240 / 454
第三部
第3章〜裏切りのサーカス〜③
しおりを挟む
「こっちの方は、まだ確約をしてもらったわけじゃないから、どうやって話そうかと思っていたんだが……」
コンピュータクラブとの交渉内容を明らかにした竜司は、少しバツが悪そうな表情で、口にした。
「そうだったの……そういうことなら、この場で、お互いの状況を詳らかにできたことは、良かったのかもね。あとで、黄瀬くんたちが、コンピュータクラブに訪問したときに、混乱するようなことも避けられるだろうし」
鳳花部長は、親友の言葉を受け、あくまで冷静に現状の把握に努めているようだ。
「はい……そうですね……」
ボクも、表面上は平静をよそおって、そう口にしたけれど、落胆の色は隠しきれていなかったようだ。
「スマンな、壮馬……」
申し訳なさそうな表情で、竜司が声をかけてくる。
「いや、別にクラブへの取材は、ルールがあったわけじゃないから竜司に謝ってもらうようなことはないよ……」
そんな風に返答したものの、なんだか同情されているような友人の言葉は、ボクをより惨めな気持ちにさせるのだった。
思わずため息が出そうになるのをなんとか堪えていると、鳳花部長は、竜司からの報告のまとめに入る。
「いま、黒田くんから報告があったように、今後は取材先が被って無用な混乱を来さないように、各グループから、提携先と取材状況を報告してもらいましょう。そして、提携する意志がないクラブについても報告してもらえば、他のグループは、取材のチャンスありと考えられるから、より便利になるんじゃないかしら?」
生徒会副会長にして、広報部の部長でもある先輩の提案を、ボクらは揃って受け入れる。
さらに、鳳花部長は続けて、
「これを今回の『動画コンテスト』の紳士協定……いえ、女子の参加者も多いから、この言葉は相応しくないわね。このルールを《紳士淑女の協定》として、定めたいと思います。異存のある人は、いない?」
と、念を押す。
この問題の当事者であるボクと竜司、そして、どうやら、ダンス部以外との提携を考えているようすのない宮野さんのグループにも意見を異にする理由はなかった。
さらに、自身の提案が受け入れられたことで満足そうな鳳花部長に、生徒会書紀の生野茉純さんから声がかかる。
「副会長、いまの提案をもとに、各グループの取材先と提携内容がわかるように一覧表を作成しました。エクセルで作成した表をスプレッドシート化して、生徒会の共有ドライブにアップロードしますので、アクセス権のあるユーザーは、いつでも、自分たちの活動内容を書き込んで、リアルタイムで他のグループの動向を知ることができます」
「さすが、茉純さんね! いつも、仕事が早くて助かるわ」
部長の言葉どおり、これが、普段の生徒会の仕事ぶりなのだろう。
これまで、ボクらの会話に加わってくることがなかったので、生野先輩が、どんな業務をしているのかわからなかったけれど、この短時間の間に、最適なツールを用意してくれるその事務処理能力と適応力の高さに驚きつつ、鳳花部長や生徒会長をはじめ、一学年上の生徒会メンバーの業務遂行力に劣等感すら覚えてしまう。
「まだ、議題はひとつしか出ていないけれど、他に話し合っておきたいことがなければ、今日の連絡会は、ここまでにしましょうか? 今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」
進行役の広報部部長が語るように、ボクは、いち早くこの連絡会の内容を文芸部に持ち帰って、取材の意思確認のために、各クラブを再訪問するスケジュールを立てないといけない。
竜司から聞かされた内容は、ショックだったけれど、ボクひとりで落ち込んでいる訳にはいかない。
一刻も早く図書室に戻って、天竹さんたちに報告と相談をしないと――――――。
そう考えて、真っ先に席を立とうとした矢先、鳳花部長が、
「黄瀬くん、ちょっと良いかしら?」
と、声をかけてきた。
ついさっき、彼女が「今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」と言ったのは、当然ボクたちのグループのことを指して言ったのだろう、と感じていたので、わざわざボクを呼び止める意図がわからず、
「えっと……なんですか? できれば早く戻って、今日の報告のあと、対策会議をしなくちゃなんですけど……」
思わず、いぶかしげな表情になってしまったことを後悔しながら返答すると、鳳花部長は即答する。
「いえ……黄瀬くんたちが大変なのは理解しているつもりだから、大して時間は取らないわ」
部長に呼び止められている間、
「お先に失礼しまス」
「お疲れさまでした」
と、退室のあいさつをして、宮野さんと竜司は生徒会室を出て行った。
「短い時間であれば……」
ボクが、ふたたび返答すると、部長は穏やかな笑みを浮かべながら、こう言った。
「今日、黒田くんから聞いたことは、黄瀬くん自身も、グループのみんなもショックだと思うけれど……私は、黄瀬くんたちのグループに一番期待しているから……落ち込まずにがんばってね! そして、もしも、活動中に迷うことがあれば、ここに来なさい。私で良ければ、いつでも相談に乗るから」
「はい……ありがとうございます」
ボクは、そう答えながらも、鳳花部長の言葉に、少し拍子抜けしていた。
彼女なら、なにか具体的な助言や各クラブに対する根回しをしてくれるのではないかと、一瞬、淡い期待をしたんだけど、どうやら、そうではなかったようだ。
なんだか、同情だけを受けたようなモヤモヤした気持ちを抱えながら、ボクは、図書室に戻ることにした。
コンピュータクラブとの交渉内容を明らかにした竜司は、少しバツが悪そうな表情で、口にした。
「そうだったの……そういうことなら、この場で、お互いの状況を詳らかにできたことは、良かったのかもね。あとで、黄瀬くんたちが、コンピュータクラブに訪問したときに、混乱するようなことも避けられるだろうし」
鳳花部長は、親友の言葉を受け、あくまで冷静に現状の把握に努めているようだ。
「はい……そうですね……」
ボクも、表面上は平静をよそおって、そう口にしたけれど、落胆の色は隠しきれていなかったようだ。
「スマンな、壮馬……」
申し訳なさそうな表情で、竜司が声をかけてくる。
「いや、別にクラブへの取材は、ルールがあったわけじゃないから竜司に謝ってもらうようなことはないよ……」
そんな風に返答したものの、なんだか同情されているような友人の言葉は、ボクをより惨めな気持ちにさせるのだった。
思わずため息が出そうになるのをなんとか堪えていると、鳳花部長は、竜司からの報告のまとめに入る。
「いま、黒田くんから報告があったように、今後は取材先が被って無用な混乱を来さないように、各グループから、提携先と取材状況を報告してもらいましょう。そして、提携する意志がないクラブについても報告してもらえば、他のグループは、取材のチャンスありと考えられるから、より便利になるんじゃないかしら?」
生徒会副会長にして、広報部の部長でもある先輩の提案を、ボクらは揃って受け入れる。
さらに、鳳花部長は続けて、
「これを今回の『動画コンテスト』の紳士協定……いえ、女子の参加者も多いから、この言葉は相応しくないわね。このルールを《紳士淑女の協定》として、定めたいと思います。異存のある人は、いない?」
と、念を押す。
この問題の当事者であるボクと竜司、そして、どうやら、ダンス部以外との提携を考えているようすのない宮野さんのグループにも意見を異にする理由はなかった。
さらに、自身の提案が受け入れられたことで満足そうな鳳花部長に、生徒会書紀の生野茉純さんから声がかかる。
「副会長、いまの提案をもとに、各グループの取材先と提携内容がわかるように一覧表を作成しました。エクセルで作成した表をスプレッドシート化して、生徒会の共有ドライブにアップロードしますので、アクセス権のあるユーザーは、いつでも、自分たちの活動内容を書き込んで、リアルタイムで他のグループの動向を知ることができます」
「さすが、茉純さんね! いつも、仕事が早くて助かるわ」
部長の言葉どおり、これが、普段の生徒会の仕事ぶりなのだろう。
これまで、ボクらの会話に加わってくることがなかったので、生野先輩が、どんな業務をしているのかわからなかったけれど、この短時間の間に、最適なツールを用意してくれるその事務処理能力と適応力の高さに驚きつつ、鳳花部長や生徒会長をはじめ、一学年上の生徒会メンバーの業務遂行力に劣等感すら覚えてしまう。
「まだ、議題はひとつしか出ていないけれど、他に話し合っておきたいことがなければ、今日の連絡会は、ここまでにしましょうか? 今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」
進行役の広報部部長が語るように、ボクは、いち早くこの連絡会の内容を文芸部に持ち帰って、取材の意思確認のために、各クラブを再訪問するスケジュールを立てないといけない。
竜司から聞かされた内容は、ショックだったけれど、ボクひとりで落ち込んでいる訳にはいかない。
一刻も早く図書室に戻って、天竹さんたちに報告と相談をしないと――――――。
そう考えて、真っ先に席を立とうとした矢先、鳳花部長が、
「黄瀬くん、ちょっと良いかしら?」
と、声をかけてきた。
ついさっき、彼女が「今日の内容を受けて、対策を練るグループもあるだろうし……」と言ったのは、当然ボクたちのグループのことを指して言ったのだろう、と感じていたので、わざわざボクを呼び止める意図がわからず、
「えっと……なんですか? できれば早く戻って、今日の報告のあと、対策会議をしなくちゃなんですけど……」
思わず、いぶかしげな表情になってしまったことを後悔しながら返答すると、鳳花部長は即答する。
「いえ……黄瀬くんたちが大変なのは理解しているつもりだから、大して時間は取らないわ」
部長に呼び止められている間、
「お先に失礼しまス」
「お疲れさまでした」
と、退室のあいさつをして、宮野さんと竜司は生徒会室を出て行った。
「短い時間であれば……」
ボクが、ふたたび返答すると、部長は穏やかな笑みを浮かべながら、こう言った。
「今日、黒田くんから聞いたことは、黄瀬くん自身も、グループのみんなもショックだと思うけれど……私は、黄瀬くんたちのグループに一番期待しているから……落ち込まずにがんばってね! そして、もしも、活動中に迷うことがあれば、ここに来なさい。私で良ければ、いつでも相談に乗るから」
「はい……ありがとうございます」
ボクは、そう答えながらも、鳳花部長の言葉に、少し拍子抜けしていた。
彼女なら、なにか具体的な助言や各クラブに対する根回しをしてくれるのではないかと、一瞬、淡い期待をしたんだけど、どうやら、そうではなかったようだ。
なんだか、同情だけを受けたようなモヤモヤした気持ちを抱えながら、ボクは、図書室に戻ることにした。
0
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
付き合う前から好感度が限界突破な幼馴染が、疎遠になっていた中学時代を取り戻す為に高校ではイチャイチャするだけの話
頼瑠 ユウ
青春
高校一年生の上条悠斗は、同級生にして幼馴染の一ノ瀬綾乃が別のクラスのイケメンに告白された事を知り、自身も彼女に想いを伝える為に告白をする。
綾乃とは家が隣同士で、彼女の家庭の事情もあり家族ぐるみで幼い頃から仲が良かった。
だが、悠斗は小学校卒業を前に友人達に綾乃との仲を揶揄われ、「もっと女の子らしい子が好きだ」と言ってしまい、それが切っ掛けで彼女とは疎遠になってしまっていた。
中学の三年間は拒絶されるのが怖くて、悠斗は綾乃から逃げ続けた。
とうとう高校生となり、綾乃は誰にでも分け隔てなく優しく、身体つきも女性らしくなり『学年一の美少女』と謳われる程となっている。
高嶺の花。
そんな彼女に悠斗は不釣り合いだと振られる事を覚悟していた。
だがその結果は思わぬ方向へ。実は彼女もずっと悠斗が好きで、両想いだった。
しかも、綾乃は悠斗の気を惹く為に、品行方正で才色兼備である事に努め、胸の大きさも複数のパッドで盛りに盛っていた事が発覚する。
それでも構わず、恋人となった二人は今まで出来なかった事を少しずつ取り戻していく。
他愛の無い会話や一緒にお弁当を食べたり、宿題をしたり、ゲームで遊び、デートをして互いが好きだという事を改めて自覚していく。
存分にイチャイチャし、時には異性と意識して葛藤する事もあった。
両家の家族にも交際を認められ、幸せな日々を過ごしていた。
拙いながらも愛を育んでいく中で、いつしか学校では綾乃の良からぬ噂が広まっていく。
そして綾乃に振られたイケメンは彼女の弱みを握り、自分と付き合う様に脅してきた。
それでも悠斗と綾乃は屈せずに、将来を誓う。
イケメンの企てに、友人達や家族の助けを得て立ち向かう。
付き合う前から好感度が限界突破な二人には、いかなる障害も些細な事だった。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる