初恋♡リベンジャーズ

遊馬友仁

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第五部

第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜④

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 街灯のあかりが届かないため、頭部より上の部分は暗がりになっていて、目を凝らしても、よく見えない。

 こんな時間に、あんな場所で、いったい誰が――――――?

 と思いつつ、ポケットに忍ばせていたキーチェーンライトを取り出し、巨石の上部に向けてライトを当てる。

 すると、前日に見たものと同じ様に、照らされた明かりの中には、 長く伸びた鼻の下に大きな口が付いており、頭部には、小さな耳とともに、横に広がるようにツノが生えている!

「う、うしおんな……やっぱり、いたんだ」

 興奮したような表情でつぶやく壮馬。もう一度、巨石の上に立つ異形のモノの姿を確認すると、牛のような頭部の下には、女性ものの赤い着物のような衣装を着ているのだが……。

 心無しか、その衣装は前日に見たものよりも、古ぼけているようにも見えた。

 スマホの充電などにも利用できる高出力のライトに照らされているにも関わらず、牛女のように見える異形のモノは、眩しそうな仕草をするようすも無い。

 ただ、悲しげに見える(と感じるのは、ただの主観だろうが……)瞳でこちらを見つめた異形のモノは、

「ウモ~~~~~~」

と、牛のような鳴き声を上げると、後ろを振り返り、オレたちが居るのとは反対側の車線に向かって、巨石の上から飛び降りた。

「あっ、逃げた!」

 緑川のつぶやきに反応するように駆け出した壮馬を追って、オレたちも反対側の車線に向かって走り出す。

 その瞬間、左手側からヘッドライトのまばゆい光が目に入り、オレたち三人は揃って、身体を強張らせたあと、息を切らしながら、反対側の車線に出たのだが……。
 
 県道のアスファルトと夫婦岩の底部は街灯に明るく照らされているが、異形の怪物の姿はもちろん、人影すら見えなかった。

「逃したか……」

 うめくように言葉を吐き出す壮馬に、

「なあ、もうこれ以上の深追いはヤメておかないか?」

と提案する。

「そんな! せっかく、ここまで来たのに……」

 壮馬はそう言って悔しがるが、オレは冷静に答えた。

「この前も言ったように、アレが何者なのか分からない以上、オレたちだけで追いかけるのは危険だ」

 正直なところ、二度も目前で異形の怪物を目撃しているとは言え、オレには、それが人外の生物であるとは、どうしても信じられなかった。あまりにも間の良すぎる出没のタイミングや、こちらに危害を加えずに姿を消したことを含めて、目の前にあらわれたソレは、人の手を介しているとしか、考えられなかった。

(あれは、オレたちに対する警告の行動ではないか?)

 大した確証がある訳ではないので、まだ、誰にも打ち明けてはいないが、オレはあの異形の正体について、そう予測を立てていた。

 あんな巨大な岩の上にどうやって飛び乗って、どうやって飛び降りているのかは謎が残るが、ヒトと同じ大きさの生物が、どうやって他の人間の目から隠れて、この近辺で生息しているのかを考えれば、何らかの細工を施して巨石への登り降りをしている方が現実的だ、とオレは考えている。

 そして、その警告めいた行為を計画しそうな存在と言えば……。
 オレの中には、いつも妖しげに微笑む年齢不詳の女性の姿が思い浮かぶ。

(だけど、何故、ここまで手の込んだことをするんだ……?)
 
 そんな風に考えを巡らせていると、不意に「差し出がましいようだが……」と、緑川が発言し、

「黒田の言うとおりかも知れないぞ? アレの正体が人間だとしても、そうでないにしても、真夜中に特別な装備もナシに追いかけるのは危険だよ。もし、黒だと黄瀬の二人が、あの牛女を追いかけるって言うなら、白草に連絡しておくけど……」

と言葉を続ける。
 
「う~ん、この状況で壮馬を連れ帰らずに、牛女を追いかけるなんてシロに言ったら、オレは、怪談より怖い目に遭いそうだなぁ」

 クラスメートの言葉に慌てて反応し、苦笑しながらそう言うと、白草四葉という女子生徒の暴言や仕返しの苛烈さについて、身を持って知っている緑川は、「そ、そうだろう……」と、同意を求めながら、チカラなく笑う。

「もちろん、奈々美さんと連絡を取った以上、壮馬を一人で行かせるわけにはいかない。二度もチャンスを逃した悔しさはわかるがな……」

 そう言って、壮馬を諭すと、

「う~ん……わかった……」

と、親友は肩を落としながら、渋々と言った表情でオレと緑川の提案を受け入れた。

 こうして、ようやく、暴走気味の友人を落ち着かせて、帰宅する準備ができたことに、ホッと安堵する。

 前日の夜の牛女との遭遇から、マンションに戻っての緊急会議、早朝の撮影用スマホの回収、古美術堂での店主との会話、文芸部の天竹葵との幽霊屋敷のウワサの真相に関する討議、壮馬が編集した動画の確認など、とにかく、この1日は肉体的にも精神的にも負担が掛かることが、あまりにも多すぎた。

《編集室》で待機してくれていた二人の女子生徒の顔を思い浮かべながらも、オレは、自室のベッドを恋しく思う気持ちを抑えることができない。

 スマホのデジタル表示を確認すると、ディスプレイには、

 8月1日(火) 0:10

と表示されていた。
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