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第五部
第4章〜都市に伝わるあるウワサについて〜⑤
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8月1日(火)
前日の深夜に壮馬を自宅に送り届けたあと、マンションの自室の隣にある《編集室》に戻ると、深夜2時近くの時間であるにも関わらず、下級生と同級生の女子生徒は二人とも、眠らずにオレを待っていてくれた。
「くろ先輩……無事に戻ってきてくれて良かった……」
安堵の表情を浮かべる桃華に対して、
「夜ふかしは、美容の大敵なんだけど……わたしの美しさが損なわれたら、クロはどう責任を取ってくれるの?」
シロ腕を組みながら、不機嫌な表情を見せたあと、
「もう、心配させないでよね」
と、ポツリと一言こぼして、キッと結んでいた口元を緩めた。
「二人とも、夜中に迷惑を掛けて済まない。壮馬も緑川も無事に家に帰ったから、今後のことは、また朝になってから話し合おう」
そう言って頭を下げ、二人には、それぞれの部屋に戻ってもらうことにする。
そうして、オレも自室に戻り、山道の往復で汗だくになった身体を、シャワーを浴びてさっぱりさせようと準備をしようとしたところ、
♪ピンポ~ン
と、玄関のチャイムが鳴った。
ドアホンと連動するワイヤレスモニターを確認すると、そこには下級生の女子生徒が立っていた。
「どうしたんだ、モモ?」
ドアを開けて、後輩女子を自室に招き入れながら、彼女にたずねる。
「今後のことは、朝になってから、みんなで話し合おうってことだったと思うんですけど……どうしても先に、くろ先輩に私の考えていることを聞いてもらいたくて……」
さっきの安堵したような表情とは違って、桃華は少し深刻な表情で、オレにそう伝える。
「話したいことってのは、なんだ?」
テーブルを挟んだ場所にフロアクッションを置いて、彼女に腰を下ろすようにうながすと、桃華は、慎重な口ぶりで、自身の考えを述べ始めた。
「きぃ先輩が、あんな風に単独行動をしている、ということを聞いてから、ずっと考えていたんですけど、今回の企画は、もう打ち切りにしませんか?」
「企画の打ち切りか……? モモ、なにか、そう考える理由はあるのか?」
「はい! きぃ先輩の今回の企画に関わる行動について、危うさを感じているというのは、くろ先輩とも想いを共有できていると思うんですけど……これ以上、企画を継続すると、きぃ先輩は、また独断で、もっと危ないことをしてしまうんじゃないかと感じるんです。もう、ライブ配信の予定もありませんし、先輩たちが失踪するという設定を無かったことにすれば、今からでも、企画を打ち切って撤退は可能だと思うんですけど……」
じっくりと考え、思い悩みながら発言したであろう後輩の言葉に、オレは「そうか……」と、つぶやく。
そして、彼女に同意するように、オレの考えを述べる。
「モモ……実は、オレも同じことを考えていたんだ。モモの言うように、企画を中止した方が良いんじゃないかなって……もう、オレたちだけが認識しているって訳でもないだろう。いまの壮馬の言動は、とにかく危なすぎる。アイツの母ちゃんと父ちゃんを心配させているんだ。もう、この辺が潮時だろう」
こめかみのあたりを押さえながら、渋い表情で後輩に自分の想いを伝えると、桃華は、またホッとした顔色になり、
「そうですね! やっぱり、くろ先輩に相談して良かった」
と、この夜、初めての笑顔を見せた。
その表情を見ていると、こちらの気分もほころぶ。
だが、オレとしては、まだまだ安心できない、と感じていた。
自分が提案した企画を、しかも、計画の終盤まで来ているモノを、壮馬が途中で放棄するようにも思えなかったからだ。
「問題は、どうやって、壮馬を説得するかだよな~」
ため息をつきながら、オレは苦笑する。
「たしかに、そこは一筋縄ではいかないかも知れないですねぇ……こういうときのきぃ先輩、めちゃくちゃ頑固ですから……」
こちらの表情に同意するように、桃華も少し渋い表情でうなずいた。
「やっぱ、ここは、あの人に助けを求めるしかないか……どのみち、今日のことを含めて、ここ数日の壮馬のようすを報告しなくちゃならないだろうし……」
自分たちの独自企画で、受験を控える三年の先輩のチカラを借りなければならないことには、なんとも不甲斐なさを感じるところではあるが……。名指しを避けながらもつぶやいたオレの一言に対して、後輩女子は的確に返答する。
「そうですね! 鳳華先輩なら、きぃ先輩を説き伏せ……じゃなくて、説得してくれますよね?」
桃華は、そう言って、ニコリと微笑む。
「部長には、明日の朝イチで、今回の件の報告と壮馬の説得について、相談しておくよ」
オレが、そう答えると、後輩女子は、スッと立ち上がって、「はい、よろしくお願いします!」と、ペコリとお辞儀をする。そして、
「それじゃ、私は帰りますね」
と言って、玄関の方に歩いていく。
そんな彼女に、
「あぁ、今日は遅くまで付き合わせて悪かったな」
と、ねぎらいの言葉を掛けると、靴を履く前にこちらを振り返った彼女は、「そうですよ!」と言って、見送ろうとしたオレの胸元に頭をあずけたあと、
「心配だったのは、きぃ先輩のことだけじゃありません。くろ先輩も、無事に帰って来てくれるか不安だったんだから……」
と、消え入りそうな声でつぶやいた。
前日の深夜に壮馬を自宅に送り届けたあと、マンションの自室の隣にある《編集室》に戻ると、深夜2時近くの時間であるにも関わらず、下級生と同級生の女子生徒は二人とも、眠らずにオレを待っていてくれた。
「くろ先輩……無事に戻ってきてくれて良かった……」
安堵の表情を浮かべる桃華に対して、
「夜ふかしは、美容の大敵なんだけど……わたしの美しさが損なわれたら、クロはどう責任を取ってくれるの?」
シロ腕を組みながら、不機嫌な表情を見せたあと、
「もう、心配させないでよね」
と、ポツリと一言こぼして、キッと結んでいた口元を緩めた。
「二人とも、夜中に迷惑を掛けて済まない。壮馬も緑川も無事に家に帰ったから、今後のことは、また朝になってから話し合おう」
そう言って頭を下げ、二人には、それぞれの部屋に戻ってもらうことにする。
そうして、オレも自室に戻り、山道の往復で汗だくになった身体を、シャワーを浴びてさっぱりさせようと準備をしようとしたところ、
♪ピンポ~ン
と、玄関のチャイムが鳴った。
ドアホンと連動するワイヤレスモニターを確認すると、そこには下級生の女子生徒が立っていた。
「どうしたんだ、モモ?」
ドアを開けて、後輩女子を自室に招き入れながら、彼女にたずねる。
「今後のことは、朝になってから、みんなで話し合おうってことだったと思うんですけど……どうしても先に、くろ先輩に私の考えていることを聞いてもらいたくて……」
さっきの安堵したような表情とは違って、桃華は少し深刻な表情で、オレにそう伝える。
「話したいことってのは、なんだ?」
テーブルを挟んだ場所にフロアクッションを置いて、彼女に腰を下ろすようにうながすと、桃華は、慎重な口ぶりで、自身の考えを述べ始めた。
「きぃ先輩が、あんな風に単独行動をしている、ということを聞いてから、ずっと考えていたんですけど、今回の企画は、もう打ち切りにしませんか?」
「企画の打ち切りか……? モモ、なにか、そう考える理由はあるのか?」
「はい! きぃ先輩の今回の企画に関わる行動について、危うさを感じているというのは、くろ先輩とも想いを共有できていると思うんですけど……これ以上、企画を継続すると、きぃ先輩は、また独断で、もっと危ないことをしてしまうんじゃないかと感じるんです。もう、ライブ配信の予定もありませんし、先輩たちが失踪するという設定を無かったことにすれば、今からでも、企画を打ち切って撤退は可能だと思うんですけど……」
じっくりと考え、思い悩みながら発言したであろう後輩の言葉に、オレは「そうか……」と、つぶやく。
そして、彼女に同意するように、オレの考えを述べる。
「モモ……実は、オレも同じことを考えていたんだ。モモの言うように、企画を中止した方が良いんじゃないかなって……もう、オレたちだけが認識しているって訳でもないだろう。いまの壮馬の言動は、とにかく危なすぎる。アイツの母ちゃんと父ちゃんを心配させているんだ。もう、この辺が潮時だろう」
こめかみのあたりを押さえながら、渋い表情で後輩に自分の想いを伝えると、桃華は、またホッとした顔色になり、
「そうですね! やっぱり、くろ先輩に相談して良かった」
と、この夜、初めての笑顔を見せた。
その表情を見ていると、こちらの気分もほころぶ。
だが、オレとしては、まだまだ安心できない、と感じていた。
自分が提案した企画を、しかも、計画の終盤まで来ているモノを、壮馬が途中で放棄するようにも思えなかったからだ。
「問題は、どうやって、壮馬を説得するかだよな~」
ため息をつきながら、オレは苦笑する。
「たしかに、そこは一筋縄ではいかないかも知れないですねぇ……こういうときのきぃ先輩、めちゃくちゃ頑固ですから……」
こちらの表情に同意するように、桃華も少し渋い表情でうなずいた。
「やっぱ、ここは、あの人に助けを求めるしかないか……どのみち、今日のことを含めて、ここ数日の壮馬のようすを報告しなくちゃならないだろうし……」
自分たちの独自企画で、受験を控える三年の先輩のチカラを借りなければならないことには、なんとも不甲斐なさを感じるところではあるが……。名指しを避けながらもつぶやいたオレの一言に対して、後輩女子は的確に返答する。
「そうですね! 鳳華先輩なら、きぃ先輩を説き伏せ……じゃなくて、説得してくれますよね?」
桃華は、そう言って、ニコリと微笑む。
「部長には、明日の朝イチで、今回の件の報告と壮馬の説得について、相談しておくよ」
オレが、そう答えると、後輩女子は、スッと立ち上がって、「はい、よろしくお願いします!」と、ペコリとお辞儀をする。そして、
「それじゃ、私は帰りますね」
と言って、玄関の方に歩いていく。
そんな彼女に、
「あぁ、今日は遅くまで付き合わせて悪かったな」
と、ねぎらいの言葉を掛けると、靴を履く前にこちらを振り返った彼女は、「そうですよ!」と言って、見送ろうとしたオレの胸元に頭をあずけたあと、
「心配だったのは、きぃ先輩のことだけじゃありません。くろ先輩も、無事に帰って来てくれるか不安だったんだから……」
と、消え入りそうな声でつぶやいた。
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