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第1幕・Aim(エイム)の章〜⑥〜
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♪ 走り出す足音よ 腕をふる風音よ
♪ 行け行け 海を越えて 未来に届くまで
「吼えろ~~~~!!!!」
歌いだしに合わせて、思わず歌詞を叫んでしまった。
奈緒美さんは、僕のコール(?)に
(どうして、知ってるの?)
と、驚いたように目を見開いたあと、ニコリと微笑んで、歌唱を続ける。
彼女が選曲したのは、ももいろクローバーZの『吼えろ』。
マーくん、こと東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手のお気に入り曲で、リメイクバージョンの『吼えろ 2021』が、彼の登場曲として使用されているので、プロ野球のファンには、おなじみの楽曲と言えるかも知れない。
ただ、僕が、『モノノフ』(説明不要だとは思うけど、ももクロのファンのことを指す)の皆さん以外にはあまり知られていなかったというこの曲に、思い入れがあるのは、我がチームの若き主砲にして、セ界(セントラル・リーグ)イチの『モノノフ』であるサトテルこと佐藤輝明が、マーくんと同様に、この『吼えろ』を本拠地での登場曲として使っていたからだ。
この楽曲をBGMにして、サトテルがネクスト・バッターズ・ボックスから、バッター・ボックスに歩いていく間に、スタンドから、
「吼えろ~~~~!!!!」
と、(感染症対策で声出し応援が制限されていたため)心のなかでコールを入れるのが、僕のお気に入りの観戦スタイルだった。
そんなことを、色んな映画を薦めてくる豊と同じく、大学時代に仲が良くなった、アニメ・アイドル好きの友人である久に語ると、
「それなら、ももクロのライブ参戦に備えて、コールの勉強をしておけよ!」
と、ライブBDを手渡され、参加する予定のないライブの楽曲の予習をするハメになってしまった。
もっとも、ライブやイベント好きのアクティブ系オタクである、この友人のおかげで、今日まで面識のなかった女性が歌う一曲にコールを入れることができるようになったので、その点は感謝すべきなのかも知れないけど……。
奈緒美さんの歌に合わせ、パートごとに、ももクロのメンバーの名前をコールし、
「うりゃ! おい!!」
の掛け声の合いの手を入れると、店内の他のお客さんも手拍子で応えてくれて、彼女の歌のお披露目は、盛り上がったまま終わりを迎える。
比較的おだやかだったお店の雰囲気を自分たちのノリに巻き込んでしまったことを申し訳なく思いながら、
「そろそろ、解散の時間かな……」
なんて考えていると、
「ゴメンね、マスター! もう一曲だけ……」
マイクを握ったままの彼女は、タブレット型のデジタル端末を再び操作し始めた。
(えっ!? まだ、歌うつもり?)
(この曲は、何回も聞いたことあるけど、どんなコールを入れるのか、僕は知りませんよ!?)
という、心のなかでのツッコミをよそに、奈緒美さんは次の曲である『走れ』を歌い出した。
※
「あ~、結局こうなっちゃったか……初めてのお客さんにお願いして申し訳ないんですけど……奈緒美ちゃん、この近くに住んでるから、彼女の家まで送ってあげてもらえませんか?」
マイクを離さないまま数曲を歌い終えた後、
「あ~、今日は最高の気分です~」
と言いながら、ラム・ベースのカクテル数杯をあおったあと、カウンター席で、目を閉じて、気持ちよさそうに船を漕いでいるかのような姿勢の奈緒美さんの姿を見ながら、彼女が「マスター」と呼んでいた年長のバーテンダーさんが、僕に声を掛けてきた。
時刻は、午後十一時を大きく回っていたが、奈緒美さんにも伝えたとおり、いまの職場でスムーズに働き始めるにあたって、彼女が残してくれた引き継ぎ資料が大いに役立ったので、そのお礼も兼ねて、初対面のこの女性を自宅まで送らせてもらうことにする。
マスターの言うとおり、奈緒美さんの住むマンションは、バーから徒歩数分の場所にあった。
フラフラになりながら歩く彼女に肩を貸しながら、マンションの部屋番号を確認し、なんとか、自宅まで送り届けることができたのだが……。
彼女は、玄関ドアを開ける前に、廊下にしゃがみこんでしまい、動けないでいる。
仕方なく、
「御子柴さん、起きてください! 玄関のカギを借りても良いですか?」
と、たずねると、彼女はコクコクとうなずき、ハンディバッグから、自宅のカギを取り出した。
玄関のカギを開け、座り込んでいる彼女を介助するように脇から抱え上げて、室内に入ってもらう。
「あ~、私の家だ~。中野くん、送ってくれたんだね~。ありがとう……」
酔って、チカラの入らなくなった身体と同じように、フニャフニャとした口調でお礼の言葉を口にする彼女だが、お店を出たときは、赤みがかっていたほおが、少し青白く見える。
(これは、早く部屋で休んでもらわないと……)
少し焦りながら、靴を脱いだ奈緒美さんをうながして、廊下に足を踏み入れると、彼女は
「初めて会うのに、こんなに優しくしてもらえて、嬉しい……だけど――――――」
うるんだ瞳で、僕を見上げる。
そして、
「ゴメンね……私、もう我慢できない……」
と、口にしたあと、廊下を駆け出し、トイレに駆け込んで行った!
「そら(あれだけ、カクテルをガブ飲みしたら)、そう(リバース状態にも)なるよ……」
今シーズンの指揮を執っている監督の口癖にならって、僕はポツリとつぶやく。
長い間、阪神タイガースのファンを続けていると、たびたび感じることがあるのだが……。
自分の想定した最悪の予感だけは、本当に良く当たる――――――。
たとえば、
「この回のジャイアンツの打順から考えて、岡本に逆転ホームランを打たれる流れになりそう……」
なんてことだ。
(たしか、国道沿いのドラッグストアは、十二時まで開いてたよな……?)
そんなことを考えながら、奈緒美さんをリビングのソファーに移動させたあと、トイレの惨状の後始末をするべく、僕は、次亜塩素酸その他の買い出しに向かうことにした。
♪ 行け行け 海を越えて 未来に届くまで
「吼えろ~~~~!!!!」
歌いだしに合わせて、思わず歌詞を叫んでしまった。
奈緒美さんは、僕のコール(?)に
(どうして、知ってるの?)
と、驚いたように目を見開いたあと、ニコリと微笑んで、歌唱を続ける。
彼女が選曲したのは、ももいろクローバーZの『吼えろ』。
マーくん、こと東北楽天ゴールデンイーグルスの田中将大投手のお気に入り曲で、リメイクバージョンの『吼えろ 2021』が、彼の登場曲として使用されているので、プロ野球のファンには、おなじみの楽曲と言えるかも知れない。
ただ、僕が、『モノノフ』(説明不要だとは思うけど、ももクロのファンのことを指す)の皆さん以外にはあまり知られていなかったというこの曲に、思い入れがあるのは、我がチームの若き主砲にして、セ界(セントラル・リーグ)イチの『モノノフ』であるサトテルこと佐藤輝明が、マーくんと同様に、この『吼えろ』を本拠地での登場曲として使っていたからだ。
この楽曲をBGMにして、サトテルがネクスト・バッターズ・ボックスから、バッター・ボックスに歩いていく間に、スタンドから、
「吼えろ~~~~!!!!」
と、(感染症対策で声出し応援が制限されていたため)心のなかでコールを入れるのが、僕のお気に入りの観戦スタイルだった。
そんなことを、色んな映画を薦めてくる豊と同じく、大学時代に仲が良くなった、アニメ・アイドル好きの友人である久に語ると、
「それなら、ももクロのライブ参戦に備えて、コールの勉強をしておけよ!」
と、ライブBDを手渡され、参加する予定のないライブの楽曲の予習をするハメになってしまった。
もっとも、ライブやイベント好きのアクティブ系オタクである、この友人のおかげで、今日まで面識のなかった女性が歌う一曲にコールを入れることができるようになったので、その点は感謝すべきなのかも知れないけど……。
奈緒美さんの歌に合わせ、パートごとに、ももクロのメンバーの名前をコールし、
「うりゃ! おい!!」
の掛け声の合いの手を入れると、店内の他のお客さんも手拍子で応えてくれて、彼女の歌のお披露目は、盛り上がったまま終わりを迎える。
比較的おだやかだったお店の雰囲気を自分たちのノリに巻き込んでしまったことを申し訳なく思いながら、
「そろそろ、解散の時間かな……」
なんて考えていると、
「ゴメンね、マスター! もう一曲だけ……」
マイクを握ったままの彼女は、タブレット型のデジタル端末を再び操作し始めた。
(えっ!? まだ、歌うつもり?)
(この曲は、何回も聞いたことあるけど、どんなコールを入れるのか、僕は知りませんよ!?)
という、心のなかでのツッコミをよそに、奈緒美さんは次の曲である『走れ』を歌い出した。
※
「あ~、結局こうなっちゃったか……初めてのお客さんにお願いして申し訳ないんですけど……奈緒美ちゃん、この近くに住んでるから、彼女の家まで送ってあげてもらえませんか?」
マイクを離さないまま数曲を歌い終えた後、
「あ~、今日は最高の気分です~」
と言いながら、ラム・ベースのカクテル数杯をあおったあと、カウンター席で、目を閉じて、気持ちよさそうに船を漕いでいるかのような姿勢の奈緒美さんの姿を見ながら、彼女が「マスター」と呼んでいた年長のバーテンダーさんが、僕に声を掛けてきた。
時刻は、午後十一時を大きく回っていたが、奈緒美さんにも伝えたとおり、いまの職場でスムーズに働き始めるにあたって、彼女が残してくれた引き継ぎ資料が大いに役立ったので、そのお礼も兼ねて、初対面のこの女性を自宅まで送らせてもらうことにする。
マスターの言うとおり、奈緒美さんの住むマンションは、バーから徒歩数分の場所にあった。
フラフラになりながら歩く彼女に肩を貸しながら、マンションの部屋番号を確認し、なんとか、自宅まで送り届けることができたのだが……。
彼女は、玄関ドアを開ける前に、廊下にしゃがみこんでしまい、動けないでいる。
仕方なく、
「御子柴さん、起きてください! 玄関のカギを借りても良いですか?」
と、たずねると、彼女はコクコクとうなずき、ハンディバッグから、自宅のカギを取り出した。
玄関のカギを開け、座り込んでいる彼女を介助するように脇から抱え上げて、室内に入ってもらう。
「あ~、私の家だ~。中野くん、送ってくれたんだね~。ありがとう……」
酔って、チカラの入らなくなった身体と同じように、フニャフニャとした口調でお礼の言葉を口にする彼女だが、お店を出たときは、赤みがかっていたほおが、少し青白く見える。
(これは、早く部屋で休んでもらわないと……)
少し焦りながら、靴を脱いだ奈緒美さんをうながして、廊下に足を踏み入れると、彼女は
「初めて会うのに、こんなに優しくしてもらえて、嬉しい……だけど――――――」
うるんだ瞳で、僕を見上げる。
そして、
「ゴメンね……私、もう我慢できない……」
と、口にしたあと、廊下を駆け出し、トイレに駆け込んで行った!
「そら(あれだけ、カクテルをガブ飲みしたら)、そう(リバース状態にも)なるよ……」
今シーズンの指揮を執っている監督の口癖にならって、僕はポツリとつぶやく。
長い間、阪神タイガースのファンを続けていると、たびたび感じることがあるのだが……。
自分の想定した最悪の予感だけは、本当に良く当たる――――――。
たとえば、
「この回のジャイアンツの打順から考えて、岡本に逆転ホームランを打たれる流れになりそう……」
なんてことだ。
(たしか、国道沿いのドラッグストアは、十二時まで開いてたよな……?)
そんなことを考えながら、奈緒美さんをリビングのソファーに移動させたあと、トイレの惨状の後始末をするべく、僕は、次亜塩素酸その他の買い出しに向かうことにした。
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