代に、クロたちが
放送部で番組を放送していた時
の音源があれば聞きたいです。
もし、データが有れば聞かせて
もらえませんか?
==============
いつもより、丁寧な文面で送信した文面には、すぐに既読がつき、《OKAY!》という横断幕を広げたウサギのスタンプとともに、
==============
了解!
出演者の竜司と佐倉さんに許可
を取っておくよ!
念のため言っておくけど、個人
で楽しむ目的に留めておいてね
==============
という文章が返信されてきた。
黄瀬クンらしい仕事に感謝しながら、「了解です。よろしくお願いします」と、パンダが頭を下げているスタンプを返信しておいた。
さらに、わたしは、《トゥイッター》のアイコンをタップしてアプリを起ち上げ、さらに左上のsilver_fairyのアイコンに触れ、アカウントを切り替える。
今日のこの日の屈辱的な出来事を忘れないよう、自分を戒めるため、日記がわりのメッセージを打ち込む。
====================
ヨツバch裏@grey_fairy たったいま
クロに近づく性悪な下級生
絶対に許さない
#引っ越し計画
====================
そうして、投稿を終えると、居候中の叔父さん宅に向かいながら、次に実行するべき行動について考える。
まずは、母親に連絡を取り、次に不動産仲介店への相談だ。
クロの住む部屋のすぐ側から、わたしたち二人のキズナを断ち切ろうとする性《・》悪《・》な《・》下《・》級《・》生《・》の魔《・》の《・》手《・》が迫ろうとしている――――――。
もはや、一刻の猶予も許されないことを自覚しながら、わたしは、これからの行動計画を頭の中で整理し始めた。
~白草四葉の裏アカウント~
「クッ……覚えていなさいよ!」
表情は強張り、手のひらにツメを食い込ませ、ギリッと歯ぎしりをしながら、思わず、そう叫び、わたしは、クロ達が《編集スタジオ》として使っている三◯二号室のマンション部屋を飛び出した。
どうして、こんなことになってしまったのか――――――?
出会ったばかりの頃、お互いを想い合い、五年もの月日を経て、幼なじみのクロ……黒田竜司が、ようやく、彼《・》自《・》身《・》の《・》本《・》当《・》の《・》キ《・》モ《・》チ《・》に気づいて、大《・》勢《・》の《・》生《・》徒《・》の《・》前《・》で、わたしに想いを告げてきた、というのに……。
月曜日の放課後、小学生の頃から仲の良かったという黄瀬クンから、クロの初《・》恋《・》の《・》相《・》手《・》(誰のことを指しているのか言うまでもないだろう)について聞かせてもらった時、わたしは、これまで生まれてから十六年あまりの自分の人生を心から肯定してもらえたような気持ちになった。
女優として活躍していた母に、幼い頃から、憧れと同時に、劣等感を抱いていた自分が、自分自身で選んだ、人前で歌うことの喜びを、最初に気づかせてくれたのは、クロだった。
わたしがマイクを持って歌を披露した時、まだ、十歳だった彼が、憧れと陶酔が混じったような視線を自分に向けていた時の喜びは、いまも、わたしの心に深く刻まれている。
それだけに、お互い、まだ思春期を迎える前だったとはいえ、自分たちの気持ちが通じ合っていると思っていたわたしは、(列車が発車する時のとっさの出来事だったとは言え)自分の想いを伝えた告白が、
「オレは、シロとは……ずっと、友達でいたいと思ってる!」
と、拒否されたと感じた時には、この世の終わりではないか、というくらいに落ち込んだ。
その日から、彼と再会した時には、
「あの日のことを思い切り後悔させてやろう」
「わたしの魅力を認めなかった彼を見返してやろう」
という想いで、テレビ局の歌番組への出演、SNSでの情報発信、そして、動画サイトへの投稿を繰り返してきたのだけど――――――。
(やっぱり、あの時のわたしを、クロは、ちゃんと見ていてくれたんだ――――――)
そのことを認識できるだけで、わたしのこれまでの想いは、すべて報われ、あとは、クロと、お互いに想いを伝え合うだけだ、と気持ちは高ぶる一方だった。
まあ、春休みの前には、他《・》の《・》女《・》子《・》に《・》目《・》移《・》り《・》し《・》て《・》い《・》た《・》こともあったようだが、それは、せいぜい数《・》ヶ《・》月《・》か《・》ら《・》半《・》年《・》の《・》短《・》い《・》間《・》のことだったのだろうから、いまとなっては、大目に見てあげよう、という寛容で慈悲深い感情も芽生える。
また、クロの片思いの相手だった紅野サンが、思ったよりも性格の良いヒトだったので、彼女と正面をきって闘おうという気持ちは、いつの間にか、消えていた。
それなのに――――――。
火曜日の授業が始まる前に、わたしたちの教室に、あ《・》の《・》下《・》級《・》生《・》があらわれた時から、状況は変わってしまった。
彼女――――――佐倉桃華が、わたしの目の前にあらわれる前から、クロと黄瀬クンの間では、ちょくちょく話題に上がっていた名前ではあるので、彼らと親しい後輩なのだろうな、というくらいの認識はあったんだけど……。
まさか、あれほど、わたしに対して敵意むき出しで感情をぶつけてきたうえに、いまや両《・》想《・》い《・》と《・》言《・》っ《・》て《・》も《・》良《・》い《・》、わたしとクロの間に割って入って来ようとするとは……。
しかも、(かろうじて隣室ではないとは言え)わたしを差し置いて、クロの住む部屋と同じフロアに引っ越すという事態に至っては、とうてい見過ごすことのできない『暴挙』だと言っても言い過ぎじゃない。
彼女が、中学校時代のクロとどんな関係であったのか、今の時点で知る手段はないけれど、ヒトのモノに手を出そうという性悪な《・》メ《・》ス《・》ガ《・》キ《・》には、キッチリとわ《・》か《・》ら《・》せ《・》る機会を用意してあげ
るのが、歳上の人間としての役目だろう。
そう考えたわたしは、マンションのエントランスを出ると、中学時代のクロと彼女の関係性を知るため、LANEのアプリをタップして、同級生にメッセージを送る。
==============
黄瀬クンにお願いがあります。
中学校時代に、クロたちが
放送部で番組を放送していた時
の音源があれば聞きたいです。
もし、データが有れば聞かせて
もらえませんか?
==============
いつもより、丁寧な文面で送信した文面には、すぐに既読がつき、《OKAY!》という横断幕を広げたウサギのスタンプとともに、
==============
了解!
出演者の竜司と佐倉さんに許可
を取っておくよ!
念のため言っておくけど、個人
で楽しむ目的に留めておいてね
==============
という文章が返信されてきた。
黄瀬クンらしい仕事に感謝しながら、「了解です。よろしくお願いします」と、パンダが頭を下げているスタンプを返信しておいた。
さらに、わたしは、《トゥイッター》のアイコンをタップしてアプリを起ち上げ、さらに左上のsilver_fairyのアイコンに触れ、アカウントを切り替える。
今日のこの日の屈辱的な出来事を忘れないよう、自分を戒めるため、日記がわりのメッセージを打ち込む。
====================
ヨツバch裏@grey_fairy たったいま
クロに近づく性悪な下級生
絶対に許さない
#引っ越し計画
====================
そうして、投稿を終えると、居候中の叔父さん宅に向かいながら、次に実行するべき行動について考える。
まずは、母親に連絡を取り、次に不動産仲介店への相談だ。
クロの住む部屋のすぐ側から、わたしたち二人のキズナを断ち切ろうとする性《・》悪《・》な《・》下《・》級《・》生《・》の魔《・》の《・》手《・》が迫ろうとしている――――――。
もはや、一刻の猶予も許されないことを自覚しながら、わたしは、これからの行動計画を頭の中で整理し始めた。
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