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第四部
第1章〜愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ〜⑫
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「そうだったのか……」
緑川の表情に、ただならぬものを感じながら、オレは短く返答するのが精一杯だった。
それが事実なら、たしかに、自分の部屋に籠もってしまうくらいのショックを受けたということも十分にありえる。
「黒田……おまえは、二回も続けて女子にフラレて、よく平気でいられるな……僕は、もう立ち直れる気がしない」
唇を震わせながら、なんとか微笑もうとするクラスメートの顔色は、見るだけで痛ましく感じられ、声をかける。
「そうか……オレも、その気持ちはわかるよ」
力なくうなずいたその表情からは、彼の苦悩が伝わってくるようだ。ただ、緑川自身も、このままの状況で良いと思っているわけではないだろう。
なにせ、ユリちゃん先生に確認したところ、この部屋の主は、一年のときは、学年でも上位10名に入るほどトップクラスの成績を収めていたらしいのだ。今のまま、不登校状態を続けて、一年のときの好成績を棒に振るのは、あまりにもったいない。それは、本人が一番よく理解しているハズだ。
そこで、オレはふたたび語りかける。
「けど、このまま、ずっと学校に来ないってわけにもいかないだろう? 緑川、おまえは、どうしたいんだ?」
「僕だって、このままじゃダメなことくらい、わかってるよ! でも、こんな見栄えで、どうやって登校すれば良いんだよ!?」
伸び放題になった髪と、部屋に引きこもっていたことによる覇気に欠ける顔を自分で指差しながら、緑川は、キレ気味に訴えかけてきた。ただ、事前に計画のとおり、というか、それ以上に順調にことが進みそうな雰囲気に、オレは、内心でニヤリと微笑む。
「その点に関しては、オレの方から提案がある。緑川、これから外に出るから、着替えてくれ」
少し強引ではあるが、クラスメートにそう伝えると、オレは、スマホを取り出して、リビングにいるシロに連絡を取る。
「こっちの状況は整った。これから、緑川に着替えてもらうところだ。シロ、そっちはどうだ?」
「こっちも、準備OKだよ! 優子サン……緑川クンのお母さんと、ヘアスタイル選びが終わったとこ。カット代も出してくれるって」
「サンキュー、シロ! 準備ができたら、すぐにそっちに行く」
そう言って、通話アプリでのシロとの会話を終えると、部屋の主が抗議の声をあげた。
「いや、なに勝手に話しを進めてるんだよ? 僕は、外出するなんて一言も……」
ただ、オレもここまで来て引くわけにはいかない。緑川の主張が最後までおわらないうちに、反論する。
「おまえの母ちゃんから、カット代を出してもらうことができるんだ。今日は、美容室に付き合ってもらうぞ」
そう、これがオレが考案した「天岩戸プロジェクト」の最初のメインイベントだ。
部屋に引きこもったままなら、髪の毛は伸び放題になっているだろうし、まず、身だしなみを整えてからでないと、外出や登校など、とてもできたモノではないだろう。
そこでオレは、ヘアカットと最初の外出を一度に済ませてしまうべく、前日、シロに相談して、市内にあるオススメの美容室を見繕ってもらっていた。
「ここなら、メンズカットもしてるし、わたしが小さい頃から、お母さんと一緒に行ってるお店だから、色々とサービスしてもらえると思うよ?」
スマホの画面から、ホット◯ッパー・ビューティーのアプリを起動させたシロは、祝川駅の近くにある美容室を表示させて紹介する。シロの母親の実家から近いということもあるかも知れないが、女優の小原真紅御用達の店舗であれば、信頼感はハンパない。
「お店も明るい雰囲気だし、今なら、メンズ限定で眉カットもセットでしてもらえるみたい。オーナーさんも、すごく良いヒトだよ!」
そのプレゼンテーションの内容と緑川家から、徒歩10分と場所も離れていないことから、美容室の選定は、あっさりと決まった。
渋々といった感じで外出着(チェックシャツにチノパンというオタク男子丸出しのスタイルだが、今日のところはあえてスルーする)に着替えた緑川と一緒に、オレは、リビングに向かう。
「武志くん、これから、ヘアカットに行くのね? はい、これカット代」
そう言って、緑川の母親・優子さんは、福沢諭吉の肖像が描かれた紙幣を手渡す。
「ん……」
とだけ言って、無造作に一万円札を受け取った息子の態度に顔をしかめることもなく、母親は、嬉々とした表情で話しかけている。
「白草さんとお母さんで、武志くんに似合いそうな髪型を選んでみたの! 良かったら、参考にしてね」
本人からすれば、悪気など、これっぽっちも無いだろうが、これは、思春期男子が、もっともウザいと感じてしまう反応だ……と、心のなかで苦笑しつつ、緑川母に告げる。
「じゃあ、ボクらも武志くんと一緒に行ってきます。今から行く美容室は、白草さんの紹介なので……」
「えぇ、えぇ! ぜひ、よろしくお願いします」
またも、何度も頭を下げるクラスメートの母親の姿に恐縮しつつ、小一時間ほどの間に中年女性と親しくなり、美容室のプレゼンとカット料金の支出を引き出したシロの話術に感謝しながら、オレは、二人の同級生とともに目的地に向かうことにした。
緑川の表情に、ただならぬものを感じながら、オレは短く返答するのが精一杯だった。
それが事実なら、たしかに、自分の部屋に籠もってしまうくらいのショックを受けたということも十分にありえる。
「黒田……おまえは、二回も続けて女子にフラレて、よく平気でいられるな……僕は、もう立ち直れる気がしない」
唇を震わせながら、なんとか微笑もうとするクラスメートの顔色は、見るだけで痛ましく感じられ、声をかける。
「そうか……オレも、その気持ちはわかるよ」
力なくうなずいたその表情からは、彼の苦悩が伝わってくるようだ。ただ、緑川自身も、このままの状況で良いと思っているわけではないだろう。
なにせ、ユリちゃん先生に確認したところ、この部屋の主は、一年のときは、学年でも上位10名に入るほどトップクラスの成績を収めていたらしいのだ。今のまま、不登校状態を続けて、一年のときの好成績を棒に振るのは、あまりにもったいない。それは、本人が一番よく理解しているハズだ。
そこで、オレはふたたび語りかける。
「けど、このまま、ずっと学校に来ないってわけにもいかないだろう? 緑川、おまえは、どうしたいんだ?」
「僕だって、このままじゃダメなことくらい、わかってるよ! でも、こんな見栄えで、どうやって登校すれば良いんだよ!?」
伸び放題になった髪と、部屋に引きこもっていたことによる覇気に欠ける顔を自分で指差しながら、緑川は、キレ気味に訴えかけてきた。ただ、事前に計画のとおり、というか、それ以上に順調にことが進みそうな雰囲気に、オレは、内心でニヤリと微笑む。
「その点に関しては、オレの方から提案がある。緑川、これから外に出るから、着替えてくれ」
少し強引ではあるが、クラスメートにそう伝えると、オレは、スマホを取り出して、リビングにいるシロに連絡を取る。
「こっちの状況は整った。これから、緑川に着替えてもらうところだ。シロ、そっちはどうだ?」
「こっちも、準備OKだよ! 優子サン……緑川クンのお母さんと、ヘアスタイル選びが終わったとこ。カット代も出してくれるって」
「サンキュー、シロ! 準備ができたら、すぐにそっちに行く」
そう言って、通話アプリでのシロとの会話を終えると、部屋の主が抗議の声をあげた。
「いや、なに勝手に話しを進めてるんだよ? 僕は、外出するなんて一言も……」
ただ、オレもここまで来て引くわけにはいかない。緑川の主張が最後までおわらないうちに、反論する。
「おまえの母ちゃんから、カット代を出してもらうことができるんだ。今日は、美容室に付き合ってもらうぞ」
そう、これがオレが考案した「天岩戸プロジェクト」の最初のメインイベントだ。
部屋に引きこもったままなら、髪の毛は伸び放題になっているだろうし、まず、身だしなみを整えてからでないと、外出や登校など、とてもできたモノではないだろう。
そこでオレは、ヘアカットと最初の外出を一度に済ませてしまうべく、前日、シロに相談して、市内にあるオススメの美容室を見繕ってもらっていた。
「ここなら、メンズカットもしてるし、わたしが小さい頃から、お母さんと一緒に行ってるお店だから、色々とサービスしてもらえると思うよ?」
スマホの画面から、ホット◯ッパー・ビューティーのアプリを起動させたシロは、祝川駅の近くにある美容室を表示させて紹介する。シロの母親の実家から近いということもあるかも知れないが、女優の小原真紅御用達の店舗であれば、信頼感はハンパない。
「お店も明るい雰囲気だし、今なら、メンズ限定で眉カットもセットでしてもらえるみたい。オーナーさんも、すごく良いヒトだよ!」
そのプレゼンテーションの内容と緑川家から、徒歩10分と場所も離れていないことから、美容室の選定は、あっさりと決まった。
渋々といった感じで外出着(チェックシャツにチノパンというオタク男子丸出しのスタイルだが、今日のところはあえてスルーする)に着替えた緑川と一緒に、オレは、リビングに向かう。
「武志くん、これから、ヘアカットに行くのね? はい、これカット代」
そう言って、緑川の母親・優子さんは、福沢諭吉の肖像が描かれた紙幣を手渡す。
「ん……」
とだけ言って、無造作に一万円札を受け取った息子の態度に顔をしかめることもなく、母親は、嬉々とした表情で話しかけている。
「白草さんとお母さんで、武志くんに似合いそうな髪型を選んでみたの! 良かったら、参考にしてね」
本人からすれば、悪気など、これっぽっちも無いだろうが、これは、思春期男子が、もっともウザいと感じてしまう反応だ……と、心のなかで苦笑しつつ、緑川母に告げる。
「じゃあ、ボクらも武志くんと一緒に行ってきます。今から行く美容室は、白草さんの紹介なので……」
「えぇ、えぇ! ぜひ、よろしくお願いします」
またも、何度も頭を下げるクラスメートの母親の姿に恐縮しつつ、小一時間ほどの間に中年女性と親しくなり、美容室のプレゼンとカット料金の支出を引き出したシロの話術に感謝しながら、オレは、二人の同級生とともに目的地に向かうことにした。
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