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第1幕・Aim(エイム)の章〜⑨〜
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4月22日(土)
この日の午後、僕は、CS放送J-SPORTSのテレビ中継に釘付けになっていた。
バンテリンドームナゴヤで行われるドラゴンズ戦に、村上頌樹が先発投手として登板していたからだ。
タイガースのファンはもちろん、プロ野球ファンには説明の必要はないかもしれないけど、昨年まで一軍での登板機会が、わずか2試合しかなかった村上は、今季初先発となる12日のジャイアンツ戦で、7回まで1人のランナーも出さない完全試合のペースで投げ続ける(8回の守備時に降板)という快投を演じていた。
完全試合が継続している中での降板は、阪神ファンのみならず、野球ファンの間でも賛否両論の議論を呼んだ。
結局、二番手の石井が岡本に同点ホームランを打たれたため、村上に勝ち星はつかなかったものの、チームの先発投手陣が苦しんでいる時期に、彗星のように現れた彼の活躍は、自分たちファンにとって、希望の星のように思えた。
迎えたこの日は、村上頌樹投手の今シーズン二度目の先発機会である。
「10日前の巨人戦の投球が、ホンモノかどうか見せてくれ……」
祈るような気持ちで、テレビ中継を視聴し始めた僕たちファンの目の前で、彼は、この日も素晴らしいピッチングを披露した。
前の試合に続いて、村上は、4回終了までランナーを出さず、パーフェクト・ピッチングを続ける。
5回裏の一死後、5番打者の福永にセンター前ヒットを打たれ、ついに、ランナーが出たときは、残念な気持ちと、ホッとするような気持ちが入り混じった不思議な感情が湧いてきた。
「欲を言えば、本当の完全試合を見たかったけど……でも、これで、投手交代のタイミングを考えやすくなった……」
贔屓の球団があるファンなら、誰でもそうかも知れないけれど――――――。
チームの勝利と選手個人の記録達成のどちらに優先順位をつけるかについて、僕は、いつも(ベンチで指揮を執る監督や選手の状態を見極めるコーチと同じくらい)頭を悩ませてしまう。
前回のジャイアンツ戦と同様に、この日も1点を争う試合になっているので、投手の交代のタイミングがシビアになることは明らかだったので、相手チーム・ドラゴンズの打順の並びを見ながら、先の試合展開を予測する。
「このまま、0対0で進むと……村上は、また、7回か8回で降板かな」
そんな風に、考えていたんだけど――――――。
※
僕の予想は、いい意味で裏切られた。
相手にヒットを打たれ記録が途絶えたあとも、落ち着いて後続を打ち取った村上は、6回表に先頭打者として打席に立ち、レフト前ヒットで出塁する。
すると、続く一番打者・近本の右中間を破る長打で、一気にホームを駆け抜け、先制点を記録するランナーになった。さらに、無死三塁から二番・中野の犠牲フライで2対0!
最年少でWBCにも選出された好投手・高橋宏斗から効率よく得点し、試合の主導権を握る。
この日の……いや、今シーズンの村上頌樹にとっては、この2点のリードだけで十分だったのかも知れない。
試合が終わってみれば、2安打・無四球・10奪三振の完封勝利。
(日刊スポーツの記事によれば、無四球・二桁奪三振の初完封勝利の記録は史上初らしい)
僕が野球を見始めてから、これほど安心して2点リードの展開を見ていられる試合は、ほとんどなかったかも知れない。この試合の村上のピッチングは、それくらい安定していて、相手に打たれるような気配は、ほとんど感じられなかった。
今シーズンに入るまでの村上投手は、二軍では上位の成績をあげるものの、一軍では結果を残せておらず、僕の中でも、最後までスワローズと優勝を争っていた二年前に、二度先発して、二度とも大量失点を喫していたイメージが強かった。
それだけに、二軍での成果を一軍の試合でも発揮してもらうことができて、本当に嬉しく感じる。と同時に、今シーズンも、ローテーションの柱として期待していた青柳晃洋・西勇輝が、今ひとつ調子に乗れない中で、先発投手として二試合続けて安定したピッチングを見せてくれたことに、感謝の気持ちが湧いてくる。
試合後は、早くも、阪神ファンの間で、三冠王として流行語大賞にも選出された『村神様』ことスワローズの村上宗隆にあやかり、『トラの村神様』と呼ぶツイートが流れていた(本題からそれるけど、『神様仏様バース様』と言い、『代打の神様』と言い、我がことながら、本当に阪神ファンは、『神様』というフレーズが好きだな、と苦笑してしまう)。
ともあれ、現役ドラフトという新制度で入団し、4月の途中からローテーションに加わった大竹耕太郎とともに、村上頌樹が先発として計算できるようになったのは、チームとして、本当に大きい。
そして、この試合で、もう一度、触れておきたいのは、完璧に近い内容の村上の投球だけなく、6回表の攻撃のことだ。
すでに書いたように、一塁ランナーだった村上は、近本の長打で先制のホームを踏んでいる。
投手が塁上にいる場合、怪我の可能性などを考慮して、ランナーとして無理に次の塁を狙わないことが多いが、この時、タイミングとしては微妙な判断ながら、藤本コーチが、ランナーの村上を思い切って、ホームに突入させている。
結果として、中継の野手からの返球がそれたこともあり、怪我の恐れのあるクロスプレーにはならなかったが、積極的な走塁が先制点につながったカタチだ。
さらに、次の中野のレフトへの外野フライは、やや浅めの打球だったので、三塁ランナーが俊足の近本でなければ、2点目の得点も生まれていなかっただろう。
結果論ではあるが、村上の本塁突入の決断が、試合の勝敗をわけたかも知れない。
打てなくても、1点をもぎ取りに行く攻撃を見ることができたこと。
矢野監督時代から、盗塁をはじめ、積極的な走塁は随所で見られたが、岡田監督に代わってから、その果敢さが、勝利に結びつき始めたように感じる。
村上・大竹という新しい先発の柱が確立される予感とともに、
「こういう内容のゲームを、一年間続けることができたら……もしかして、《アレ》の可能性も……」
そんな淡い期待を感じさせる、そんな試合だった。
【本日の試合結果】
中日 対 阪神 2回戦 中日 0ー2 阪神
三年目の村上頌樹 の快投で完封勝利!
◎4月22日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:10勝7敗 1引き分け 貯金3
順位:首位タイ
この日の午後、僕は、CS放送J-SPORTSのテレビ中継に釘付けになっていた。
バンテリンドームナゴヤで行われるドラゴンズ戦に、村上頌樹が先発投手として登板していたからだ。
タイガースのファンはもちろん、プロ野球ファンには説明の必要はないかもしれないけど、昨年まで一軍での登板機会が、わずか2試合しかなかった村上は、今季初先発となる12日のジャイアンツ戦で、7回まで1人のランナーも出さない完全試合のペースで投げ続ける(8回の守備時に降板)という快投を演じていた。
完全試合が継続している中での降板は、阪神ファンのみならず、野球ファンの間でも賛否両論の議論を呼んだ。
結局、二番手の石井が岡本に同点ホームランを打たれたため、村上に勝ち星はつかなかったものの、チームの先発投手陣が苦しんでいる時期に、彗星のように現れた彼の活躍は、自分たちファンにとって、希望の星のように思えた。
迎えたこの日は、村上頌樹投手の今シーズン二度目の先発機会である。
「10日前の巨人戦の投球が、ホンモノかどうか見せてくれ……」
祈るような気持ちで、テレビ中継を視聴し始めた僕たちファンの目の前で、彼は、この日も素晴らしいピッチングを披露した。
前の試合に続いて、村上は、4回終了までランナーを出さず、パーフェクト・ピッチングを続ける。
5回裏の一死後、5番打者の福永にセンター前ヒットを打たれ、ついに、ランナーが出たときは、残念な気持ちと、ホッとするような気持ちが入り混じった不思議な感情が湧いてきた。
「欲を言えば、本当の完全試合を見たかったけど……でも、これで、投手交代のタイミングを考えやすくなった……」
贔屓の球団があるファンなら、誰でもそうかも知れないけれど――――――。
チームの勝利と選手個人の記録達成のどちらに優先順位をつけるかについて、僕は、いつも(ベンチで指揮を執る監督や選手の状態を見極めるコーチと同じくらい)頭を悩ませてしまう。
前回のジャイアンツ戦と同様に、この日も1点を争う試合になっているので、投手の交代のタイミングがシビアになることは明らかだったので、相手チーム・ドラゴンズの打順の並びを見ながら、先の試合展開を予測する。
「このまま、0対0で進むと……村上は、また、7回か8回で降板かな」
そんな風に、考えていたんだけど――――――。
※
僕の予想は、いい意味で裏切られた。
相手にヒットを打たれ記録が途絶えたあとも、落ち着いて後続を打ち取った村上は、6回表に先頭打者として打席に立ち、レフト前ヒットで出塁する。
すると、続く一番打者・近本の右中間を破る長打で、一気にホームを駆け抜け、先制点を記録するランナーになった。さらに、無死三塁から二番・中野の犠牲フライで2対0!
最年少でWBCにも選出された好投手・高橋宏斗から効率よく得点し、試合の主導権を握る。
この日の……いや、今シーズンの村上頌樹にとっては、この2点のリードだけで十分だったのかも知れない。
試合が終わってみれば、2安打・無四球・10奪三振の完封勝利。
(日刊スポーツの記事によれば、無四球・二桁奪三振の初完封勝利の記録は史上初らしい)
僕が野球を見始めてから、これほど安心して2点リードの展開を見ていられる試合は、ほとんどなかったかも知れない。この試合の村上のピッチングは、それくらい安定していて、相手に打たれるような気配は、ほとんど感じられなかった。
今シーズンに入るまでの村上投手は、二軍では上位の成績をあげるものの、一軍では結果を残せておらず、僕の中でも、最後までスワローズと優勝を争っていた二年前に、二度先発して、二度とも大量失点を喫していたイメージが強かった。
それだけに、二軍での成果を一軍の試合でも発揮してもらうことができて、本当に嬉しく感じる。と同時に、今シーズンも、ローテーションの柱として期待していた青柳晃洋・西勇輝が、今ひとつ調子に乗れない中で、先発投手として二試合続けて安定したピッチングを見せてくれたことに、感謝の気持ちが湧いてくる。
試合後は、早くも、阪神ファンの間で、三冠王として流行語大賞にも選出された『村神様』ことスワローズの村上宗隆にあやかり、『トラの村神様』と呼ぶツイートが流れていた(本題からそれるけど、『神様仏様バース様』と言い、『代打の神様』と言い、我がことながら、本当に阪神ファンは、『神様』というフレーズが好きだな、と苦笑してしまう)。
ともあれ、現役ドラフトという新制度で入団し、4月の途中からローテーションに加わった大竹耕太郎とともに、村上頌樹が先発として計算できるようになったのは、チームとして、本当に大きい。
そして、この試合で、もう一度、触れておきたいのは、完璧に近い内容の村上の投球だけなく、6回表の攻撃のことだ。
すでに書いたように、一塁ランナーだった村上は、近本の長打で先制のホームを踏んでいる。
投手が塁上にいる場合、怪我の可能性などを考慮して、ランナーとして無理に次の塁を狙わないことが多いが、この時、タイミングとしては微妙な判断ながら、藤本コーチが、ランナーの村上を思い切って、ホームに突入させている。
結果として、中継の野手からの返球がそれたこともあり、怪我の恐れのあるクロスプレーにはならなかったが、積極的な走塁が先制点につながったカタチだ。
さらに、次の中野のレフトへの外野フライは、やや浅めの打球だったので、三塁ランナーが俊足の近本でなければ、2点目の得点も生まれていなかっただろう。
結果論ではあるが、村上の本塁突入の決断が、試合の勝敗をわけたかも知れない。
打てなくても、1点をもぎ取りに行く攻撃を見ることができたこと。
矢野監督時代から、盗塁をはじめ、積極的な走塁は随所で見られたが、岡田監督に代わってから、その果敢さが、勝利に結びつき始めたように感じる。
村上・大竹という新しい先発の柱が確立される予感とともに、
「こういう内容のゲームを、一年間続けることができたら……もしかして、《アレ》の可能性も……」
そんな淡い期待を感じさせる、そんな試合だった。
【本日の試合結果】
中日 対 阪神 2回戦 中日 0ー2 阪神
三年目の村上頌樹 の快投で完封勝利!
◎4月22日終了時点の阪神タイガースの成績
勝敗:10勝7敗 1引き分け 貯金3
順位:首位タイ
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